この記事で分かること
- 銅再生処理の焼却炉とは:廃基板などのリサイクル原料を焼却し、プラスチックや樹脂などの不純物を取り除く設備です。燃焼により金属分を濃縮し、有害物質を無害化することで、次工程の製錬炉で銅や貴金属を効率よく回収しやすくします。
- 銅リサイクル需要が増えている理由:脱炭素化に伴い、ガソリン車の数倍の銅を使うEVや再生可能エネルギー設備の需要が急増しているためです。天然鉱石の枯渇や品位低下、開発コスト増に加え、リサイクルはCO2排出を大幅に抑えられる点も大きな要因です。
- 銅のリサイクルの課題:製品の小型・複雑化による「不純物選別の難化」、輸送や処理にかかる「高い回収コスト」、そして家庭等に眠る資源を効率よく集める「回収システムの不備」です。これらを解決する高度な技術と社会インフラの整備が求められています。
JX金属の銅再生処理の焼却炉増設
JX金属が大分製錬所に「産業廃棄物焼却炉」を増設することで、廃基板などのリサイクル原料の処理能力を、現在の月間約3,000トンから約4,500トン(1.5倍)に引き上げることを発表しています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOJC1655N0W6A110C2000000/
高度な電子基板の廃棄・リサイクル需要が高まるなかで銅の「資源循環」におけるリーダーシップを狙っています。
銅再生処理の焼却炉とは何か
銅再生処理における「焼却炉」は、単にゴミを燃やす設備ではなく、「金属とプラスチックを効率よく分離し、金属を濃縮する」ための重要な前処理設備です。
JX金属が導入しているような、高度なリサイクル技術における焼却炉の役割と仕組みを詳しく解説します。
焼却炉の主な役割:金属を「取り出しやすく」する
パソコンやスマートフォンの基板(E-Scrap)や、家電の廃電線には、銅などの有用な金属だけでなく、大量のプラスチック、樹脂、ゴム、紙などが含まれています。
- 不純物の除去: 焼却によってプラスチックや樹脂部分を燃やし尽くし、金属だけを残します。
- 金属の濃縮: 燃焼後に残る「焼却滓(しょうきゃくさい)」には、もともとの基板よりも高い濃度で銅、金、銀などが含まれることになります。これを次工程の「製錬炉」に入れることで、効率よく純度の高い銅が抽出できます。
- 有害物質の無害化: 電子部品に含まれる塩素や臭素(難燃剤由来)などの成分は、製錬炉の設備を腐食させる原因になります。焼却炉で適切に処理し、ガスとして回収・無害化することで、設備を守り環境負荷を低減します。
仕組み:ロータリーキルン(回転式焼却炉)など
JX金属の関連施設などで使われている代表的な方式が「ロータリーキルン」です。
- 構造: 巨大な円筒状の炉がゆっくりと回転しながら、中に投入されたリサイクル原料を加熱します。
- 熱の再利用: 樹脂が燃えるときに出る熱(自燃熱)をエネルギーとして利用するため、化石燃料を最小限に抑えられます。
- 排ガス処理: 燃焼時に発生する煙には有害な物質が含まれる可能性があるため、高度なフィルター(バグフィルター)や洗浄装置で完全に無害化してから排出されます。
なぜ今、増設が必要なのか
今回のニュースでJX金属が焼却炉を増設する最大の理由は、「車載用基板」の増加です。
- EV化の影響: 電気自動車(EV)は従来のガソリン車よりも多くの電子基板や配線を使用します。
- 形状の複雑化: 車載基板は熱や振動に強く作られており、樹脂でガッチリと固められていることが多いです。これらを物理的に砕くだけでは金属を回収しきれないため、「まず焼却して樹脂を飛ばす」という工程のキャパシティ(処理能力)を増やす必要があったのです。
銅リサイクルの流れ(簡略図)
| 工程 | 設備 | 内容 |
|---|---|---|
| 1. 前処理 | 焼却炉(今回増設) | 樹脂を燃やして金属を濃縮・無害化する |
| 2. 製錬 | 自溶炉・転炉 | 金属を溶かし、不純物(スラグ)を取り除く |
| 3. 精製 | 電解槽 | 電気分解によって純度99.99%の電気銅にする |
豆知識: 焼却後の灰(焼却金銀滓)は、そのまま次の製錬工程に運ばれ、銅だけでなく金、銀、パラジウムといったレアメタルも余さず回収されます。

