中国の半導体製造能力の向上 どのような半導体の製造量が増えるのか?課題は何か?

この記事で分かること

  • 製造量の増加が見込まれる半導体の種類:最先端の半導体は、まだ米国などの輸出規制により製造が困難ですが、自動車や家電製品に使われるレガシー半導体は、中国が自給自足を目指すうえで重要な分野とされ、製造量の増加が見込まれています。
  • レガシー半導体とは:主に28ナノメートル以上の成熟した製造プロセスで作られる半導体です。自動車や家電製品、産業機器などで広く使われており、最先端の半導体と比べて安価で安定供給が可能です。
  • 注目されている中国のファウンダリ:中芯国際集成電路製造 (SMIC)、華虹半導体 (Hua Hong Semiconductor)、長江存儲科技 (YMTC)などが政府の後押しもあり、製造能力を大幅に拡大しています。

中国の半導体製造能力の向上

 いくつかの市場調査会社の予測によると、中国は今後数年で半導体製造能力において世界のトップに立つ可能性が高いとされています。これは、中国政府の強力な支援と巨額の投資によるものです。

 https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2509/02/news053_3.html

 中国の半導体産業は、国家的な支援を背景に生産能力を急速に拡大しており、特にレガシー半導体の分野で世界の勢力図を塗り替えつつあります。しかし、最先端技術に関しては、米国の輸出規制や技術的な課題に直面しており、今後も国際的な競争と地政学的な動向がその成長を左右すると考えられます。

どんなファウンダリーが生産を増やすのか

 中国では、主に国内の主要なファウンドリーが政府の強力な支援を受けて生産能力を増やしています。特に以下の企業が積極的な投資を行っています。

  • 中芯国際集成電路製造 (SMIC): 中国最大のファウンドリーで、国策ファンド「大基金」の主要な投資先の一つです。同社は、主にレガシー半導体(28nm以上の成熟したプロセス)の生産を拡大しており、複数の新しい工場を建設中です。
  • 華虹半導体 (Hua Hong Semiconductor): 中国の主要なファウンドリーの一つで、特にパワー半導体や特殊プロセスに強みを持っています。こちらも政府からの支援を受けており、生産能力の増強を進めています。
  • 長江存儲科技 (YMTC): NANDフラッシュメモリのメーカーですが、半導体製造技術の観点から重要な存在です。YMTCも政府の支援を受け、製造能力を大幅に拡大しています。

 これらの企業は、米国の輸出規制によって最先端の製造装置の調達が困難なため、成熟したプロセスノード(自動車、家電、産業機器などに使われる半導体)の生産に注力しています。中国政府は、国内の半導体自給率を高めることを目標に掲げており、そのためにこれらの企業の生産能力増強を強力に後押ししています。

政府の援助と生産量の増加する半導体の種類

 中国の半導体産業は、政府が掲げる「中国製造2025」のような国家戦略のもと、莫大な資金が投入されてきました。特に、「大基金(国家集成電路産業投資基金)」と呼ばれる政府系ファンドは、半導体関連企業への投資を積極的に行っています。2024年5月には、過去最大規模となる第3号ファンドも設立されました。

 市場調査会社のYole Groupの予測では、中国が2030年までに世界の半導体受託製造(ファウンドリ)生産能力の30%を占め、長年トップだった台湾を抜いて世界最大の製造拠点になると見られています。

 この背景には、主にレガシー半導体(成熟したプロセスノードの半導体)への大規模な投資があります。AIや高性能コンピューティングに使われる最先端の半導体は、まだ米国などの輸出規制により製造が困難ですが、自動車や家電製品に使われるレガシー半導体は、中国が自給自足を目指すうえで重要な分野です。

中国では、中芯国際集成電路製造 (SMIC)華虹半導体 (Hua Hong Semiconductor) といった主要なファウンドリーが、政府からの巨額な支援を受けて生産能力を大幅に増やしています。特に、自動車や家電向けの成熟したプロセスノードの製造に注力しています。

レガシー半導体とは何か

 レガシー半導体とは、比較的古い製造プロセス技術(主に28ナノメートル以上)で作られた半導体のことです。スマートフォンやAI、スーパーコンピューターなどに使われる最先端の半導体とは異なり、成熟した技術を用いて製造されます。

