この記事で分かること
- クロムめっきとは:電気化学的に金属表面にクロムの薄膜を析出させる技術です。耐食性、高硬度、美しい光沢、低摩擦といった特性を与え、幅広く使われています。
- 光沢性、耐食性に優れるわけ:金属クロムが空気中の酸素と瞬時に反応し、透明で非常に安定した「不動態皮膜」を表面に形成するからです。この緻密な皮膜が、腐食の原因となる水や酸素の侵入を防ぎます。
- 不導体被膜の役割:皮膜が原子レベルで非常に緻密で安定しており、腐食要因の酸素や水分の侵入を強力に遮断するからです。また、傷ついても瞬時に再生する自己修復機能も重要です。
クロムめっき
岐阜県各務原市にある町工場であるオーエスジーは、もともと金属の表面処理、特にクロムメッキを中心に行っていました。従来のクロムメッキには、摩擦熱で温度が上がりやすい、処理に時間がかかるなどの課題がありました。
:そこで同社は自動車部品などに使われる硬質クロムメッキの技術を応用し、耐摩耗性、滑り性、冷却性に優れた新しい表面処理技術を開発・確立しました。
クロムめっきとはなにか
クロムメッキ(Crメッキ)とは、金属の表面処理技術の一つで、素材の表面に電気化学的な方法(めっき)によってクロム(Cr)の薄い膜を析出させる処理のことです。
この処理を行うことで、素材の機能性や美観を大幅に向上させることができます。
クロムメッキの主な種類
クロムメッキは、その目的によって大きく以下の2種類に分けられます。
1. 装飾クロムメッキ(Decorative Chromium Plating)
- 目的: 主に美観と耐食性の向上。
- 特徴: 非常に薄い膜(0.2~0.5μm)をニッケルメッキなどの下地の上に施します。鏡のような光沢感があり、自動車のバンパーやエンブレム、自転車の部品、家庭用品、水栓金具などに使われます。
- 硬さ: 硬質クロムメッキほど硬くはありません。
2. 硬質クロムメッキ(Hard Chromium Plating / Industrial Chromium Plating)
- 目的: 主に耐摩耗性、滑り性(摺動性)、耐熱性、耐食性といった機能性の向上。
- 特徴: 装飾用よりも厚い膜(数μm~数百μm)を直接素材の上に施します。非常に硬い(ビッカース硬さでHV800~1000)ため、「硬質」と呼ばれます。
- 用途: 自動車のエンジン部品、産業機械のローラー、シリンダー、ピストンロッド、金型など、高い耐久性や摩擦低減が求められる部品に広く利用されます。色は一般的に銀白色(光沢がないものが多い)です。
クロムメッキの主なメリット
クロムメッキが産業界で広く使われる理由は、その優れた特性にあります。
- 高硬度: 特に硬質クロムメッキは非常に硬く、耐摩耗性(擦り減りにくさ)に優れています。
- 耐食性: 酸化しにくく、錆を防ぐ効果があります。
- 低摩擦(滑り性): 摩擦係数が低く、部品同士が擦れ合う場所(摺動部)での焼き付き防止やスムーズな動作に貢献します。
- 離型性: 金型にメッキを施すことで、成形品が型から離れやすくなります(硬質クロムの用途)。
- 耐熱性: 高温下でもある程度性能を維持できます。
環境問題と代替技術
かつては六価クロムを使用したメッキ処理が主流でしたが、六価クロムは環境負荷が高い物質であるため、近年は環境規制が厳しくなっています。
そのため、代替技術として三価クロムを用いた装飾メッキや、物理蒸着(PVD)/化学蒸着(CVD)によるコーティング(DLCコーティングなど)が開発・普及してきています。

