この記事で分かること
- 接着・剥離性フィルムとは:着体同士を貼り合わせるために使用されるフィルムであり、様々な素材や形状のものを容易に接合することができます。
- 粘着剤にはどんな物質があるのか:粘着剤には、ゴムやアクリル、シリコーンなどが利用されています。
- アクリルが粘着剤につかわれる理由:固体のような弾性と液体のような粘性を併せ持つ粘弾性という性質と極性の高い被着体と強い分子間力で結合可能なため、粘着剤として利用されています。
接着・剥離性フィルム
富士キメラ総研によると、機能性フィルム市場は堅調な成長を見せる予想とされています。
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00746076
2023年の市場規模は約282億4,000万米ドルで、2030年には476億4,000万米ドルに達すると見込まれており、年平均成長率(CAGR)は7.75%とする予想もあります。
今回は接着・剥離性フィルムの解説となります。
接着・剥離性フィルムとは何か
接着・剥離性フィルムは、「くっつける」(接着)と「はがす」(剥離)という、相反する二つの機能を併せ持つ、あるいはどちらかの機能を特化させたフィルムの総称です。
接着・剥離性フィルムは、様々な産業において、製品の製造、加工、使用、廃棄といったライフサイクルの各段階で重要な役割を果たしています。用途に応じた最適なフィルムを選択することで、作業効率の向上、製品の品質向上、環境負荷の低減などに貢献することができます。
1. 接着フィルム(Adhesive Film)とは
接着フィルムは、被着体同士を貼り合わせるために使用されるフィルムです。片面または両面に接着剤層が設けられており、様々な素材や形状のものを容易に接合することができます。
種類
粘着フィルム(Self-Adhesive Film): 剥離紙が付いており、剥離紙を剥がすだけで被着体に貼り付けることができるフィルムです。テープ類、ラベル、ステッカー、保護フィルムなどに広く利用されています。
感圧接着フィルム(Pressure-Sensitive Adhesive Film): 軽い圧力を加えるだけで接着するタイプの粘着フィルムです。
熱活性接着フィルム(Heat-Activated Adhesive Film): 加熱することで接着力が発現するフィルムです。繊維製品の接着、電子部品の接合などに用いられます。
水活性接着フィルム(Water-Activated Adhesive Film): 水に濡らすことで接着力が発現するフィルムです。封筒の糊、壁紙などに利用されます。
再剥離可能接着フィルム(Removable Adhesive Film): 貼り付け後も比較的容易に剥がすことができ、糊残りが少ないように設計されたフィルムです。POP広告、仮止め、養生などに使用されます。

接着フィルムは、被着体同士を貼り合わせるために使用されるフィルムであり、被着体との接着を可能にし、様々な素材や形状のものを容易に接合することができます。
接着フィルムにはどのような物質が使用されているのか
粘着フィルムに用いられる物質は、大きく分けて基材と粘着剤の2種類があり、基材にはプラスチックフィルムや紙や布などが利用されています。
粘着剤は、基材を被着体に接着させるための物質です。以下のように様々な種類があり、求められる接着力、再剥離性、耐候性などによって使い分けられます。
- ゴム系粘着剤:
- 特徴: 初期粘着力(タック)に優れ、幅広い被着体によく接着します。比較的安価ですが、耐候性や耐熱性は他の種類に劣る場合があります。
- 主な成分: 天然ゴム、合成ゴム(SBR、SIS、SBSなど)、ロジンエステル、軟化剤、充填剤、老化防止剤など
- アクリル系粘着剤:
- 特徴: 耐候性、耐熱性に優れ、透明性が高いものが多いです。幅広い粘着力の設計が可能で、再剥離性や強粘着性など、様々な特性を持たせることができます。
- 主な成分: アクリルポリマー、架橋剤、可塑剤、添加剤など
- シリコーン系粘着剤:
- 特徴: 耐熱性、耐寒性、耐薬品性、電気絶縁性に優れます。シリコーンゴムやフッ素樹脂など、他の粘着剤がつきにくい素材にも接着できます。再剥離性にも優れています。
- 主な成分: シリコーンポリマー、架橋剤など
- ウレタン系粘着剤:
- 特徴: 柔軟性、耐油性、耐摩耗性に優れます。再剥離性やエア抜け性の良いものもあります。
- 主な成分: ポリウレタン樹脂、イソシアネート化合物など
- その他:
- ホットメルト系粘着剤、水性粘着剤など、特殊な用途や機能を持つ粘着剤もあります。

