花王の剥離除去技術開発 どんな剥離除去技術なのか?なぜ強い収縮応力が起きるのか?

この記事で分かること

  • どんな剥離除去技術なのか:界面制御により汚れの奥まで浸透させた液剤が、乾燥して膜になる際の「強力に縮む力」を利用してサビや塗膜を浮かせ、根こそぎ引き剥がすものです。粉じんを出さず、塗って剥がすだけで安全・簡単に作業できます。
  • なぜ強い収縮応力が起きるのか:液剤中のポリマー同士が乾燥に伴い強固に連結し、緻密な網目構造を形成するためです。水分が抜けて容積が減る際、粒子が激しく融合し合うエネルギーを逃がさず、内側へ引き合う強大な「縮む力」に変換しています。
  • 応用例:橋梁やプラントのサビ・旧塗膜の除去、コンクリート建造物の表面補修(劣化層の剥離)などに活用されます。粉じんが出ないため、アスベストを含む塗膜の除去や、住宅密集地でのインフラ改修に極めて有効です。

花王の剥離除去技術開発

 花王は古い塗装やサビを驚くほど簡単に、かつ安全に除去できる革新的な「剥離除去技術」の開発を発表しました。

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC153WO0V10C26A1000000/

 この技術は、従来の「削り落とす」や「溶剤で溶かす」といった重労働・高負荷な方法とは一線を画す、「塗って、乾かして、剥がすだけ」という画期的なアプローチです。

どのような剥離除去技術なのか

 花王が開発したこの技術は、「乾燥する力で汚れを自ら剥がれさせる」という、物理現象を巧みに利用した技術です。

 専門的には「皮膜収縮による自己剥離技術」と呼ばれます。これまでの「溶かす」「削る」といった力技ではなく、化学と物理のバランスで解決しているのがポイントです。

1. 技術の核心:乾燥の力を利用した「自己剥離」

 この技術の最大の特徴は、剥離剤そのものが乾燥する際に発生する「内部応力(縮もうとする力)」を巧みにコントロールしている点です。

  • メカニズム: 剥離剤を対象物に塗布すると、乾燥する過程で膜が強力に収縮します。このとき、膜が汚れやサビを内側に抱き込みながら、接着面から自発的にめくれ上がります。
  • 素材の工夫: 膜が縮む力(剥がす力)を最大化しつつ、膜自体が途中で破れないように、複数の高分子素材を組み合わせた高度な界面制御技術が使われています。

2. 従来手法との比較

 これまで一般的だった「サンドブラスト(砂を吹き付ける)」や「有機溶剤」による作業と比べ、以下のメリットがあります。

項目従来の剥離作業花王の新技術
粉じん大量に発生(飛散防止が必要)発生しない(膜の中に封じ込める)
安全性有機溶剤による臭気・毒性リスク溶剤不使用(水系で環境に優しい)
作業負荷機械操作や長時間の研磨が必要塗布と乾燥のみ(大幅な省力化)
廃棄物研磨材と汚れが混ざり大量になる剥がした膜のみ(コンパクトに回収)

3. 実用化のターゲット

 この技術は、鋼板のサビだけでなく、ステンレスの水性ペイント、さらにはコンクリートの表層(数十〜数百μm)まで除去できることが確認されています。

  • ビル・インフラの保守: 外壁の塗り替えや橋梁の補修。
  • 船舶のメンテナンス: 船体のサビ落とし。
  • 製品化予定: 花王は2026年中の製品化を目指しており、建設現場や工業分野での社会実装が期待されています。

花王の技術は、界面制御により汚れの奥まで浸透させた液剤が、乾燥して膜になる際の「強力に縮む力」を利用してサビや塗膜を浮かせ、根こそぎ引き剥がすものです。粉じんを出さず、塗って剥がすだけで安全・簡単に作業できます。

