住友ゴムの新スタッドレスタイヤ

この記事で分かること

1. 従来のスタッドレスタイヤの仕組み

滑りの原因である氷上の水膜を、ゴムの気泡や吸水成分で「除水」し、極低温でも硬化しないしなやかさで氷の凹凸に「密着」させます。さらに、無数に刻まれた切れ込み(サイプ)の「エッジ効果」で氷を引っかきます。

2. なぜ地面に密着した状態を持続しやすいのか

新開発の薬剤がゴム内部の分子結合を強化したためです。氷点下の柔らかさを維持しつつ、制動時などの強い力がかかってもゴムがよじれずに踏ん張るため、氷の微細な凹凸にミクロレベルで張り付き続けられます。

3. どのようにポリマーと補強材の結合を強くするのか

薬剤がポリマーと補強材(シリカ等)の双方と化学的に結合し、両者をつなぐ仲介役となります。さらに補強材のダマを防いで均一に分散させることで、ミクロの接触面積を最大化し全体の結合力を劇的に高めています。

住友ゴムの新スタッドレスタイヤ

 住友ゴム工業(ダンロップ)は2026年7月1日に新しいスタッドレスタイヤ「WINTER MAXX ICE Pro(ウインターマックス アイスプロ)」を発表しています。

 従来のスタッドレスタイヤにおける氷上グリップの基本は、滑りの原因となる氷の上の水膜を「除水」し、露出した氷の凹凸にゴムを「密着」させるという2ステップ(除水→密着)の考え方でした。

 しかし「ICE Pro」では、さらにその先の密着状態を「持続」させるという3つ目のステップに着目することで、氷上ブレーキ性能は25%向上氷上コーナリング性能は9%向上という大幅な進化を遂げています。

従来のスタッドレスタイヤの仕組みは

 従来のスタッドレスタイヤが氷の上で滑らずに走れるのは、主に「除水」「密着」「エッジ効果」という3つの仕組みを組み合わせているからです。

 冬の氷道が滑るのは、「氷そのものが滑る」わけではありません。 タイヤが氷の上を通るときの圧力や摩擦熱で氷の表面がわずかに溶け、ゴムと氷の間に薄い「水膜(すいまく)」ができてしまうからです。これが車をミニハイドロプレーニング現象(水に浮いた状態)に陥らせる原因です。

 従来のスタッドレスタイヤは、この水膜をどうにかして取り除き、氷に触れるために以下のようなアプローチをとっています。

1. 除水性能:水膜を吸い取る・押し出す

 ゴムが氷に直接触れるためには、まず邪魔な水膜をどかさなければなりません。各メーカーは独自のゴム技術でこれをクリアしています。

  • 発泡ゴム(ブリヂストンなど): ゴムの内部に無数の微細な気泡(穴)が空いており、これがスポンジのように水膜を吸い込みます。
  • 吸水ゴム(ダンロップ・横浜ゴムなど): ゴムに水と馴染みやすい特殊な化合物(シリカや吸水バルーンなど)を配合し、水を効率よく取り除きます。

2. 密着性能:マイナスでも硬くならない「柔らかさ」

 一般的なサマータイヤ(夏用タイヤ)は、気温が低くなるとプラスチックのようにカチカチに硬くなってしまいます。硬いゴムは氷の微細な凹凸に追従できず、ツルツルと滑ってしまいます。

 スタッドレスタイヤのゴムは、氷点下(マイナス10℃〜20℃など)の極低温でもしなやかな柔らかさを保つ特殊な配合がされています。これにより、水を退けたあとの凍結路面にゴムが隙間なく「ぴたっと密着」し、摩擦力を生み出すことができます。

3. エッジ効果:氷雪を引っかく、掴む

 タイヤのトレッド(トレッド面)を見ると、普通のタイヤよりも溝が深く、さらにブロックの表面に「サイプ」と呼ばれる無数の細かい切れ込みが入っているのがわかります。

  • サイプの効果: タイヤが路面に接地してグッと変形するとき、この切れ込みの角(エッジ)がワイパーのように水膜を掻き出し、同時に氷の表面を引っかいてグリップを効かせます。
  • 深い溝の効果: 圧雪路面(踏み固められた雪道)では、この深い溝で雪をギュッと踏み固めて塊(雪柱)を作り、それを蹴り出す力(雪上トラクション)で前に進みます。

 従来のスタッドレスは、この「除水して、柔らかいゴムで密着する」ところまでは得意でした。しかし、ブレーキを踏んだ瞬間にゴムがよじれて密着が剥がれてしまう弱点がありました。

 先ほどの住友ゴムの新型「ICE Pro」は、その密着した状態を「強い力がかかってもキープし続ける(ふんばる)」という領域に踏み込んだのが大きな違いです。

滑りの原因である氷上の「水膜」をゴムの気泡や吸水成分で【除水】し、極低温でも硬化しないしなやかさで氷の凹凸に【密着】。さらに、無数に刻まれた切れ込み(サイプ)の【エッジ効果】で氷を引っかく仕組みです。