特徴と用途

レガシー半導体は、以下のような特徴と用途を持っています。

  • 特徴:
    • 製造技術が確立されており、生産コストが比較的低い。
    • 製造装置が最先端のものに比べて安価で、調達しやすい。
    • 信頼性が高く、長期間にわたる安定した供給が求められる分野に適している。
  • 主な用途:
    • 自動車: エンジン制御、インフォテインメント、センサーなど、多くの電子部品に使用されます。特にEVやADAS(先進運転支援システム)の普及に伴い、需要が増加しています。
    • 産業機器: 工場のロボットや自動化システム、医療機器などに幅広く使われます。
    • 家電製品: 冷蔵庫、洗濯機、エアコンなどの制御用チップとして不可欠です。
    • パワー半導体: 電力の制御や変換を行う半導体で、エネルギー分野や再生可能エネルギー関連の機器に利用されます。

 近年、半導体不足の影響もあり、レガシー半導体は多くの産業の基盤を支える重要な存在として改めて注目されています。多くの国が自国のサプライチェーンを強化するため、レガシー半導体の国内生産に力を入れています。

レガシー半導体とは、主に28ナノメートル以上の成熟した製造プロセスで作られる半導体です。自動車や家電製品、産業機器などで広く使われており、最先端の半導体と比べて安価で安定供給が可能です。

現在レガシー半導体の生産量の多い企業は

 現在、レガシー半導体の生産量が特に多い企業は、主に台湾と中国のファウンドリーです。

  • 台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー(TSMC): 最先端プロセスで世界をリードしていますが、レガシー半導体の生産能力も非常に高いです。特に28nmプロセスは、同社にとって非常に大きな収益源であり、長年にわたり大規模な生産を続けています。
  • ユナイテッド・マイクロエレクトロニクス・コーポレーション(UMC): TSMCに次ぐ台湾の大手ファウンドリーで、特にレガシー半導体の分野で高いシェアを持っています。
  • 中芯国際集成電路製造(SMIC): 中国最大のファウンドリーで、政府の強力な支援を受けてレガシー半導体の生産能力を急速に拡大しています。

 これらの企業は、自動車や家電、産業機器など幅広い分野の需要に応えるため、成熟したプロセスノードでの生産を強化しています。特に中国の企業は、国内の自給率向上を目的として、この分野への投資を加速させています。

中国のレガシー半導体生産における課題は

 中国は政府の強力な支援と巨額の投資によってレガシー半導体の生産能力を急速に拡大していますが、以下のようないくつかの課題に直面しています。

  1. 技術と人材の不足:
    • レガシー半導体であっても、製造には高度な技術と熟練した人材が必要です。中国国内では、こうした専門的な知識を持つ人材が依然として不足しています。
    • 製造装置のメンテナンスやトラブルシューティングに対応できる人材も不足しており、特に古い装置を扱える技術者が高齢化しているという問題も指摘されています。
  2. 製造装置や部品の調達:
    • 最先端の半導体製造装置は米国などからの輸出規制によって調達が困難です。レガシー半導体用の装置にも、一部規制対象となるものや、中古装置の供給が不足しているといった課題があります。
    • 古い製造装置の部品供給が途絶えたり、調達が困難になったりするケースも多く、設備の維持管理が難しい状況です。
  3. 地政学的リスク:
    • 米国は、中国がレガシー半導体を軍事転用する可能性を懸念しており、今後レガシー半導体に対しても何らかの規制を課す可能性が指摘されています。
    • 米国はすでに、中国の半導体産業に対する包括的な調査を開始しており、サプライチェーンの透明性確保を求めています。これは、中国のレガシー半導体生産にとって新たなリスクとなる可能性があります。
  4. 過剰投資のリスク:
    • 中国政府の補助金によって、レガシー半導体の工場建設が急速に進められていますが、需要以上に生産能力が拡大した場合、価格競争が激化し、過剰投資による不良資産化のリスクも指摘されています。

 これらの課題は、中国がレガシー半導体市場で支配的な地位を確立しようとする上で、大きなハードルとなる可能性があります。

中国のレガシー半導体生産における主な課題は、高度な技術や熟練した人材の不足、製造装置の調達難、そして米国などによるさらなる規制強化といった地政学的リスクです。過剰投資による供給過剰のリスクも指摘されています。

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