この記事で分かること
- ニッケル触媒の種類:安価で高活性なため、工業的に多用されます。主なものに、水素添加反応に強い多孔質のラネーニッケル、水素製造(水蒸気改質)に用いる担持触媒、有機合成で活用されるニッケル錯体などがあります。
- ラニーニッケルとは:ニッケルとアルミニウムの合金をアルカリ処理し、アルミを溶出させた多孔質の触媒です。表面積が非常に大きく、油脂の水素添加や還元反応に多用されます。
- 不飽和結合の水素化に適した理由:d電子の性質により水素分子を容易に解離させ、不飽和結合を適度な強さで吸着・固定できます。この「吸着と脱離のバランス」と、原子間隔が反応物のサイズに適合している点が、優れた触媒能を生み出します。
ニッケル触媒
触媒とは、それ自身は変化せずに、化学反応を促進させる物質のことです。反応に必要なエネルギーの壁(活性化エネルギー)を下げることで、通常よりも低い温度や短い時間で効率よく反応を進める役割を担っています。
現代の化学工業のプロセスの約90%に何らかの触媒が関わっていると言われているなど、私たちの生活のあらゆる場面で活躍しています。
今回はニッケル触媒に関する記事となります。
ニッケル触媒にはどのようなものがあるのか
ニッケル触媒は、コストが安価でありながら高い反応性を持つため、化学工業からエネルギー分野まで幅広く利用されています。
1. 形状・構造による分類
ニッケル触媒は、その物理的な形態によって大きく2つに分けられます。
ラネーニッケル(Raney Nickel)
アルミニウムとニッケルの合金を水酸化ナトリウムで処理し、アルミニウムを溶出させることで作られる多孔質の触媒です。
- 特徴: 表面積が非常に大きく、室温・低圧でも強力な還元力を発揮します。
- 用途: 植物油の水素添加(マーガリン製造)、ニトロ化合物の還元など。
- 注意: 空気に触れると自然発火する恐れがあるため、通常は水や溶媒に浸した状態で扱われます。
担持ニッケル触媒
シリカ(SiO2)やアルミナ(Al2O3)などの安定した土台(担体)に、微細なニッケル粒子を付着させたものです。
- 特徴: 高温下でも構造が崩れにくく、寿命が長いです。
- 用途: 石油化学プロセスや水素製造など、過酷な条件下での使用に適しています。
2. 反応プロセスによる分類
工業的に特に重要なのが、エネルギーを作るための反応です。
水蒸気改質触媒
天然ガス(メタンなど)と水蒸気を反応させて、水素や一酸化炭素を生成する際に使われます。
- 反応式: CH4 + H2 → CO + 3H2
- 重要性: 現代の水素供給の大部分を支えているプロセスです。
メタン化触媒(メタネーション)
二酸化炭素(CO2)と水素からメタンを合成する反応に用いられます。カーボンニュートラルの観点から、近年非常に注目されている技術です。
3. 有機合成・錯体触媒
特定の化学反応を精密に制御するために、ニッケルを金属中心とした「錯体」の状態でも使われます。
- ニッケル錯体: パラジウム触媒の代わりとして、クロスカップリング反応などに利用されます。パラジウムよりも安価で、特有の反応性を持つことがメリットです。
- ウルシバラニッケル: 日本の漆原義之博士が開発した触媒。ラネーニッケルに似た性能を持ちながら、より安全に調製できるのが特徴です。
まとめ
| 種類 | 主な用途 | 特徴 |
| ラネーニッケル | 水素化・還元反応 | 高活性、多孔質、取扱注意 |
| 担持触媒 | 水蒸気改質 | 耐熱性が高い、大規模工業用 |
| ニッケル錯体 | 有機合成 | 精密な分子構築、Pdの代替 |
ニッケル触媒は、私たちが使うプラスチック、医薬品、そして次世代エネルギーである水素の製造に欠かせない存在です。

ニッケル触媒は安価で高活性なため、工業的に多用されます。主なものに、水素添加反応に強い多孔質のラネーニッケル、水素製造(水蒸気改質)に用いる担持触媒、有機合成で活用されるニッケル錯体などがあります。
ラネーニッケルとは何か
ラネーニッケルは、ニッケルとアルミニウムの合金からアルミニウムを化学的に溶かし出すことで作られる、多孔質(スポンジ状)のニッケル触媒です。1920年代にアメリカのエンジニア、マレー・ラネーによって開発されました。
特徴とメカニズム
- 巨大な表面積: アルミニウムが抜けた後の構造が「ハチの巣」のようになっているため、反応が起きる表面積が極めて広く、非常に高い反応性を持ちます。
- 水素を含有: 製造過程で大量の水素を吸蔵しており、それ自体が強力な還元剤として機能します。
- 自然発火性: 活性が非常に高く、乾燥状態で空気に触れると火を噴く(自然発火する)性質があるため、通常は水やアルコールに浸した状態で保管されます。
主な用途
- 不飽和結合の水素化: 植物油に水素を添加して固形油脂(マーガリンの原料など)にする反応。
- 還元反応: ニトロ化合物をアミンに変換するなど、医薬品や染料の中間体製造に欠かせません。
- 脱硫反応: 有機化合物から硫黄を取り除く反応。

