この記事で分かること
厚膜フォトレジストとは
主に半導体の後工程で、チップと基板を繋ぐバンプ(電極)などを形成するための「型」となる感光性樹脂です。数~百μm以上の厚みを持たせつつ、垂直で鋭い形状を精密に維持できる特性を備えています。
HBM等で高いバンプが必要な理由
チップを多段積層する際、間に保護樹脂(アンダーフィル)を隅々まで流し込む隙間を確保するためです。また、柱状の高いバンプ(銅ピラー)は横に広がりにくいため、接続の高密度化と熱ストレス緩和を両立できます。
台湾に生産拠点を作る理由
TSMC等の最先端顧客に密着し、2nm世代以降の共同開発や評価を加速させるためです。また、生産を日本に限定せず現地供給体制を築くことで、地政学リスクへの対応とサプライチェーンの安定化を図る狙いがあります。
JSR、台湾での半導体材料生産増強
半導体材料大手であるJSRは、2026年4月に台湾での生体制を大幅に強化する方針を発表しました。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC17BD30X10C26A3000000/
これまでJSRは日本国内での生産を主軸としてきましたが、TSMCなどの主要顧客からの強い要望や、サプライチェーンの強靭化(地政学的リスクへの対応)を背景に、現地生産へと踏み切りました。
どんな材料を生産するのか
JSRが新たに台湾で生産および開発を強化する材料は、主に「2nm世代以降の最先端プロセス」および「次世代パッケージング(後工程)」に不可欠な以下の3つのカテゴリーが中心となります。
1. 先端CMP(化学機械研磨)関連材料
ウェハ表面をナノメートル単位で平坦化するCMP工程向けの材料です。
- 高性能CMPスラリー(研磨剤):2nm世代で採用されるGAA(Gate-All-Around)構造では、ナノシートを積層するため、従来以上に精密な研磨精度が求められます。JSRは、特定の金属や絶縁膜のみを選択的に、かつ原子レベルで滑らかに磨き上げる特殊スラリーを生産します。
- ポストCMP洗浄剤:研磨後にウェハ表面に残る微細な粒子や金属汚染を完全に除去するための洗浄液です。微細化が進むほど、わずかな残渣が歩留まりに直結するため、スラリーとセットでの最適化が行われます。
2. 次世代パッケージング(後工程)材料
AI半導体の性能向上に欠かせないチップレット(Chiplet)やCoWoSといった先端パッケージング技術向けの材料も重要な柱です。
- 感光性絶縁材料(再配線層用):複数のチップを接続するための再配線(RDL)を形成する際に使用されます。高解像度でありながら、熱や衝撃に対する高い信頼性を持つ樹脂材料です。
- 厚膜フォトレジスト:チップと基板を接続するバンプ(突起)形成などに使用される、厚膜対応のレジストです。HBM(高帯域幅メモリ)の積層構造などでも多用されます。
3. EUV(極端紫外線)リソグラフィ関連(R&D中心)
台湾の生産拠点そのものはCMPが主軸ですが、併設される研究開発センターでは、最先端の露光プロセスに関する材料評価も行われます。
- メタルオキサイドレジスト(MOR):JSRが買収したInpria社の技術に基づく、次世代のEUV用レジストです。従来の有機レジストよりも感度が高く、2nmや1.4nmといった超微細パターンの形成に適しています。
- 注:MORの主要な生産自体は現在日本やベルギーが中心ですが、台湾の顧客(TSMC等)との共同開発において、現地での評価・組成調整が加速されます。
- EUVアンダーレイヤー材料:レジストの下に塗布し、露光時の反射を抑えたり、レジストの密着性を高めたりする薄膜材料です。
CMPスラリーや洗浄剤は、使用する配線材料や装置の設定によって最適な組成が異なるため、顧客のラインのすぐ近くで調整を行うことが、次世代ノードの立ち上げスピードを左右します。
また、サプライチェーンの地産地消を進めることで、物流コストの削減と供給安定性を確保する狙いもあります。

JSRは台湾の新拠点で、2nm世代以降の先端プロセスに不可欠なCMP(化学機械研磨)用スラリーや洗浄剤、およびAI半導体向けの先端パッケージ用絶縁材料などを生産し、現地供給体制を強化します。
厚膜フォトレジストとは何か
厚膜フォトレジストとは、通常の半導体前工程(微細回路形成)で使われるものよりも、はるかに厚い膜(数μm〜100μm以上)を形成するために設計された感光性樹脂のことです。
一般的なレジストがナノメートル単位の薄さで「線の細さ」を競うのに対し、厚膜レジストは「高さ(厚み)」と「垂直な形状」を維持する能力に特化しています。
1. 主な用途:後工程とパワーデバイス
厚膜フォトレジストは、主に半導体の「後工程(パッケージング)」や特殊なデバイス製造で使用されます。
- バンプ(突起状端子)の形成:チップと基板を接続するための電極(はんだバンプや金バンプ)を作る際、メッキを流し込むための「型」として使われます。AI半導体で多用されるHBM(高帯域幅メモリ)の積層や、CoWoSなどの先端パッケージングに不可欠です。
- TSV(シリコン貫通電極):チップを垂直に貫通する電極を作る際のマスクとして使用されます。
- MEMS・受動部品:マイクロマシン(MEMS)の構造体や、チップ上に作る微細なコイル(インダクタ)などの立体的な部品を作る際に使われます。
2. 一般的なレジストとの違い
通常のレジストと比べると、以下のような技術的特徴があります。
| 特徴 | 一般的なレジスト (FEOL用) | 厚膜フォトレジスト (BEOL用) |
| 膜厚 | 数十nm 〜 数百nm | 数μm 〜 100μm以上 |
| 主な目的 | 微細な回路パターンの転写 | メッキ等の「型(モールド)」形成 |
| 粘度 | 低い(サラサラしている) | 高い(ドロっとしている) |
| 透過性 | 表面付近で反応すればよい | 厚い膜の底まで光を届かせる必要がある |
3. 厚膜レジストに求められる性能
厚い膜を作るためには、単に粘度が高いだけでは不十分で、以下の高度な特性が求められます。
- 高アスペクト比: 厚み(高さ)に対して、横幅が狭い鋭い溝を作れること(垂直な壁が倒れないこと)。
- 高透過性: 分厚い樹脂の層を貫通して、一番底の部分まで光(紫外線)が届き、均一に反応すること。
- 耐メッキ性: メッキ液という過酷な化学薬品に浸されても、型が崩れたり剥がれたりしないこと。
- 剥離性: 役割を終えた後、厚い樹脂をチップにダメージを与えずきれいに除去できること。
近年、AI向けGPUなどの進化により、チップを立体的に積み上げる「3D実装」が主流となっているため、この厚膜フォトレジストの重要性が非常に高まっています。