廃基板などのリサイクル原料を焼却し、プラスチックや樹脂などの不純物を取り除く設備です。燃焼により金属分を濃縮し、有害物質を無害化することで、次工程の製錬炉で銅や貴金属を効率よく回収しやすくします。
銅リサイクルの需要が高まっている理由は何か
銅リサイクルの需要が高まっている理由は、大きく分けて「世界的な銅不足への懸念」と「環境負荷の低減」の2点に集約されます。
現代社会が「脱炭素」へ舵を切ったことで、銅は不可欠な存在になっています。
1. 脱炭素(GX)による需要の爆発
再生可能エネルギーや電動化への移行には、導電性に優れた銅が大量に必要です。
- 電気自動車(EV): ガソリン車に比べ、EVは約3〜4倍もの銅を使用します(モーターのコイルや配線など)。
- 再生可能エネルギー: 太陽光発電や風力発電は、従来の火力発電に比べ、発電容量あたりの銅使用量が約4〜12倍にのぼります。
- 送電網の整備: 世界中で電力網をアップデートする必要があり、その膨大なケーブルに銅が使われます。
2. 供給サイドの限界(銅不足のリスク)
需要が増える一方で、新しく掘り出す「天然鉱石」の供給が追いつかなくなっています。
- 鉱位(品位)の低下: 世界中の主要な銅鉱山で、掘り出せる岩石に含まれる銅の割合が年々低下しています。
- 開発コストと期間: 新しい鉱山を見つけてから実際に生産を開始するまでには10〜15年以上の歳月と巨額の投資が必要であり、急な需要増に対応できません。
3. 環境・社会への配慮(SDGs/ESG)
天然資源に頼らない「資源循環(サーキュラーエコノミー)」の実現が企業の責務となっています。
- エネルギー削減: 銅をスクラップからリサイクルする場合、天然鉱石から精錬するよりもエネルギーを約85%カットでき、CO2排出量も大幅に抑えられます。
- 品質が劣化しない: 銅は何度リサイクルしても品質が落ちない「リサイクルの優等生」です。
2030年〜2050年にかけて、世界的な銅の需給ギャップ(不足)は数百万トン規模に達すると予測されています。この不足分を補うためには、都市に眠る廃棄物から銅を回収する「都市鉱山」の活用が、経済・環境・安全保障のすべての面において合理的だからです。
JX金属が今回投資を決めたのは、この巨大な「リサイクル需要の波」を確実に取り込むためといえます。

脱炭素化に伴い、ガソリン車の数倍の銅を使うEVや再生可能エネルギー設備の需要が急増しているためです。天然鉱石の枯渇や品位低下、開発コスト増に加え、リサイクルはCO2排出を大幅に抑えられる点も大きな要因です。
銅リサイクルの課題は何か
銅リサイクルの需要が高まる一方で、その実現には大きく分けて「技術」「コスト」「回収システム」の3つの課題があります。特に製品の高度化に伴い、資源を取り出す難易度が上がっているのが現状です。
1. 不純物混入と選別の難しさ(技術的課題)
現代の電子機器は小型・高性能化しており、銅が他の素材と複雑に組み合わされています。
- 混ざり物の増加: 基板には銅だけでなく、アルミ、鉄、アンチモン、樹脂などが強固に接着されています。これらが「製錬忌避元素(不純物)」として残ると、再生銅の品質や導電性が低下してしまいます。
- 微細化への対応: スマートフォンなどの超小型デバイスから、効率よく、かつ安価に銅だけを分離・抽出する技術はまだ発展途上です。
2. 回収コストと採算性(経済的課題)
リサイクルには「集める・運ぶ・分ける」という工程に多大なコストがかかります。
- 低品位スクラップの処理: 銅の含有量が少ない製品をリサイクルする場合、回収した銅の売却代金よりも、輸送や処理にかかるエネルギー費・人件費が上回ってしまう「逆ざや」のリスクがあります。
- エネルギー消費: 樹脂を燃やしたり、金属を溶かしたりする工程では大量のエネルギーを消費するため、いかに「低炭素」で効率よく処理するかが問われています。
3. 回収ルートの未整備(社会的課題)
家庭や企業に眠る「隠れた資源」を確実に集める仕組みが不足しています。
- 都市鉱山の掘り起こし: 多くの小型家電が家庭内で死蔵(たんすケータイ等)されていたり、一般ごみとして廃棄されたりしています。
- 不適切な輸出: 資源価値の高いスクラップが、環境対策が不十分な海外へ未処理のまま流出し、現地の環境汚染を引き起こしたり、国内の資源が失われたりする問題も指摘されています。
JX金属が今回導入した「増設焼却炉」は「複雑な基板からの不純物除去」の解決を可能にするものです。

主な課題は、製品の小型・複雑化による「不純物選別の難化」、輸送や処理にかかる「高い回収コスト」、そして家庭等に眠る資源を効率よく集める「回収システムの不備」です。これらを解決する高度な技術と社会インフラの整備が求められています。

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