なぜ強い収縮応力が起きるのか

 強い収縮応力が発生する理由は、主に「高分子の網目構造」「水の蒸発」の絶妙なコントロールにあります。

1. 高密度なネットワークの形成

 液剤が乾く際、中に含まれるポリマー(高分子)同士が化学的に強く結びつき、緻密な網目構造を作ります。

 この網目が、乾燥によって容積が減る際に「元の形を維持しよう」と踏ん張るため、内側へ引き合う強大な力(応力)に変換されます。

2. 水分の急速な脱離

 水系の液剤から水分が抜ける際、ポリマー粒子同士が急接近します。花王の技術では、粒子がただ集まるだけでなく、粒子同士が強力に融合(融着)するように設計されています。 

 この「縮まりながら固まる」エネルギーを逃がさず、一方向に集中させることで剥離に必要なパワーを生み出しています。

3. 界面活性剤による「密着」と「滑り」の制御

 ただ縮むだけでは膜が破れてしまいます。花王は長年の界面科学を活かし、

  • 汚れに対しては: 奥まで入り込んでガッチリ掴む。
  • 素材(下地)に対しては: 縮む力に耐えられず適度に「滑って」剥がれる。という、相反する性質を膜に持たせています。

 「最強の握力」で汚れを掴みつつ、「強力なバネ」のように縮むことで、素材から汚れを引きちぎっています。

液剤中のポリマー同士が乾燥に伴い強固に連結し、緻密な網目構造を形成するためです。水分が抜けて容積が減る際、粒子が激しく融合し合うエネルギーを逃がさず、内側へ引き合う強大な「縮む力」に変換しています。

どんなポリマーが使用されるのか

 花王がこの技術で使用しているのは、主に「アクリル系ポリマー」のエマルション(水に分散した状態)がベースであると考えられます。

 ただし、単なるアクリル樹脂ではなく、収縮力を最大化するために以下の3つの特徴を組み込んだ独自の設計がなされています。

1. 高ガラス転移点(高Tg)ポリマー

 乾燥後に硬くなる性質を持つポリマーを選択しています。柔らかいゴムのようなポリマーでは縮む力が逃げてしまいますが、硬いポリマーを使うことで、水分が抜けた際の体積変化を逃さず、強靭な「縮む力(応力)」へと変換します。

2. 自己架橋型ポリマー

 乾燥のプロセスでポリマー同士が自発的に橋を架けるように結合(架橋)する設計です。これにより、膜の強度が劇的に高まり、汚れを引き剥がす際に膜自体が破れるのを防ぎます。

3. 親水性と疎水性のバランス設計

  • 浸透時: 汚れの奥まで入り込むための親水性。
  • 乾燥後: 水を弾き、下地との接着を適度に弱めてペロリと剥がれやすくする疎水性。この相反する性質を1つのポリマー鎖の中に組み込んでいます。

 「ガッチリ固まって、猛烈に縮み、かつ破れない」という特殊な強化プラスチックのような膜を作るために、アクリル系をベースとした高度な「機能性ポリマー」が使用されています。

ベースには硬く強靭なアクリル系ポリマーが使われています。乾燥時に分子同士が網目状に強く結びつく「自己架橋」機能を持ち、水分が抜ける際の体積変化を逃さず、強大な「縮む力」に変換できる設計です。

なぜ剥離剤が様々なターゲットに密着できるのか

 剥離剤がサビや古い塗装、コンクリートといった性質の異なるターゲットに密着できるのは、花王が長年培ってきた「界面活性剤」と「ポリマーの濡れ性」の制御技術があるからです。

1. 驚異的な「濡れ広がり」と「浸透力」

ど んなに強力な膜も、ターゲットの凹凸の奥まで入り込まなければ密着できません。この剥離剤には、水の表面張力を極限まで下げる特殊な界面活性剤が配合されています。

 これにより、サビの微細な隙間やコンクリートの細孔の奥深くまで、液剤が「毛細管現象」で吸い込まれるように入り込みます。

2. 物理的な「アンカー効果」

 液剤がターゲットの微細な凹凸に入り込んだ状態で乾燥し、硬い膜(ポリマー)に変化します。これが、ちょうど「くさび」を打ち込んだような状態(アンカー効果)になり、素材と膜を物理的に強固に結合させます。


特殊な界面活性剤が水の表面張力を下げ、サビやコンクリートの微細な凹凸の奥まで液剤を浸透させるからです。そこでポリマーが固まることで「アンカー効果」が生まれ、ターゲットをガッチリと掴むことができます。

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