42アロイ どんな合金なのか?なぜ、熱膨張率が低いのか?

この記事で分かること

  • 42アロイとは:鉄と約42%のニッケルからなる合金です。熱膨張率が非常に低く、特に硬質ガラスやセラミックスとほぼ同じ熱膨張係数を持つため、それらと金属を接合する際の部品として使われます。
  • なぜ、熱膨張率が低いのか:温度が上がると生じる原子の熱振動による膨張と、磁気的な性質の変化による収縮という2つの効果が打ち消し合うため、熱膨張が非常に小さくなります。
  • 42アロイの用途:半導体リードフレーム、電子部品の電極、光通信用部品など、温度変化による応力を避けたい精密機器に不可欠な材料です。

42アロイ

 合金は、2種類以上の金属、または金属と非金属を混ぜ合わせて作られた物質です。

 この混合物は、元の成分とは異なる新しい特性を持ち元の金属にはない、より優れた強度、硬度、耐食性といった特性を持つことがあります。身近な例として、鉄に炭素を混ぜた鋼や鉄にクロムなどを混ぜたステンレス鋼があり、様々な用途で利用されています。

 今回はニッケルと鉄の合金である42アロイに関する記事となります。

42アロイとは何か

 42アロイとは、鉄とニッケルの合金で、ニッケルを約42%含んでいることからその名がついています。低熱膨張合金として知られており、温度変化による体積の変動が非常に小さいのが特徴です。

 この性質から、ガラスやセラミックスと熱膨張率が近いため、それらと金属を接合する際の部品としてよく用いられます。


主な特徴と用途

特徴:

  • 低熱膨張率: 温度が変化しても、ほとんど膨張・収縮しない性質を持っています。
  • 非磁性: 通常、磁気の影響を受けません。

用途:

  • 半導体や電子部品: ガラスやセラミックス製のパッケージのリード線や端子に使用されます。温度変化による応力を軽減し、接合部の信頼性を高める役割があります。
  • 精密機器: 温度変化に敏感な精密部品(例:光学機器のフレーム、測定器)にも使われます。
  • 真空管、電子銃: ガラスとの封着材として不可欠な材料でした。

 42アロイは、コバール(Kovar)という、より広く知られている低熱膨張合金と似た性質を持っていますが、コバールがコバルトも含む三元合金であるのに対し、42アロイはニッケルと鉄の二元合金です。それぞれの用途に応じて使い分けられます。

42アロイは、鉄と約42%のニッケルからなる合金です。熱膨張率が非常に低く、特に硬質ガラスやセラミックスとほぼ同じ熱膨張係数を持つため、それらと金属を接合する際の部品として使われます。

なぜ熱膨張が小さいのか

 42アロイが熱膨張しにくいのは、「インバー効果」と呼ばれる特殊な現象によるものです。

 通常、物質は温度が上がると原子の熱振動が活発になり、原子間の距離が広がって体積が膨張します。

 しかし、42アロイ(鉄と約42%のニッケル合金)のような特定のニッケル-鉄合金では、温度が上がると同時に磁気的な要因で体積が収縮する現象が起こります。

 この「原子の熱振動による膨張」「磁気的な収縮」という2つの効果が打ち消し合うため、結果として熱膨張率が非常に小さくなります。

 このインバー効果は、ニッケルの含有量が特定の範囲(約35%〜50%)にある場合に顕著に見られます。42アロイはこの組成範囲にあるため、熱膨張が極めて小さいという特性を持つのです。

42アロイは、温度が上がると生じる原子の熱振動による膨張と、磁気的な性質の変化による収縮という2つの効果が打ち消し合うため、熱膨張が非常に小さくなります。この現象は「インバー効果」と呼ばれます。

なぜ磁気で収縮が起きるのか

 磁気によって収縮が起こる現象は「自発体積磁歪(じはつたいせきじわい)」と呼ばれます。これは、42アロイのような強磁性体(強い磁性を持つ物質)が、ある温度(キュリー点)以下になると、原子のスピン(自転)の向きが揃って磁気的に整列し、その結果、原子間の結合エネルギーが変化して体積が収縮する現象です。

