旭化成のマテリアル、住宅領域 どのような事業があるのか?共通する課題は?

この記事で分かること

  • マテリアル領域の事業内容:化学製品、繊維、電子部品などの素材事業を指します。プラスチック、繊維、半導体、水処理膜、サランラップ®など多岐にわたり、創業以来の中核をなす、旭化成最大の売上を占める事業領域です。
  • 住宅領域の事業内容:ヘーベルハウス™等の戸建・集合住宅の請負が中心です。ALCコンクリート「ヘーベル™」や高性能断熱材「ネオマフォーム™」といった建材も自社供給し、リフォームや不動産関連サービスを含め、長期にわたり住まいを支える「ロングライフ住宅」を提供しています。
  • 共通する課題:景気動向の影響を受けやすいという点が共通しています。比較的景気動向のうけにくいヘルスケア領域の拡大を目指す理由の一つとなっています。

旭化成のマテリアル、住宅領域

 旭化成は、2030年度に向けてヘルスケア領域を「第3の柱」として位置づけ、グローバル・ヘルスケア・カンパニーへの変革を加速させる戦略を掲げています。

 旭化成の領域ごとの売上比率は、最新の公開情報(主に2024年3月期決算時点)に基づくと以下の通りです。

  • マテリアル領域: 約45.3%
  • 住宅領域: 約34.3%
  • ヘルスケア領域: 約19.9%
  • その他: (ごくわずか)

 2027年度までの中期経営計画で想定される長期投資計画約1兆円のうち、約6,700億円を拡大関連投資に充て、その半分をヘルスケア領域に集中投資するとしています。

 前回の記事は、ヘルスケア領域に関する解説でしたが、今回はマテリアル領域と住宅領域に関する記事となります。

マテリアル領域とは何か

 旭化成の「マテリアル領域」とは、主に化学製品や繊維、電子部品などの素材事業を指します。旭化成グループの創業以来の中核をなす事業であり、多様な化学技術をベースに幅広い製品を提供しています。

  • ケミカル: プラスチック、ゴム、合成繊維の原料となる化学品など。
  • 繊維: キュプラ繊維「ベンベルグ®」やナイロン66繊維「レオナ®」など、衣料品から工業資材まで幅広く使われる繊維製品。
  • エレクトロニクス: 半導体、電子部品、電子材料など、デジタル社会を支える製品。旭化成エレクトロニクスが中心です。
  • エネルギー&インフラ: 水処理膜やリチウムイオン電池用セパレータなど、エネルギーやインフラを支える技術。
  • コンフォートライフ: 食品包装用ラップフィルム「サランラップ®」などの消費財。
  • パフォーマンスケミカル: 自動車などの次世代モビリティや様々な産業の課題解決に貢献する素材。

 このマテリアル領域は、旭化成の売上の約半分を占める最大の事業領域であり、長年培ってきた技術力とノウハウを活かして、環境に配慮した高付加価値製品の開発や、新たな事業の創出に力を入れています。近年は、石油化学関連事業の構造転換を進め、成長が見込まれる分野への投資を強化しています。

旭化成の「マテリアル領域」は、化学製品、繊維、電子部品などの素材事業を指します。プラスチック、繊維、半導体、水処理膜、サランラップ®など多岐にわたり、創業以来の中核をなす、旭化成最大の売上を占める事業領域です。

マテリアル領域で特に強みになってる製品はなにか

 旭化成のマテリアル領域で特に強みになっている製品は多岐にわたりますが、現在の戦略的な重点と将来性から見ると、以下の製品群が挙げられます。

  1. リチウムイオン電池用セパレータ「ハイポア™」:
    • 電気自動車(EV)の普及に伴い、高性能な電池材料の需要が急速に拡大しており、旭化成はこの分野で高い競争力を持っています。高い安全性と性能が求められるセパレータは、EVの航続距離や充電速度にも影響を与える重要な部品です。
  2. エレクトロニクス関連製品(半導体、電子部品、電子材料など):
    • 感光性ポリイミド「パイメル™」: 半導体素子の表面保護膜として、世界の半導体メーカーで採用実績があります。
    • 感光性ドライフィルム「サンフォート™」: プリント配線板の回路形成に使用され、パソコン、スマートフォン、自動車用電装品などで高いシェアを有しています。
    • 電流センサーIC、オーディオ用LSIなど: 自動車分野(xEV含む)やIoT機器、基地局/サーバーなどで使用される高機能デバイスで強みを発揮しています。特に、化合物半導体素子とミックスドシグナルLSIの両方に強みを持つ点がユニークです。
  3. 繊維製品「ベンベルグ®」:
    • 独自の技術で製造されるキュプラ繊維で、しなやかで吸湿性に優れることから、裏地やインナーウェア、高級アパレルなどで高い評価を得ています。環境配慮型素材としても注目されています。
  4. 水処理膜:
    • 水不足問題が深刻化する中で、旭化成の膜技術は、海水淡水化や工場排水処理など、様々な水処理用途で貢献しています。
  5. 「サランラップ®」や「ジップロック®」などの消費財:
    • これらはBtoC事業の中核であり、安定した収益基盤として、長年高いブランド力と市場シェアを維持しています。

