FOOT PRINT 未来から見た私たちの足跡 ディビット・ファリアー 東洋経済新報社 要約

人類は地球環境に足跡を残している

 2013年、イギリスで85万年前に初期人類が残した足跡が見つかった。アフリカ以外で見つかった最古のものであったが、タンザニアで見つかった足跡の化石は360万年前とさらに古いものもある。

 古代の人々の足跡は我々の創造力を掻きたてるが、現代人は地球に別の種類の足跡を残している。

 大気中の二酸化炭素はカーボンフットプリント(炭素の足跡)ともよばれ、温暖化の原因となっている。人類の残す足跡はと地球に地質学的、科学的進化的な歴史を刻んでいる。

 人類の地球に及ぼす影響から新しい地質時代である人新世と表されるほどになっている。本書では非常に遠い未来に私たちがどう記憶されるのかを発見しようと試したもの。未来の化石を認識することは人新世の輝く耐え難い現実が露呈するものをみることでもある。我々がないがしろにしてきたをほのめかすことになる。

 科学的な視点だけでなく、文学的な視点から人新世の影響を知ることのできる本になっている。

道路は未来の化石となる

 世界には5000万キロ以上の道路があり、地球1300周にも相当する。道路を使用し空間を楽々と移動することは現代の暮らしがもたらす基本であり、地球に縛られた遅さから解放される呪文のようなもの。

 道路を支えるのはコンクリートとアスファルトの主成分である砂。砂の需要を上回るものは水しかないほど世界中で利用されている。砂漠の砂は細かすぎて商業的には利用できないため、地球の風化作用能力に頼って砂を採取しているが、地質学的な過程を上回った使用をしている。

 あくなきまで伸びる道路は未来の化石の有力な供給源となり、あらゆる自然の中まで人類の勢力が及んだことを仄めかすようになるだろう。

都市の大量の物質も大きな痕跡を残す

 ハリケーンカトリーナはアメリカに上陸したハリケーンの中でも最大級で多くの被害を出した。ニューオリンズは水びたしの粘土と沈泥からなる土台に建設されており、都市自体が沈んでいたため、浸水被害が特に大きかった。

 温暖化による海水面上昇が続いている。産業革命時の温度から1℃気温が上がるごとに1~3m海面が上昇するともいわれている。 

 埋め立てなどの上に建設される都市は増え、都市に住む人の数も年々増加している。大量の物質の集約により都市は一億年後も読み取ることのできる痕跡を残すともいわれている。その頃には海に飲み込まれた都市は薄くなり,地層の中の細い層と化している。

自然に還りにくいプラスチックも化石となる

 人類最古の道具は化石として残る石斧や石刃ではなく,何かを運ぶ道具ではないかと考える人もいる。入れ物の発明は時間と空間を打ち破り広げる効果があった。

古代の容器は残されておらず,はじめの容器がないでできていたかは不明だが,現代で容器として多く利用されているのはプラスチック。プラスチックは容器以外にも様々な用途で利用されており,私たちの生活に欠かせないものになっている。

プラスチックは海を漂い、小片化したものは海洋生物の体内に入り込んだり,海底に堆積していく。プラスチック化石隣染み出した炭化水素が小さな堆積物となり,プラスチックの起源である石油にゆっくりと戻っていく。

過去の情報を知ることのできる氷床も失われつつある

 かつて知識は物語と歌で受け継がれてきたが,筆記の発明により大半の社会は文字での伝承に信頼を置くようになった。記憶は不確かであり,記録として残してきたが,記録もまた失いやすかった。アレクサンドリアの図書館は灰塵に帰したと言われるが,記録を保管する場所として,想像の中で定着している。

氷床には図書館のように地球の状態を細部まで記憶する能力を持っている。氷床野中の気泡に閉じ込められた空気からはその時代の大気の組成や濃度を氷の性質や特性は気温,風,降雪に関する情報をしることができる。

アルプスの氷河には14世紀ごろに鉛を含まない層がある。この時期は黒死病によってヨーロッパの人口が1/3〜2/3が死亡したため鉛の精錬が途絶えたことを記録している。氷は地球の記憶の座であり,私たちの影響を記録してきた。

