本の概要
ロシアによるウクライナ侵攻が起こるなど、地政学への注目度が増しています。
人間生活には地理的条件が大きく影響を与えるため、地理的視点から国際情勢を分析する地政学には大きな有用性があります。
特に、大陸系地政学と英米系地政学の違いは単に学派の違いだけでなく、世界観の違いを表しているため、二つの学派が示す世界観の違いを知ることで世界の様々な争いの理由を知ることができます。
地政学を通じて、なぜ戦争や争いが起きてしまうのかを学ぶことができる本になっています。
この本がおすすめの人
・地政学とは何か知りたい人
・なぜ、ウクライナ侵攻は起きたのか、台湾をめぐる米中の対立が起きたのかを知りたい人
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本の要約
地政学とは、地理的事情に起因する構造に着目して、国際情勢を分析することです。
ロシアによるウクライナ侵攻や台湾をめぐる米中の対立など地政学に対する注目度が高くなっています。
地理的事情が人間生活に与える影響は大きいため、地政学の視点から世界を見ることは非常に有用性の高いことです。
地政学には主に大陸系地政学と英米系地政学の2つの考えかたが存在します。
この二つの考え方は単に学派が違うだけでなく、根源的な世界観の違いをもっています。
大陸系地政学は国家と人間集団を有機的実体と考え、国家が領土を広げていくことは生物が生存圏を広がることと同じで、当然と考えます。
ただし、単一民族が自身の生存圏を超えて支配することは自然に反していると考えます。
英米系地政学は大陸系地政学に対抗する形で発達し、海洋の力を利用し、大陸系地政学を実現しようとするランドパワー国家を封じ込めようとしています。
特にランドパワー国家であるロシアの南下によるユーラシア大陸制覇を防ぐことは英米系地政学に大きな焦点であり、アメリカやイギリスは様々な方法でロシアの南下を防いできました。
ロシアからすればアメリカやイギリスの行為は異なる生存圏を超えた干渉を許すことができないと考えます。
大陸系地政学と英米系地政学の世界観の違いは埋めがたく、争いの原因となってきました。
ランドパワー国家とシーパワー国家の中間領域にある中東や朝鮮半島などの国は特に不安的になりやすくなります。ウクライナもロシアと西側諸国の境界に存在するため、今回の侵攻が起きたといえます。
近年では、中国の状況にも注目が集まっています。台湾をめぐる問題も海洋に覇権を広げたい中国とシーパワー連合の戦いとみることができます。
地理的事情は人の手で変えることができないため、運命的ともいわれますが。それを熟知する努力を欠かすことはできません。
地政学とは何か
人間を取り囲む地理的事情は人間生活に大きく影響を与えており、地理的事情に起因する構造に着目して国際情勢を分析することには有用性があります。
このような視点が地政学を生みました。
ただし、地理的事情が生活に与える影響は複合的であるため、地政学の理論も複数存在し、衝突しながらも共存してきました。
特に英米系地政学と大陸系地政学の世界観の違いがどのようなものであるかを知ることは、単に地政学の学派の違いを理解することではなく、根源的な世界観の違いを知ることです。
この根源的な世界観の違いは現実世界の人間の対立にも深く反映されています。
地理的事情に起因する構造に着目して国際情勢を分析することが地政学を生みました。
地政学の学派の違いは、単なる主張の違いではなく、地理的事情の異なる国家が世界観の違いを示しています。
英米系地政学はどのような考え方をするのか
地政学は国家が人間集団と大地からなる有機的実体であるとする考え方から生まれています。
このような国家有機説を軸にしたものが大陸系地政学であり、それに反する形で発展したものが英米系地政学となります。
英米系地政学はマッキンダーによって提唱された概念で、ユーラシア大陸中央部にあるハートランドが議論の中心になっています。
ハートランドは北極があるため、北からの侵略の脅威がない反面、冬季でも凍結しない大洋に通じる河川をもたないという欠点があります。
そのため、ハートランド国家が軍事力を持てば、必ず南への拡張政策をとり、ユーラシア大陸全体に大きな影響を与えます。
ユーラシア大陸中央部にあるハートランドにある国家が軍事力をもてば、必ず南への拡張政策をとり、ユーラシア大陸全体に大きな影響を持ち、これを防ぐことが重要であると英米系地政学は考えます。
英米系地政学はどのようにハートランド国家の拡張を防ぐのか
ハートランドの南下によるランドパワーの拡張を封じ込めるための存在が海洋の力=シーパワーとなります。
シーパワー国家が連携することで、ハートランド国家の南下を防ぐことが英米系地政学の基本的な考え方になります。
