本の概要
ガソリン価格の高騰や電気代の高騰などエネルギー関連のニュースを見る機会やそれを実感する機会は多くなっています。
要因は様々ですが、ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけとしたエネルギー危機もその要因の一つになっています。
そもそも、ロシアによるウクライナ侵攻自体にもエネルギーを巡る動きが関係しています。
グローバル化が進み、複雑化した現在ではエネルギー危機のもたらす影響もより大きく広がりやすくなっています。
さらに、今回のエネルギー危機は脱炭素の加速を促す面もあり、今後のエネルギー安全保障をどうしていくのかという側面も持っています。
エネルギー危機を巡る一連の動きを知ることで、ロシアの状況、それに応じた諸国の動き、脱炭素の流れ、日本がどのようなエネルギー安全保障をとっていくべきなのかなどを知ることができる本になっています。
この本や記事で分かること
・ウクライナ侵攻によるエネルギー危機の概要
・なぜ、エネルギー危機が起きたのか
・脱炭素はどのように進んでいくのか
現在エネルギーを巡る世界的な状況はどのようなものか


ロシアによるウクライナ侵攻に対する制裁とそれに対する報復によって
資源国であるロシアからのエネルギー輸出状況が変化し、エネルギー市場の混乱が起き、エネルギー危機が発生しています。
現在のエネルギー危機の特徴は何か


石油以外のエネルギー、天然ガスの供給での混乱があることと
エネルギーの多様化、グローバル化が進んだため、危機がより複雑化し、世界中に広がりやすくなっていることが今回のエネルギー危機の特徴です。
ウクライナ侵攻にエネルギーはどのような影響を与えたのか


ロシアによるウクライナ侵攻の要因にもエネルギー、天然ガスの供給を巡る関係性が関わっています。
ロシアから欧州へのパイプラインの多くはウクライナを通過しており、ロシアにとってウクライナの重要性は高いものでした。
ロシアはウクライナが西側諸国との関係を深めたことへの対策として、ウクライナを通過しないノルドストリームの建設を行ってきました。
ノルドストリームの建設の目的とその結果は


ノルドストリームの建設は親米に傾くウクライナへのけん制であり、アメリカの反対にあうも2021年にはノルドストリーム2も完成しています。
しかし、2022年にノルドストリーム、2共に破壊工作に会い、稼働が停止しています。
ロシアに対し、各国はどのような制裁を行ってきたのか


ウクライナ侵攻への制裁として、石油の禁輸を実施しましたが大きな効果がなかったため、プライスキャップという制裁を実行しました。
プライスキャップとは石油価格の上限を決めることで、ロシアの利益を減らすことが目的です。
ロシアの友好国を取り込みやすいことが利点となります。
プライスキャップに効果はあったのか?


プライスキャップ導入で、石油の輸出は続けさせつつ、ロシアの収入を減少させています。ロシアは欧州が強い制裁をすることはないと踏んでいたため大きな誤算となりました。
天然ガスへの制裁は行ったのか?


天然ガスについては、ロシア以外に余剰生産できる国がないこともあり、禁輸扱いにできていません。
ロシア側も代替先を見つけることはできないと判断し、供給量を減らし、価格をつり上げました。しかし、この報復処置によって信頼を失ったこともあり、欧州の脱ロシア化が急速に進行しています。
世界的な脱炭素はどこまで進むのか


カーボンニュートラルなどの脱炭素に大きな注目が集まっています。
ただし、現状では、化石燃料からの完全な脱却は不可能です。
なぜ、化石燃料からの完全な脱却は不可能なのか?


人口増加、再生可能エネルギーの問題点の多さ、経済成長の妨げとなるため、各国の足並みがそろわないなどの理由から現状完全な脱却は不可能です。
脱炭素事態は不可欠な技術ですが、タイミングがずれる可能性は大いにあります。
今後、日本はどのようにエネルギーと向き合うべきなのか?


