AGC、純損益の黒字転換 バイオサイエンス事業の内容は何か?なぜ立て直せたのか?

この記事で分かること

  • なぜ黒字転換できたのか:2024年度に計上したバイオサイエンス事業の不採算拠点に伴う多額の減損損失がなくなり、固定費が大幅に軽減されたことが最大の要因です。あわせて、価格転嫁が進んだ自動車ガラス事業が利益を大きく伸ばし、全社業績を牽引しました。
  • バイオサイエンス事業の内容:製薬会社から医薬品の製造・開発を請け負うCDMO(開発製造受託)が主軸です。長年培ったフッ素化学や培養技術を活かし、バイオ医薬品や合成医薬品、農薬などの原薬をグローバルに提供しています。
  • なぜ立て直せたのか:不採算拠点の資産価値を切り下げる多額の減損損失を計上し、固定費負担を軽減したことが最大の要因です。あわせて需要が旺盛な遺伝子・細胞治療薬等の高付加価値領域へ注力し、稼働率を改善させたことで収益性が回復しました。

AGC、純損益の黒字転換

 AGCが2025年12月期連結決算において、純損益の黒字転換を発表しています。 

 https://www.nikkei.com/article/DGXZRST0549320V00C26A2000000/

 背景には、バイオサイエンス事業の立て直しや半導体関連市場の回復などが挙げられています。

バイオサイエンス事業の内容は何か

 AGCのバイオサイエンス事業(主にライフサイエンス事業セグメントとして展開)の主な内容は、製薬会社や農薬メーカーから開発・製造を請け負うCDMO(開発製造受託)ビジネスです。

 AGCは「ガラスの会社」というイメージが強いですが、現在はライフサイエンスを「戦略事業」の柱の一つに据えています。具体的な事業内容は大きく分けて以下の3つです。

1. バイオ医薬品 CDMO

 微生物や動物細胞(チャイニーズハムスター卵巣細胞など)の培養技術を用いて、バイオ医薬品の原薬を製造します。

  • 対象製品: 抗体医薬品、タンパク質医薬品など。
  • 最新領域: 次世代医療として注目される遺伝子・細胞治療薬や、新型コロナワクチンでも話題になったmRNA医薬品の開発・製造受託にも力を入れています。
  • 体制: 日本(横浜、千葉)、米国、欧州(デンマーク、イタリアなど)にグローバルな製造拠点を持ち、世界トップクラスのシェアを誇ります。

2. 合成医薬品 CDMO

 AGCが長年培ってきた「フッ素化学」や「有機合成技術」を応用し、低分子医薬品(一般的な飲み薬など)の原薬や中間体を製造します。

  • 特徴: フッ素を導入する特殊な反応や、超低温での反応など、高度な化学合成技術が強みです。

3. 農薬 CDMO

 医薬品と同様に、農薬メーカー向けに農薬の原体や中間体の製造受託を行っています。


事業の特徴と近況

  • 高い参入障壁: 医薬品製造には厳格な品質管理基準(GMP)への適合が必要であり、AGCは日米欧の主要当局(PMDA、FDA、EMA)の査察に対応できる高度な管理体制を持っています。
  • M&Aによる急拡大: 2016年以降、欧米の有力なCDMO企業を次々と買収し、短期間で世界的なプレーヤーに成長しました。
  • 直近の赤字と黒字転換の理由: 前述の通り、急拡大の過程で一部拠点(特に米国バイオ拠点)の収益性が悪化し、2024年12月期に多額の減損損失を計上して赤字となりましたが、現在は需要の回復と生産効率の改善によって利益の立て直し(黒字転換)を図っている状況です。

 「自社で新薬を作るのではなく、最先端の薬を作るための高度な工場と技術を製薬会社に貸し出している事業」と言えます。

AGCのバイオサイエンス事業は、製薬会社から医薬品の製造・開発を請け負うCDMO(開発製造受託)が主軸です。長年培ったフッ素化学や培養技術を活かし、バイオ医薬品や合成医薬品、農薬などの原薬をグローバルに提供しています。

なぜバイオサイエンス事業の立て直しができたのか

 AGCがバイオサイエンス(ライフサイエンス)事業を立て直せた理由は、主に「不採算拠点の整理(減損)」「高成長領域への集中」という2つの断行によるものです。

具体的には、以下の3つのポイントが挙げられます。

  • 「負の遺産」の一掃(減損損失の計上)2024年12月期に、収益性が低下していた米国拠点などの固定資産について、約1,200億円という多額の減損損失を計上しました。これにより、今期以降の減価償却費などの固定費負担が軽くなり、会計上の利益が出やすい体質に生まれ変わりました。
  • 遺伝子・細胞治療薬など「次世代領域」の伸長従来の抗体医薬品に加え、より付加価値が高く需要が急増している「遺伝子・細胞治療薬」や「mRNA」の受託に注力しました。これら最新技術を要する分野は競合が限られるため、高い収益性を確保できています。
  • グローバルな生産最適化日・米・欧の各拠点の役割を明確にし、生産効率を改善しました。特にバイオ医薬品の受託は工場の稼働率が利益を左右するため、営業力の強化によって受注を安定させたことが奏功しています。

