この記事で分かること
- バーンインとは:製品を高温環境下で通電・負荷をかけることで、潜在的な初期不良品を意図的に故障させるテスト工程です。これにより、市場に出荷される前に信頼性の低い半導体を取り除くことができます。
- 半導体の初期不良が多い理由:製造工程で生じる微細な欠陥が原因です。これらの潜在的な欠陥は、通常の検査では見逃されやすく、実際に使用される際のストレスで故障として顕在化します。
- バーンインの装置:高温環境を作るバーンインチャンバー、多数の半導体をセットするバーンインボード、そして電力や信号を供給・監視するテスターで構成されます。
バーンイン
チップの微細化による性能向上の限界が見え始めていることから、半導体製造において前工程から後工程へと性能向上開発の主戦場が移り始めています。
複数のチップを効率的に組み合わせて性能を引き出す「後工程」の重要性が増しています。
前回はトリム&フォームに関する記事でしたが、今回はバーンインに関する記事となります。
バーンインとは何か
半導体後工程におけるバーンインとは、完成した半導体製品に高温環境下で電圧をかけ、長時間の負荷を与えることで、潜在的な初期不良品を事前に検出するテストプロセスのことです。これにより、市場に出荷される前に不良品を取り除き、製品の信頼性を高めることを目的としています。
バーンインの目的
バーンインの主な目的は、半導体の初期故障を意図的に引き起こし、不良品をスクリーニングすることです。半導体の故障率は、一般的に「バスタブ曲線」と呼ばれるグラフで表されます。この曲線は、初期故障期、偶発故障期、磨耗故障期の3つの期間に分かれており、特に初期故障期に故障率が高いという特徴があります。
バーンインは、この初期故障期の故障率を短時間で加速させ、不良品をあらかじめ除去する役割を果たします。これにより、製品の信頼性が向上し、顧客の手元に届く製品の品質が安定します。
バーンインの仕組み
バーンインは通常、以下のようなプロセスで行われます。
- バーンインボードへの実装: パッケージ化された半導体デバイスは、多数の半導体を一度にセットできる専用の基板(バーンインボード)に装着されます。
- 高温環境下での通電: バーンインボードにセットされた半導体は、125℃〜180℃の高温に設定された恒温槽(オーブン)に入れられます。
- 電圧・信号の印加: 高温の状態で、半導体は通常の使用時よりも高い電圧や信号負荷を数時間から100時間以上連続的に印加されます。
- 不良品の選別: このストレスをかけることで、製造過程で生じた微細な欠陥が故障として顕在化します。テスト後に不良と判定された半導体は、良品と区別されて取り除かれます。
このプロセスによって、通常の使用では数ヶ月から数年かかる初期故障を、わずか数日で効率的に見つけ出すことができます。バーンインは、特に自動車や航空宇宙、医療機器など、高い信頼性が求められる分野の半導体にとって不可欠な工程です。

半導体後工程のバーンインは、製品を高温環境下で通電・負荷をかけることで、潜在的な初期不良品を意図的に故障させるテスト工程です。これにより、市場に出荷される前に信頼性の低い半導体を取り除き、製品の品質を向上させます。
なぜ初期不良が多いのか
半導体製品において初期不良が多いのは、主に製造工程で生じる微細な欠陥や、テストでは見つけにくい潜在的な不良が存在するためです。これらの不良は、製品が実際に使用され、ストレスが加わることで顕在化します。
バスタブ曲線と初期故障
半導体や電子機器の故障率は、時間経過に伴い「バスタブ曲線」と呼ばれるグラフで表されます。この曲線は、以下の3つの期間に分かれます。
- 初期故障期 (Infant Mortality): 製品の使用開始直後。製造上の欠陥(材料の不純物、配線の微細な断線、組立不良など)が原因で故障率が高くなります。これらの欠陥は、バーンインなどの加速試験によって意図的に顕在化させ、取り除くことが可能です。