日本が資源を輸入に頼っているため、再生可能エネルギーへの取り組みを続けるとともに、
現状では、再生可能エネルギーは経済合理性に劣ることを改めて意識する必要があります。
エネルギー危機を安定供給などエネルギー安全保障について考える機会にすべきです。
本の要約
国際エネルギー機関(IEA)はロシアによるウクライナ侵攻によって世界は史上初のエネルギー危機に突入したと発表しています。
ロシアは資源大国であるため、欧米による制裁が石油価格の高騰やロシアによる天然ガス供給途絶と価格高騰を招いています。
脱ロシアの加速と脱炭素への動きも加速していますが、再生可能エネルギーの不安定さや比較的環境負荷の少ない天然ガスが供給不安点になったこともあり、エネルギー市場の混乱が続いています。
これまでもエネルギーの危機は幾度もありましたが、そのほとんどが石油に限定されていました。現在のエネルギー危機ではエネルギーの多様化とグローバル化が進んだことで、より複雑になっているだけでなく、危機が世界中に広がりやすくなっています。
ロシアによるウクライナ侵攻の原因はNATOの東方拡大に対するロシアの反発から起きたとされていますが、両国の天然ガスを巡る不安定な関係も大きな要因となっています。
ロシアから欧州までのガスの運搬はパイプラインはウクライナを通過しており、その通過ガス量はロシアからの輸送で最大の国になっており、ウクライナがロシアにとって重要であることを示す一因になっています。
2011年にロシアはこれまでと違い、ウクライナを迂回するパイプラインであるノルド・ストリームを完成させ、親米に傾くウクライナをけん制してきました。
また、クリミナ併合には軍事的に重要な黒海を抑えるという目的もありましたが、黒海に存在する石油やガスをロシアが確保し、ウクライナに利用させないという目的もあったと考えられます。
2018年には、ノルドストリーム2の建設が始まっています。欧州のエネルギー安全保障を高めるとともに、自国の天然ガスを売りたいアメリカの反対もあり、難航しますが、2021年に完成しています。
しかし、2022年に何者から破壊工作によって、ノルドストリーム、2共に破壊され稼働停止に陥っています。
ウクライナ侵攻によって各国はロシアに対して、様々な制裁や禁輸など輸入の制限を行ってきました。
当初は石油禁輸による制裁を行いましたが、効果が薄かったこともあり、石油価格上限設定(プライスキャップ)という初めての制裁がなされています。
プライスキャップとは石油の価格に上限値を設定することで、ロシアの利益を減らすことを目的としています。ロシアの有効国にも安く石油が手に入るというメリットがあるため、これらの国を散りこみやすいというメリットがありました。
プライスキャップ導入の結果、石油価格は安価になり、ロシアの収入は大きく低下しました。ロシアはクリミナ併合時の経験から、欧米諸国は強い制裁には踏み出せないのではと考えていましたが、プライスキャップという新しい手法での強い制裁を受けることとなりました。
一方で、天然ガスについては、ロシア以外の国に余剰生産が難しいことや常温で液体の石油と違い、気体である天然ガスは輸送インフラの整備に時間がかかることもあり、すぐにはロシア産を禁輸扱いにすることはできませんでした。
そこで、ロシアは天然ガスの供給量を減らし、価格を高騰させることとに成功しますが、この報復処置は欧州のロシアからのエネルギー輸入に対する信頼を大きく損なうものでした。
その後ノルドストリームが破壊されたことで欧州への輸出ができなくなり、大きく輸出量を落としています。
外交で対立しても、商習慣と契約で合意されたものは守るという信用を失ってしまったロシアはソ連時代から築いて機やエネルギーの安定供給者としての信頼を失ってしまいました。
欧州のロシアへの依存度は高く、すぐに代替先を見つけることはできないと考えていましたが、欧州の急速な脱ロシアはロシアにとっても誤算だったといえます。
代替となる販売先も見つかっておらず、2023年以降、原油、天然ガスの輸出収入が減少することは確実であり、制裁の影響と信頼の失墜は今後も大きな影響を及ぼしていくものと思われます。
カーボンニュートラル、ネットゼロ、水素エネルギーなど気候変動対策としての脱炭素が世界の潮流になり、大きな注目を浴びています。
コロナパンデミックによる景気後退、経済低迷への対策からもEUが気候変動対策に大きな力を入れることを表明し、その流れが世界中に広がっています。
ただし、現状では、化石燃料からの完全な脱却は以下の理由から難しいと考えられます。
・人口の増加によるエネルギー需要の増加
・水素を含む、再生可能エネルギーに課題が多い(熱量、経済性、汎用性)
・無理なエネルギー転換が経済の成長の妨げや混乱の原因となる
・脱炭素自体はコスト増加にしかならないため、各国の足並みがそろわない可能性が高い
脱炭素が不可欠であることは間違いありませんが、エネルギー代替のタイミングがずれる可能性は充分にあります。
日本は資源が少なく、エネルギーの大部分を輸入に頼っている状況です。エネルギーを手ごろな価格で十分な量確保するためには、供給源、供給ルート、エネルギー取引の3つの多様化が必要ですが、なかなか進んでいません。
再生可能エネルギーへの取り組みについては、効率性の高い技術を開発できた国が勝者になる、エネルギー多様化が進行するなどの理由もあり、継続することが重要ですが、現状では化石燃料に比べ、経済合理性に問題あることを認識しておくことが大事です。
世界エネルギー危機はエネルギーの対外依存度の高い日本にとって、エネルギー安全保障の観点からどのような政策をとっていくべきなのか、各国と同様に連携していくのかなどの重要性を改めて示したものになっています。
コメント