この記事で分かること
- 光散乱法とは:分子に光を照射し、生じる散乱光の強さを測定して絶対分子量を算出する手法です。標準物質との比較ではなく、光の物理現象から直接計算するため、高分子の枝分かれや凝集状態も正確に評価できるのが特徴です。
- 絶対分子量と相対分子量の違い:相対分子量は、標準物質を基準とした「ものさし」と比較して決める値で、分子の形状によって誤差が生じます。対して絶対分子量は、光散乱などの物理現象から直接算出する値で、形状に左右されず真の重さを特定できます。
- 絶対分子量測定の弱点:大きな粒子に敏感なため、微細な埃や溶け残りがあると値が跳ね上がります。また、計算に不可欠な定数「dn/dc」の把握が必要な点や、低分子量域では精度が落ちる点も難点です。
光散乱法による絶対分子量の分析
機器分析とは、化学反応を用いる古典的な化学分析に対し、物質が持つ物理的・化学的性質を精密な機器で測定し、その物質の成分や構造を分析する方法の総称です。
高感度で迅速な分析が可能であり、微量な成分や複雑な混合物も精度高く分析できるため、現代の科学技術分野で広く利用されています。
今回は、光散乱法による分子量の分析に関する記事となります。
分子量分析での光散乱法とは何か
分子量分析における光散乱法は、特に高分子(ポリマー)やタンパク質の「絶対分子量」を測定するための非常に強力な手法です。
一般的なGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)が標準物質(ポリスチレンなど)との比較による「相対的な分子量」しか出せないのに対し、光散乱法は理論式に基づいて物質そのものの重さを直接算出できるのが最大のメリットです。
1. 分子量がわかる仕組み(静的光散乱法:SLS)
分子量分析で主に使われるのは静的光散乱法(SLS)です。
光が粒子に当たったとき、その散乱する強さは粒子の「大きさ(体積)」と「濃度」に比例します。同じ濃度であれば、大きな分子(重い分子)ほど光を強く散乱するという性質を利用します。
レイリーの式
分子量 M は、以下の関係式を用いて算出されます。
Kc / Rθ = 1/(M × Pθ)+ 2A2 × c
- Rθ: 散乱光の強さ(レイリー比)
- c: 溶液の濃度
- M: 絶対分子量
- A2: 第二ヴィリアル係数(溶媒と溶質の仲の良さ)
- K: 光学定数(屈折率増分 dn/dc を含む)
2. 光散乱法で得られる3つの重要データ
光散乱測定(特に複数の角度で測定するMALS:多角度光散乱検出器)を行うと、一度に以下の情報が得られます。
| 項目 | 内容 |
| 絶対分子量 (Mw) | 標準物質に頼らない、その物質固有の重さ。 |
| 慣性半径 (Rg) | 分子が空間でどの程度の広がりを持っているか(サイズ感)。 |
| 第二ヴィリアル係数 (A2) | その溶媒中で分子が溶けやすいか、凝集しやすいかの指標。 |
3. なぜ「絶対」分子量が必要なのか?
従来のGPC(カラムのみ)では、サンプルの「形」が標準物質と異なると、正しい分子量が測れないという弱点がありました。
- 直鎖状の分子(標準物質に近い)
- 枝分かれした分子(同じ重さでもコンパクトに見える)
光散乱法をGPCの後段に接続する(GPC-MALS)ことで、分子の形に左右されず、枝分かれ構造や凝集状態を正確に評価できるようになります。
これが、最先端の材料開発やバイオ医薬品(抗体など)の品質管理で必須とされる理由です。
4. 測定に必要な「dn/dc」とは
光散乱法で正確な分子量を出すには、屈折率増分 (dn/dc) という値が必要です。これは「濃度が変化したときに、どれだけ溶液の屈折率が変わるか」という指標です。この値が分からないと、正しい分子量を計算することができません。

