本の概要
芸術的な創造と聞くと、天からおりてくるもの、特別な才能を持つ人だけが発揮できるもので、論理的な解釈などできないと感じる人は多いと思います。
しかし、近年の脳科学の発展で、徐々に人が創造的な発想をするメカニズムを解析しようという試みが多くみられています。
本書では音楽の神経科学の専門家である筆者が、脳の潜在記憶から芸術、特に音楽に関する創造性がどのように生まれてくるのかを知ることができます。
この本がおすすめの人
・創造的な発想が生まれる過程が知りたい人
・創造性を高める思考をするために必要なことが知りたい人
本の要約
近年科学の発展で、脳活動の観察がしやすくなったことで、脳の創造性についても多くのことが分かるようになっています。
筆者は脳の創造性は、規則性を見つけようとする行為と規則性から脱しようとする行為という相反する2つの行動の間のゆらぎにあると捉えています。
脳は外界の現象を予測し、実際の入力値との誤差を測っており、なるべくその誤差を小さくするようにしています。
誤差を小さくすることで、不確実性を下げることが学習と呼ばれ、生存に必要な行為であり脳は基本的に不確実性を下げる行動を促しています。
様々な現象の確率を学習する統計学習は無意識下でも働いており、情報の複雑性を下げ、予測精度を上げることを助けています。
しかし、我々の脳は常に情報の複雑性を下げているわけではありません。複雑性を下げ切った状態になると情報を組み合わせて、複雑性を増すことも少なくありません。
この規則性を見つけ、複雑性を下げる行為と規則性から逃れ、複雑性を上げる行為のゆらぎこそが創造性を発揮する際に必要なことです。
創造的な思考によってアイデアが生まれても、そのアイデアが有効かどうかには複雑性を下げる思考が必要となります。
複雑性を上げる思考、下げる思考両方のバランスが、ゆらぎによる創造的な思考を生む重要な項目になります。
ゆらぎを生むためには思考のバランスが重要となります。
基本的には脳は複雑性を下げることを好むため、複雑性上げる思考を促すには特別な意欲が必要です。
好奇心や繊細さを持っていると内から湧き出る内発的な報酬を得やすくなります。
また、より深い潜在的な記憶を抽出することで、不確実性のゆらぎが発生しやすくなります。
情報をパターン化し、普遍的な形にすることで複雑性を下げ、その後深い潜在的な記憶を用いて自分だけのストーリーを作り出すことで、複雑性を上げることで発生した不確実性のゆらぎが唯一無二の創造性を生んでいきます。
芸術的創造とは何か
創造性とは新しいものを生み出すことですが、芸術的な創造については芸術そのものが個人の主観にゆだねられているため、解釈が難しくなっています。
筆者は脳の持つ芸術性を
・皆で共有できる規則性を見つける行為
・規則性から脱しようとする行為
のその二つの間のゆらぎと捉えています。
脳の潜在記憶から特に音楽の創造性について迫った本になっています。
脳の持つ芸術性は規則性を見つける行為と、規則性から脱しようとする行為の間の揺らぎよって起こるものです
人間の創造性について何が分かっているのか
科学の発展で脳を傷つけることなく、脳活動などを観察できるようになったことで脳の創造性についても多くのことがわかるようになってきました。
多くの動物が音楽を楽しむことができますが、複雑化された音楽を作曲したり、楽しむことができるのは人間だけです。
多くの生物に共通している生命の維持に必要な脳の機能は中心部に存在しているため、優れた言語能力や複雑な音楽の理解を可能にしているのは、脳の外側=大脳皮質、前頭葉とその連動によるものとなります。
他の動物も音楽を楽しむことはありますが、複雑な音楽を作曲、楽しむことができるのは人間だけです。
脳の外側にある大脳皮質や前頭葉の働きによってこれらが可能になっています。
脳はどのような働きをしているのか
脳は外界の現象を予測し、その予測値や期待値を符号化しています。予測と実際の入力情報に誤差があった場合、誤差を小さくするように修正を行います。
このように誤差を小さくする作業が学習と呼ばれます。
脳は基本的に不確実性を下げるような行動を促していますが、予測できない不確実な現象に取り組むことが創造性の発現には欠かすことができません。
創造性を発揮しているときには前頭用の持つ実行機能が抑制されるなどの報告もあります。
脳は予測の誤差を小さくするような働きを促しています。
しかし、創造には予測できない現象に取り込む必要があり、創造性が発揮しているときには予測の働きが抑制されているとの報告もされています。
