積水化学、航空機部品事業の拡大

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この記事で分かること

1. 扱う航空機部品

積水化学は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)等の複合材を用いた機体構造材や空調ダクト、ドローン部品を製造。さらに客室の内装やシート等に使われる高難燃性樹脂シート「KYDEX」などを展開しています。

2. 注力する理由

世界的な脱炭素化に伴う機体軽量化(CFRPなど)の需要急増と、航空機メーカーの膨大な受注残による市場の安定性が理由です。参入障壁が高く長期の安定収益が見込めるため、新たな成長の柱として注力しています。

3. グラスファイバー、ケブラーとは

グラスファイバーは電波を透過するガラス繊維で、レーダーカバー等に使用。ケブラーは鋼鉄の5倍の強度と粘り強さを持つアラミド繊維で、防護壁等に使用。どちらも航空機の軽量・高強度化を支える高性能繊維です。

積水化学、航空機部品事業の拡大

 積水化学工業は航空機部品事業の売上高を400億円規模へ拡大する方針を明らかにしています。

 積水化学は長期ビジョン「Vision 2030」において、グループ全体の売上高2兆円、その中でも「イノベーティブモビリティ」などの成長領域を牽引役に据えています。航空機部品事業の従来の「北米の巨大市場に乗る」スタンスから、「国内生産も視野」に入れる可能性もあるとされています。

積水化学はどんな航空機部品を扱っているのか

 積水化学工業が手がける航空機部品事業は、主に買収した海外の専門有力メーカー(米国のSEKISUI AEROSPACEおよびSEKISUI KYDEX)を基盤としており、機体の「構造材・システム」から「客室内装」にいたるまで、非常に幅広い高機能部材を供給しています。

1. 機体構造・エンジン・空調システム(SEKISUI AEROSPACE)

 炭素繊維強化プラスチック(CFRP)やグラスファイバー、ケブラーなどの高度な複合材料(コンポジット)を用いた、軽量かつ強靭な機能部品を製造しています。

 特に近年は、成形サイクルが短くリサイクル性に優れた「熱可塑性(サーモプラスチック)複合材」の自動化成形に強みを持っています。

  • 空調ダクトシステム(ECS Ducting):
    • 航空機内の空調・換気を司る複雑な形状のコンポジット製ダクトパイプ。ボーイング(737、767、787等)などの主要民間航空機に数多く採用されている同社のコア製品です。
  • APU(補助動力装置)インレット・排気システム:
    • 機体後部にある補助エンジン(APU)用の空気吸い込み口(インレット)や、高温に耐える排気ダクト(Exhaust Ducting)。
  • エンジン周辺部品:
    • ファンカウル(エンジンカバー)構成品、アコースティックライナー(吸音材)、熱可塑性樹脂製のブロッカードア、各種ブラケットやクリップ、フィッティング類。
  • 機体・主翼構造材:
    • 翼と胴体の接合部を覆うフェアリング(Wing-to-Body Fairings)、水平尾翼の先端キャップ(Horizontal Stabilizer Tip Cap)など。また、防衛・宇宙・無人航空機(UAV)向けの胴体や主翼アセンブリも手がけています。

2. 客室内装および内装構造体(SEKISUI AEROSPACE / SEKISUI KYDEX)

 乗客の目に触れる客室キャビン全体のモジュールや、それを支える内装用プラスチック材料でも世界トップクラスのシェアを誇ります。

  • キャビン内大型構造モジュール:
    • オーバーヘッド・ストウエッジ・ビン(頭上の手荷物収納棚)、ラバトリー(化粧室ユニット)、ギャレー(厨房設備)、フライトデッキドア(操縦室扉)、フロアパネルなど。
  • シート周辺部材(KYDEX® 航空機グレード):
    • 高難燃性・耐衝撃性プラスチックシート「カイデックス(KYDEX)」を供給しています。
    • 主に座席シートのバックシェル(背面の樹脂カバー)、トレイテーブル、アームレスト、側壁パネル(サイドウォール)などに熱成形加工して使用されます。
    • 特徴: 米国連邦航空局(FAA)の厳格な燃焼・低発煙・毒性基準をクリアしつつ、優れた意匠性(豊富なカラーやテクスチャ)と鉄の約6分の1という軽量性を両立させ、機体軽量化による燃費向上に貢献しています。

 積水化学の航空機部品における最大の武器は、「成形が難しい材料を、高い品質と寸法精度で大量生産(ハイレート生産)する自動化技術」にあります。

 特に熱可塑性CFRPを用いたブラケットやクリップなどの小型・量産部品から、数メートルに及ぶ大型の空調ダクトや収納棚までを一貫して設計・製造できる体制が、大手航空機メーカーから高く評価されています。

 高度な材料工学とグローバルなサプライチェーンを組み合わせることで、民間航空機の増産トレンドや次世代モビリティ(eVTOLなど)の軽量化要求に応えています。

積水化学は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などの複合材を用いた機体構造材や空調ダクト、ドローン部品を製造。さらに客室の内装やシート等に使われる高難燃性樹脂シート「KYDEX」などを展開しています。

