この記事で分かること
SAIMEMORYとは
ソフトバンク系のサイメモリが開発する「ZAM」は、チップを垂直方向に配置する新構造の次世代メモリです。HBMの弱点である熱問題を解消し、2倍の大容量と4割の省電力を両立。2029年の実用化を目指しています。
垂直ダイ構造とは
チップを水平に重ねる従来方式に対し、基盤(ダイ)を垂直に近い角度で立てて並べる構造です。全てのダイが冷却機構に接しやすいため放熱効率が劇的に向上し、熱による制限を超えた超高密度・大容量化が可能になります。
政府の支援理由
AI競争の核心である高性能メモリを自国で確保し、経済安全保障を強化する目的のためです。また、劇的な省電力化によりデータセンターの電力危機を回避し、国内の半導体・AIサプライチェーンを盤石にする狙いがあります。
ソフトバンクの独自のメモリ技術SAIMEMORY
ソフトバンクは、AI計算基盤の爆発的な消費電力増加とデータ転送のボトルネックを解消するため、独自のメモリ技術SAIMEMORYの開発「国家プロジェクト」に近い位置づけで加速させています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC2274X0S6A420C2000000/
SAIMEMORYはどんなメモリなのか
SAIMEMORY(サイメモリ)が開発しているのは、「Z-Angle Memory(ZAM)」と呼ばれる、従来のメモリーの構造を根底から覆す次世代の積層メモリーです。
現在主流のAI用メモリー(HBMなど)が抱える「熱」と「積層の限界」という2つの壁を突破することを目指しています。
1. ZAMの最大の特徴:垂直への挑戦
従来のHBMなどは、チップ(ダイ)を横に並べたものを上に積み重ねる「平置きの積層」です。しかし、この構造では16〜20層を超えると中心部の熱が逃げなくなり、限界が近いと言われています。
- 垂直ダイ構造: ZAMは名前の通り「Z軸(垂直方向)」を活用します。ダイを垂直に近い角度で並べることで、熱が各ダイから均等に上部へ伝導される設計になっています。
- 冷却効率の劇的向上: 熱問題が解消されるため、これまでの限界を超えた高密度な積層が可能になります。
2. 圧倒的なスペック目標
現在、HBMと比較して以下のような性能向上が目標として掲げられています。
- 大容量: 従来の約2倍の容量を実現。
- 省電力: 消費電力を約40%削減。
- 低コスト: 製造プロセスや組み立て手法を工夫し、コストを大幅に抑える。
3. 日米の技術の結晶
ZAMは、ソフトバンクがゼロから作ったものではなく、米国の国家プロジェクトの成果をベースにしています。
- 米国エネルギー省(DOE)の成果: 米国の国立研究所などが支援してきた「先端メモリー技術(AMT)プログラム」の成果を土台としています。
- Intelとの強力な連携: Intelが主導する次世代DRAM接合技術(NGDBイニシアチブ)の知見を取り入れており、Intelはこの技術を「今後10年のAI需要を満たす全く新しいアプローチ」と位置づけています。
今後のスケジュール
- 2027年度中: プロトタイプ(試作品)の開発。
- 2029年度中: 商用化(量産開始)を目指す。
HBMの弱点(熱・コスト・容量制限)を、垂直構造という力技と日米の最新技術で解決しようとするAI特化型メモリーです。

ソフトバンク系サイメモリが開発する「ZAM」は、チップを垂直方向に配置する新構造の次世代メモリです。HBMの弱点である熱問題を解消し、2倍の大容量と4割の省電力を両立。2029年の実用化を目指しています。
垂直ダイ構造とは何か
垂直ダイ構造とは、メモリーの基板(ダイ)を、従来の「水平に重ねる(パンケーキ方式)」のではなく、「垂直に近い角度で立てて配置する」画期的な実装技術です。
主な仕組みとメリットは以下の通りです。
- 放熱の劇的な改善: 従来の水平積層(HBMなど)は、中心部のチップに熱がこもる「熱のサンドイッチ」状態が課題でした。垂直に並べることで、すべてのチップが冷却機構に直接触れやすくなり、放熱効率が飛躍的に高まります。
- 高密度・大容量化: 熱問題が解決されるため、これまで熱的に不可能だった数(32層、64層など)のチップを密集させることが可能になり、メモリー容量を大幅に増やせます。
- 配線の短縮: プロセッサ(GPUなど)のすぐ隣に垂直に配置することで、データの通り道を最短化し、通信速度の向上と電力ロスの低減を同時に実現します。
「平屋を積み上げていたビルを、放熱しやすい隙間を持たせた縦置きの最新構造に組み替える」ような技術です。

