この記事で分かること
1. 光ファイバーとは何か
ガラスやプラスチック製の「光を通す細い繊維」です。電気信号を光に変換し、内部で全反射を繰り返して進む仕組みで、従来の銅線より大容量・高速・低遅延かつノイズに強いため、通信インフラの核となっています。
2. なぜ速度を二倍にできたのか
「マルチコア化」で1本内の光の通り道を増やし物理的な容量を拡大したためです。さらに信号が乱れにくい素材により「誤り訂正」の計算を省くことが可能になり、その分の無駄をなくして実効速度を倍増させました。
3. フッ素樹脂使用のメリット
光の吸収や散乱が極めて少ないため、信号を劣化させず正確に伝送できます。また、波長による速度差(分散)が小さく、パルスがボヤけないため、超高速かつ低遅延な通信を安定して実現できるのが大きな利点です。
東ソーと慶応大学のプラスチック光ファイバー量産化
東ソーが慶應義塾大学(小池康博教授ら)と共同で、「プラスチック光ファイバー(POF)」の量産化に乗り出すことが報じられています。
データセンター内の通信量が爆発的に増加する中、従来のガラス製ファイバーの限界を打ち破る技術として非常に注目されています。
光ファイバーとは何か
光ファイバーは、離れた場所に情報を伝えるための「光の通り道」となる細い繊維のことです。
主な素材は石英(ガラス)やプラスチックで、太さは髪の毛ほど(約0.125mm)しかありません。電気信号を「光」に変えて送るため、従来の銅線(メタルケーブル)に比べて圧倒的に速く、遠くまで大量のデータを送ることができます。
1. 仕組み:全反射の原理
光ファイバーは、中心部の「コア」と、それを取り囲む「クラッド」という2層構造になっています。
光がこの境界線で鏡のように跳ね返り続ける「全反射」という現象を利用して、光を外に漏らさずに閉じ込めたまま、曲がった道でも高速に伝えていきます。
2. 主なメリット
- 超高速・大容量: 1秒間にギガビット(Gbps)からテラビット(Tbps)単位のデータを送れます。
- 長距離伝送: 電気信号に比べて信号が弱まりにくいため、中継器なしで数十キロ先まで届きます(海底ケーブルなどはこれを利用しています)。
- ノイズに強い: 電気ではなく光で送るため、近くにある家電や高圧線などの電磁ノイズの影響を全く受けません。
3. 種類
大きく分けて2つのタイプがあります。
| 種類 | 特徴 | 主な用途 |
| シングルモード (SM) | コアが非常に細く、光が一直線に進む。高性能だが高価。 | 都市間通信、海底ケーブル |
| マルチモード (MM) | コアが太く、複数の光が反射しながら進む。接続が容易。 | データセンター内、LAN |
東ソーと慶大の技術は、この「マルチモード」の進化系(GI-POF)にあたり、プラスチックを使いながらシングルモードに匹敵する低遅延を実現しようとする画期的なものです。

光ファイバーとは、ガラスやプラスチックで作られた「光を通す細い繊維」のことです。
電気信号を光に変換して送り、繊維内部で全反射を繰り返しながら進む仕組みで、従来の銅線に比べて「大容量・高速・低遅延」かつ「ノイズに強い」のが特徴です。現代のインターネットやデータセンターを支える基幹インフラとなっています。
なぜ速度を二倍にできたのか
東ソーと慶大が開発したプラスチック光ファイバー(POF)が速度を2倍(あるいはそれ以上)にできた理由は、主に「マルチコア化」と「エラーフリー伝送」の2点に集約されます。
1. 「マルチコア」による物理的な帯域拡大
これまでの一般的な光ファイバーは、1本の繊維の中に光の通り道(コア)が1つしかありませんでした。
今回の新技術では、独自の成形技術により1本の繊維の中に複数のコアを配置しています。
- 道路に例えると: これまで「1車線」だった道路を、外径を変えずに「2車線や4車線」に増やしたようなものです。これにより、一度に送れるデータ量が物理的に倍増しました。
2. 「エラー訂正(FEC)」の省略による実効速度の向上
従来の高速通信(特にデータセンター内)では、信号の乱れによるエラーを防ぐため、FEC(前方誤り訂正)という仕組みで余分なデータ(冗長コード)を付加し、受信側で計算・修正を行っていました。
- 計算のオーバーヘッド: この修正作業には計算時間がかかるため、実質的なデータ転送効率が落ち、遅延(レイテンシ)が発生します。
- 新技術の強み: 慶大の小池教授が開発した「GI型POF」は、光の散乱が極めて少なく信号が乱れにくいため、FECを使わずにデータを送る「エラーフリー伝送」が可能です。
- 結果: 余計な計算や付加データが不要になった分、実質的な通信速度が跳ね上がり、遅延も従来の100分の1程度に抑えられています。
3. フッ素系樹脂による高帯域化
素材に東ソーが得意とする高度なフッ素系樹脂などを使用することで、光の波長が重なりにくい特性(低波長分散)を実現しています。
これにより、1つのコアを通る光信号自体のパルスをより細かく、高速に設定できるようになったことも速度向上に寄与しています。
通り道を増やし(マルチコア)、信号の品質を究極まで高めて無駄な計算を省いた(エラーフリー)ことが、速度2倍を実現した技術的背景です。

「マルチコア化」で1本の繊維内の光の通り道を増やし、物理的な伝送容量を拡大したためです。さらに、信号が乱れにくい素材により「誤り訂正」の計算が不要になり、その分の無駄を省いて実効速度を倍増させました。
どうやってマルチコアにしたのか
東ソーと慶應義塾大学(小池康博教授)の技術において、プラスチック光ファイバー(POF)をマルチコア化する鍵は、「高度な共押出成形技術」にあります。
単に複数の芯を束ねるのではなく、1本のファイバーを製造する工程で最初から複数のコアを埋め込む手法がとられています。
1. 特殊なマルチノズルによる「一括成形」
従来の光ファイバー製造は、一度大きな「母材(プリフォーム)」を作り、それを熱で引き伸ばす方法が一般的でした。しかし、今回の技術では以下のプロセスを採用しています。
- 多層・多芯ノズル: 溶けた樹脂を押し出す「口金(くちがね)」に、複数のコア用通路と、それらを包み込むクラッド用通路を精密に配置した特殊なヘッドを使用します。
- 同時押し出し: 複数のコア材料とクラッド材料を、温度と圧力を厳密に制御しながら同時に押し出します。これにより、1本の細いファイバーの中に、計算通りに配置された複数のコアが形成されます。
2. 屈折率分布(GI型)の精密制御
単にコアを複数作るだけでなく、それぞれのコアが「GI型(屈折率分布型)」である必要があります。GI型は、中心から外側へ向かって屈折率をなめらかに変化させる構造です。
- 樹脂の拡散制御: 押し出しの過程で、異なる性質を持つ樹脂を絶妙に反応・拡散させることで、1mm以下の極小なコア一つひとつの中に理想的な屈折率の勾配を作り出しています。
- 東ソーの素材技術: ここで東ソーが持つ「高性能ポリマーの合成技術」が活きています。熱をかけても劣化せず、かつ光の損失が極めて少ない特殊なフッ素系樹脂などの配合が、マルチコア化の安定性を支えています。
3. コア間の干渉(クロストーク)の防止
複数のコアが近すぎると光が漏れて混信してしまいますが、この技術では樹脂の界面制御により、各コアを独立した「光の道」として完全に機能させています。
この「金型(ノズル)設計」と「ポリマーの物性制御」の組み合わせこそが、日本が世界をリードする精密化学の強みと言えます。

東ソーの精密な「押出成形技術」を用い、特殊な多層ノズルから溶けた樹脂を同時に押し出すことで、1本の繊維内に複数のコアを一括形成しています。μm単位の微細な構造と屈折率を同時に制御する高度な金型・素材技術が鍵です。
フッ素樹脂使用のメリットは何か
フッ素樹脂を光ファイバーの素材(特にコアやクラッド)に使用する最大のメリットは、「光の透明性の高さ」と「情報の乱れにくさ」にあります。
一般的なプラスチック(アクリル樹脂など)と比較して、以下の3点が技術的に優れています。
1. 通信エラーが極めて少ない(低散乱・低吸収)
フッ素樹脂は原子間の結合が非常に強く安定しているため、光を吸収したり散乱させたりする不純物や構造のムラが抑えられます。
- メリット: 信号が「きれいなまま」届くため、データの誤りを修正する計算(FEC)を省くことができ、超低遅延な通信が可能になります。
2. 幅広い波長で高速通信が可能(低波長分散)
光は色(波長)によって進む速度がわずかに異なりますが、フッ素樹脂はこの「速度差」が非常に小さい性質(低分散)を持っています。
- メリット: 短い光のパルスを連続して送っても、信号同士が重なり合ってボヤけることがありません。これにより、より高密度で高速なデータ転送が可能になります。
3. 耐久性と加工性の両立
データセンター内の過酷な熱環境下でも劣化しにくく、かつガラスよりも柔軟です。
- メリット: 狭い場所で強く曲げても光が漏れにくく、熱による性能変化も少ないため、インフラとしての信頼性が極めて高いのが特徴です。

フッ素樹脂は光の吸収や散乱が極めて少ないため、信号を劣化させず正確に伝送できます。また、波長による速度差(分散)が小さく、パルスがボヤけないため、超高速かつ低遅延な通信を安定して実現できるのが利点です。

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