 得意な高付加価値分野にリソースを集中させたことが、V字回復の決め手となったと言えます。

2024年12月期に不採算拠点(米国等)の資産価値を切り下げる多額の減損損失を計上し、固定費負担を軽減したことが最大の要因です。あわせて需要が旺盛な遺伝子・細胞治療薬等の高付加価値領域へ注力し、稼働率を改善させたことで収益性が回復しました。

AGCのCDMOとしての強みはなにか

 AGCがCDMO(医薬品開発製造受託)として持っている強みは、「ガラスメーカーとしての化学技術」「グローバルな3極体制」の融合にあります。

1. 独自の「フッ素化学」×「有機合成」技術

 もともとの本業である化学品事業で培った、高度なフッ素化技術が最大の武器です。

  • 特殊な反応に対応: フッ素の導入や超低温反応(-100℃以下)など、他社が敬遠するような難易度の高い合成を得意としています。
  • 低分子からバイオまで: この化学合成の知見を、一般的な飲み薬(低分子医薬品)だけでなく、最新のバイオ医薬品の製造にも応用しています。

2. 日米欧「3極」のグローバル統合体制

 積極的なM&Aにより、日本・米国・欧州のすべてに製造拠点を持ち、世界中どこでも同じ高い品質基準(cGMP)で提供できる体制を整えています。

  • シームレスな移管: 例えば「開発は欧米で、商用生産はコストを抑えて日本で」といった、地域をまたいだ柔軟な提案が可能です。
  • 大手からベンチャーまで: 小規模な治験薬製造から大規模な商用生産まで対応できる、多様なサイズの培養槽を保有しています。

3. 次世代モダリティへの対応力

 抗体医薬品といった従来のバイオ医薬品に加え、最先端の治療法にもいち早く対応しています。

  • 最先端領域: 遺伝子治療、細胞治療、mRNA医薬品など、高い技術力が必要な「新規モダリティ」の受託実績が豊富です。
  • ハイブリッドな強み: 微生物培養と動物細胞培養の両方の技術を持っており、多様な医薬品ニーズに一社で応えられる「ワンストップ・ソリューション」が売りです。

 AGCはきめ細やかでユニークなサービスを提供する存在と位置づけています。

AGCのCDMOとしての最大の強みは、「化学合成」と「バイオ」のハイブリッドな技術力と「日米欧3極」のグローバル体制です。素材メーカー由来の高度な化学技術を武器に、世界中の製薬会社のニーズへ一気通貫で応えられる柔軟性と技術力」がAGCの持ち味です。

その他の事業の状況はどうか

 AGCの、バイオサイエンス以外の主要事業の状況は自動車ガラスの絶好調が、化学品や電子の苦戦をカバーしたという構図です。


1. オートモーティブ(自動車用ガラス)

【絶好調:利益が倍増】今回の決算で最も輝いたセグメントです。

  • 状況: 原材料・エネルギー価格の上昇分を販売価格へ転嫁することに成功しました。
  • 要因: 高機能なフロントガラス(ヘッドアップディスプレイ対応など)の比率が高まった「品種構成の改善」が利益を大きく押し上げました。

2. 化学品

【微減:市況の波に苦戦】AGCの稼ぎ頭ですが、今期はやや逆風もありました。

  • 状況: 塩化ビニル樹脂(PVC)などの基礎化学品が、東南アジア市場での価格下落や需要停滞の影響を受けました。
  • 強み: 一方で、半導体や自動車に使われる「機能化学品(フッ素樹脂など)」は底堅く推移し、全体の利益を下支えしています。

3. 電子

 【苦戦:半導体市場の影響】

  • 状況: スマートフォンやPC向けのディスプレイ基板は構造改革により底打ち感が出ていますが、半導体関連部材の出荷が想定を下回り、前年比で減益となりました。
  • 今後: 2026年以降の半導体市場の本格回復を待つフェーズです。

4. 建築ガラス

 【横ばい:地域差あり】

  • 状況: 欧州での需要減退やロシア事業の譲渡がマイナス要因となりました。
  • プラス要因: 日本国内では省エネ性能の高い「エコガラス」へのリフォーム需要が堅調で、価格政策の効果もあり、大崩れはしていません。

事業別営業利益のまとめ

セグメント利益の状況主なトピック
オートモーティブ大幅増益価格転嫁と高付加価値製品が牽引
化学品減少東南アジアの市況悪化が響く
電子減少半導体部材の回復待ち
建築ガラス安定国内の省エネ需要が堅調

 今回の黒字転換は、バイオサイエンスの大きな損失が消えたことに加え、自動車事業が過去最高の勢いで利益を稼ぎ出したことが大きな要因です。

自動車事業は高機能なフロントガラスの販売増や価格転嫁の進展により利益が倍増し業績を牽引しました。建築ガラスも国内の省エネ需要で堅調でしたが、化学品は東南アジアの市況悪化、電子は半導体部材の出荷減の影響でそれぞれ減益となりました。

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