本の概要
ウイルスがこれまでの病気の原因というというイメージから、生態系になくてはならないものへと変化している。そのきっかけは巨大ウイルスである。
ウイルスはリボソームを持たないため自身でのタンパク質合成ができず、細胞に感染し、宿主の翻訳システムを利用し、タンパク質を合成している。
ウイルスは宿主の細胞内で区分けを行い、ウイルス工場をつくり、宿主のDNAとの混合を防いでいる。
巨大ウイルスはゲノムのサイズも大きく、遺伝子数が多い。その中には翻訳システムをすべてではないが一部を持っているものもいる。おそらくは遺伝子の水平移動によって一部の翻訳システムを獲得している。
ウイルス工場は細胞核と特徴が似ている。そのため細胞核はウイルス工場が進化してできた可能性がある。
ウイルスの本体を粒子ではなく、感染した細胞とするヴァイロセル説。この説をもとに生物の進化を見ると見方が大きく変わってくる。
その一例として、ウイルスが細胞に感染する際に、細胞側がウイルスに対抗するためウイルスのRNAの一部をコピー、識別することで対抗する=免疫をもつことがある。これにウイルスが対応抗するためにRNAをより安定なDNAに進化させたのではという説もある。
このように様々な進化が生物の中での変異ではなく、ウイルス=ヴァイロセルによってもたらされた可能性も有ることが、生物の進化にウイルスが深くかかわってきたとされる理由。
この本で学びたかったこと
- ウイルスとはどんな存在なのか、どんな仕組みで増殖しているのか。
- ウイルスはどのようにして、生物の進化に関わてきたのか
はじめに
最近、ウイルス=厄介者という考え方が覆され、ウイルス=地球生態系には無くてはならない恩人たちという構図も出来上がっている。
そのきっかけとなったのが、従来のウイルスと比べ、はるかに大きなミミウイルスの発見である。巨大ウイルスの発見がウイルスの新しい世界を見させてくれている。
第1章 巨大ウイルスのファミリーヒストリー
これまでのウイルス=人に悪さをする、いわゆる病変性ウイルスの研究がほとんどすべてであった。
ウイルスの基本形はカプシドと呼ばれるタンパク質でできた殻がDNAやRNAを包み込んだもの。
極めて小さく、電子顕微鏡でしか確認できないと思われてきたが、2003年に光学顕微鏡でも見ることのできるミミウイルスが発見された。
従来の大型ウイルスに比べ2倍以上の大きさであり、それまでは大きすぎて誰もウイルスだとは思っていなかった。
さらに2013年にはさらに巨大なパンドラウイルスが発見された。その大きさは1マイクロメートルほどで、これまでマイクロメートルは生物にのみ許されていたサイズだった。
これらの巨大ウイルスは従来のウイルスと比べ、体のサイズだけでなく、ゲノムもサイズが大きい=遺伝子数が多く、複雑さと可能性も巨大といえる。
第2章 巨大ウイルスが作る「根城」
ウイルスは宿主の細胞に感染し、増殖し、また他の細胞に感染していく。
ウイルスは、細胞への吸着→侵入→脱穀→合成→成熟→放出を繰り返し、数を増やしていく。
細胞中では遺伝子情報をタンパク質合成装置であるリボソームが読み取り、アミノ酸をつなげてタンパク質を作っている。(=翻訳システム)
ウイルスはリボソームを持たないため、宿主の翻訳システムを利用し、自らのタンパク質を合成する。
この合成の過程では見かけ上ウイルス粒子が細胞内から消えるため、暗黒期とよばれる。
ウイルスは自身の合成を行う場所を、宿主の細胞の中で区分けし、ウイルス工場を作り宿主のDNAとの混合を防いでいる。
ウイルス工場の内部ではDNAの複製が盛んにおこなわれ、周囲には宿主の小胞体に由来する膜成分やリボソームが配置されている。
この状況は細胞核と非常に似ている。大きな違いはリボソームは細胞核で作られ、核の外に配置されるが、ウイルスは初めからリボソームを作らない。なぜ細胞はリボソームを作成し、外に配置するのか?
