この記事で分かること
- なぜ減益となったのか:主力の塩化ビニル樹脂が、米国などの住宅市場停滞や中国発の供給過剰による市況下落で苦戦したことが響きました。また、AI向けは好調なものの、汎用半導体材料の在庫調整が長引いたことも利益を押し下げた要因です。
- 信越化学のAI向け製品とは:AIチップ製造に不可欠な高純度シリコンウエハーや、超微細加工に用いるフォトレジスト、フォトマスクブランクスで世界屈指のシェアを誇ります。
- 投資を強化する項目:約830億円を投じて群馬県に56年ぶりの新工場を建設し、AIチップの超微細加工に不可欠なEUVレジストなどの露光材料を増産します。
信越化学工業の減益決算とAI向け投資強化
信越化学工業が2026年1月27日に発表した、2025年4〜12月期の決算は売上高微増ながら減益となりました。
https://jp.reuters.com/markets/world-indices/SDFX44WGOBKYBPIISFL7UATQRU-2026-01-27/
通期(2026年3月期)の業績予想は、純利益4,700億円(前期比12%減)とする従来予想を据え置きました。不透明な世界経済の中でも、AI需要の波を確実に捉えることで、次期以降の反転攻勢を狙うフェーズに入っています。
減益の理由何か
信越化学の減益の理由は「世界的な住宅・建設ラッシュの終わり」と「AI以外のIT需要の伸び悩み」のダブルパンチです。
1. 「塩化ビニル」の市況悪化(最大の要因)
信越化学の稼ぎ頭である生活環境基盤材料(主に塩ビ)が苦戦しました。
- 米国の高金利: アメリカで住宅ローン金利が高い状態が続き、住宅着工件数が伸びませんでした。その結果、水道管や建材に使われる塩ビの需要が落ち込みました。
- 中国経済の停滞: 中国の不動産不況により、余った安価な中国産塩ビがアジア市場に流れ込み、販売価格(市況)を押し下げてしまいました。
2. AI以外の「汎用半導体」の回復遅れ
「AI向け」は絶好調なのですが、それ以外の分野が足を引っ張りました。
- PC・スマホの買い替え停滞: 消費者の買い替えサイクルが長くなり、これらに使われる一般的な半導体向けのシリコンウエハーの在庫調整が長引きました。
- 産業機器・車載向けの弱含み: 工場自動化(FA)機器や、一時期の勢いが落ち着いた電気自動車(EV)向けの需要も想定より回復が遅れました。
3. コストの上昇
- 原材料・エネルギー価格: 以前に比べて落ち着いたとはいえ、依然として高いエネルギーコストや物流費が利益を圧迫しました。
- 先行投資: 将来のAI需要を見越した新工場の建設や研究開発費などの「攻めの経費」が増えたことも、短期的には利益を押し下げる要因となっています。
「家が建たない(塩ビ不況)」と「スマホが売れない(汎用半導体不況)」という逆風を、「AIブーム」の利益だけでは完全にカバーしきれなかったというのが、今回の減益の正体です。

主力の塩化ビニル樹脂が、米国などの住宅市場停滞や中国発の供給過剰による市況下落で苦戦したことが響きました。また、AI向けは好調なものの、汎用半導体材料の在庫調整が長引いたことも利益を押し下げた要因です。
信越化学のAI向け製品にはどんなものがあるのか
信越化学工業のAI向け製品は、主に生成AIを動かす高性能な半導体チップの製造と、大量の電力を消費するデータセンターの熱対策という2つの側面で、世界トップクラスのシェアを誇る素材を供給しています。
1. 半導体製造の核となる材料
AIチップ(GPUなど)は非常に微細で複雑な回路を必要とするため、信越化学の超高純度な材料が不可欠です。
- 300mmシリコンウエハー:半導体の基板となる円盤状の板です。AI向けの先端半導体には、極めて平坦で不純物のない高品質なウエハーが求められます。
- フォトレジスト(感光材):ウエハーに回路を焼き付ける際に塗布する特殊な液体です。特にAIチップに必要な超微細加工(EUV露光など)に対応した次世代レジストで高いシェアを持っています。
- フォトマスクブランクス:半導体の設計図(回路パターン)を書き込むための原版となる板です。
2. チップを保護し、つなぐ材料
- 半導体封止材(エポキシ樹脂):完成したデリケートなチップを、熱や衝撃から守るために包み込む樹脂です。
- 低誘電材料:AIによる高速通信で発生する信号の遅延や損失を防ぐための特殊な樹脂材料です。
3. AIの天敵「熱」を逃がす材料
AIを学習させるデータセンターでは膨大な熱が発生し、故障や性能低下の原因になります。
- 放熱材料(TIM: Thermal Interface Material):チップと冷却装置の間に挟み、効率よく熱を逃がすためのシリコーンゴムやグリースです。
- 合成石英製品:耐熱性が非常に高く、半導体製造装置の部品や、高速通信を支える光ファイバーの原料として使用されます。
AI戦略の動向
信越化学は、AI需要が今後も長期的に伸びると予測し、群馬県に約800億円を投じて半導体露光材料の新工場を建設するなど、供給能力の大幅な拡充を進めています。

信越化学は、AIチップ製造に不可欠な高純度シリコンウエハーや、超微細加工に用いるフォトレジスト、フォトマスクブランクスで世界屈指のシェアを誇ります。また、データセンター向けの放熱材料なども供給し、ハード面からAIインフラを支えています。
AI製品拡充の内容は何か
信越化学が進めているAI向け製品の拡充は、主に「先端材料の増産」と「56年ぶりの国内新拠点」が柱となっています。
1. 「群馬新工場」による供給力アップ
2026年の完成を目指し、群馬県伊勢崎市に約830億円を投じて新工場を建設中です。
- 役割: AIチップの製造に欠かせない「フォトレジスト(感光材)」などの露光材料を作る、同社にとって4番目の主要拠点となります。
- 狙い: 生成AI向けの最先端半導体(EUV露光技術など)に対応する材料の供給体制を整え、世界的な需要増に応えます。
2. 次世代・高性能材料の開発
AIの進化に伴い、より「速く」「熱に強い」材料が求められています。
- 300mmウエハーの高度化: AI用GPU(画像処理装置)に使われる巨大なチップを効率よく作るための、極めて精度の高いウエハーの供給を強化しています。
- パッケージ材料: 複数のチップを積み重ねる「3D実装」という高度な技術に使われる、特殊な封止材や絶縁材料のラインナップを広げています。
- 熱対策製品: データセンターのサーバーが発する猛烈な熱を逃がすための「高熱伝導シリコーン」などの拡充を急いでいます。
減益という足元の状況に左右されず、「AI半導体材料のトップシェアを維持・拡大するために、国内に巨大な拠点を作り、次世代材料を次々と投入する」というのが拡充の内容です。

約830億円を投じて群馬県に56年ぶりの新工場を建設し、AIチップの超微細加工に不可欠なEUVレジストなどの露光材料を増産します。また、データセンター向けの放熱シートや、高速通信を支える低誘電材料のラインナップも強化し、ハード面からAIインフラの需要を幅広く取り込む計画です。

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