 旭化成は、これらの高付加価値製品を強みとしつつ、特に電子材料や電池材料といった成長分野への資源集中や、石油化学関連事業の構造転換を通じて、マテリアル領域の収益性と資本効率の向上を目指しています。

旭化成のマテリアル領域は、リチウムイオン電池用セパレータ「ハイポア™」半導体・電子部品、そして高機能繊維「ベンベルグ®」が特に強みです。これらは高い技術力と市場競争力で、成長分野を牽引しています。

マテリアル領域の課題は何か

 旭化成のマテリアル領域は、企業の基盤を支える一方で、いくつかの重要な課題に直面しています。主な課題は以下の通りです。


1. 石油化学市況の変動と一部事業の低収益性

  • 世界的な供給過剰: 特に中国での生産能力増強などにより、石油化学製品の供給過剰が常態化しており、これが製品価格の低迷につながっています。
  • 市況変動の影響を受けやすい: 原材料価格(ナフサなど)や製品価格が国際市況に大きく左右されるため、業績が不安定になりがちです。過去には、基盤マテリアル事業(石油化学チェーン関連)が大きな営業損失を計上するなど、業績の足かせとなることがありました。
  • 低収益性・低資本効率: 一部の事業が低収益かつ低資本効率となっており、グループ全体の収益性向上を阻害する要因となっています。旭化成は、これらの事業に対して構造転換(事業譲渡や撤退、他社との提携など)を加速させることを急務としています。

2. EV市場の変化とサプライチェーンの競争激化

  • 主要な成長ドライバーの一つであるリチウムイオン電池用セパレータは、電気自動車(EV)市場の成長に期待が寄せられていますが、EV市場の動向は必ずしも安定しているわけではありません。
  • 特に中国系企業が車載電池サプライチェーンにおいてプレゼンスを拡大しており、競争が激化しています。旭化成は、これに対応するため、他社との資本連携や北米市場への大型投資などで、顧客との関係性強化を図っています。

3. 環境規制と脱炭素化への対応

  • 化学産業は、製造プロセスにおいて多くのエネルギーを消費し、温室効果ガス(GHG)を排出するため、環境規制の強化や脱炭素化の要請に直面しています。
  • 持続可能な社会への貢献と企業価値向上のためには、CO2排出量削減や再生可能原料への転換、リサイクル技術の開発などが喫緊の課題となっています。これは、新たな技術開発や設備投資を必要とし、コスト増につながる可能性もあります。

4. 汎用品から高付加価値品へのシフトと競争力維持

  • 汎用品分野では価格競争が激しく、収益を維持することが困難になっています。このため、旭化成は高付加価値品へのシフトを一層加速させる必要があります。
  • これは、常に革新的な技術や製品を生み出し続ける研究開発力と、それを市場に展開するマーケティング力を維持・向上させることを意味します。

 旭化成はこれらの課題に対し、選択と集中を進め、成長が見込まれる分野(例:リチウムイオン電池用セパレータ、エレクトロニクス、高機能繊維など)への投資を強化しつつ、低収益事業の構造改革を推し進めることで、マテリアル領域の収益性改善と事業ポートフォリオ変革を図っています。

旭化成のマテリアル領域は、石油化学市況の変動による低収益性、EV市場での競争激化、そして脱炭素化対応が主要な課題です。また市況変動の影響を受けやすいも課題といえます。

住宅領域はどんなものがあるのか

 旭化成の「住宅領域」は、主に「ロングライフ住宅」をコンセプトにした住宅の提供から、それに付随する幅広いサービスまでを含みます。中核を担うのは「旭化成ホームズ」です。

