スマホ脳 アンデシュ・ハンセン 新潮新書  要約

本の概要

 スマホの普及が進み、スマホのない時代を想像できなくなっているが、その付き合いかたを悩む人も少なくない。

 スマホに依存してしまうのは人間が適応してきた狩猟採集時代には役立ってきた本能的な部分。

 狩猟採集時代と現代のギャップがもたらす様々な弊害について知ることができる本になっている。

この本がおすすめの人

・スマホのとの付き合い方で悩んでいる人

・スマホを持つ悪影響とその対策を知りたい人

・現代の環境と狩猟採集時代と現代のギャップがもたらす弊害について知りたい人

スマホは人間にどのような影響があるのか

 精神科医である筆者が、スマホが人々特に、脳に与え影響についてまとめた本。人間の脳はデジタル社会に適応していないにも、関わらずスマホの普及で、その利用時間は従来より大幅に増加している。

 実は大手IT企業のTOP(スティーブジョブズ、ビルゲイツなど)はデジタルが与える影響を理解するがゆえに子供たちに制限して、デジタル機器を使用させている。

 なんとなく、スマホの使い過ぎかなと思っている人が読むと、スマホが人間に与える影響を知りどう使っていくかを考えるきっかけになる本になっている。

 人類は注意が散漫になるのも、他のことをしていてもスマホが気になってしまうことも、悪い噂ばかり気になってしまうのも生存に役立ってきた本能。そのため近くにスマホを置いた状態で本能に逆らうことは非常に難しい。近くにスマホを置かないなど環境を整えることが大事になる。

人間の脳はデジタル社会に適応していないにも関わらず、デジタルの利用時間は大幅に増加している。

生存に役立つ本能がスマホから離れることを難しくしている。

なぜ、人類はデジタル時代に適応していないのか

 人類は長い間、狩猟採集によって生活してきたため、脳は狩猟採集生活に適してしており、現代の生活には適していない。

 人類は甘く、カロリーが高いものを食べたときに脳内で報酬物質が大量に分泌される突然変異が起きた。過去の人類は常に飢餓状態で生きてきたため、この変異は生存に有利に働き、少しづつ広がっていった。

 しかし、この特性はカロリー過剰な現代に適しておらず、過剰なカロリー摂取が肥満と糖尿病を増加させている。同じように精神面も現代社会に適応しているわけではない。

人類は現代でなく、長い時代を過ごしてきた狩猟採集時代に適応しているため。現代と狩猟採集のギャップが大きな問題になっている。

感情はどのように進化してきたか

 脳は常に「今、どうすればいい?」という問いに答えようとしている。

 充分な情報がないときや決断に時間がかかりそうな場合に脳は大まかな見積もりを取り、回答をする。この回答が感情となる。

 恐怖を感じたときにはコルチゾールとアドレナリンを放出する指令を出すことで、心臓が速く打ち、筋肉に血液が送り出される。そうすることで逃げる、攻撃する場合に最大限の力が発揮できるようにする。

 ネガティブな感情は驚異に結び付くことが多かったため、ネガティブな感情はポジティブな感情よりも優先される。

充分な情報がなかったり、決断に時間がかかるときに脳は感情という形で今どうすべきかを指示する。

狩猟採集時代ではネガティブな感情は脅威に結びつくため、ポジティブな感情よりも優先されてきた。

なぜストレスは人間に害となるのに存在するのか

 ネガティブな感情がストレスに起因することが多い。ストレスを感じるとコルチゾールによって心拍数を上げ、筋肉の力を最大限発揮できるようにする。

 現代では命に関わるストレスは少ないが、小さなストレスが長く続く傾向にある。人類は長期のストレスに耐えるようには進化していないため、対応できていない。

 偏桃体は脳内で周囲の危険に目を配り、警報をならす役割。間違えて鳴らないより、なりすぎるほうが生存に有利だったためなり過ぎる傾向にある。しかし現代では、以前とは危険の種類が異なってもそれに対応することができない。