分子に光を照射し、生じる散乱光の強さを測定して絶対分子量を算出する手法です。標準物質との比較ではなく、光の物理現象から直接計算するため、高分子の枝分かれや凝集状態も正確に評価できるのが特徴です。
相対分子量と絶対分子量の違いは何か
「相対分子量」と「絶対分子量」の決定的な違いは、「ものさし」を外部に求めるか、その物質自体の物理現象から直接導き出すかという点にあります。
1. 相対分子量(Relative Molecular Weight)
他の物質と比較して決める分子量です。主に「GPC/SEC(カラム)」単体での測定がこれに該当します。
- 仕組み: 基準となる標準物質(ポリスチレンなど)を測り、「このくらいの時間で溶出したら分子量10万」という検量線(ものさし)を作ります。
- 弱点: サンプルの「形」が標準物質と違うと、値がズレます。
- 例えば、同じ重さでも「ひも状」と「マリ状」では、カラムを通り抜けるスピードが違うため、誤った分子量として算出されてしまいます。
2. 絶対分子量(Absolute Molecular Weight)
比較に頼らず、その物質固有の物理的性質から直接算出される分子量です。「光散乱法(MALS)」や「質量分析(MS)」などがこれに当たります。
- 仕組み: 散乱光の強さは分子の「重さ(質量)」そのものに比例するという物理法則を利用します。
- 強み:サンプルの形状(枝分かれ、コンパクトさ)に惑わされません。
- 標準物質が存在しない新素材や、複雑な構造を持つタンパク質の評価において、唯一無二の「真の値」に近いデータが得られます。
違いのまとめ
| 項目 | 相対分子量 | 絶対分子量 |
| 主な手法 | GPC(カラムのみ) | 光散乱法、質量分析 |
| 基準 | 標準物質との比較 | 物理定数・理論式 |
| 形状の影響 | 強く受ける(誤差の原因) | 受けない |
| 例え話 | 誰かと背比べをして決める | 身長計で直接測る |
「自社のポリマーが、カタログ値(相対)と光散乱(絶対)で全然違う値になった」といったケースの理由も、多くはこの形状の差にあります。

相対分子量は、標準物質を基準とした「ものさし」と比較して決める値で、分子の形状によって誤差が生じます。対して絶対分子量は、光散乱などの物理現象から直接算出する値で、形状に左右されず真の重さを特定できます。
絶対分子量測定の弱点は何か
絶対分子量は非常に強力なデータですが、実務上ではいくつか厄介な弱点があります。
1. 前処理と清浄度への過敏さ
光散乱は大きな粒子に極めて敏感です。溶液中にわずかな「ゴミ(ほこり)」や「溶け残りの凝集物」があると、それが強烈な散乱光を発してしまい、分子量の計算値が跳ね上がってしまいます。測定前の徹底したろ過(サンプルのクリーンアップ)が必須です。
2. 屈折率増分(dn/dc)の必要性
計算式に必ず登場する dn/dc(濃度あたりの屈折率変化)という定数が未知の場合、別途これを測定するか、文献から探す必要があります。
この値が少しでもズレると、算出される絶対分子量も大きく狂ってしまいます。
3. 装置のコストと操作性
一般的なGPCに比べて、光散乱検出器(MALSなど)は高価です。また、光学系の精密な調整や、複雑な解析ソフトの熟練した操作が求められるため、誰でも簡単にボタン一つで測れるというわけにはいきません。
4. 低分子量への限界
分子が小さすぎると散乱光自体が弱くなるため、分子量数百〜数千程度の低分子領域ではノイズに埋もれやすく、精度が低下する傾向があります。
「真の値」がわかる代わりに、ゴミに弱く、事前の準備やパラメータ設定に手間がかかるのが弱点です。

最大の弱点は不純物(ゴミ)の影響です。大きな粒子に敏感なため、微細な埃や溶け残りがあると値が跳ね上がります。また、計算に不可欠な定数「dn/dc」の把握が必要な点や、低分子量域では精度が落ちる点も難点です。
屈折率増分はどうやって測定するのか
屈折率増分(dn/dc)の測定には、主に示差屈折計(DRI/RI検出器)という装置を使用します。
原理はシンプルで、「溶媒(基準)」と「サンプルを溶かした溶液」の屈折率の差を、濃度を変えながら精密に測るというものです。
1. 測定の手順
- 段階的な濃度調整:未知のサンプルを、同じ溶媒で4〜5段階の異なる濃度(例:0.2, 0.4, 0.6, 0.8, 1.0 mg/mL)に正確に希釈します。
- サンプルの注入:専用の「バッチ式」示差屈折計に、低濃度から順番にサンプルを注入します。
- プロットの作成:横軸に「濃度(c)」、縦軸に「屈折率の差(Δn)」をプロットします。
- 傾きの算出:得られた直線の傾きが、求めるべき dn/dc となります。
2. 測定時の注意点
- 温度制御:屈折率は温度で大きく変わるため、測定中は温度を一定(例:25℃や40℃)に保つ必要があります。
- 波長の統一:光散乱装置で使うレーザーの波長(例:658nm)と同じ波長の光源で測定しなければなりません。
- 溶媒の完全一致:サンプルを溶かした溶媒と、対照(リファレンス)にする溶媒は、全く同じロットのものを使用するのが鉄則です。
3. 測定しない場合(文献値の利用)
もし装置がない場合は、過去の研究データが集約された文献値(ポリマーハンドブックなど)を参照することもあります。ただし、溶媒や温度、波長が一つでも違うと絶対分子量の計算が狂うため、厳密な研究では実測が推奨されます。

示差屈折計を用い、濃度を段階的に変えた溶液と溶媒の「屈折率の差」を精密に測定します。横軸に濃度、縦軸に屈折率差をプロットした際の直線の傾きがdn/dcとなります。測定時は光源の波長や温度を光散乱測定時と揃えることが不可欠です。

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