この記事で分かること
- 高温ガス炉とは:冷却材にヘリウム、減速材に黒鉛を用いる原子炉です。水を使わないため900℃超の高熱を取り出せ、発電効率の向上や水素製造への応用が期待されます。事故時に冷却が止まっても炉心が溶けにくい優れた安全性が特徴です。
- TRISO燃料粒子とは:直径1mm弱の燃料核を、炭化ケイ素(セラミック)等の層で4重に被覆した微小粒子です。1,600℃超の高温でも放射性物質を封じ込める「微小な格納容器」として機能し、メルトダウンを防ぐ極めて高い安全性を実現します。
- 高温ガス炉型の問題点:ヘリウムは熱輸送効率が低く設備が大型化しやすいため、建設単価が高騰しがちです。また、減速材として大量に使用する黒鉛が将来的に膨大な放射性廃棄物となる点や、高価なガスの漏洩防止対策も経済面での大きな課題です。
高温ガス炉型
日立製作所と米GEベルノバは、2026年3月14日、次世代型原子炉である小型モジュール炉(SMR)の東南アジア展開に向けて協力する覚書(MOU)を締結しました。今後、両社が共同開発した「BWRX-300」の導入機会を、東南アジア諸国で調査・検討します。
https://jp.reuters.com/markets/global-markets/3DKYLEHMVBNHTJJS32RJXMAR5I-2026-03-14/
特に東南アジアではベトナム、インドネシア、フィリピンなどが原子力導入に前向きな姿勢を見せており、今回のMOUが具体的な受注につながるかどうかが今後の焦点となります。
前回は高速炉に関する記事でしたが、今回は高温ガス炉型に関する記事となります。
高温ガス炉型とは何か
冷却材にヘリウムガス、減速材に黒鉛(グラファイト)を使用する原子炉です。軽水炉が約300℃の熱を取り出すのに対し、900℃以上の極めて高い熱を得られるのが最大の特徴です。
1. 優れた安全性(「固有の安全性」)
高温ガス炉は、外部電源が喪失して冷却が止まっても、炉心が溶融(メルトダウン)しにくい設計になっています。
- 耐熱燃料: 燃料は「TRISO(トライソ)燃料粒子」と呼ばれ、セラミック層で何重にも被覆されています。2,500℃程度の高温まで放射性物質を閉じ込める能力があります。
- 熱に強い黒鉛: 炉心に使われる黒鉛は熱容量が大きく、温度変化が緩やかです。万が一の際も、自然な放熱だけで安全に停止できる特性を持っています。
2. 多目的利用(水素製造と熱供給)
900℃超の高熱は、発電以外にも幅広い産業利用が期待されています。
- カーボンフリー水素: 水を熱化学的に分解して水素を作る「ISプロセス」により、CO2を排出せずに大量の水素を製造可能です。
- 産業熱源: 高温の熱を化学プラントや製鉄所の熱源として直接利用することで、産業部門の脱炭素化に貢献します。
3. 高い発電効率
高温のガスで直接タービンを回す「ガスタービン発電」などを組み合わせることで、従来の軽水炉(約33%)を大きく上回る45%以上の高い発電効率を実現できます。

ヘリウムガスを冷却材に用い、900℃超の高温熱を取り出せる原子炉です。セラミック被覆燃料と黒鉛の活用により、優れた安全性と高い熱効率を実現。発電に加え、次世代のクリーンな水素製造への応用が期待されています。
なぜ高い熱を取り出せるのか
高温ガス炉(HTGR)が900℃を超える高い熱を取り出せる理由は、主に「冷却材(ヘリウム)」と「燃料(セラミック)」の耐熱性能が極めて高いためです。
1. 冷却材にヘリウムガスを使用
軽水炉で使用する「水」は、100℃で沸騰してしまうため、高い温度を保つには巨大な圧力容器で猛烈な圧力をかける必要があります(それでも約330℃が限界です)。
一方、ヘリウムは「ガス(気体)」なので、温度を上げても相変化(沸騰)しません。化学的に極めて安定しており、高温になっても配管などを腐食させにくいため、1,000℃近い高温まで加熱して循環させることが可能です。
2. セラミック被覆燃料(TRISO)の採用
従来の軽水炉の燃料は金属(ジルコニウム合金)の筒に入っていますが、金属は約1,200℃を超えると急激に強度が落ち、酸化反応を起こしてしまいます。
高温ガス炉では、燃料粒子を耐熱性に優れたセラミック(炭化ケイ素など)で4重にコーティングしています。このセラミック層は1,600℃以上の高温でも放射性物質を閉じ込める能力を維持できるため、安全に高い熱を取り出すことが可能になります。
3. 減速材に黒鉛(グラファイト)を使用
炉心の構造材兼、中性子を減速させる材料として「黒鉛」を使用しています。黒鉛は温度が上がるほど強度が安定する性質があり、約2,500℃まで溶けないため、超高温環境での運転を支える屋台骨となります。