グラスファイバー、ケブラーとは何か

 どちらも航空機や宇宙船、防弾チョッキなどに使われる「高性能な繊維(ファイバー)」の仲間ですが、原料や得意な性質が大きく異なります。

 航空機部品において、プラスチックをこれらの繊維で補強したものを「複合材料(コンポジット)」と呼びます。

1. グラスファイバー(ガラス繊維)

 ガラスをドロドロに溶かし、髪の毛よりも遥かに細く引き伸ばして糸状にした材料です。プラスチックと混ぜ合わせた「GFRP(ガラス繊維強化プラスチック)」として広く使われています。

  • 圧倒的な電気絶縁性: 電気を通さず、電波をきれいに透過させるというユニークな特徴があります。
  • 高強度&断熱性: ガラスなので熱に強く、引っ張る力にも非常に強いです。
  • コスパが良い: 後述のケブラーや炭素繊維(カーボン)に比べて製造コストが安いです。

航空機での主な用途:

電波を通す必要がある機首のレーダーカバー(レドーム)や、客室の内装パネル、窓枠などに多用されます。

2. ケブラー(Kevlar)

 米国のデュポン社が開発した「アラミド繊維」と呼ばれるスーパー繊維(高性能合成繊維)のブランド名です。分子が綺麗に一列に並んだ強力なプラスチックの糸だと言えます。

  • 鋼鉄の5倍の強度: 同じ重さの鋼鉄と比較して、約5倍の引っ張り強度を持ちます。
  • 「絶対にちぎれない」耐衝撃性: 非常に強靭で粘り強く、刃物や衝撃を跳ね返すため、防弾チョッキや防刃手袋の素材としても有名です。
  • 優れた振動減衰性: 衝撃や振動を素早く吸収して和らげる性質があります。

航空機での主な用途:

万が一エンジンブレードが破損した際に破片が客室に飛び散るのを防ぐ「防護壁(エンジンコンテインメントリング)」や、貨物室の内壁(カーゴライナー)、地面と接触しやすい脚まわりのカバーなどに使われます。

違いと使い分け

 航空機の世界では、それぞれの特性に合わせて以下のように使い分けられています。

材料最大の強み航空機での役割のイメージ
グラスファイバー電波を通す、安い「レーダーの邪魔をしない壁」や「内装」
ケブラー衝撃に強い、ちぎれない「破片や衝撃から機体を守る盾」
(参考)カーボン軽くてガチガチに硬い「機体を支える骨組みや主翼(主役)」

 積水化学は、これらの繊維に特殊な樹脂を組み合わせる高度な成形技術を持っているため、航空機メーカーの厳しい要求に応える部品を作ることができます。

グラスファイバーは電波を透過するガラス繊維で、レーダーカバー等に使用。ケブラーは鋼鉄の5倍の強度と粘り強さを持つアラミド繊維で、防護壁等に使用。どちらも航空機の軽量・高強度化を支える高性能繊維です。

なぜ航空機部品事業に力を入れるのか

 積水化学が航空機部品事業にこれほど力を入れる理由は、大きく分けて「時代の要請(軽量化)」「市場の安定性」「自社の成長戦略」の3つにあります。

1. 航空業界の「脱炭素(軽量化)」ニーズが猛烈な追い風

 航空業界にとって、燃料消費を抑えてCO2排出量を減らすことは最優先の命題です。機体を1キログラムでも軽くするため、従来のアルミニウムなどの金属から、積水化学が強みを持つ炭素繊維強化プラスチック(CFRP)や高機能樹脂への置き換えが世界中で急速に進んでいます。

2. 航空機メーカーが抱える「巨大な受注残」

 コロナ禍が完全に明け、世界の航空需要は右肩上がりで成長しています。

 ボーイングやエアバスなどの大手メーカーは、現在数年先まで製造ラインが埋まるほどの膨大な受注残(バックログ)を抱えています。中長期的に「需要が確約されている」安定した市場である点が魅力です。

3. 一度入り込めば牙城が崩れない「高い参入障壁」

 航空機の部品は、人の命を預かるため極めて厳格な安全・品質認証(AS9100など)が必要です。他社の新規参入が非常に難しい反面、一度採用されれば機体のライフサイクルに合わせて10〜20年以上にわたり、高い利益率を維持したまま部品を安定供給できるというビジネス上の大きな利点があります。

4. 国内の人口減少を見据えた「成長の柱」のシフト

 積水化学はもともと国内の住宅事業や自動車材料に強みがありますが、日本の人口減少を見据えると、これらだけに依存するのはリスクがあります。

 そこで、世界市場で持続的な成長が見込める「航空宇宙・イノベーティブモビリティ」を、2030年に向けたグループ全体の新たな稼ぎ頭(柱)に据えるため、投資を集中させています。


 「時代のトレンド(環境規制)」と「確実に儲かる市場構造」、そして「自社のポートフォリオ改革」の3つが完全に合致しているからこそ、M&Aや国内生産にまで踏み込んで勝負をかけている状況です。

世界的な脱炭素化に伴う機体軽量化(CFRPなど)の需要急増と、航空機メーカーの膨大な受注残による市場の安定性が理由です。参入障壁が高く長期の安定収益が見込めるため、新たな成長の柱として注力しています。

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