チップを水平に重ねる従来方式に対し、基板(ダイ)を垂直に近い角度で立てて並べる構造です。全てのダイが冷却機構に接しやすいため放熱効率が劇的に向上し、熱による制限を超えた超高密度・大容量化が可能になります。
垂直ダイ構造実現の難しさはなにか
垂直ダイ構造の実現には、従来の水平積層にはなかった物理的・技術的な高いハードルがいくつか存在します。主な課題は以下の3点です。
1. 微細な接続技術の確立
チップを立てて並べるため、基板との接合部(インターコネクト)を極めて狭い面積で、かつ高密度に配置する必要があります。
- 課題: 垂直なダイの端面から信号を取り出すための配線技術や、それをメイン基板と正確に繋ぐボンディング技術が非常に複雑になります。
2. 製造工程の複雑化と歩留まり
現在の半導体製造装置やラインは、基本的に「平らに重ねる」ことを前提に設計されています。
- 課題: ダイを「立てる」ための特殊なハンドリング装置や、垂直に固定したまま封止(パッケージング)する技術を新たに開発しなければなりません。わずかな傾きが接触不良に繋がるため、歩留まり(良品率)の確保が困難です。
3. パッケージ全体の構造的強度
垂直に並べた薄いダイは、水平に重ねたものに比べて外部からの衝撃や振動、熱膨張による歪みに弱い傾向があります。
- 課題: 動作時の熱で各部材が膨張した際、垂直に立ったダイにストレスがかかり、接続部が剥がれたり破損したりするリスク(熱応力)への対策が不可欠です。

最大の難関は、チップを垂直に保持しつつ基板と超高密度に接続する実装技術の確立です。既存の「水平前提」の製造設備が使えないため、新たな製造プロセスの構築や、熱膨張による破損を防ぐ構造強度の確保が課題です。
なぜ政府が支援するのか
日本政府(経済産業省・NEDO)がサイメモリに対して大規模な資金援助を行う背景には、単なる一企業の支援を超えた「国家としての生き残り戦略」があります。主な理由は以下の3点に集約されます。
1. 経済安全保障:AIの「心臓部」を自国で確保
現在、AI処理に不可欠な高性能メモリー(HBMなど)は、韓国のSKハイニックスやサムスン電子、米国のマイクロンが市場を独占しています。
- 脱・海外依存: AIが社会インフラ化する中で、重要部品を海外に依存し続けることはリスクです。日本国内に次世代メモリーの供給拠点を持つことは、安全保障上の最優先事項となっています。
- 特定重要物資: 政府は半導体を「特定重要物資」に指定しており、供給網が途絶えないよう国内生産を強力に後押ししています。
2. 電力危機の回避:データセンターの「爆食い」を止める
生成AIの普及により、データセンターの消費電力は爆発的に増加しており、このままでは電力供給が追いつかなくなると危惧されています。
- 省エネ技術への期待: サイメモリの技術(ZAM)が消費電力を40%削減できれば、国家規模での省エネに直結します。
- グリーン変革(GX): 政府が進める脱炭素社会の実現に向けて、低消費電力な半導体の開発は必須のピースです。
3. 日本半導体産業の「ラストチャンス」
1980年代、日本はメモリー(DRAM)で世界シェアの半分以上を握っていましたが、現在は苦戦しています。
- 垂直立ち上げへの投資: 政府は「2030年度までに10兆円以上の公的支援」を行う方針(AI・半導体産業基盤強化フレーム)を掲げています。
- ラピダスとの相乗効果: 次世代ロジック半導体を製造する「Rapidus(ラピダス)」と、次世代メモリーの「サイメモリ」が連携することで、計算基盤を丸ごと日本で完結させる「日本連合」の形成を狙っています。
「AI時代の覇権を握るメモリーを海外勢に独占させず、低消費電力な国産技術によって日本の産業競争力と経済安全保障を盤石にするために支援を行います

AI競争の核心である高性能メモリを自国で確保し、経済安全保障を強化するためです。また、劇的な省電力化によりデータセンターの電力危機を回避し、国内の半導体・AIサプライチェーンを盤石にする狙いがあります。
製造はどこが担うのか
サイメモリ(SAIMEMORY)は、自社で巨大な工場を所有して全工程を行うのではなく、国内外の有力企業と役割を分担する「ファブライト(工場を最小限に抑える)体制」で製造を進める方針です。
1. インテル(Intel)
2026年2月に締結された協業契約に基づき、製造における最重要パートナーとなります。
- 役割: 次世代DRAM接合技術(NGDB)や、チップ同士を繋ぐ独自のパッケージング技術(EMIBなど)の提供。
- 製造拠点: インテルの最先端ファウンドリ(受託製造)部門の活用が有力視されています。
2. 新光電気工業
富士通系から政府系ファンド傘下へと移行した、世界屈指の半導体パッケージ基板メーカーです。
- 役割: 垂直ダイ構造を実現するために不可欠な、極めて高精度なチップ基板(サブストレート)の供給とパッケージング技術の支援。
3. 国内外の製造装置・材料メーカー
垂直ダイ構造は、従来の「横に積む」装置では対応できない工程があるため、日本の強みである製造装置メーカー(ディスコ、東京エレクトロンなど)や材料メーカーとの密接な連携が前提となります。
4. ラピダス(Rapidus)との将来的な連携
直接の製造委託先として確定しているわけではありませんが、経済産業省が主導する「日本版AIサプライチェーン」構想の中で、以下の連携が期待されています。
- チップレット統合: ラピダスが作る「演算チップ(ロジック)」と、サイメモリの「次世代メモリ(ZAM)」を、日本国内の後工程拠点で一つのパッケージに統合する形です。

製造は、次世代接合技術を持つ米インテルや、基板大手の新光電気工業などと分担します。自社工場に頼らず、インテルの最先端ラインや国内の高度なパッケージング技術を組み合わせて2029年の量産を目指す体制です。「後工程(パッケージング)」の装置・材料メーカーが製造プロセスの一部を担うことになります。

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