  1. 建築請負事業(戸建・集合):
    • ヘーベルハウス™(戸建住宅): 旭化成の戸建注文住宅の主力ブランド。耐震性・耐火性・断熱性・可変性などに優れ、「ロングライフ住宅」として長期にわたる住み心地と資産価値の維持を目指しています。特に、独自開発のALCコンクリート「ヘーベル™」を外壁などに採用しているのが特徴です。
    • ヘーベルメゾン™(集合賃貸住宅): 高い資産価値を長期にわたり維持できる賃貸住宅として、土地活用を考えているオーナー向けに提供されています。
  2. 不動産関連事業:
    • マンション開発事業: 駅前再開発や老朽化したマンションの建て替えなど、都市再生事業にも積極的に取り組んでいます。
    • 賃貸管理: ヘーベルメゾンなどの賃貸物件の管理を行います。
    • 不動産仲介: 不動産の売買仲介を行います。
    • 「ストックヘーベルハウス」: 自社供給した住宅(ヘーベルハウス)の再流通(中古住宅の売買)を支援する事業です。
  3. リフォーム事業:
    • 既存のヘーベルハウスを中心に、防水、外装のリフォームや増改築など、住宅の維持・修繕を行う事業です。
  4. その他周辺事業:
    • 住宅ローン: 住宅取得を支援するための独自の住宅ローン商品を提供しています。
    • 保険: 住まいや生活に関する各種保険を提供しています。
    • 都市開発事業: 住宅事業で培ったノウハウを活かし、都市の防災性向上や土地の高度利用にも貢献しています。
    • シニア事業: 高齢者向けの住宅やサービスも展開しています(「ヘーベルVillage」など)。
  5. 建材事業:
    • ALC(軽量気泡コンクリート)パネル「ヘーベル™」: 自社で製造・販売しており、旭化成ホームズの住宅の主要構造材としてだけでなく、他の建築物にも供給されています。耐火性、断熱性、耐久性、耐震性などに優れています。
    • 高性能断熱材「ネオマフォーム™」: 省エネ住宅に最適なフェノールフォーム断熱材で、長期にわたり高い断熱性能を維持します。
    • 基礎杭、鉄骨構造用資材など: 建築の基盤となる建材も提供しています。

 旭化成の住宅領域は、単に家を建てるだけでなく、「ロングライフ」というコンセプトのもと、建物の寿命を延ばし、住む人の豊かな暮らしを長期にわたってサポートする総合的なサービスを提供しているのが特徴です。

旭化成の住宅領域は、ヘーベルハウス™等の戸建・集合住宅の請負が中心です。ALCコンクリート「ヘーベル™」や高性能断熱材「ネオマフォーム™」といった建材も自社供給し、リフォームや不動産関連サービスを含め、長期にわたり住まいを支える「ロングライフ住宅」を提供しています。

住宅領域の課題は何か

 旭化成の住宅領域は、安定した収益基盤を持ちつつも、日本の住宅市場全体が抱える構造的な課題に直面しています。

  1. 新設住宅着工戸数の減少:
    • 日本の人口減少と少子高齢化に伴い、新築住宅の需要は長期的に減少傾向にあります。将来的に市場規模の縮小が予想されており、限られた顧客層の獲得競争が激化する見込みです。
  2. 労働力不足と職人の高齢化:
    • 建設業界全体で若年層の入職が少なく、職人の高齢化が進行しており、労働力不足が慢性的な課題です。これは、工期の長期化や人件費の高騰につながり、住宅供給に影響を与えます。
  3. 建築資材価格の高騰:
    • 世界的なインフレや円安、物流コストの上昇などにより、木材をはじめとする建築資材の価格が高騰しています。これは住宅の販売価格に転嫁されることで、購入者の負担増となり、需要を抑制する要因となります。
  4. 景気動向への影響:
    • 住宅購入は高額な投資であるため、金利の動向、消費者の景況感、雇用情勢など、経済全体の状況に大きく左右されます。不透明な経済状況は、住宅購入の抑制につながります。
  5. 環境規制と省エネ基準への対応:
    • ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)基準の義務化や、省エネ基準適合義務化など、環境性能に関する規制が強化されています。これに対応するためには、新たな技術導入やコスト増が発生し、住宅価格に影響を与える可能性があります。

 旭化成は、「ロングライフ住宅」のコンセプトや賃貸住宅事業、リフォーム・不動産関連事業の強化を通じて、これらの課題に対応し、新築に依存しない多角的な事業展開で収益の安定化と持続的成長を図ろうとしています。

旭化成の住宅領域は、国内の新設住宅着工数減少労働力不足や資材価格高騰によるコスト増が課題です。またマテリアル領域と同じく景気動向に左右されやすい面があります。

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