ラネーニッケルとは、ニッケルとアルミニウムの合金をアルカリ処理し、アルミを溶出させた多孔質の触媒です。表面積が非常に大きく、油脂の水素添加や還元反応に多用されます。乾燥すると自然発火するため、保管には注意が必要です。
どのように不飽和結合の水素化を促進するのか
ラネーニッケルが不飽和結合(C=CやC ≡C)に水素を付加させるメカニズムは、主に「吸着」と「段階的な結合」というステップで進みます。
水素化のメカニズム
- 水素と反応物の吸着:触媒表面に水素分子(H2)と不飽和結合を持つ化合物が近づきます。ニッケル表面の作用により、水素分子は解離して水素原子(H)として表面に並びます。
- 表面でのドッキング:不飽和結合(π結合)がニッケルの金属原子と結合し、反応物が触媒表面に固定されます。
- 段階的な水素の移動:表面に並んだ水素原子が、一つずつ不飽和結合の炭素原子へと移動し、新しいC-H結合を作ります。
- 脱離:すべての水素が付加して飽和結合(単結合)になると、触媒表面との親和力が弱まり、製品として離れていきます。
なぜラネーニッケルが有利なのか
- 水素の貯蔵庫: ラネーニッケルは製造工程で既に大量の活性水素を表面に保持しているため、他の触媒よりもマイルドな条件(低温・低圧)で反応が進みやすいのが強みです。
- 広い足場: 多孔質構造による膨大な表面積が、これら一連の反応が起きる「場」を大量に提供します。

ニッケル表面に水素分子が解離吸着して活性な水素原子となり、同時に不飽和結合も表面に吸着します。この近接した状態で水素原子が炭素へ順次移動することで結合が飽和されます。広大な表面積がこの反応の場を効率的に提供します。
なぜ、ニッケルが不飽和結合の水素化の触媒に優れるのか
ニッケルが水素化触媒として優れている理由は、主に「d電子」の性質と「原子の間隔」にあります。
1. 水素をバラバラにする力
ニッケル(Ni)は、水素分子(H2)を吸着して、容易に水素原子(H)へと引き離す性質を持っています。これはニッケルのd軌道にある電子が、水素分子の結合を弱めるのにちょうど良いエネルギーを持っているためです。
2. ほどよい「吸着力」
触媒として最も重要なのは、反応物を「つかむ力」と「放す力」のバランスです。
- ニッケルは不飽和結合(C=Cなど)を適度に引き寄せ、反応しやすい向きに固定します。
- 結合が弱すぎると反応が起きず、強すぎると生成物が離れなくなりますが、ニッケルはこのバランスが絶妙です。
3. 格子定数の適合(セイバティエの原理)
ニッケルの原子同士の間隔は、炭素の不飽和結合や水素原子が整列するのに物理的に適したサイズです。これにより、反応物が表面にピタッと配置され、スムーズに結合が組み換えられます 。

ニッケルはd電子の性質により水素分子を容易に解離させ、不飽和結合を適度な強さで吸着・固定できます。この「吸着と脱離のバランス」と、原子間隔が反応物のサイズに適合している点が、優れた触媒能を生み出します。
ラネーニッケルの製造方法は
ラネーニッケルの製造は、一般的に「合金化」と「展開(溶出)」という2つのステップで行われます。
1. 合金化(Raney Alloy)
まず、ニッケル(Ni)とアルミニウム(Al)をほぼ1:1の重量比で融解させ、合金を作ります。
- このとき、ニッケル単体ではなくアルミニウムを混ぜることが、後の「多孔質構造」を作るための鍵となります。
2. 展開(Leaching / Activation)
細かく砕いた合金を、温かい水酸化ナトリウム(NaOH)などの強アルカリ溶液に浸します。
- 反応: アルミニウムだけがアルカリと反応して溶け出し(テトラヒドロキシアルミン酸ナトリウムとして溶出)、水素ガスが発生します。
- 結果: アルミニウムが抜けた跡が微細な穴(細孔)となり、スポンジのような構造を持つ純度の高いニッケルが残ります。
3. 洗浄・保管
溶け出したアルミニウムやアルカリ分を水で十分に洗い流します。完成した触媒は自然発火性があるため、水や溶媒に浸した状態で保管されます。

ニッケルとアルミの合金を熱して作り、これを強アルカリ溶液で処理してアルミのみを溶出させます。この「展開」工程により、アルミが抜けた跡が微細な穴となり、巨大な表面積を持つ多孔質の触媒が完成します。

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