脳はどのように創造性を発揮しているのか
脳には以下のような3種類の活動パターンがあることが知られています。
1.デフォルト・モード・ネットワーク:自由で創造的な思考やアイデアの発想、ボーとしている状態
2.エグゼクティブ・コントロール・ネットワーク:アイデアの評価、明確なゴールのある思考状態
3.サライアンス・ネットワーク:1で発想したアイデアを2に運ぶ仲介役
従来各パターンは同時に働くことはないと考えられていましたが、創造的な人は3つのネットワークを同時に働かせることが示されて、アイデアの発案と評価を同時に行うことで価値あるものを多く生み出していると考えらるようになっています。
脳は3つの行動パターンを組み合わせて、創造性を発揮しています。
統計学習とは何か
統計学習とは様々な外界現象の確率を学習する能力のことです。
意識に関わらず行われるため潜在学習とも呼ばれ、生まれて間もない乳幼児や睡眠中でも行われる学習システムで最も本質的な脳の学習システムです。
記憶を意識の観点から見ると無意識な潜在記憶と言葉で説明可能な顕在記憶の二つに分けることができます。
統計学習による記憶は始めは潜在記憶ですが、反復練習や睡眠をとることで顕在記憶へと変化すると考えられています。
情報の複雑さはエントロピーという数値で評価され、脳はエントロピーを下げるために様々な学習を行っています。
統計学習は様々な現象の確率を学習する能力のことで、意識していないことからも学習し、情報の複雑性を下げ、予測精度を上げています。
脳は常に複雑性を下げているのか
外界で起こったストーリーから他者と共有できるような普遍的な情報を抽出し、意味記憶を作成することもエントロピーを下げる行為です。
しかし、意味記憶を元に、顕在学習によって自分だけでの不確かな記憶=エピソード記憶を作り出しています。
エピソード記憶の作成はせっかく下げた情報のエントロピーを上げる処理で一見無駄に見れるが、このエントロピーのゆらぎこそが芸術性の起源とされます。
新しいものをモデル化しようとする欲求とモデル化されていないエピソード記憶への追及のせめぎあいは人間らしさ、自我の認識、芸術的思考のもとになっています。
脳は多くの情報から普遍的な情報を抽出し、複雑性を下げていきます。
しかし、抽出した情報をもとに、自分だけの不確かな記憶=エピソード記憶を作り、複雑性をあげることもあります。
この揺らぎこそが芸術性の起源とされています。
脳はどのように情報を処理しているのか
起きているときに得た膨大な情報は、まず、短期記憶貯蔵庫である海馬と長期記憶貯蔵庫である大脳皮質の両方に送られます。
睡眠時は新たな情報が入っていくることも少ないため、海馬は情報の重要性を判断し、重要な情報(高頻度、高確率で現れる情報)をもう一度大脳皮質に送り長期的な記憶となります。
また、海馬では複数の情報をひとまとまり(チャンク)にして送ることもあるため、情報量を減らし脳に余裕を作り新しい情報を取り入れたり、深い思考を可能にすることも可能になります。
チャンクした情報同士を組み合わせることで新しい発想を得ることも多く、睡眠中の情報選別、記憶定着、チャンク化は創造的な思考に重要な役割を持ちます。
脳は海馬の働きで情報の選別をし、重要な情報は長期的な記憶としています。
海馬には情報をひとまとまりにする機能もあり、創造性に重要な役割を果たしています。
どのようにして創造性のある発想が生まれるのか
創造的発想がどのように生まれるのかは様々な研究が行われ、そこに共通するプロセスがあることが分かっています。
1.準備期:達成すべき目標や解決すべき問題を設定し、論理的思考で解決を目指す
2.あたため期:論理的思考で解決できず、問題から離れる(脳内では潜在学習が続いている)
3.ひらめき期:潜在学習の結果が意識上登り、解決策がひらめく
4.検証期:ひらめいた説が正しいかを検証する
各プロセスで論理的な思考(=収束的思考)と流暢、柔軟性、非凡性を持つ思考(=拡散的思考)を使い分けることが創造的な思考には必要です。
拡散的思考が創造性をもたらすが、収束思考がなければアイデアをまとめることはできないため、両方の思考をうまく使い分けることが重要です。
創造性をもたらす拡散的思考と拡散的思考のアイデアを評価する論理的な収束的思考の使い分けでが創造性のある思考には重要になります。
創造性のある思考を行うにはどうすればよいのか