しかし、温暖化は氷河の融解を促進し,世界の氷河は今後28%〜44%は失われると見られている。氷河にも温室効果が大量含まれるため、氷河の溶出はさらなる温暖化につながっていく。

 地球はこれから氷期に向かっていくが、温室効果ガスの排出は氷期の到来を先送りし、人間社会が地球の気候を支配してきたリズムを狂わせている。

多様な生物を支えるサンゴも減少している

 サンゴ礁は驚異的なほどの生命を宿す場所で、海洋生物25%はサンゴ礁海域に依存しているとされている。海水温の上昇と二酸化炭素濃度増加による海洋の酸性化によってサンゴ礁は深刻な脅威にさらされている。

 サンゴ礁の白色化は多くの場所で確認され、その被害も大きくなっている。サンゴの一部には環境ストレスに適応するものもいるが、それだけではサンゴ礁に生存できる可能性のある未来を与えられることはなく、私たちがしでかした被害を振り返り、それに向く合う意欲がサンゴを救うこととなる。

核廃棄物や原発事故は遠い未来まで影響し続ける

 地球上のすべてのウランは600億年以上前に超新星爆発によって発生した。最も重い天然原子でその重さによってひずみを起こしやすい。ひずみによって原子が崩壊する際に多くのエネルギーを放出する。崩壊し安定な構造である鉛になるまでに多くの粒子を放出し、放出された粒子は様々な健康被害をもたらす。

 核実験が行われた土地は長い間人間が安全にすむことができなくなり、原子力発電所からでる廃棄物はその保管が大きな問題となる。

 チェルノブイリは今後2万年は人間が住めないとされており、核廃棄物はガラス固化して格納されているが、廃棄物が安全になるまでの長い時間を考えると、脆弱な方法でしかない。

 どんな言語にも半減期があり、徐々に言葉の意味は変化し、一部は価値が失われていく。1万年後には英語が話されていたとしても基本的な単語の12%しか残らないとする予想もある。

 核廃棄物を廃棄した場所に残すメッセージも様々な言語や恐怖をあおるようなアイコンが書かれているが、廃棄物が安全になるまでには意味が伝わらなくなる可能性もある。

 フィンランドの廃棄施設であるオンカロは地下深くに廃棄物を閉じ込めるが、その場所に目印を置かないように計画されている。

現在は地球5度めの大量絶滅かもしれない

 地球の歴史上5度の急激な大量絶滅が記録されており、現代が6度目の大量絶滅の危機にあるとする声もある。生物の多様性は低下し人類と家畜、ペットが陸上の全哺乳類の97%を占めている。

 クラゲはこれまでの大量絶滅を乗り越え、変わることなく存続してきた。海の過剰な窒素、酸素の欠乏などは多くの海洋生物を絶滅させてきたが、クラゲはこのような環境でも生息できるため、近年クラゲの大量発生が問題となっている。

 クラゲだけが繁栄し、極めて多様性の低い海になってしまうことが懸念されている。

地球の循環を支える微生物の活動にも人間は影響を及ぼしている

 微生物は発酵、光合成、細胞呼吸、窒素循環などの生命の主要な全てのプロセスの担い手である。シアノバクテリアによって地球の大気は酸素が増え、死んだ生物を分解する微生物のおかげで世界は死んだ生物の山にはなることがない。

 これらの微生物の活動にも人間は影響を及ぼしてきた。農業や動物の家畜化、産業革命などの技術革新は微生物の生息圏にも大きな影響を与えている。

 哺乳類や昆虫が絶滅すれば、その生物に依存した微生物相も生息環境を失っていく。最終的には人間と人間の食べたい動物に関連のある微生物相しか残らない可能性がある。

後世に残る痕跡が未来の世代に与える影響をしり、重大な責任を負っていることを知ることは重要

 悠久の時代に残され私たちの痕跡の一部は避けようのないもので、未来の世代にも親近感を覚え、重大な責任を負うことは非常に重要である。言語も文化も大きく異なる人々は彼らが生まれる何千年も前の人々の下した決断によって歪められた世界で暮らさなければならないかもしれないのだから。 

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