 強いストレスを受ける=危険な状態と脳は判断し、感情、気分を落ち込ませることで、危険から遠ざけようする。これが続くとうつ状態になってしまう。

命にかかわるような危機の際にストレス反応によって、心拍数を上げ筋肉の力を最大限に発揮するためにストレス反応は進化してきた。

古代のストレス反応は短いため精神的な障害につながらなかったが、現代のストレスは長く続くことが多く問題となってしまう。

ドーパミンの役割はなにか

 ドーパミンは報酬物質であり、私たちに何に集中すべきかを選択させることが主な役割になる

 周囲の環境を理解するほど、生き延びやすかったため、新しい情報を得るとドーパミンが放出され満足感を得ることができる。

 インターネットの利用でも新しい情報を得たいという要求は変わらない。我々は今読んでいるページではなく次のページを開くことに夢中になっている

ドーパミンは報酬物質で、生き延びるために有利なことをすると放出されるため、我々が何に集中すべきかを選択させる役割を果たしている。

ドーパミンは現代社会でどんな問題をもたらすか

 ドーパミンは不確かな結果をもたらすものを行うときのほうが、確実な結果をもたらすものよりも多く放出される。自然は不確かなものであるため、食料不足な場合にはそのほうが生き残りに有利となる。

 この特性がギャンブル依存症やゲームのし過ぎに結び付くことは想像しやすいが、SNSやメールやチャットでも当てはまる。実際にメッセージを読んでいるときよりも、着信音が聞こえたときのほうがドーパミンの量は増加する。

 ドーパミンは何に集中するべきかを決めるが、重要なことは成績を良くすることやキャリアアップ
でも元気でいることではなく、生き延びて、遺伝子を残すこと。そのため現代で我々がすべきことと一致するとは限らない。

ドーパミンは不確かな情報を得ることで放出される。ギャンブルへの依存やSNSやメールの新着がないかをチェックしすぎてしまうのもドーパミンによるもの。

スマホにはどんな悪影響があるか

 ほとんどの人はマルチタスクに向いておらず、複数のタスクをやっているように見えて作業を行ったり来たりしているだけ。集中を別のモノに移すには時間がかかるため、非効率。

 祖先の時代では周りのあらゆることに気を配る必要があったため。集中を分散することにドーパミンを出すため、集中する必要があってもすぐに気が散ってしまう。

 スマホが近くにあるだけで、集中力が低下する実験結果もある。スマホが目に入って無視することに脳の処理能力が使われてしまう。

 集中することで、脳に重要であると認識させることで、長記憶を作ることが可能になる。

スマホが近くにあるだけで集中力が失われしまう。

なぜ、SNSにはまり込んでしまうのか

 他の人が何をしているか、他の人とどんな関係にあるかを知ることは生存に有利であったため、他人の情報を知る=噂話をすると満足感を得るようにも脳は進化している。

 特に悪い情報は信用できない人を見極めるためにも重要なため、より強い関心を持つようになっている。FaceBookは自分の周囲の人のことを知っておきたいという欲求をネットワーク化したもの。

 人類の脳は自分のことを話すことでも満足感を得るため、Facebookはこの欲求も満たしている。

 一方でSNSの利用が多いほど孤独を感じやすいという傾向もある。

 セロトニンは集団での地位が高いほど多く分泌される物質で幸福感を感じる脳内物質とされる。地位から追いやられるとセロトニンの分泌が減り、幸福感が少なくなり活動量を落として、身体の回復に努めるような仕組みになっている。

 SNS以前は人間が競い合う相手の数は限られていたが、SNSの登場で競い合う相手は増え、自分が劣っていると感じる機会が大きく増えており、常に満足度を下げてしまっている場合もある。

 友人や知人と連絡を取るための手段として、社交生活を引き立てるために使うとSNSから良い影響を受けるが、社交生活の代わりにSNSを利用すると精神状態を悪くしやすい。

 狩猟採集民は10~15%は別の人に殺されていた。そのため、知らない相手や見た目が異なる人に対する不安をもち、「自分たち」と「あいつら」に分類することが生存に重要だった。