- 偶発故障期 (Useful Life): 初期故障期を過ぎた後、製品の故障率が安定して低くなる期間です。偶発的な要因(外部からの衝撃など)で故障が発生しますが、その確率は低い状態が続きます。
- 摩耗故障期 (Wear-out): 長期間の使用による材料の劣化や疲労で、再び故障率が上昇する期間です。
初期不良の主な原因
初期不良を引き起こす具体的な原因は多岐にわたります。
- 製造プロセス上の欠陥: ウエハ製造やチップ加工時に、ホコリや異物の混入(パーティクル)、配線の不十分な形成、微細なクラック(ひび割れ)などが発生することがあります。これらの欠陥は非常に小さいため、通常の検査では見逃されることがあります。
- 潜在的な不良(Latent Failure): チップ内に存在する欠陥が、製造後のテストでは問題なく動作するものの、実際に使用される際の熱や電圧といったストレスによって徐々に劣化し、やがて故障に至るものです。バーンインはこの潜在的な不良を見つけ出すために有効な手段です。
- 後工程での不良: パッケージングや配線、基板への実装など、半導体製造の「後工程」で発生する不良もあります。例えば、ボンディングワイヤの接続不良や、はんだ付けの不備などが挙げられます。

半導体の初期不良が多いのは、製造工程で生じる微細な欠陥が原因です。これらの潜在的な欠陥は、通常の検査では見逃されやすく、実際に使用される際のストレスで故障として顕在化します。バーンインはこの初期不良を事前に見つけ出すための重要な工程です。
高温環境下で通電・負荷でどのような不良が起きるのか
高温環境下での通電・負荷によるバーンインでは、製造過程で生じた微細な欠陥を、熱や電気的なストレスで加速的に進行させて故障として顕在化させることで不良品を検出します。このテストで起こる代表的な故障メカニズムには以下のようなものがあります。
代表的な不良モード
1. エレクトロマイグレーション (Electromigration)
半導体の内部配線(金属膜)に大電流を流し続けると、電子の運動量によって金属原子が徐々に移動し、配線が薄くなったり、最終的に断線したりする現象です。
高温下では原子の移動が活発になるため、この現象が加速されます。バーンインはこのメカニズムを意図的に引き起こし、製造上の配線欠陥(細い部分や不純物の多い部分)をあぶり出します。
2. ゲート酸化膜の劣化 (Oxide Breakdown)
半導体デバイス内のトランジスタのゲート絶縁膜は非常に薄く、高電圧ストレスに弱い特性があります。バーンインで定格以上の電圧を印加し続けると、製造時に存在するピンホール(微細な穴)や不純物などの欠陥が原因で、絶縁膜が破壊されてショートします。
3. ホットキャリア劣化 (Hot Carrier Injection)
トランジスタのチャネル内にいる電子やホールが、高い電界によって加速され、非常に高いエネルギーを持つ「ホットキャリア」となります。
これらのホットキャリアがゲート絶縁膜に注入されると、トランジスタの特性(しきい値電圧など)が徐々に変動し、デバイスの誤動作や性能劣化を引き起こします。この現象は低温下でも起こりますが、高温での電圧ストレスで加速される場合があります。
4. 機械的・物理的応力による不良
半導体チップは、シリコンとパッケージの異なる材料で構成されています。高温にさらされると、それぞれの材料が異なる熱膨張率で膨張・収縮するため、チップとパッケージの接合部(ボンディングワイヤやはんだ付け部分)にストレスがかかります。
このストレスによって、ボンディングワイヤの剥離や接合部のクラック(ひび割れ)が発生し、断線や接触不良を引き起こします。
バーンインは、これらの故障メカニズムを通常の使用環境よりも短時間で引き起こすことで、市場に出回る前に潜在的な不良品を効果的に除去し、製品の信頼性を確保しています。

高温での通電・負荷により、半導体の内部ではエレクトロマイグレーション(配線が断線する現象)や、トランジスタを構成するゲート酸化膜の破壊といった物理的な劣化が加速されます。これにより、製造時に生じた微細な欠陥が短時間で顕在化し、デバイスの誤動作や故障を引き起こします。
