この記事で分かること
- タンデム型ペロブスカイト太陽電池とは:性質の異なる2種類の太陽電池を重ね、太陽光を余さず吸収する次世代型電池です。上段のペロブスカイトが短波長、下段のシリコン等が長波長の光を分担して発電するため、従来の限界を超える高い発電効率を実現します。
- なぜ製造が難しいのか:ナノ単位の厚みで大面積にムラなく塗布する難しさ、湿気や熱に弱く長期耐久性が低い点、そして下段のシリコン層と性能を損なわずに重ねる積層プロセスの複雑さが、量産化における大きな障壁です。
- カネカの製造での強み:世界一の効率を誇る自社製シリコン電池を土台に、表面の微細加工や独自の「中間層」技術で高品質な積層を実現。さらに、蓄積した封止ノウハウを活かした実証試験を先行させ、屋外での長期耐久性を高めています。
カネカのタンデム型ペロブスカイト太陽電池
化学大手のカネカは、2028年度に「タンデム型ペロブスカイト太陽電池」の製品販売を開始するという計画を打ち出しています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC097H00Z00C26A2000000/
同社はすでに世界最高水準の「ヘテロ接合結晶シリコン太陽電池」を量産しており、その上にペロブスカイトを積層させることで、他社にない高効率・高耐久な製品を作れる強みがあります。
タンデム型ペロブスカイト太陽電池とは何か
「タンデム型ペロブスカイト太陽電池」は種類の異なる太陽電池を2段重ねにして、発電効率を限界まで高めた次世代電池のことです。
「タンデム(Tandem)」とは「2人乗り自転車」や「直列に並んだ」という意味で、性質の違う2つの電池がタッグを組んでいる状態を指します。
1. なぜ「2枚重ね」にするのか
太陽光には、エネルギーの強い「青色」から、弱い「赤色・赤外線」まで、さまざまな色の光が含まれています。
- 従来の電池(シリコン単体): 特定の色の光は得意ですが、それ以外の光はエネルギーとして吸収しきれず、熱として逃げてしまいます。
- タンデム型: 2つの層で「得意な色」を分担します。
- 上層(ペロブスカイト): 主にエネルギーの強い「青色の光」を吸収して発電。
- 下層(シリコンなど): 上を通り抜けてきたエネルギーの弱い「赤色の光」を吸収して発電。
このように、光を残さずに効率よく電気に変えるのが最大の特徴です。
2. タンデム型のメリット
- 圧倒的な発電効率: 現在の主流であるシリコン太陽電池の理論限界(約29%)を突破し、30%〜40%以上の効率が狙えます。
- 設置面積の有効活用: 同じ面積でも発電量が大幅に増えるため、土地の狭い日本や、建物の屋根・壁面での発電に最適です。
- 既存技術の活用: 全く新しいものを作るのではなく、今あるシリコン電池の上にペロブスカイトを「塗る」ような形で製造できるため、進化系として導入しやすい側面があります。
3. 構造イメージ
イメージとしては、「2つの異なるフィルターを重ねる」ような構造です。
| 層の種類 | 役割 | 得意な光 |
| トップセル(上段) | ペロブスカイト層 | 短波長(青色など) |
| ボトムセル(下段) | シリコン層 | 長波長(赤色・赤外線) |
カネカなどが開発しているこの電池は、「日本が得意とするペロブスカイト技術」と「実績のあるシリコン技術」のハイブリッドです。これにより、「もっと狭い場所で、もっとたくさん電気を作る」ことが可能になります。
この「ペロブスカイト」という素材自体が、薄くて軽いため、将来的にはビルの壁面や窓など、今まで設置できなかった場所への活用が期待されています。

性質の異なる2種類の太陽電池を重ね、太陽光を余さず吸収する次世代型電池です。上段のペロブスカイトが短波長、下段のシリコン等が長波長の光を分担して発電するため、従来の限界を超える高い発電効率を実現します。
ペロブスカイトはなぜ短波長で発電できるのか
ペロブスカイト太陽電池が短波長(青色などの高エネルギー光)で効率よく発電できる理由は、主にその「バンドギャップを自由に調整(チューニング)できる」という独特の性質にあります。
1. 「バンドギャップ」の大きさが鍵
太陽電池が光を電気に変える際、物質ごとに「これ以上のエネルギーを持つ光でなければ反応しない」という閾値(境界線)があります。これをバンドギャップ(エネルギーギャップ)と呼びます。
- シリコンの限界: 結晶シリコンのバンドギャップは約 1.1eVと固定されています。これは赤外線などの弱い光でも反応できるメリットがある一方、エネルギーの強い短波長の光(青色など)を受けると、差分のエネルギーを「熱」として捨ててしまうという弱点があります。
- ペロブスカイトの強み: ペロブスカイトは、構成する成分(ヨウ素や臭素などの比率)を変えるだけで、バンドギャップを約 1.5~ 2.3 eV程度まで広げることができます。
2. 「高い壁」を作ることで高電圧を得る
タンデム型太陽電池では、あえてペロブスカイトのバンドギャップを大きく(高い壁に)設定します。
- 高エネルギーのキャッチ: バンドギャップを大きくすると、エネルギーの大きい短波長の光(青色光)にピタッと適合します。
- 高電圧の発生: バンドギャップが大きいほど、取り出せる電気の電圧(開放電圧)が高くなります。
- 役割分担:
- 上段(ペロブスカイト): 高いエネルギーの光を、高い電圧の電気として効率よく回収。
- 下段(シリコン): 上段を通り抜けた低いエネルギーの光(赤色光)を、従来の仕組みでじっくり回収。
3. 吸収係数が非常に高い
ペロブスカイトは、光を吸収する能力(吸収係数)が極めて高いという特徴もあります。
ペロブスカイトは、外部の助けを借りず光だけで電子が移動できる「直接遷移型」の性質を持っているため、シリコンより圧倒的に光を吸い込む力が強く、100分の1以下の薄膜でも十分に光を吸収し発電可能です。
シリコンの100分の1程度の厚さ(わずか数百ナノメートル)でも、短波長の光をほぼ完璧に捕まえることができるため、薄い膜としてシリコンの上に重ねる「タンデム構造」に非常に適しているのです。
ペロブスカイトが短波長で発電できるのは、「素材の配合を変えることで、エネルギーの強い光をロスなく受け止める専用の受光窓口(大きなバンドギャップ)を自在に作れるため」といえます。