粘着フィルムは基材と粘着剤から構成されており、基材にはプラスチックフィルムや紙や布などが利用されています。
粘着剤には、ゴムやアクリル、シリコーンなどが利用されています。
アクリル系粘着剤がなぜ接着が可能なのか
アクリル系粘着剤が接着を可能にする主な理由は、その粘弾性という性質と、被着体との分子間力によるものです。
1. 粘弾性(Viscoelasticity)
アクリル系粘着剤は、固体のような弾性(力を加えると変形するが、力を取り除くと元に戻る性質)と、液体のような粘性(力を加えると流れ変形し、力を取り除いても元に戻らない性質)の両方の性質を併せ持っています。この粘弾性が、粘着において非常に重要な役割を果たします。
- 濡れ性(Wetting): 粘着剤が被着体の表面に密着し、凹凸に入り込んで接触面積を増やす性質です。粘着剤の適度な粘性により、軽い圧力を加えるだけで被着体表面に「濡れ広がり」、分子間力が働きやすい状態を作ります。
- タック(Tack): 短時間で軽い圧力を加えただけで得られる初期接着性です。これは、粘着剤の適度な粘性によって、被着体との接触面積が瞬時に増え、ある程度の接着力が発現するためです。
- 保持力(Holding Power): 一度接着した状態を維持する力です。これは、粘着剤の適度な弾性(凝集力)によって、外部からの力による剥がれを防ぐために重要です。架橋構造を導入することで、この凝集力を高めることができます。
- 剥離性(Peel Adhesion): 貼り付けたものを剥がす際の抵抗力です。粘着剤の粘弾性のバランスによって、適切な剥離性が得られます。
2. 分子間力(Intermolecular Forces):
粘着剤と被着体の表面が分子レベルで十分に近づくと、ファンデルワールス力などの分子間力が働きます。これらの力は個々の力は小さいものの、接触面積が大きくなることで全体として無視できない接着力となります。
アクリル系粘着剤は、極性の高い官能基(カルボキシル基など)を持つことがあり、極性の高い被着体(金属、ガラス、極性プラスチックなど)に対して、より強い分子間力を発揮する傾向があります。

アクリル系粘着剤は固体のような弾性と液体のような粘性を併せ持つ粘弾性という性質と極性の高い被着体と強い分子間力で結合可能なため、粘着剤として利用されています。
シリコーン系粘着剤がなぜ接着が可能なのか
シリコーン系粘着剤が接着を可能にする主な理由は、アクリル系粘着剤と同様に、その粘弾性と被着体との分子間力によるものですが、シリコーン特有の性質も関わっています。
1. 粘弾性(Viscoelasticity)
シリコーン系粘着剤も、固体のような弾性と液体のような粘性の両方の性質を併せ持っています。この粘弾性が、被着体表面への濡れ性を高め、タック(初期接着性)を発現させ、適切な保持力と剥離性を実現します。
- シリコーンポリマーの分子構造や架橋度合いを調整することで、粘弾性の特性をコントロールし、様々な接着特性を持たせることが可能です。
2. 低表面エネルギーと柔軟性
シリコーンは一般的に低表面エネルギーの性質を持っています。これは、他の多くの材料と比較して表面張力が低く、様々な被着体表面に濡れ広がりやすいことを意味します。
特に、他の粘着剤では接着しにくい、低表面エネルギーの素材(フッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなど)に対しても比較的良好な接着性を示すことがあります。
また、シリコーンポリマーは柔軟性が高いため、被着体の微細な凹凸にもよくなじみ、実質的な接触面積を増やし、分子間力が働きやすくなります。
3. 分子間力(Intermolecular Forces)
シリコーンポリマー自体は、炭素とケイ素、酸素からなる骨格を持ち、一般的には極性が低いと考えられています。しかし、側鎖に特定の官能基を導入することで、極性を持つ被着体との分子間力を高めることができます。
- シリコーン系粘着剤は、ファンデルワールス力などの分子間力によって被着体と接着します。他の粘着剤に比べて、水素結合などの強い相互作用は少ない傾向がありますが、広い接触面積とシリコーンの柔軟性によって、十分な接着力を得ることができます。

シリコーン系粘着剤は、粘弾性に加え、低表面エネルギーによる濡れ性の良さ、柔軟性による高い密着性、そして特有の耐環境性によって、様々な素材に対して接着力を発揮しています。
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