バーンインの装置はどのようなものか
バーンイン装置は、高温環境と電気的負荷を同時に与えることで半導体の初期不良を検出するシステムです。主要な構成要素は「バーンインチャンバー」「バーンインボード」「テスター」の3つです。
1. バーンインチャンバー
バーンインチャンバーは、半導体を高温環境にさらすための専用の恒温槽です。オーブンや炉のような形状をしており、内部は通常、125℃から180℃といった高温に保たれます。
このチャンバーは、内部の温度分布が均一になるように設計されており、多量の半導体に対して同時に熱ストレスを与えることが可能です。
2. バーンインボード
バーンインボードは、テスト対象となる半導体(DUT: Device Under Test)を多数搭載するための専用基板です。
- ソケット: 半導体パッケージを一つひとつ挿入するための専用ソケットが多数配置されています。
- 配線・回路: 各ソケットには、半導体に通電・信号供給するための配線や、抵抗、コンデンサなどの回路部品が組み込まれています。
- 種類: テスト対象となる半導体の種類(メモリ、ロジックICなど)やパッケージ形状に応じて、様々なバーンインボードが設計されます。
3. テスター(テスター本体)
テスターは、バーンインボードを介して半導体に電気的な信号や電圧を供給し、その応答を監視する制御ユニットです。
- 電源: 高温下での動作をシミュレーションするため、定格以上の電圧を正確に印加します。
- 信号発生: 半導体を動作させるためのテストパターンや信号を生成し、ボードに供給します。
- モニタリング: バーンイン中に半導体の動作状況(電流値の変化など)をリアルタイムで監視し、異常を検知した場合は不良品として判定します。
これらの要素が一体となり、半導体製品を短期間で高温・高電圧ストレスにさらし、潜在的な不良を効率的にスクリーニングする仕組みが成り立っています。

バーンイン装置は、高温環境を作るバーンインチャンバー、多数の半導体をセットするバーンインボード、そして電力や信号を供給・監視するテスターで構成されます。これらの組み合わせにより、半導体へ熱と電気のストレスを与え、初期不良品を検出します。
バーンインの装置の有力メーカーは
バーンイン装置は、そのシステム全体を提供するメーカーと、バーンインボードやソケットといった部品を専門に手掛けるメーカーに分かれます。
日本の有力メーカー
- エスペック株式会社(ESPEC):環境試験機器のリーディングカンパニーであり、半導体向けにもバーンインチャンバーやシステムを提供しています。特に、車載半導体など、高い信頼性が求められる分野向けの製品に強みがあります。
- 株式会社デンケン(Dengen):半導体製造装置、特にバーンイン試験装置や各種検査装置を開発・製造しています。信頼性試験の受託サービスも行っており、ノウハウが豊富です。
- 株式会社STKテクノロジー:半導体バーンイン試験装置の国内リーディングメーカーの一つとして知られています。開発・設計から組立まで一貫生産体制を持ち、高効率・高品質なバーンインシステムを提供しています。
- 株式会社エンプラス(Enplas):バーンイン装置全体というよりも、装置に不可欠なバーンインソケット(半導体を固定し、電気的に接続する部品)の有力メーカーとして知られています。高性能なソケットは、高周波・高温環境下での安定したテストに不可欠です。
海外の有力メーカー
- Aehr Test Systems:バーンイン装置の専門メーカーとして、世界的に知られています。特にウェハレベルでのバーンイン技術に強みを持ち、メモリやロジック半導体向けに幅広いソリューションを提供しています。
これらの企業は、半導体の信頼性を確保するために不可欠なバーンイン技術を支えています。製品の種類や求められる信頼性レベルに応じて、最適な装置やサービスを提供する企業が選ばれます。
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