シーパワーが拡張するランドパワーを持つハートランドを封じ込める図式はロシアとイギリスの対立などで歴史的に多くみられています。
ランドパワー、シーパワーともに簡単に屈することはありませんが、その中間の地域は双方からの圧力にさらされ、不安定になりやすい傾向になります。
中間地域としては東欧やインド半島、朝鮮半島などが挙げられ、長年不安定な状況におかれてきました。
シーパワー国家の連携によって、ハートランド国家の南下を防ぐことが英米系地政学の基本的な考え方です。
そのため、ハートランド国家とシーパワー国家の中間地域は双方の圧力から不安的になりがちです。
大陸系地政学はどのような考え方なのか
大陸系地政学はハウスホーファーの理論に代表されるように国家を生きる実体のように扱っています。
国家が生きる実態であれば、自らが生きる土地を獲得し、維持しようとすることは当然であり、強い民族が君臨することになることは自然の常です。
ただし、単一民族が自身の生存圏を超えて、世界全体を支配するような状態は自然の摂理に反しており、各広域圏の盟主は互いの生存権を尊重すべきと考えます。
大陸系地政学では、この互いの尊重が円滑に行われば、国際情勢は安定し、破滅は避けられると考えたうえで行動します
大陸系地政学は国家を生きる実体のように扱い、国家が生きる土地を獲得し、維持しようとすることを当然と考えます。
しかし、単一民族が自身の生存圏を超えて支配することは自然に反していると考えます。
英米系地政学と大陸系地政学はなぜぶつかってしまうのか
英米系地政学は世界をシーパワーとランドパワーの二つに分ける2元的な世界と捉えますが、大陸系地政学は生存圏の数だけ存在する多元的な世界と捉えています。
この点で二つ地政学は根源的な世界観の部分で大きく異なっており、その溝を埋めることはできませんでした。
大陸系地政学の体現者としてはドイツやロシアが挙げられます。
アメリカやイギリスはドイツやロシアがユーラシア大陸を制覇するようになれば、脅威になると考え、中間地域への干渉を行い、対抗し均衡を保とうとします。
しかし、このような自身の生存圏以外への干渉は大陸系地政学からすると、生存圏を超えるような行動を許すわけにはいかないため、争いが発生してしまいます。
大陸系地政学はハートランド国家の南下は当然のものと考えますが、アメリカやイギリスがユーラシア大陸に干渉することは生存圏を超えた許せない行動と考えます。
一方、英米系地政学はハートランド国家が南下し、ユーラシア大陸を制覇してしまうことを脅威に思うため、中間地域へ干渉し、均衡を保とうとします
この世界観の違いの溝は埋めがたく、争いの原因となります。
シーパワー国家はどのようにハートランド国家に対応してきたか
イギリスは17世紀にオランドとの海洋派遣争いに勝利して以来、ヨーロッパにおけるシーパワーとして、ロシアやドイツ、フランスの力の均衡を崩さないように配慮してきました。
ヨーロッパ半島全土をランドパワー国家が掌握しない限りは、周囲の海を制しているイギリスが対抗できなくなることはないと考え行動してきました。
20世紀に入るとアメリカの影響も強くなっていきます。ハートランドに対抗するシーパワー国家として中間地域の関係国の民族の権利を認め、貿易を積極的に行うなどで海洋の自由を高める姿勢をしめしました。
冷戦下では中間地域にある自由主義国家を守り、ハートランド国家に対抗するために、中間地域でソ連と間接的な戦争を繰り返すことになりました。
イギリスはロシアやドイツ、フランスの力の均衡を崩さないように配慮してきました。
20世紀に入るとアメリカの影響が強くなり、ハートランド国家に対抗するために中間地域で間接的な戦争を繰り返すようになりました。
ウクライナ侵攻はなぜ起きたのか
ソ連の崩壊で冷戦が終結するとハートランド国家の躍進は見られず、シーパワー、自由主義国家の勝利となり大きく繁栄しました。
しかし、現在プーチン率いるロシアによるウクライナ侵攻が起きています。
ウクライナもシーパワーとランドパワーのぶつかる中間地域に存在しています。
大陸系地政学をもとにしたプーチンの考えでは、ウクライナが西欧諸国の側につくことは、ロシアの生存圏を脅かした行為であるとしたため、侵攻に踏み切ることとなりました。
ロシアはウクライナが西側諸国につくことはロシアの生存権を脅かす行為と考え、侵攻を踏み切りました。
日本の戦争は地政学的にどのように考えられるのか
日本は20世紀に入るころに、イギリスと日英同盟を結びます。
日英同盟はシーパワー国家であるイギリスがロシアを封じ込めるために、行ったものです。
イギリスの支援とアメリカの調停によって日露戦争に日本が勝利したことは、シーパワー間での連携の重要性を示す形になりました。
第一次世界大戦では、シーパワーの一部として参戦した日本ですが、その後大きく動きを変えています。
