この記事で分かること
- 無溶剤型軟質ポリウレタン樹脂とは:有機溶剤を使わずに製造・加工できる、環境負荷の低いポリウレタン樹脂です。独自の分子設計により、無溶剤ながら低粘度で加工しやすく、しっとりとした柔らかさと高い耐久性を両立しています。
- 有機溶剤の役割:有機溶剤は、長い紐状の樹脂分子の間に入り込み、分子同士の絡まりや引き付け合う力を弱める「潤滑剤」の役割を果たします。これがないと分子が密着・凝集し、茹でたての麺のように動かなくなるため粘度が高まります。
- 有機溶剤の不使用にできた理由:「完成した大きな分子を溶剤で溶かす」のではなく、「反応前の小さな分子(低粘度な2液)」の状態で扱うことで、溶剤なしのサラサラな流動性を実現しました。塗布後に熱で化学反応させ、大きな分子へと繋ぎ合わせています。
東ソーの無溶剤型軟質ポリウレタン樹脂
東ソーが開発した「無溶剤型軟質ポリウレタン樹脂」は、環境負荷の低減と高性能化を両立させた画期的な材料として注目されています。
従来の軟質ポリウレタン(人工皮革やコーティング剤など)は、製造工程でDMF(ジメチルホルムアミド)などの有機溶剤を大量に使用するのが一般的でしたが、東ソーの新技術はこれを大きく変えるものです。
無溶剤型軟質ポリウレタン樹脂とは何か
「無溶剤型軟質ポリウレタン樹脂」とは、「環境に有害な有機溶剤を一切使わずに、ゴムのような柔らかい質感を実現したプラスチック(ポリウレタン)素材」のことです。
通常、ポリウレタンを布に塗ったり(コーティング)、人工皮革を作ったりする際には、樹脂を扱いやすくするために「溶剤(シンナーのような液体)」で薄める必要があります。しかし、この「無溶剤型」はその溶剤を必要としません。
1. なぜ「無溶剤」がすごいのか
従来のポリウレタン製造(特に人工皮革など)では、DMF(ジメチルホルムアミド)という強力な有機溶剤が大量に使われてきました。
- 環境規制への対応: DMFは健康や環境への影響が懸念されており、欧州を中心に世界中で使用規制が強まっています。「無溶剤型」ならこの規制をクリアできます。
- 省エネ: 溶剤を使うと、最後にそれを蒸発させて乾かす工程が必要ですが、無溶剤型はその工程を短縮できるため、製造時のCO2排出量を大幅に削減できます。
2. 「軟質(柔らかい)」であることの難しさ
本来、溶剤を使わないポリウレタンは、ドロドロと粘り気が強くなりすぎたり、固まるとカチカチに硬くなったりしやすい性質があります。
東ソーなどのメーカーは、独自の化学設計技術によって、「溶剤を使わなくてもサラサラして加工しやすく、固まった後はしっとり柔らかい」という相反する性質を両立させることに成功しました。
3. どのような場所に使われるのか?
私たちの身近なところで、サステナブルな(環境に優しい)素材として採用が進んでいます。
- 自動車の内装: シートやダッシュボード(車内の空気を汚さないVOC対策)。
- ファッション: ブランドバッグや靴に使われる「ヴィーガンレザー(人工皮革)」。
- スポーツ用品: サッカーボールやスポーツシューズの表面素材。
- 家具: ソファの張地など。
無溶剤型軟質ポリウレタン樹脂は、これまでの「石油由来の化学製品」というイメージを覆す、「作る時も使う時もクリーンで、かつ高品質な触り心地を実現した次世代の素材」と言えます。

有機溶剤を使わずに製造・加工できる、環境負荷の低いポリウレタン樹脂です。独自の分子設計により、無溶剤ながら低粘度で加工しやすく、しっとりとした柔らかさと高い耐久性を両立しています。自動車内装や人工皮革など、脱溶剤が進む分野の次世代素材として注目されています。
有機溶剤を使わないとサラサラにならない理由は何か
有機溶剤を使わないと樹脂がサラサラにならない(粘度が高くなる)理由は、主に「分子同士の物理的な絡まり」と「化学的な引き付け合い」を邪魔するものがなくなるからです。
1. 「潤滑剤」がいなくなるから
有機溶剤は、長い紐のような構造をした樹脂分子の間に入り込み、分子同士が直接触れ合わないように広げる役割(希釈)をしています。
溶剤がない状態は、いわば「水気のない茹ですぎたスパゲッティ」のような状態で、分子同士が激しく絡まり合って動けなくなるため、ドロドロとした高粘度になります。
2. 分子間の「磁石のような力」が強まるから
ポリウレタンの分子には、ウレタン結合という「お互いに強く引き付け合う(水素結合)」部分があります。
- 溶剤がある場合: 溶剤分子がその引き付け合いを遮断し、分子をバラバラにしてくれます。
- 無溶剤の場合: 分子同士がダイレクトに引き付け合い、ひとつの大きな塊のように振る舞うため、流動性が失われます。
3. 「重さ(分子量)」の問題
通常、丈夫で柔らかい樹脂を作るには、分子を長く重く(高分子量に)する必要があります。しかし、分子が長くなればなるほど絡まりやすく、粘度は急上昇します。そのため、溶剤を大量に加え、無理やり溶解させてさらさらにしていました。

有機溶剤は、長い紐状の樹脂分子の間に入り込み、分子同士の絡まりや引き付け合う力を弱める「潤滑剤」の役割を果たします。これがないと分子が密着・凝集し、茹でたての麺のように動かなくなるため粘度が高まります。
東ソーはなぜ有機溶剤を使用せずにさらさらにできたのか
東ソーが有機溶剤を使わずに、サラサラな液体状態と硬化後の柔らかさを両立させた仕組みは、主に「2液硬化システム」と「独自の分子設計」にあります。
「最初から完成した長い分子を溶かす」のではなく、「短い分子の状態で塗り、後からつなげる」という方法をとっています。
1. 「2液硬化システム」の採用
溶剤を使わない代わりに、反応前の2つの液体(主剤と硬化剤)を混ぜ合わせる方式を採用しています。
- 塗る前: 分子が短く、さらさらとした液体(低粘度)なので、溶剤で薄める必要がありません。
- 塗った後: 加熱することで、2つの液体が化学反応(ウレタン化反応)を起こし、網目状の巨大な分子(架橋構造)に変化して固まります。
2. 独自の架橋剤(長鎖ポリカーボネートポリオール)
通常、溶剤なしで無理やり固めると、分子のつなぎ目(架橋点)が密集してしまい、カチカチに硬くなってしまいます。
東ソーは、自社開発の「長鎖ポリカーボネートポリオール」という非常に長い「つなぎのパーツ」を開発しました。
- 役割: 網目構造の間隔を広く保つことで、固まった後も分子が自由に動ける隙間を作り、溶剤型に劣らない「しなやかな柔らかさ」を実現しました。
3. 反応スピードの精密制御
溶剤がないと反応が急激に進みすぎてムラになりやすいのですが、東ソーは原料メーカーとしての知見を活かし、MDI(イソシアネート)などの原料を最適に組み合わせました。
これにより、130〜150℃という高温で数十秒〜数分という超短時間で均一に固めることに成功しています。
東ソーのアプローチ
| 項目 | 従来の溶剤型 | 東ソーの無溶剤型 |
| 液の状態 | 長い分子を溶剤で無理やり溶かす | 短い分子(2液)で元々さらさら |
| 固まる仕組み | 溶剤が乾いて固まる | 2つの液が化学反応してつながる |
| 柔らかさの秘密 | 溶剤が抜けた隙間による柔軟性 | 特殊な「長いパーツ」による構造的柔軟性 |
このように、「材料を混ぜてからその場で作り上げる」という化学メーカーならではの逆転の発想で、溶媒への依存を解消しています。

「完成した大きな分子を溶剤で溶かす」のではなく、「反応前の小さな分子(低粘度な2液)」の状態で扱うことで、溶剤なしのサラサラな流動性を実現しました。塗布後に熱で化学反応させ、大きな分子へと繋ぎ合わせる仕組みです。

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