第3章 不完全なウイルスたち
なぜ、リボソームは細胞核に存在せず、周囲に配置されるのか。まずはリボソームそのものについて。
リボソームはDNAから読み取られたメッセンジャーRNAを読み取ることでアミノ酸をつなげていく。
この働きからリボソームは生物になくてはならない存在で、もっとも単純な細胞でもリボソームは持っている。
リボソームRNAの塩基配列をもとに生物の世界を分類したものが3ドメイン説。
- 細菌
- 古細菌、アーキア
- 真核生物
の3つに分類される。
ウイルスもタンパク質を利用してるがリボソームを含む翻訳用遺伝子を持たずに、他の生物の持つ仕組みを利用している。
ウイルスがこれらを持たない理由は以下のどれなのか。
- なくしてきたのか
- もともと持っていなかったのか
- これから獲得しようとしているのか
クロレラウイルスは通常のウイルスが持たないトランスファーRNAを持っている。トランスファーRNAは翻訳に関わる遺伝子で、一部ではあるが翻訳システムを持っている。ただし、タンパク質合成ができるわけではない。
生物の体のタンパク質は20種類のアミノ酸からできている。アミノアシルtRNA合成酵素が特定アミン酸をtRNAに結合させる。そのためアミノアシルtRNA合成酵素は少なくとも20種類が必要。
ミミウイルスは合成酵素を4種類のみという不完全な形でもっている。
生物の進化は目的があって進化するわけではないので何のために合成酵素をもっているかよりも、如何にして持つに至ったかを考える必要がある。
これまで生物には共通祖先がいるが、ウイルスにはいないと考えられてきたが一部のDNAウイルスでは共通祖先を持つことがわかってきた。
親細胞から小細胞への遺伝子移動を垂直移動とするのに対し、ある種から別の種に遺伝子が移ることを水平移動という。
水平移動はウイルスを介して行わることが多い。
ウイルスの共通祖先には翻訳遺伝子は含まれていない。つまミミウイルスが合成酵素を水平移動によって獲得した。
不完全な合成酵素でもその合成酵素が優先度の高いアミノ酸を合成できれば、宿主が飢餓状態の際に生存に有利になる。
まだ、宿主のリボソームタンパク質やリゾソームそのものを持ち出すウイルスも存在している。不完全な状態がなにをもたらすのか理由は解明されていない。
第4章 揺らぐ生命観
真核生物の細胞核がどのように形成されたのかは多くの研究にもかかわらず、よくわかっていない。
ウイルス工場は
- 大量のDNAが存在し、複製が行われている。
- 周囲が膜に覆われている。
- リボソームが膜外に配置されている
等の特徴があるが、これは細胞核とよく似ている。このことから細胞核は宿主がウイルスに感染し、そのウイルス工場が進化してできた可能性がある。
ヒトゲノムのうち40%はウイルスの水平移動に由来しており、ウイルスは細胞の進化に重要な存在であり続けている。
現在、ウイルスは自分で代謝活動を行うことができない暗黒期にウイルス粒子が完全に自己が消失するなどの理由で、細胞性生物と分けられている。
しかし、この見方はウイルス粒子をウイルスの本体としてみた場合の見方。
ウイルスの本体をウイルス粒子を作るもの=ウイルス粒子に感染した細胞と見るのがヴァイロセル。
ウイルス粒子が普通の細胞に侵入し、ウイルス工場を作ることでウイルスのDNAが複製される。この状態の細胞こそがウイルス本体になる。
DNAの起源については、RNAが生命現象をつかさどっていたRNAワールドからDNAへと進化したという考え方がある。
RNAワールドでウイルスは細胞性成物に感染していたが、細胞性成物もウイルスのRNAを切り取り、自らのゲノムに取り込み、ターゲットしウイルスのRNAを切断し、防御していた(免疫システム)
ウイルス側がそれに対抗するためにRNAをより安定なDNAに進化させ、水平移動によって細胞性生物にDNAが移った可能性もある。
ウイルス粒子を本体とみなせば、単純な複製を行うだけで進化は起こらないが、感染した細胞生成物を本体とすると、可能性は充分にある。
細胞性生物はヴァイロセルによって”進化させられてきた”のかもしれない。
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