住友ゴムの3Dプリンター用のゴム

この記事で分かること

1. なぜ3Dプリンターでゴムを作成するのが難しいのか

本物のゴムは熱で溶けない「熱硬化性(架橋構造)」のため、主流の熱溶解方式が使えません。また、光で固める方式では、ゴム特有の柔軟性を出すほど液体がドロドロになり、造形が極めて困難になるためです。

2. 住友ゴムはどのように対応するのか

タイヤ開発で培った配合技術により、造形前はサラサラで、紫外線が当たると瞬時に強固な三次元網目構造(架橋)を組む液状ゴムを開発。層間も化学結合で完全に一体化させ、本物のゴムの耐久性と復元性を実現しました。

3. なぜUVで硬化するのか

材料中の光重合開始剤がUV光を吸収して活性化し、液状ゴム分子を猛スピードで結びつける連鎖反応を起こすためです。これにより、一瞬でゴム特有の強固な立体網目構造(架橋)が形成され固体へと変化します。

住友ゴムの3Dプリンター用のゴム

 住友ゴムの開発した3Dプリンター用のゴム材料は、これまでの3Dプリント業界が抱えていた「本物のゴムが刷れない」という大きな壁を打ち破るブレイクスルーとして、非常に注目されています。

 これまでも3Dプリンターで「ゴムっぽいもの」を作る材料(ゴムライク樹脂)は存在していましたが、それらはあくまで「柔らかいプラスチック」であり、本物のゴムとは性能が大きく異なっていました。住友ゴムの新材料は、ゴム本来の分子ネットワークを光造形(SLA方式)で形成させることに成功しています。

なぜ3Dプリンターでゴムを作成するのが難しいのか

 3Dプリンターで「本物のゴム(架橋ゴム)」を造形するのが極めて難しい理由は、一言で言えばゴムの命である「三次元網目構造(架橋)」と、3Dプリンターの「層を積み重ねるプロセス」が本質的に相容れないからです。

1. 「熱硬化性」と「熱可塑性」のジレンマ(FDM方式の限界)

 一般的に広く普及している熱溶解積層(FDM)方式の3Dプリンターは、「熱をかけると溶け、冷やすと固まる」熱可塑性の樹脂(PLAやABSなど)を使用します。

 しかし、私たちが日常的に使う高性能なゴム(自動車のタイヤや輪ゴムなど)は、分子同士が化学結合で固く結ばれた熱硬化性のエラストマーです。

  • 本物のゴム(熱硬化性): 原料に熱をかけると、分子の間に橋を架ける「架橋(クロスリンク)」という化学反応が起き、立体的な網目構造を作ります。一度この構造ができると、再度熱をかけても溶けません(焦げるだけです)。そのため、従来の3Dプリンターのノズルから溶かして押し出すことが原理的に不可能です。
  • ゴムライク材料(TPUなど)の限界: 3Dプリンターで使えるゴム風の素材(TPU:熱可塑性ポリウレタンなど)は、分子同士が物理的に絡み合っているだけです。熱をかければ溶けるので3Dプリントは可能ですが、引っ張ったり曲げたりを繰り返すと、分子の絡み合いがズレてしまい、元に戻らなくなります(これを「ヘタリ」や「永久伸び」と呼びます)。

2. 「分子量(ゴムらしさ)」と「粘度(流動性)」のトレードオフ

 熱を使わずに光(紫外線)で固める「光造形(SLA/DLP)方式」ならどうか、というアプローチになります。これが住友ゴムなども採用している方式です。しかし、ここにも化学的なトレードオフがあります。

  • 柔軟性と復元性を出すには: 光で固まる成分(オリゴマー)の分子の鎖を長くし、さらに分子同士の間隔を広く持たせる必要があります。
  • しかし、粘度が高すぎる: ゴム特有のしなやかさを持つ高分子になればなるほど、その液体はドロドロ(高粘度)になります。3Dプリンターのレジン(液状樹脂)は、滑らかに流動して均一な液面を作らなければ次の層を造形できません。蜂蜜よりも遥かにドロドロした液状ゴムは、プリンターの中でうまく平らにならすことができず、造形不良を起こします。

3. 「積層界面」の剥離問題(異方性の問題)

 3Dプリンターは1層ずつインクやレジンを硬化させて積み上げるため、どうしても「層と層の継ぎ目(界面)」が生まれます。

  • ゴムは激しく変形する: プラスチック製の造形物であれば、多少界面が弱くても変形しないため耐えられます。しかし、ゴムは引き伸ばされたり、何度も押し潰されたりします。
  • 継ぎ目から裂ける: 1層目が完全に固まった後に2層目を重ねて固めるというプロセスでは、1層目と2層目の間の化学結合が不十分になりがちです。結果として、ゴムをぐにゃぐにゃと動かしているうちに、この積層界面からペリペリと裂けてしまう(デラミネーション)という致命的な欠陥が生じます。