なぜゴムが地面に密着した状態を持続しやすいのか

 新型スタッドレス(WINTER MAXX ICE Pro)が、強い力がかかっても地面に密着した状態を「持続」できる理由は、新開発の薬剤によってゴム内部の「分子レベルの結びつき」が劇的に強化されたからです。

 従来の柔らかいゴムは、ブレーキやコーナリングなどの強い力が加わると、路面に負けてゴムのブロックが過度によじれたり、ミクロなレベルで滑って氷から浮き上がって(剥がれて)しまっていました。

 密着を持続させる具体的なメカニズムは以下の2点です。

  • 「柔らかさ」と「強さ」の両立(内部のネットワーク強化)新開発の薬剤(低温ふんばり剤)が、ゴムの主成分である「ポリマー」と、それを補強する「シリカやカーボン」の結合をガッチリと強めています。これにより、氷点下でのしなやかな柔らかさを保ったまま、強い力がかかった時だけ内部で踏ん張る(よじれすぎない)骨格ができました。
  • ミクロの凹凸への追従の破綻を防ぐ強い負荷がかかり続けても、ゴムの内部構造がバラバラにならずにしなやかに変形し続けます。そのため、氷の微細な凹凸に対してゴムの表面が常にスキマなく「押し付けられた状態」をキープでき、グリップが途切れません。

 従来のゴムは強い力で「ぐにゃり」と潰れて路面から離れてしまっていたのに対し、新技術のゴムは「しなやかに形を変えながらも、芯で踏ん張って路面に張り付き続ける」ことができるため、密着を持続できます。

 これまでタイヤメーカーが競ってきた「どれだけ早く水を吸うか(除水)」の先にある、「吸ったあと、いかに長く密着させ続けるか」という物理的な課題をクリアした形です。

新開発の薬剤がゴム内部の分子結合を強化したからです。氷点下での柔らかさを維持しつつ、強い力がかかってもゴムがよじれずに踏ん張るため、氷の微細な凹凸にミクロレベルで張り付き続けることができます。

どのようにポリマーと補強材の結合を強くするのか

 「低温ふんばり剤」のような薬剤が、ゴム内部のポリマー(ゴムの分子鎖)と補強材(シリカやカーボンブラック)の結合を強くする仕組みは、主に化学的な結合(架橋)と物理的な親和性の向上の2つのアプローチで行われます。

 一般的なゴム分子(油分が多く水を弾く)と、補強材(特にシリカは水に馴染みやすい)は、そのままでは水と油のように混ざり合いにくく、強い力がかかると界面から剥がれてしまいます。

1. 分子レベルの「架橋(かけはし)」を作る

 新開発の薬剤は、1つの分子の中に「ポリマーと結びつきやすい部分」「補強材(シリカやカーボン)と結びつきやすい部分」の両方を持ち合わせています。

  • 補強材側へのアプローチ:薬剤がシリカ表面の水酸基(シラノール基)などと化学反応してガッチリ結合します。
  • ポリマー側へのアプローチ:もう一端がゴムの硫黄架橋(ゴムを固める網の目構造)に取り込まれるか、ポリマー鎖と絡み合います。これにより、本来バラバラだった両者が薬剤を「仲介役」として化学的に強固に連結されます。

2. 補強材のダマ(凝集)を防ぎ、接触面積を最大化する

 カーボンやシリカは、そのまま混ぜるとナノレベルで互いにくっついて「ダマ(凝集塊)」になりやすい性質があります。ダマができるとゴムとの接触面が減り、そこが破壊の起点になってしまいます。

 薬剤が補強材の表面をコーティングするように覆うことで、ダマになるのを防ぎ、ゴム全体に均一にナノ分散させます。結果として、ポリマーと補強材が触れ合う面積(界面)が劇的に増え、ゴム全体の強度が底上げされます。

「低温ふんばり剤」のここが新しい

 通常、これらを引き剥がせないほどカチカチに結合させてしまうと、スタッドレスタイヤに最も必要な「マイナス数十度でのしなやかさ(柔らかさ)」が失われてしまいます。

 今回の「低温ふんばり剤」のブレイクスルーは、「極低温下ではポリマーを自由に動かして柔らかさを保ちつつ、ブレーキなどの強い引き裂き力がかかった瞬間だけ、補強材とポリマーのネットワークが突っ張って変形をガチッと受け止める」という、相反する特性を両立する絶妙な結合バランス(あるいは分子の柔軟性)を設計した点にあります。

薬剤がポリマーと補強材の双方と化学的に結合し、両者を結ぶ仲介役となります。さらに補強材のダマを防いでゴム内部に均一に分散させることで、ミクロの接触面積を最大化し、全体の結合力を劇的に強めています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました