住友理工の防振ゴム 防振ゴムとは何か?なぜ、振動や衝撃を吸収できるのか?

この記事で分かること

  • 防振ゴムとは:機械や建物、自動車などで発生する振動や衝撃を吸収し、伝達を軽減するゴム製品です。これにより、騒音を抑え、機器の保護や快適性の向上に貢献します。
  • 振動や衝撃を吸収し、伝達を軽減できる理由:その弾性で振動エネルギーを変形により一時的に貯め込み、粘性(内部摩擦)によってそのエネルギーを熱に変換して消費します。この二つの特性で、振動の伝達を効果的に防いでいます。

住友理工の防振ゴム

  住友理工がトヨタのレクサス「LX」に、同社の防振ゴムが採用されたことが発表されました。

 https://news.yahoo.co.jp/articles/57fb924dd219d5a69e89379557ae521d56ed2cf7

 これは、レクサスLXに搭載された新開発のハイブリッドシステムに対応するために、住友理工が培ってきた防振技術をさらに進化させたものです。

防振ゴムとは何か

 防振ゴムとは、その名の通り、振動を防ぐためのゴム製品です。機械や設備から発生する振動や、外部からの振動が他のものに伝わるのを防ぎ、あるいは軽減することを目的として使用されます。

防振ゴムの主な役割

  1. 振動の吸収と緩和: ゴムが持つ弾性や内部摩擦の特性を利用して、振動エネルギーを吸収し、熱に変換することで、振動の伝達を抑えます。
  2. 騒音の低減: 振動が伝わることで発生する固体伝搬音(床や壁などを伝わる音)を軽減し、騒音を抑えます。
  3. 衝撃の緩衝: 瞬間的な大きな力(衝撃)を和らげ、対象物へのダメージを軽減します。
  4. 機器の保護と寿命延長: 振動による部品の摩耗や劣化を防ぎ、機器の寿命を延ばします。
  5. 快適性の向上: 自動車の乗り心地や、家電製品の静音性など、使用する人にとっての快適さを向上させます。

防振ゴムが使用される場面

 非常に幅広い分野で利用されており、身近なものから産業機械まで多岐にわたります。

  • 自動車: エンジンマウント、サスペンション、キャブマウントなど、振動や衝撃を吸収し、乗り心地や操縦安定性を向上させます。
  • 家電製品: エアコンの室外機、洗濯機、冷蔵庫、掃除機など、モーターから発生する振動や騒音を抑えます。
  • 産業機械: ポンプ、コンプレッサー、モーター、工作機械など、機器の振動が周囲に伝わるのを防ぎ、作業環境の改善や精密機械の保護に役立ちます。
  • 建築・建設: 建築物の免震・制震装置、配管の振動対策など、構造物や設備からの振動を抑制します。
  • その他: ロボットの振動防止、精密測定機器の設置、DIY用品など、様々な場所で活用されています。

防振ゴムの種類と材料

 防振ゴムは、その目的や使用環境に応じて、様々な形状や硬さ、材質が選ばれます。

  • 形状: 丸型、V型、倉型、ボルト付き、プレート型、シート型など多種多様です。
  • 材質:
    • 天然ゴム (NR): 弾力性に優れ、比較的低温でも使用可能です。自動車部品などに広く使われます。
    • 合成ゴム:
      • ニトリルゴム (NBR): 耐油性、耐摩耗性に優れ、Oリングやオイルシールなどにも使われます。
      • クロロプレンゴム (CR): 耐候性、耐オゾン性、耐熱性に優れ、屋外での使用に適しています。
      • シリコーンゴム (SI): 耐熱性、耐寒性に優れ、高温下でも使用可能です。
      • ウレタンゴム (U): 衝撃吸収性が高く、特にゲル素材のものは優れた防振効果を発揮します。
      • ハイダンピングラバー (HDR): 高い減衰性能を持つ特殊なゴムで、より効果的な防振が期待できます。

 防振ゴムの選定においては、防振したい振動の周波数、対象物の質量、設置場所の環境(温度、油の有無など)を考慮し、最適な材質や形状、硬さを選ぶことが重要です。

防振ゴムは、機械や建物、自動車などで発生する振動や衝撃を吸収し、伝達を軽減するゴム製品です。これにより、騒音を抑え、機器の保護や快適性の向上に貢献します。


なぜ振動を吸収できるのか


 防振ゴムが振動を吸収できるのは、主にその材料特性構造によるものです。

1. 材料特性:ゴムの弾性と粘性

 ゴムは、一般的な金属のような硬い材料とは異なり、非常*柔らかく、伸び縮みしやすい(弾性)という特徴を持っています。この弾性によって、振動エネルギーを吸収し、その形を一時的に変えることができます。

 また、ゴムには「粘性(減衰性)」という特性もあります。これは、力を加えるとゆっくり変形し、力を取り除いてもすぐに元の形に戻らず、時間差がある性質のことです。この粘性によって、振動で加わったエネルギーの一部が、ゴム内部の摩擦によって熱エネルギーに変換され消費されます

 例えるなら、スプリングが伸び縮みすることで力を貯め込むように、ゴムも振動の力を吸収しますが、同時にその力を熱として逃がす役割も持っているため、振動が伝わりにくくなるのです。

2. 構造:適切な設計

 防振ゴムの形状や硬さも、振動吸収能力に大きく影響します。

  • 形状と体積: 振動の方向や大きさに対して、ゴムが最も効果的に変形し、エネルギーを吸収できるように設計されます。例えば、エンジンの重さを支えつつ、エンジンの振動だけを吸収するように、最適な形状とゴムの量が選ばれます。
  • 硬さ(ばね定数): ゴムの硬さは、振動を吸収する周波数帯域に影響します。低周波の振動を吸収するには柔らかいゴムが、高周波の振動を吸収するには比較的硬いゴムが使われるなど、対象となる振動の特性に合わせて調整されます。
  • 複合構造: 必要に応じて、ゴムと金属を組み合わせたり、異なる種類のゴムを積層したりすることで、特定の振動特性を持つ防振ゴムが設計されます。

 これらの特性と構造の組み合わせによって、防振ゴムは様々な機械や構造物から発生する振動を効果的に吸収し、快適性や安全性を高める役割を果たしています。

防振ゴムは、その弾性で振動エネルギーを変形により一時的に貯め込み、粘性(内部摩擦)によってそのエネルギーを熱に変換して消費します。この二つの特性で、振動の伝達を効果的に防いでいます。

ゴムが弾性を持つのはなぜか

 ゴムが弾性を持つのは、主にその特殊な分子構造と、それに伴う熱運動が関係しています。


ゴムの分子構造と弾性のメカニズム

1. 鎖状分子の網目構造

 ゴムの主成分は、非常に長い鎖状の高分子(ポリマー)です。これらの分子は、まるで細い糸が絡み合ったように存在しています。

 さらに重要なのが、「加硫」というプロセスです。天然ゴム(生ゴム)は、そのままでは弾性が小さく、耐久性も高くありません。そこで、硫黄などを加えて加熱することで、鎖状分子の間に硫黄原子による「架橋(かけはし)」が形成されます

 この架橋によって、個々の鎖状分子が化学的に連結され、全体として三次元的な網目(ネットワーク)構造ができます。この網目構造が、ゴムが形を保ちながらも大きく変形できる基盤となります。

2. 分子鎖の熱運動(エントロピー弾性)

 金属などの固体の場合、弾性は原子間の結合力(エネルギー)に起因します。しかし、ゴムの弾性はこれとは異なり、主に分子鎖の熱運動(ブラウン運動)によるものです。これを「エントロピー弾性」と呼びます。

 鎖状の分子は、普段は熱運動によって不規則に「くしゃくしゃ」と丸まった、より乱雑な状態(エントロピーが高い状態)を好みます。これは、ちょうど縄跳びの縄がグルグル回転しているようなイメージです。

 ゴムを引っ張ると、この不規則に丸まっていた分子鎖が引き伸ばされ、整列した状態になります。この引き伸ばされた状態は、分子鎖にとって不自然でエントロピーが低い状態です。

 そのため、力を加えるのをやめると、分子鎖はより安定した(エントロピーが高い)元の不規則な丸まった状態に戻ろうとします。この「元の状態に戻ろうとする力」が、ゴムの弾性力の正体なのです。

3. 粘性との組み合わせ

 ゴムは、純粋な弾性だけでなく、「粘性(減衰性)」も持っています。力を加えて変形させると、分子鎖同士の摩擦などによってエネルギーの一部が熱として失われます。これが、防振ゴムが振動エネルギーを吸収・消費できる理由でもあります。

 まとめると、ゴムの弾性は、鎖状分子が架橋によって形成する網目構造と、分子鎖が熱運動によって不規則な状態に戻ろうとする力(エントロピー弾性)、そして粘性が組み合わさることで生まれる、非常にユニークな特性と言えます。

ゴムの弾性は、鎖状の分子が熱運動で不規則に丸まろうとする力(エントロピー弾性)と、それらが網目状に結合している構造によるものです。引っ張ると分子が整列しますが、力を抜くと元のランダムな状態に戻ろうとします。

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