 フェークニュースが広まりやすいのも、脳が紛争や脅威に反応しやすく、良く考えずに拡散してしまうことで起きる。

デジタルデトックスは満足度を上げる方法として効果が認められている。

噂話に興味を持つことが生き延びるために必要であったため、人類は噂話に興味が強く、周囲の人の情報を持つSNSにはまってしまう。

一方で、SNSに孤独を解消する効果はなく、デジタルデトックスには幸福感を増す効果がある。

子供とスマホをの関係をどう考えるべきか

 前頭葉は衝動に歯止めをかけ、報酬を先延ばしにする器官だが、25~30才まで完全には発達しない。そのため子供がスマホを手に取りたいという欲求を我慢することは大人以上に困難になる。

 スマホの利用は学習の妨げになったり、運動、睡眠不足、SNSによる精神不安につながる実際に学校にいる間スマホを禁止することで、成績が向上した例も多い。 

前頭葉の発展していない子供がスマホを我慢するのは大人より困難

集中力を増すにはどうすればよいか

 運動とくに心拍数の増加を伴う運動は、集中力を増すことがわかっている。我々の祖先は体を動かすことが多かったため、脳も運動することに適応し進化している。

 運動は不安やストレスの軽減のも有用であることがわかっているが、人類の運動量は年々減少している。週に2時間ほど身体を動かすことで、頭の回転も速くなる研究結果が出ている。

集中力を満たすには運動が効果的。

デジタルライフとどのようにかかわるべきか

 デジタルライフが与える影響については研究が追いついていない部分も多い。このような研究は通常4~5年かかるため、今発表されている研究は2013~14年のモノで、現在ではデジタルに費やす時間はさらに増えている。

 そのため、増えた時間がどう影響するかはまだ分かっていないため、悪影響を考えて離れる必要もある。

 また、デジタルライフへの適応は生存に直接有利になるわけではないため、脳が進化することで適応することはないと考えられている。

 人類が生き延びるためには強く、勇敢なだけでなく、事故や争いを避けるために不安や気分の落ち込みを持つことが重要だった。

 不安や落ち込みは幸せを感じるよりも生存に必要だったため、不安や落ち込みのほうが幸せを感じることに優先するように脳が進化してきた。スマホでその仕組みを助長し、過剰に不安を感じることで、精神状態が悪くならないようにすることが重要になる。

デジタルライフの時間が増えたことの影響はわからな部分も多いが、デジタルライフへの適応は生存に直接有利になるわけではないので、適応することはない。

不安を過剰に感じることになる可能性も少なくない。

なにが身体によいかをどうやって見極めるべきか

 技術の進歩そのものが悪いわけではなく、その使い方。自然に近いほうがよいと考えてしまうのは思考の罠で、自然主義的誤諺と呼ばれる。

 運動したほうが良いのは祖先がそうしていたからではなく、研究の結果、運動が良い効果があるとわかったため。スマホの使い過ぎが良くないのは、祖先が使っていなかったからでなく、研究結果がそう示しているから。

 自然かどうかは、そのものの良い悪いの判断には使えないため、注意が必要。

狩猟採集時代に適応している=自然に近いものがよいとはならない。あくまでも研究の結果よいものとされたものを信じるべき。

感想

 スマホが生活に欠かせないものとなって、今ではスマホのない生活は考えられなくなっています。

 その一方で、スマホの持つさまざまな弊害も多くのことろで語られています。

 筆者の本はベストセラーになっていますが、その多くが我々が長く生き適応してきた狩猟採集時代と現代のギャップがもたらす弊害について書かれたもので、スマホについてもこのギャップが大きな問題になります。

 重要になるのはスマホの悪い面の影響をうけやすいのは、適応した環境のギャップによるものであって、個人の意思や努力で解決できるわけでないということを理解しておくことかと思います。

 スマホも道具にすぎず、使いこなす側になるか、依存してしまう側になるかは知識を持っているか、いないかで大きく変わってきます。

 依存させたい企業はこのギャップを理解し、我々が本能的に依存するように様々な方法を用いています。意思の力だけで対抗するのではなく、知識をもっておくことが様々な局面で重要になることを改めて知ることのできる本になっています。

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