厚膜フォトレジストとは、主に半導体の後工程(パッケージング)で、チップと基板を繋ぐバンプ(電極)等を形成するための「型」となる感光性樹脂です。数~百μm以上の厚みと、垂直で鋭い形状を維持する特性が求められます。
なぜHBMなどで、高いバンプが必要なのか
HBM(高帯域幅メモリ)や先端パッケージングにおいて、高いバンプ(特に銅ピラーバンプなど)が必要とされる理由は、主に「多段積層の安定化」と「接続密度の向上」の両立にあります。
1. 多段積層時の「隙間」の確保と封止
HBMは8段、12段、さらに16段とメモリチップを垂直に積み上げます。
- アンダーフィル(封止材)の充填: チップとチップの間には、保護や放熱のために「アンダーフィル」という樹脂を流し込みます。バンプにある程度の高さ(厚み)がないと、この樹脂が隅々まで行き渡らず、空隙(ボイド)ができて故障の原因になります。
- 熱膨張の緩衝: チップ同士は熱でわずかに膨張・収縮します。バンプに高さ(柔軟性のある柱としての機能)があることで、この熱ストレスを吸収し、接続部が破断するのを防ぎます。
2. 接続密度の向上(チップレット対応)
従来の「はんだボール」は、熱で溶かすと横に広がってしまうため、隣の電極と接触しないよう間隔(ピッチ)を広く取る必要がありました。
- 銅ピラー(柱状)構造: 厚膜レジストを型にして作る「銅ピラーバンプ」は、背の高い柱のような形状を維持できます。横に広がりにくいため、電極の間隔を極限まで狭めることができ、数千本以上の膨大な配線をつなぐことが可能になります。
3. 電気特性の維持
バンプを高く、かつ垂直な形状に保つことで、電気信号の通り道(パス)を均一に管理できます。
- シグナル整合性: AI処理のような超高速通信では、接続部の形状の乱れがノイズの原因になります。厚膜レジストで精密にコントロールされた高さのあるバンプは、安定した高速通信を支えるインフラとなります。
チップを高く積み上げ、かつ膨大なデータを高速でやり取りするために、「隣と接触せず、かつ樹脂がしっかり入り込む高さ」を精密に作る必要があるからです。その「型」を作るために、厚膜フォトレジストが不可欠となっています。

HBMなどの多段積層では、チップ間に保護樹脂(アンダーフィル)を隅々まで流し込む隙間を確保する必要があります。また、柱状の高いバンプ(銅ピラー)は横に広がりにくいため、接続の高密度化と熱ストレスの緩和を両立できます。
なぜ台湾に拠点作るのか
JSRが台湾に初の生産拠点を建設する理由は、主に「最先端顧客への密着」と「地政学リスクへの対応」の2点に集約されます。
1. 顧客(TSMC等)との同時開発・即応
最先端の半導体製造(2nm世代など)では、材料メーカーとデバイスメーカーが密接に連携して微調整を繰り返す必要があります。
- タイムロスの削減: 従来のように日本で試作して台湾へ送るのではなく、顧客の工場のすぐ近くで開発・評価を行うことで、開発サイクルを劇的に早めます。
- カスタマイズ性: 先端のCMPスラリーなどは、顧客のラインごとに最適化が必要です。現地拠点は、いわば「顧客専用の調合室」としての役割を果たします。
2. サプライチェーンの強靭化(レジリエンス)
地政学的リスクや災害に備え、特定の国(日本)だけに生産を依存しない体制が求められています。
- BCP(事業継続計画): 日本で災害があった際も台湾国内で自給自足できる体制を整えることは、TSMCなどの主要顧客にとって極めて重要な選定基準となっています。
- 地産地消の推進: 主要な消費地である台湾で生産することで、物流コストの削減と安定供給を両立します。

最大の理由は、TSMC等の最先端顧客に密着し、2nm世代以降の共同開発を加速させるためです。また、生産を日本に集中させず現地供給体制を築くことで、地政学リスクへの対応とサプライチェーンの安定化を図ります。

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