クロムメッキ(Crメッキ)は、電気化学的に金属表面にクロムの薄膜を析出させる技術です。耐食性、高硬度、美しい光沢、低摩擦といった特性を与え、自動車部品や機械、日用品などに広く使われます。
光沢になる理由はなにか
クロムメッキ(装飾クロムメッキ)が光沢になる理由は、主に以下の2つの要因によります。
1. 表面の平滑性(レベリング作用)
光沢とは、表面に当たった光が鏡のように一方向へ規則正しく反射する(正反射)状態を指します。逆に表面に微細な凹凸があると、光が様々な方向へ乱反射し、光沢が失われて曇って見えます。
装飾クロムメッキでは、下地となる光沢ニッケルメッキの工程で、めっき液に添加される光沢剤(光沢付与剤)が重要な役割を果たします。
- 光沢剤の役割: 光沢剤は、めっき皮膜が析出する際に、表面の凸部(山)に吸着してその成長を抑制し、凹部(谷)のめっきの析出を促進する働き(レベリング作用)をします。
- 結果: この作用により、ミクロな凹凸が埋められて表面が極めて平滑になり、強い光沢(鏡面)が得られます。
2. クロム金属の特性と不動態皮膜
クロム金属自体が持つ高い光反射性に加え、メッキ後、クロムの表面は大気中の酸素と結合し、透明で極めて薄い酸化皮膜(不動態皮膜)を瞬時に形成します。
- この透明で緻密な酸化皮膜が、クロム層の光沢を保護し、変色(酸化)を防ぎ、光を効果的に反射し続けるため、長く美しい光沢が保たれます。
補足:装飾クロムメッキの構造
装飾クロムメッキは、素材の上にニッケルメッキを施し、その上にごく薄い(0.1 ~ 0.5 μm程度)クロムメッキを施すのが一般的です。光沢は主に下地の光沢ニッケル層で形成され、クロム層はニッケルの光沢を保護し、耐食性・耐摩耗性を付与する役割を担います。

クロムメッキの光沢は、下地の光沢ニッケルメッキに含まれる光沢剤の作用(レベリング作用)で、表面の微細な凹凸が埋められ、鏡のように平滑になることで、光が規則正しく反射するために生まれます。
耐食性に優れる理由は
クロムメッキが耐食性に優れる最大の理由は、金属クロムが空気中の酸素と反応して表面に「不動態皮膜(ふどうたいひまく)」を形成する性質を持つからです。
不動態皮膜の働き
- 皮膜の形成: クロム(Cr)はイオン化傾向が大きい金属(卑金属)ですが、大気中に晒されると、瞬時に酸素と結びつき、透明で極めて薄い(数ナノメートル程度)酸化クロム(Cr2O3など)の皮膜を生成します。
- バリア機能: この酸化皮膜は非常に緻密で安定しており、内部のクロム金属、そしてその下にある素材(鉄など)を、水や酸素などの腐食要因から隔離するバリアとして働きます。この状態を「不動態化」と呼びます。
- 自己修復機能: 仮にこの不動態皮膜が傷ついても、すぐに周囲の酸素と反応して皮膜が瞬時に再生します(自己修復機能)。
この化学的に安定した不動態皮膜によって、クロムメッキは一般の環境下で高い耐食性(錆びにくさ)を発揮し、金属光沢を長期間維持できます。
装飾クロムメッキの場合の補強
装飾クロムメッキでは、下地のニッケルメッキも重要な役割を果たします。
- ニッケル下地: クロム層の耐食性に加え、腐食が下地金属(鉄など)まで到達するのを防ぐため、ニッケルメッキが中間層として機能し、全体としての耐食性をさらに高めます。

耐食性に優れる理由は、金属クロムが空気中の酸素と瞬時に反応し、透明で非常に安定した「不動態皮膜」を表面に形成するからです。この緻密な皮膜が、腐食の原因となる水や酸素の侵入を防ぎます。
酸化クロムがバリア層になる理由は
酸化クロム(Cr2O3)がバリア層(不動態皮膜)になる理由は、その皮膜が持つ「緻密性・安定性」と「自己修復機能」にあります。
1. 緻密性と安定性
クロムは鉄などの他の金属よりも非常に酸化しやすい性質を持っていますが、生成される酸化物(酸化クロム)は、その後の化学反応に対して極めて安定しています。
- 緻密な構造: 酸化クロムの皮膜は、原子レベルで見ても欠陥が少なく、非常に密度の高い構造をしています。
- 酸素・水分の遮断: この緻密な構造が、内部の金属へ腐食の原因となる酸素や水分、イオン(塩素など)が侵入するのを物理的に強力に遮断するバリアとして機能します。
2. 自己修復機能
不動態皮膜の最大の特長は、「自己修復機能」を持つことです。
- 再生能力: 皮膜が何らかの原因(傷や摩耗など)で一時的に破壊されたとしても、内部のクロムが即座に周囲の酸素と反応し、瞬時に酸化クロム皮膜を再生成します。
- 恒久的な保護: この再生能力により、保護機能が失われることなく、内部の金属を腐食から継続的に守り続けることができます。
これらの特性から、酸化クロムはわずか数ナノメートルという薄さでありながら、強固で安定したバリア層として機能するのです

酸化クロム(Cr2O3)は、その皮膜が原子レベルで非常に緻密で安定しており、腐食要因の酸素や水分の侵入を強力に遮断するからです。また、傷ついても瞬時に再生する自己修復機能も重要です。

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