脳不確実性を下げることを好むため、不確実な拡散的思考を行うには特別な意欲が必要となります。意欲は内発的と外発的なものに分けられます。
内発的意欲:達成感、充足感など心から湧き出る意欲。知的好奇心を満たす欲求
外発的意欲:金銭、他者からの称賛など外部から提供される報酬を目当てに頑張るような意欲
外発的意欲は創造的思考を抑制しますが、最終的に全く報酬がないと意欲がなくなってしまうことも多くなります。自分がどちらの欲求で動いているのか認識し、両方の意欲や報酬を相互作用させるとどちらの思考にも優位理になります。
脳は不確実すぎても、確実すぎても意欲を持てないため、適切な不確実性=適切な難易度であれば創造的な思考につながりやすくなります。
不確実性を正しく評価し、その分野についての知識を持ち脳に余裕を持たせると、データの処理量が上がり、創造的な思考をしやすくなります。
脳はモデル化し複雑性を下げることに意欲を感じるますが、最適化し不確実性がなくなるとあきてしまいます。
そのため新しく不確実なものに惹かれ、また複雑性を下げようとする。このような複雑性のゆらぎこそが芸術性の表れです。
拡散的思考と収束的思考は働きが違うため、両方が働きやすい環境を作り出すことが重要です。
意欲を出すための報酬、適切な不確実性、脳の処理に余裕を持たせることで、複雑性の揺らぎを発生させやすくなります。
創造性を発揮しやすい人の特徴は何か
脳の働きから創造的発想を高める習慣や高い人の特徴は以下のようなものが考えらます。
暇な時間:問題から一度離れる、ボーとする時間を意識的に取る
睡眠:情報を連結させ創造的な思考を生む
あらゆるものを受け入れる:内発的な報酬を得るためには新しい情報に興味を持つことが重要
繊細さ:他の人が気にならないような部分にも気づくことで内発的な報酬を得やすい。
内発的なモチベーション:好奇心を持つ
自分の状態を理解する:メタ認知で思考の自己観察や違う視点からの観察などを行う。
脳の創造性を上げるには、暇な時間と睡眠を確保し、好奇心や繊細さで内発的な報酬を得ることが必要です。
幼少期に創造性を鍛えることはできるのか
幼児期、幼少期や思春期などそれぞれの脳の特徴を知ることで有効な教育法を知ることができます。創造性の期待できる子には下記のような特徴があります。
・感受性が高い
・好奇心の強さ
・曖昧さに対して寛容
興味を持ってたことにチャレンジし、創作したモノを褒め、曖昧や失敗を温かい目で見守ることが必要です。
大人になっても想像性をたかめる方法は子供と変わりません。自分の価値観に固定せず、様々な考えに触れ、自分なりの意見を作り出し、それが他人のものでなく自分の意見か監視し続けると創造性を発揮しやすくなります。
創造性を発揮するには、チャレンジしたことをほめ、曖昧や失敗を温かい目で見ることが重要です。
大人であっても、創造性を高める方法は変わりません。
脳の働きから見ると最適な外国語の取得はどんな方法か
外国語の練習時に我々は文法などを学び顕在学習で学ぼうとしますが、しかし母国語を覚えた際には潜在学習を行うことで体系的な学びを行うことなく流暢に言語を操るようになっています。
幼少期は臨界期でシナプス結合が活発におこるため、潜在学習を行いやすい部分もありますが、大人でも潜在学習をと入れることで身体で語学を学ぶこともできます。
経験と練習を繰り返すことが顕在学習のやり方です。
顕在学習は言葉で説明できるような記憶を作る機能であり、人間に特有で他者と感情を共有する非常に優れた方法ですが、日常会話などではあまり利用されるわけではないため、言語能力の向上にはまず潜在学習を意識すると学びやすくなります。
言語の取得には文法などを建材学習で学ぶことよりも、経験と練習の繰り返しによる潜在学習が有効です。
創造性で個性を発揮するにはどうすればよいのか
不確実性を下げようとする意欲と上げようとする意欲には潜在記憶の深さが関係していると考えられています。
情報をパターン化し、普遍的で他人と共有できる形にするプロセスで不確実性を下げ、その記憶を利用し自分だけのストーリーを創り出していきます。
自分だけのストーリーの作成は不確実性を上げることにつながりますが、この作業で唯一無二の創造性が生まれていきます。
そのため、より深い潜在記憶を抽出することで芸術的な個性や才能を発揮することができると考えられます。
より深い潜在記憶を抽出することで、不確実性の揺らぎを発揮しやすくなっていきます。
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