ペロブスカイトは、材料の配合を変えることで「バンドギャップ(光を吸収する壁)」を自在に調整できるからです。これを大きく設定することで、エネルギーの強い短波長の光をロスなく高い電圧として変換できます。
製造のおいて難しい点はどこか
カネカが進める「タンデム型」の量産化において、技術的に難しいポイントは主に以下の3点に集約されます。
1. 均一に「塗る」難しさ(大面積化の壁)
研究室レベルの小さなサイズ(1cm角など)では高効率が出せますが、実際の製品サイズ(メートル単位)で製造しようとすると、ペロブスカイトの膜厚をナノレベルで均一に塗布するのが極めて困難です。わずかな厚みのムラが発電効率の低下や故障の原因になります。
2. 耐久性と寿命の確保
ペロブスカイトは「水分・熱・酸素」に非常に弱く、放っておくとすぐに結晶構造が崩れてしまいます。
- 課題: 屋外で20〜30年使い続けるシリコン電池と同等の寿命を持たせるために、湿気を完全に遮断する高度な「封止(パッキング)技術」が求められます。
- ジレンマ: ガードを固くしすぎると重くなったりコストが上がったりするため、そのバランスが難しい点です。
3. 下段のシリコン層との「相性」
シリコンの上にペロブスカイトを重ねる際、いくつかの物理的なハードルがあります。
- 凹凸の問題: 通常のシリコン電池は光の反射を防ぐために表面がザラザラ(テクスチャ構造)していますが、その上にペロブスカイトを綺麗に塗るのは至難の業です。
- 熱の制約: ペロブスカイトを形成する際の熱処理が、下段のシリコン電池の性能を損なわないよう、低温で加工するプロセスを確立しなければなりません。
「高性能な膜を、大きく、ムラなく、壊れにくい状態で、安く作り続けるプロセス」の確立が最大の難関です。

製品サイズへの大面積化に伴う膜厚の均一化、湿気や熱に対する長期耐久性の確保、そしてシリコン層と重ねる際の積層プロセスの最適化が主な課題です。これらを低コストで量産する技術の確立が求められています。
カネカはどのように対応しているのか
カネカは、自社が持つ世界最高水準のシリコン太陽電池技術を土台に、物理的な「重ね合わせ」の難しさを独自の技術で解決しようとしています。
1. 「ヘテロ接合技術」の転用
カネカは、シリコン層に不純物の少ない「アモルファスシリコン」を薄く重ねる「ヘテロ接合」において世界最高効率(26.33%)の記録を持っています。
- 対応: この既存の精密な積層ノウハウを、ペロブスカイト層を重ねる工程に応用しています。これにより、異なる材料同士でも電気のロスを最小限に抑えたスムーズな接合を可能にしています。
2. 「中間層(結合層)」の独自開発
2つの電池を重ねる際、単に置くだけでは電気がうまく流れません。
- 対応: カネカは、かつて開発していた「薄膜シリコンタンデム太陽電池」の経験を活かし、上段と下段を電気的につなぐ特殊な「中間層」を設計しています。これが光の透過を邪魔せず、かつ効率よく電気を移動させる「橋渡し」の役割を果たします。
3. 屋外実証による「耐久性」のデータ蓄積
ペロブスカイトは熱や湿気に弱いのが最大の弱点です。
- 対応: 2028年度の発売に向けて、すでに住宅やビル、さらには「瓦一体型」としての実証試験を始めています。研究室での試験だけでなく、実際の屋根や壁に設置して「日本の気候(四季、梅雨、台風)」に耐えうる封止(パッケージ)技術の最適化を、製品販売の数年前から同時並行で進めています。
カネカの強みは、「ゼロから作るのではなく、すでに世界一の性能を持つ自社製シリコン電池を、ペロブスカイトの土台として活用できる」点にあります。
政府(NEDO)からの94億円規模の支援も受け、2030年までの低コスト化(12円/kWh以下)に向けた量産ラインの構築を加速させています。

世界一の効率を誇る自社製シリコン電池を土台とし、表面の微細加工や光のロスを抑える独自の「中間層」技術で高品質な積層を実現。さらに瓦一体型などの実証試験を先行させ、屋外での長期耐久性を高めています。

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