この記事で分かること
- ボッシュとは:ボッシュはドイツの世界最大の自動車部品サプライヤーで、エンジン制御システム、ブレーキシステム(ABS、ESC)、燃料噴射装置、センサーなど様々な自動車部品を製造しています。近年事業の多角化にも取り組んでいます。
- 空調に力を入れる理由:、脱炭素社会の進行に伴うヒートポンプ市場の成長を取り込むためです。また、自動車産業への依存度を下げて事業リスクを分散させ、同社の持つセンサーや制御技術を空調分野に応用する技術的なシナジーも期待しています。
- ヒートポンプとは:熱を「汲み上げて」移動させる技術です。少ない電気エネルギーを使って、外気などから熱を取り込み、部屋の暖房や給湯に利用します。
ボッシュの空調事業
ボッシュは2024年に、ジョンソンコントロールズ日立空調の株式をジョンソンコントロールズおよび日立から取得し、100%子会社化しました。これにより、住宅および小規模商業施設向けの暖房・換気・空調(HVAC)事業における世界的な存在感を大幅に高めています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR04BR00U5A800C2000000/
この買収はボッシュ史上最大の企業買収であり、自動車関連事業に加えて民生や産業分野の事業を強化し、事業のバランスをとることを目的としています。特に、エネルギー効率の高いソリューションへの需要が高まる中で、ヒートポンプやスマートHVACシステムの開発を加速させ、脱炭素社会への移行をリードしていくことを目指しています。
ボッシュはどんな会社なのか
ボッシュは、ドイツのシュトゥットガルトに本社を置く、世界最大の自動車部品サプライヤーです。創業は1886年、ロバート・ボッシュが「精密機器と電気技術作業場」を設立したことに始まります。
現在では、自動車関連事業に加えて、幅広い分野で革新的なテクノロジーとサービスを提供している、グローバル企業です。その事業は主に以下の4つのセクターに分かれています。
1. モビリティ(自動車関連事業)
ボッシュの中核事業であり、売上の大部分を占めています。エンジン制御システム、ブレーキシステム(ABS、ESC)、燃料噴射装置、センサー、自動運転・電動モビリティ向けのソリューションなど、自動車の安全性、効率性、快適性を高める様々な製品と技術を開発・提供しています。ほとんどの自動車メーカーがボッシュの顧客です。
2. 産業機器テクノロジー
工場や産業向けのソリューションを提供しています。駆動・制御技術、パッケージング技術、産業用センサー、そしてインダストリー4.0(IoTを活用したスマートファクトリー)向けのソリューションなどが含まれます。
3. 消費財
一般消費者向けの製品も数多く手掛けています。有名なのが、電動工具です。プロ用の電動工具は、その信頼性と耐久性で世界的に高い評価を得ています。また、家庭用電化製品(日本市場では提携ブランドを通じて展開)もこの分野に含まれます。
4. エネルギー・建築テクノロジー
建物向けのソリューションを提供しています。ヒートポンプやボイラーといった冷暖房技術、給湯器、スマートホームシステム、セキュリティシステムなどが主な製品です。前述した、ジョンソンコントロールズ日立空調の買収は、このセクターを強化する戦略の一環です。
ボッシュの強みと特徴
- 「Invented for Life」の企業理念: 「人々の暮らしに役立つ革新的な技術」を意味するスローガンを掲げ、人々の生活の質を向上させる製品やサービスを提供することを目指しています。
- 技術革新への注力: 研究開発への投資を惜しまず、常に最先端の技術を追求しています。
- 事業ポートフォリオの多角化: 自動車事業を軸にしつつも、他分野への進出を積極的に行い、事業リスクの分散と新たな成長機会の創出を図っています。
- 創業者の遺志を継ぐユニークな所有形態: 株式の90%以上を慈善団体である「ロバート・ボッシュ財団」が保有しており、企業の独立性と長期的な視点での経営を可能にしています。
ボッシュは、単なる自動車部品メーカーにとどまらず、技術とサービスを通じて、私たちの生活の様々な場面に貢献している企業と言えます。

ボッシュはドイツの世界最大の自動車部品サプライヤーです。創業者の遺志を継ぐユニークな所有形態をもち、自動車関連事業に加え、電動工具や家電、産業機器、建築テクノロジーなど幅広い分野で革新的な技術とサービスを提供しています。
どんな自動車部品を製造しているのか
ボッシュは自動車のほぼすべての部分に関わる部品を製造しており、その範囲は非常に広いです。
主要な製品分野
- パワートレイン(駆動系):
- 内燃機関: 燃料噴射システム(ガソリン・ディーゼル)、スパークプラグ、センサー、ECU(エンジンコントロールユニット)。
- 電動化: e-Axle(モーター、インバーター、トランスミッションを一体化したシステム)、バッテリー技術、パワーエレクトロニクス、燃料電池技術。
- シャシー制御システム:
- ブレーキ: ABS(アンチロックブレーキシステム)、ESC(横滑り防止装置)、iBooster(電動ブレーキブースター)。
- ステアリング: 電動パワーステアリングシステム。
- 電子システム・センサー:
- MEMSセンサー: 加速度センサー、ジャイロセンサー、圧力センサー、空気質センサーなど、自動車のあらゆる場所に搭載される高性能センサー。
- ソフトウェア: 車載オペレーティングシステム、各種制御ソフトウェア。
- 運転支援・自動運転:
- センサー: カメラ、レーダー、超音波センサー。
- システム: アダプティブクルーズコントロール(ACC)、自動緊急ブレーキシステム、駐車支援システム、自動運転向けソフトウェアスタック。
- その他(アフターマーケット向け):
- バッテリー、ワイパーブレード、フィルター類(エアコンフィルター、オイルフィルター)、ホーン、バルブ、ブレーキパッドなど、交換部品や補修部品も幅広く手掛けています。
ボッシュの強みは、単なる部品製造にとどまらず、ハードウェアとソフトウェアの両面から車両全体を制御・管理するシステムを開発・提供している点にあります。特に、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)と呼ばれる次世代モビリティ分野において、その技術力は業界をリードしています。