第一次世界大戦後、ランドパワー国家であるソ連の脅威が少なくなったのち、日本はシーパワー連合の一角として、振る舞いながら、アジア大陸での拡張主義政策を進めます。
このランドパワー国家としての振る舞いはアメリカなどの不信感を呼び、第二次世界大戦へとつながっていきます。
日英同盟以降、第一次世界大戦まではシーパワー国家の一員として、参戦してきました。
その後、ソ連の脅威が少なくなったことで、アジア大陸での拡張政策という大陸系地政学的なふるまいをしてしまいます。
ランドパワー国家としての振る舞いがシーパワー国家の不信感を呼び、第二次世界大戦へとつながってしまいます。
敗戦後の日本はどう変わったのか
敗戦後、アメリカは自国の安全保障政策に日本を招き入れることで、再びシーパワー連合の中に日本を組み込むこととなります。
日本としてもアメリカとの関係維持に失敗したことで、迎えた第二次世界大戦の反省からも日米同盟を基軸として国際協調をとる必要がありました。
日本の地政学は大陸系地政学に沿った形での第二次世界大戦を迎え、失敗し、破綻後に英米系地政学に沿って国内制度の改革と外交安全保障の再構築がなされてきました。
アメリカが自国の安全保障政策に日本を招き入れたため、再び、シーパワー連合になることとなりました。
現在、戦争はどのな状況なのか
第二次世界大戦以降、武力抗争の数は基本的に増加傾向にあります。
国家間の戦争は減少していますが、脆弱な統治機構しかない新興独立国家の増加によって内戦のように国内での争いが増加しています。
これらの国では人口増加率が高いものの、若年層の経済的不安が大きい傾向にあり、不安定で武力動員されやすことまり、内戦やテロが起きやすくなっています。
南アジア、中東、西アフリカにかけての地域は紛争多発ベルト地帯と呼ばれ、多くの紛争が発生しています。
国家間の争いは減っていますが、内戦のような国家内での武力抗争が増えています。
南アジア、中東、西アフリカの新興独立国家は不安定さや若年層の多さなどで内戦やテロが起きやすくなっています。
アメリカのアフガニスタン侵攻はなぜ失敗したのか
アメリカのアフガニスタン侵攻では、対テロ戦争として始まり、中東の民主化を目標としましたが、結果的にはハートランドの奥底に介入しすぎてしまいました。
アフガニスタンとイラクに米軍を駐在させ、傀儡政権を樹立するような姿勢は、シーパワーとしての連携を重視する英米系地政学の観点から大きく逸脱していました。
シーパワーによるランドパワーの封じ込めなのか、逸脱した行為なのかの見極めは難しいものですが、境界線は確実に存在しており、境界線を見誤ると大きな失敗につながってしまいます。
アメリカは中東に米軍を駐在させ、傀儡政権を樹立しました。このような手法はシーパワーとしての連携を重視する英米系地政学の観点から逸脱したため、失敗に終わりました。
台湾をめぐる問題は地政学的にどのように考えられるのか
台湾をめぐる問題も大陸系地政学に従って中国が海洋にまで広がる勢力圏を確立するのか、英米系地政学に従ってシーパワー連合が阻止するのかという問いに直結しています。
中国の一帯一路にはアジアから中東、アフリカ、ヨーロッパを陸路の一帯として、海路も一路としてつなぐことでシーパワー連合に対抗しようとする地政学的な狙いがあります。
中国はロシアのような典型的なランドパワー国家ではなく、海を持つ両生類のような特徴を持つため対ロシアとはまた異なった対策が必要になります。
日本、インド、オーストラリアによるクアッドも中国を取り囲む3国の連携を高め、中国の拡張主義を防ぐ狙いを持っています。
台湾をめぐる問題を地政学的に捉えると、中国が海洋にまで広がる勢力圏を確立することをシーパワー連合が阻止することができるのかと考えることができます。
地政学とどのように向き合うべきか
新しい大陸系地政学の展開を予兆させる一帯一路と英米系地政学の理論を体現したインド太平洋の対立は21世紀の国際政治の行方を決定づける最重要の国際社会の構造的対立の図式となります。
地政学をめぐる争いはこの世界をどう見るかという、人間の世界観をめぐる争いでもあります。
英米系地政学と大陸系地政学は単なる学問上の違いではなく、価値観の違いを表しているため、争いの原因となります。
地政学は地理的事情に左右されることから運命的と称されることもありますが、それを熟知し、運命とはなにか、運命に翻弄される人間がどう状態になるのかを知ろうとする努力は欠かすことができません。
英米系地政学と大陸系地政学は単なる学問上の違いではなく、価値観の違いを表しているため、争いの原因となります。
地政学は運命的も称されますが、それを熟知しようとする努力は欠かすことができません。
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