具体的には、以下のメカニズムが考えられています。

  1. 温度と磁気秩序の関係: 物質の温度が上昇すると、原子の熱振動が活発になり、原子のスピンの整列が乱れていきます。
  2. 電子状態の変化: 42アロイの組成(Fe-Ni合金)では、この磁気の乱れが、原子間の電子の状態に影響を与えます。
  3. 体積の収縮: 磁気的な秩序が崩れる(=磁気が弱くなる)と、原子間の結合が変化し、物質全体の体積が縮む方向に働きます。この収縮効果が、通常生じる熱膨張を打ち消すことで、全体の熱膨張率が非常に小さくなるのです。

 この現象は非常に複雑で、長年にわたり多くの研究が行われてきました。

 インバー効果は、熱膨張と磁気的な収縮という、一見すると無関係に見える2つの現象が絶妙なバランスで打ち消し合うことで生じる、特殊な物性です。

含有量によるバランスの変化

 ニッケル含有量が約35%〜50%の範囲では、絶妙なバランスで打ち消し合います

  • ニッケル含有量が少ない場合: 磁気的な収縮効果が弱く、熱膨張が優勢となります。
  • ニッケル含有量が多い場合: 磁気的な収縮効果が強くなりすぎるため、熱膨張を打ち消しきれず、結果的に体積が収縮する傾向が現れたり、熱膨張率が再び上昇したりします。

磁気的な収縮は、自発体積磁歪という現象です。42アロイでは、温度上昇によって原子のスピンの整列が乱れ、磁気的な力が弱まります。この磁気の乱れが原子間の結合エネルギーを変化させ、結果として体積が収縮します。この収縮が熱膨張を打ち消すことで、全体の体積変化が小さくなります。

42アロイの用途は

 42アロイは、熱膨張率が非常に低く、硬質ガラスやセラミックスと熱膨張係数が近いという特性を活かし、それらと金属を接合する用途に広く使われています。

主な用途

1. 電子部品

 半導体のリードフレームやガラス封着される電子部品の電極材に用いられます。温度変化によって熱膨張率の異なる材料間で応力が発生すると、接合部にひび割れや剥離が生じる可能性があります。

 42アロイは、ガラスやシリコンと熱膨張が近いため、これらの問題を解決し、部品の信頼性を高めます。

2. 光通信関連部品

 光ファイバーの接続部品であるフェルールなどにも使用されます。光通信では極めて高い精度が求められるため、温度変化によるわずかな寸法変動も性能劣化に繋がります。 

 42アロイは、こうした精密な機器において、安定した接続を維持するために不可欠です。

3. その他

 かつては、CRTの電子銃真空管の封着材としても使用されていました。また、温度変化に敏感な精密測定機器光学機器の部品にも使われることがあります。

42アロイは、熱膨張率が硬質ガラスやセラミックスに近いため、これらと金属を接合する用途に用いられます。半導体リードフレーム、電子部品の電極、光通信用部品など、温度変化による応力を避けたい精密機器に不可欠な材料です。

インバー合金との違いは

 42アロイとインバー合金は、どちらも鉄とニッケルの合金で熱膨張率が低いという共通点がありますが、ニッケルの含有量主要な用途が異なります。

組成の違い

  • インバー合金は、ニッケルを約36%含む鉄合金です。この組成が、熱膨張が最も小さくなる「インバー効果」を最大限に引き出します。
  • 42アロイは、その名の通りニッケルを約42%含む鉄合金です。

用途の違い

  • インバー合金は、温度変化による寸法の変動を極力抑えたい精密機器(例:光学機器、測量機器、精密計測機器の部品)に主に用いられます。
  • 42アロイは、ニッケル含有量の違いから、熱膨張係数が硬質ガラスやセラミックスに非常に近いという特性を持ちます。そのため、ガラスやセラミックスと金属を接合する際の部品(例:電子部品のリード線、ICリードフレーム)として、特にガラス封着の用途で活躍します。

 簡単に言うと、インバー合金が「究極の低熱膨張」を追求するのに対し、42アロイは「ガラスとの熱膨張率の一致」を目的としています。

インバー合金はニッケル約36%の合金で、極めて低い熱膨張率を活かし精密機器に用いられます。一方、42アロイはニッケル約42%で、硬質ガラスやセラミックスと熱膨張係数が一致するため、ガラス封着部品などに特化して使われます。

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