ボッシュは自動車のほぼすべての部分に関わる部品を製造しています。燃料噴射やブレーキ制御(ABS・ESC)システム、各種センサー、電動化や自動運転向けのモーター、パワーエレクトロニクス、ソフトウェアなど、幅広い技術と製品を提供しています。
空調に力を入れる理由は何か
ボッシュが空調事業に力を入れる理由は、主に以下の3点に集約されます。
1. 脱炭素社会への移行
空調の主役がヒートポンプに移行しつつあることが最大の理由です。ヒートポンプは、空気中の熱を利用して冷暖房を行うため、化石燃料を燃焼させる方式に比べてCO2排出量を大幅に削減できます。
世界的に脱炭素への取り組みが加速する中で、ヒートポンプ市場は今後も高い成長が見込まれています。ボッシュは、この成長市場を取り込むことで、企業の収益基盤を強化するとともに、環境問題への貢献という企業理念を体現しようとしています。
2. 事業ポートフォリオの多角化
ボッシュは自動車産業に大きく依存していますが、自動車業界はCASE(Connected, Autonomous, Shared, Electric)といった大きな変革期を迎えており、将来の不確実性が高まっています。
空調事業は、自動車産業とは異なる市場であり、景気変動の影響も自動車とは異なります。空調事業を強化することで、特定の市場に依存するリスクを軽減し、事業全体のリスク分散を図っています。
3. 技術のシナジー効果
ボッシュは、長年培ってきたセンサー技術や制御技術を空調事業に応用することができます。
- センサー技術: 温度、湿度、空気の質などを高精度に検知するセンサーは、効率的な空調システムの実現に不可欠です。
- 制御技術: 車載システムの制御で培った技術を、住宅や建物のエネルギー管理システムに応用することで、よりスマートでエネルギー効率の高いソリューションを提供できます。
、ボッシュは自身の強みである技術力を活かし、新たな成長分野である空調事業を戦略的に強化することで、持続的な成長を目指しています。

ボッシュが空調に力を入れるのは、脱炭素社会の進行に伴うヒートポンプ市場の成長を取り込むためです。また、自動車産業への依存度を下げて事業リスクを分散させ、同社の持つセンサーや制御技術を空調分野に応用する技術的なシナジーも期待しています。
ヒートポンプとは何か
ヒートポンプとは、熱を「汲み上げて」移動させる技術です。熱は通常、温度が高い方から低い方へと自然に流れますが、ヒートポンプはこの自然の法則に逆らい、少ないエネルギー(主に電気)を使って、低温の場所から高温の場所へ熱を効率的に移動させます。
この仕組みは、水が自然に高い場所から低い場所へ流れるところを、ポンプを使って低い場所から高い場所へと汲み上げる様子に似ているため、この名前が付けられました。
エアコンや冷蔵庫、エコキュート(ヒートポンプ式給湯器)など、私たちの身近な家電製品に広く使われています。
ヒートポンプの仕組み
ヒートポンプは、主に以下の4つの構成要素と「冷媒」と呼ばれる特殊な物質を使って熱を移動させます。
- 蒸発器: 冷媒が周囲(例えば屋外の空気)から熱を吸収し、液体から気体へと変化(蒸発)します。
- 圧縮機(コンプレッサー): 気体になった冷媒を圧縮すると、冷媒の温度と圧力が上昇します。
- 凝縮器: 高温・高圧になった冷媒が熱を放出し、再び液体に戻ります。この放出された熱が、部屋の暖房や給湯に利用されます。
- 膨張弁: 液体になった冷媒の圧力を下げ、温度を元の低い状態に戻します。
このサイクルを繰り返すことで、熱を効率的に「汲み上げ」、必要な場所に送り届けます。電気ヒーターのように熱を「生み出す」のではなく、すでに存在する熱を「移動させる」ため、投入した電気エネルギーの数倍の熱エネルギーを得られる高い効率性が最大の特長です。これにより、エネルギー消費とCO2排出量を大幅に削減できます。

ヒートポンプとは、熱を「汲み上げて」移動させる技術です。少ない電気エネルギーを使って、外気などから熱を取り込み、部屋の暖房や給湯に利用します。ヒーターのように熱を「つくる」のではなく「動かす」ため、高いエネルギー効率が特徴です。
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