 住友ゴムなどの最新技術が画期的なのは、「3Dプリンターで扱えるほどサラサラ(低粘度)な液体」でありながら、光が当たった瞬間に「本物のゴム特有の強固な三次元網目構造(架橋)」を一瞬で形成し、さらに「層と層の間も完全に一体化(化学結合)させる」という、相反する特性を高度な分子設計(合成技術)によって両立させた点にあります。

本物のゴムは熱で溶けない「熱硬化性(架橋構造)」のため、熱で溶かす主流の方式が使えません。また、光で固める方式では、ゴム特有のしなやかさを持たせるほど液体がドロドロになり、造形が困難になるためです。

住友ゴムはどのように対応しているのか

 住友ゴム工業(SRI)は、先ほど挙げた3Dプリンティングの「3つの壁」を突破するために、「光造形(SLA)方式への特化」「タイヤ開発で培った独自の分子配合・解析技術」を駆使して対応しました。

1. 熱ではなく、光でその場に「架橋」を作る

 熱で溶けないというゴム(熱硬化性)の性質に対応するため、熱で溶かす方式ではなく、紫外線(UV)で固める光造形方式を選択しました。

 液体状態のゴム材料にUV光を照射した瞬間、プリンターの内部で分子同士が次々と結びつき、本物のゴムの証である強固な「化学的ネットワーク(三次元網目構造)」をダイレクトに形成させることに成功しています。

2. 「サラサラな流動性」と「強靭な弾性」の分子レベルでの両立

 通常、ゴム特有のしなやかさを出そうと分子の鎖を長く設計すると、液体はドロドロ(高粘度)になり、3Dプリンターのレジンとしては使えなくなります。

 同社は、100年以上のタイヤ開発で蓄積した材料配合技術と独自の内部構造解析ノウハウを応用。プリンター内では滑らかに流動する「低粘度」を保ちながら、光が当たった瞬間に強靭なゴムへと変わる、絶妙なバランスのUV硬化型液状ゴムを分子レベルで設計しました。

3. 層と層の境界線を化学結合で消し去る

 3Dプリンター特有の「積層界面(継ぎ目)からペリペリ裂ける」問題を解決するため、1層目と2層目を重ねて固める際、層をまたいで分子同士がしっかりと化学結合(架橋)を組むよう、反応速度や配合が緻密にコントロールされています。

 これにより、どこから力がかかっても均一に伸び縮みし、2,000万回もの過酷な繰り返し圧縮試験にも耐え、圧縮永久歪みが1%以下という、従来の「ゴムライク(樹脂)」とは次元の違う耐久性と復元性を実現したのです。

タイヤ開発で培った配合技術により、造形前はサラサラで、紫外線が当たると瞬時に強固な三次元網目構造(架橋)を組む液状ゴムを開発。層間も化学結合で完全に一体化させ、本物のゴムの耐久性と復元性を実現しました。

なぜUVで硬化するのか

 UV光(紫外線)によって液体が硬化するのは、材料の中に仕込まれた「光重合開始剤」がUVのエネルギーを吸収してスイッチが入り、周囲の分子をドミノ倒しのように一瞬で連結(架橋)させるためです。

1. スイッチの起動(光重合開始剤の分裂)

 液状ゴムの中には、特定の波長のUV光を浴びると分解する「光重合開始剤」という化学物質が混ぜられています。 これにプリンターのUVレーザーやプロジェクターの光が当たると、分子が分裂し、非常に反応性が高くエネルギーに満ちた「ラジカル」という状態の分子に変化します。これが硬化を始めるスターター(引き金)になります。

2. ドミノ倒し的な連鎖反応(重合)

 生まれたラジカルは、周囲にある液状ゴム分子の端にある「結合しやすい部分(反応性官能基)」に猛スピードでアタックして結合します。

 結合された側のゴム分子も活性化し、さらに隣のゴム分子を巻き込んで結合し……という連鎖反応が超高速で発生します。これが「重合(ポリメリゼーション)」です。

3. 立体的な網目(架橋)の形成

 住友ゴムが開発した材料(オリゴマー)は、1つの分子の中に「他の分子と結びつける手を複数」持っています。

 そのため、分子が直線的につながるだけでなく、縦・横・斜めへとジャングルジムのように立体的に結びつきます。この結果、一瞬にしてゴムの命である「強固な三次元網目構造(架橋構造)」が完成し、サラサラの液体から弾力のある固体へと相転移します。

3DプリンターでUV硬化を使うメリット

  • 熱による変形がない: 常温で光によって化学反応を起こすため、熱で樹脂が歪んだり縮んだりするリスクを最小限に抑え、高い寸法精度を出せます。
  • 「その場」で一瞬で固まる: 熱を加える方法(熱硬化)だと全体が温まるまで時間がかかりますが、UV光なら「光が当たったピンポイントの場所」だけを数秒〜コンマ数秒で狙い通りに固められます。これが1層ずつ形を作る3Dプリンターに最適な理由です。

材料中の光重合開始剤がUV光を吸収して活性化し、液状ゴム分子を猛スピードで結びつける連鎖反応を起こすためです。これにより、一瞬でゴム特有の強固な立体網目構造(架橋)が形成され固体へと変化します。

コメント

タイトルとURLをコピーしました