イオンミリング法による試料作製 どのような特徴があるのか?FIB法との違いは何か?

この記事で分かること

  • イオンミリング法とは:空中において加速したアルゴンイオンを試料に衝突させ、表面の原子を物理的に弾き飛ばして削る加工技術です。機械研磨に比べ熱や応力のダメージが極めて少なく、電子顕微鏡観察用の綺麗な断面や薄膜を作るのに適しています。
  • EM試料の作成ができる理由:ナノ単位の精密な薄膜化が可能です。低角度で照射することで、機械研磨のような歪みを与えず、電子線が透過できる100nm以下の平滑な領域を作れるのが大きな理由です。
  • FIB法との違い:イオンミリングは広域ビームで広い範囲を均一に削り、低ダメージで高品質な観察面を作るのが得意です。一方のFIBは細く絞ったビームで特定部位をピンポイントに切り出せますが、加工による表面の乱れが生じやすいという違いがあります。

イオンミリング法

 機器分析とは、化学反応を用いる古典的な化学分析に対し、物質が持つ物理的・化学的性質を精密な機器で測定し、その物質の成分や構造を分析する方法の総称です。

  高感度で迅速な分析が可能であり、微量な成分や複雑な混合物も精度高く分析できるため、現代の科学技術分野で広く利用されています。 

 今回は、透過電子顕微鏡、TEMなどの前処理法であるイオンミリング法に関する記事となります。

イオンミリング法とは何か

 イオンミリング法(Ion Milling)とは、不活性ガスのイオン(主にアルゴンイオン)を試料表面に衝突させ、物理的に表面を削り取る(スパッタリング)微細加工技術のことです。

 主に電子顕微鏡(SEMやTEM)で観察するための試料作成や、半導体デバイスの製造プロセスで使用されます。


1. 基本的な仕組み

 真空中でアルゴンガスをプラズマ化し、発生したプラスイオンを電界で加速して試料に照射します。高速で衝突したイオンのエネルギーによって、試料表面の原子が弾き飛ばされることで、表面が削られていきます。

2. 主な2つの手法

 用途に応じて、大きく分けて「フラットミリング」と「断面ミリング」の2種類があります。

  • フラットミリング(平面研磨)
    • 試料の表面を広く浅く削り、平滑にする手法です。
    • 目的:表面の酸化膜除去、結晶歪みの除去、TEM観察用の薄膜作成(厚さ100nm以下まで薄くする)。
  • 断面ミリング(CP法:クロスセクションポリッシャ)
    • 遮蔽板(マスク)を試料の上に置き、はみ出した部分を削ることで、非常に綺麗な垂直断面を作る手法です。
    • 目的:多層構造(電池、半導体、めっき等)の断面観察。

3. イオンミリングのメリット

 従来のサンドペーパーやコンパウンド(研磨剤)を用いた「機械研磨」と比較して、以下の利点があります。

  • ダメージが少ない: 物理的な力がほとんどかからないため、柔らかい材料でも「ダレ」や「引きつれ」が起きにくい。
  • 界面が鮮明: 多層膜のように硬さが異なる材料が混在していても、境界を綺麗に出すことができる。
  • 微細な加工: ミクロン単位の精密な制御が可能です。

4. 主な用途

  • リチウムイオン電池: 電極材料の断面構造の観察。
  • 半導体: 積層チップの回路構造の確認。
  • 金属材料: 結晶粒界の観察や、EBSD(結晶方位解析)用の前処理。

イオンミリング法とは、真空中において加速したアルゴンイオンを試料に衝突させ、表面の原子を物理的に弾き飛ばして削る加工技術です。機械研磨に比べ熱や応力のダメージが極めて少なく、電子顕微鏡観察用の綺麗な断面や薄膜を作るのに適しています。

フラットミリングによるTEM試料の作成ができる理由は

 フラットミリングによってTEM(透過電子顕微鏡)試料が作成できる理由は、主に「極限まで薄くできること」「原子レベルで平滑な面が得られること」にあります。

 TEMで観察するためには、電子線を透過させる必要があるため、試料を100nm(0.1ミクロン)以下という極薄の状態にしなければなりません。フラットミリングがこの役割を担える具体的な理由は以下の通りです。


1. 「スパッタリング」による精密な薄膜化

 加速したアルゴンイオンを試料にぶつけ、表面の原子を一個ずつ弾き飛ばしていく(スパッタリング)ため、ナノメートル単位での制御が可能です。機械研磨では不可能な「あと少しだけ薄くする」という微調整ができます。

2. 低角度照射による広範囲の薄片化

 イオンビームを試料に対して非常に浅い角度(1°〜10°程度)で照射しながら、試料を回転させて削ります。

 これにより、試料の中央部に「ディンプル」と呼ばれる緩やかな窪みを作り、最終的にその中心に電子が透過できるほど薄い領域(または微細な穴の周辺)を作り出すことができます。

3. ダメージ層(加工歪み)の除去

 機械的な研磨やFIB(集束イオンビーム)加工では、試料表面に結晶の歪みやダメージ層が残ることがあります。フラットミリングは、仕上げとして低エネルギーのイオンを当てることで、これらのダメージ層を優しく取り除き、本来の結晶構造を露出させることができます。

4. 異材質界面の維持

 硬さの異なる材料(例:金属と樹脂の複合材料)を研磨する場合、機械研磨では柔らかい方が先に削れて段差ができてしまいます。フラットミリングは物理的な「叩き出し」であるため、条件を最適化すれば段差を抑えて平坦に仕上げることが可能です。


TEM試料作成の一般的な流れ

  1. 予備研磨: 機械研磨で試料を数十ミクロンまで薄くする。
  2. ディンプル研磨: 中央部をさらに数ミクロンまで削り込む。
  3. フラットミリング(仕上げ): イオンビームで中央に小さな穴が開くまで削り、その周辺の「電子が透過できる薄い領域」を観察に使う。

加速したイオンで原子を少しずつ弾き飛ばすため、ナノ単位の精密な薄膜化が可能です。低角度で照射することで、機械研磨のような歪みを与えず、電子線が透過できる100nm以下の平滑な領域を作れるのが大きな理由です。

アルゴンが使用される理由は何か

 アルゴン(Ar)がイオンミリングに主に使用される理由は、大きく分けて「化学的な安定性」「物理的な削りやすさ(効率)」の2点に集約されます。

1. 化学的に反応しない(不活性)

 アルゴンは希ガスの一種であり、他の物質と化学反応をほとんど起こしません。

  • メリット: 試料の表面を削る際に、試料の成分と反応して別の化合物を作ったり、酸化させたりする心配がありません。純粋に「物理的に叩き出す」ことだけができるため、材料本来の性質を維持したまま観察面を作れます。

2. 原子が適度に重く、効率よく削れる

 イオンミリングは、イオンの「重さ(質量)」をぶつけて原子を弾き飛ばすプロセスです。

  • 重さのバランス: ヘリウムやネオンのような軽いガスでは、弾き飛ばす力が弱く時間がかかりすぎます。一方、アルゴンは原子量が約40と適度に重いため、効率よくスパッタリング(削り取り)を行うことができます。
  • コストと入手性: アルゴンよりも重いキセノン(原子量約131)などを使えばさらに削る効率は上がりますが、アルゴンは空気中に約1%含まれており、安価で安定して入手できるため、工業・研究用として最もバランスが良いのです。

アルゴンが選ばれる3つのポイント

理由内容
不活性試料と化学反応を起こさず、変質させない。
適切な質量適度な重さがあり、効率的に原子を弾き飛ばせる。
低コスト希ガスの中では入手しやすく、経済的である。

アルゴンは不活性ガスであるため試料と反応せず、材料本来の性質を保ったまま加工できます。また、原子が適度に重いため、衝突時に効率よく表面原子を叩き出すことができ、コスト面でも安価で入手しやすいという利点があります。

TEM試料作製でのFIBとの違いは

 TEM試料作製において、イオンミリング(広域イオンビーム)FIB(集束イオンビーム)はどちらもイオンで削る技術ですが、「狙い」と「仕上がり」に大きな違いがあります。

 「広範囲をきれいに仕上げるイオンミリング」と、「特定のピンポイントを狙い撃つFIB」という使い分けです。


イオンミリングとFIBの比較

項目イオンミリング (Arイオン)FIB (Gaイオンなど)
ビームの種類広域ビーム(太い)集束ビーム(非常に細い)
場所の指定苦手(数ミリ程度の範囲)得意(サブミクロン単位)
試料へのダメージ非常に少ない多い(アモルファス層ができる)
仕上げの質最高(高分解能観察向き)普通(分析には十分)
主な用途金属・セラミックス全体の観察半導体故障箇所などの特定部位

1. イオンミリング:究極の「質」を求める

 広い範囲にアルゴン(Ar)イオンを当てるため、特定の場所を狙うのは難しいですが、ダメージが極めて少ないのが特徴です。

  • メリット: 原子の並びを直接見る「高分解能観察(HR-TEM)」や、正確な元素分析に適しています。
  • 理由: Arは試料に残りづらく、表面を滑らかにクリーニングできるからです。

2. FIB:究極の「場所」を求める

 細く絞ったガリウム(Ga)イオンなどを使い、顕微鏡で見ながら「ここだけ薄く切り出す(ピックアップ)」ことができます。

  • メリット: 「ICチップのこの配線の断線箇所」といった、ミクロな特定部位を逃さず観察できます。
  • デメリット: 重いGaイオンを強く当てるため、試料表面が変質(アモルファス化)したり、Gaが残留したりすることがあります。

 現在は、「FIBで特定の場所を薄く切り出した後、仕上げにイオンミリングでダメージ層を削り取る」という、両方の良いとこ取りをする手法が一般的です。

イオンミリングは広域ビームで広い範囲を均一に削り、低ダメージで高品質な観察面を作るのが得意です。一方のFIBは細く絞ったビームで特定部位をピンポイントに切り出せますが、加工による表面の乱れが生じやすいという違いがあります。

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