沸騰しないヘリウムガスを冷却材に用い、燃料を耐熱性の高いセラミックで多重に被覆しているためです。1,600℃超まで耐える燃料と、高温で強度が安定する黒鉛を炉心に使うことで、900℃超の熱抽出を可能にしています。
TRISO(トライソ)燃料粒子とは何か
TRISO(トライソ)燃料粒子とは、直径1mmに満たない小さな粒子状の核燃料で、高温ガス炉(HTGR)の安全性を支える核心技術です。
TRISO粒子の4重被覆構造
中心にある核燃料(ウラン酸化物など)の周りを、性質の異なる4つの層で精密にコーティングしています。
- 低密度熱分解炭素層: 核分裂で発生するガスを貯めるスペースを確保し、衝撃を吸収します。
- 高密度熱分解炭素層: 放射性物質の漏洩を防ぐ第一の壁です。
- 炭化ケイ素(SiC)層: 「セラミックの圧力容器」の役割を果たします。非常に硬く熱に強いため、高温下でも放射性物質を強力に閉じ込めます。
- 外周高密度熱分解炭素層: SiC層を保護し、粒子全体の強度を高めます。
なぜ「究極の安全燃料」と呼ばれるのか
- 驚異の耐熱性: 1,600℃の高温でも放射性物質を閉じ込める機能を維持します。万が一、冷却材が喪失して温度が上がっても、燃料自体が障壁となって環境への放出を防ぎます。
- 化学的安定性: セラミックで覆われているため、腐食に強く、長期的な貯蔵や処分においても高い安定性を誇ります。
- 事故時の堅牢性: 軽水炉のような「燃料被覆管」が破損する心配がなく、粒子一つ一つが独立した格納容器として機能します。

直径1mm弱の燃料核を、炭化ケイ素等のセラミック層で4重に被覆した粒子です。1,600℃超の高温でも放射性物質を封じ込める「微小な格納容器」として機能し、メルトダウンを防ぐ極めて高い安全性を実現します。
高温ガス炉型の問題点は何か
高温ガス炉(HTGR)は、優れた安全性と水素製造への応用が期待される一方、実用化・商用化に向けてはいくつかの大きな課題を抱えています。
1. 経済性と出力密度の低さ
ヘリウムガスは水に比べて熱を運ぶ能力(除熱性能)が低いため、原子炉のサイズに対して取り出せる電力が少なくなります。
- 巨大な設備: 同じ発電量を得るために、軽水炉よりも巨大な原子炉容器や建屋が必要になり、建設コストが割高になりがちです。
- スケールメリットの追求: 大型化が難しいため、一基あたりの発電単価をいかに下げるかが商用化の鍵となります。
2. 大量の黒鉛廃棄物(廃炉コスト)
減速材として炉心に大量の「黒鉛ブロック」を使用しますが、これが運転中に放射化されます。
- 廃棄物量: 軽水炉と比較して、廃炉時に発生する固体放射性廃棄物の体積が非常に大きくなります。
- 処分方法: 放射化した黒鉛の再利用や埋設処分には多額のコストがかかるため、ライフサイクル全体での経済性に影響します。
3. ヘリウムガスの漏洩と価格
冷却材のヘリウムは分子が非常に小さく、わずかな隙間からも漏れ出しやすい性質があります。
- 気密性の維持: 高温・高圧下でガスを完全に封じ込める高度なシール技術が必要です。
- 資源の希少性: ヘリウムは天然ガス採掘の副産物として得られる希少な資源であり、価格変動や供給リスクが運転コストに直結します。

ヘリウムの熱輸送効率が低いため設備が大型化し、建設単価が高騰しやすいのが難点です。また、減速材の黒鉛が将来的に膨大な放射性廃棄物となる点や、高価なヘリウムガスの漏洩防止対策も経済面での大きな課題です。

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