この記事で分かること
- 洗浄方法:RCA洗浄などでOH}基を生成し親水化する湿式法と、プラズマや高速原子ビーム(FAB)で汚染物除去や超高活性サイトを露出させるドライ法があります。
- 湿式化学処理とは:アンモニア水 (NH4OH)、過酸化水素水 (H2O2)、純水 (H2O) の混合液によるSC-1洗浄、塩酸 (HCl)、過酸化水素水 (H2O2)、純水 (H2O) の混合液によるSC-2洗浄などがあります。
- 湿式化学処理の利点:パーティクルや金属汚染を徹底的に除去し、ウエハ表面に水酸基(OH基)を大量に生成して親水性を確実に付与します。これにより、安定した仮結合と高い信頼性を実現します。
ウエハの直接接合における洗浄方法
チップの微細化による性能向上の限界が見え始めていることから、半導体製造において前工程から後工程へと性能向上開発の主戦場が移り始めています。複数のチップを効率的に組み合わせて性能を引き出す「後工程」の重要性が増しています。
前回はウエハの直接接合や仮ボンディングに関する記事でしたが、今回はウエハの直接接合における洗浄方法に関する記事となります。
ウエハの直接接合とはなにか
接着剤や中間層を使わず、2枚のウエハ表面同士を原子間力などで密着させ、熱処理により共有結合で強固に接合する技術です。SOI基板やMEMS製造などに使われます。
清浄化とプラズマ活性化で表面を整え、室温で仮結合します。その後、高温で熱処理(アニール)し、水素結合から共有結合へと変化させることで、強固な接合を完成させます。
洗浄、活性化はどのような方法で行われるのか
ウエハの直接接合に必要な洗浄は、単に汚れを落とすだけでなく、接合を可能にするために表面を化学的に活性化(親水化)することが目的です。
主な洗浄・活性化の方法には、湿式化学処理とドライ処理があります。
1. 湿式化学処理 (ウェット洗浄)
薬液(ケミカル)を使って、パーティクル(微粒子)、有機物、金属汚染物質を徹底的に除去し、表面を親水化します。
RCA洗浄
半導体ウエハ洗浄の標準的な手法です。以下の工程の組み合わせで行われます。
- SC-1洗浄 (Standard Clean 1):
- 組成: アンモニア水 (NH4OH)、過酸化水素水 (H2O2)、純水 (H2O) の混合液。
- 目的: 有機物とパーティクル(微粒子)を除去します。この処理で、ウエハ表面に水酸基(OH基)が大量に生成され、親水性が格段に高まります。
- SC-2洗浄 (Standard Clean 2):
- 組成: 塩酸 (HCl)、過酸化水素水 (H2O2)、純水 (H2O) の混合液。
- 目的: 金属イオン汚染(特にアルカリ金属や重金属)を効果的に除去します。
その他のウェット洗浄
- SPM処理 (Sulfuric acid Peroxide Mixture):
- 組成: 濃硫酸 (H2SO4 と過酸化水素水 (H2O” の混合液(ピラニア溶液とも呼ばれる)。
- 目的: 強力な酸化力により、ウエハ表面の有機物を徹底的に分解・除去します。
- DHF処理 (Dilute HydroFluoric acid):
- 組成: 希釈フッ酸。
- 目的: ウエハ表面の自然酸化膜(極薄いSiO2)を溶解・除去します。直接接合では、SC-1やSC-2の前後など、必要に応じて組み込まれることがあります。
2. ドライ活性化処理
液体を用いず、ガスやビームを用いて物理的・化学的に表面を活性化します。
プラズマ活性化
- 方法: 酸素 (O2) やアルゴン (Ar) などのガスプラズマをウエハ表面に照射します。
- 目的: 表面の残存有機物の除去と、水酸基(OH基)の生成による親水性の付与です。これにより、室温での仮結合に必要な引力(水素結合)を高めます。
高速原子ビーム (FAB) 処理
- 方法: 高速で中性のアルゴン原子などのビームをウエハ表面に照射します。
- 目的: ウエハ表面の酸化膜や吸着ガスを物理的に除去し、ダングリングボンド(不対結合手)などの超高活性サイトを露出させます。これは特に、低温で強い共有結合を形成する常温接合 (SAB) に必須の技術です。
これらの洗浄・活性化工程により、接合界面は原子レベルで清浄かつ高活性な状態となり、その後の強固な直接接合が可能となります。

洗浄・活性化には、RCA洗浄などでOH基を生成し親水化する湿式法と、プラズマや高速原子ビーム(FAB)で汚染物除去や超高活性サイトを露出させるドライ法があります。
湿式化学処理の利点は何か
ウエハの直接接合における湿式化学処理(主にRCA洗浄など)の利点は、以下の点に集約されます。
1. 均一な清浄化と広範な汚染物除去
- 優れた清浄度: 薬液がウエハ表面全体に均一に行き渡るため、パーティクル(微粒子)、金属不純物、有機物などの様々な汚染物質を同時に、かつ高効率で除去できます。
- 高い信頼性: 特に金属汚染の除去に優れており、接合後のデバイスの電気特性や信頼性を確保する上で不可欠です。
2. 接合に有利な表面の化学的活性化
- 確実な親水性付与: NH4OH/ H2O2 などの溶液により、ウエハ表面に水酸基(OH基)を大量に生成できます。
- 初期接合力の確保: このOH基の存在が、室温での水素結合による安定した仮結合(プレボンディング)を実現する基礎となります。
3. スループットとコスト効率
- バッチ処理への適応性: 複数のウエハを一度に薬液に浸漬するバッチ処理が容易であるため、大量生産におけるスループット(処理能力)が高く、コスト効率が良い傾向にあります。
4. 確立された技術
- 標準化されたプロセス: RCA洗浄などに代表される湿式化学処理は、半導体産業において長年にわたり使用されており、プロセスが確立し、その安定性や再現性が高い点も大きな利点です。
これらのメリットから、湿式化学処理は、その後のプラズマ処理や直接接合プロセス全体を支える基盤的な洗浄・活性化技術として不可欠な役割を果たしています。

湿式化学処理(RCA洗浄など)は、パーティクルや金属汚染を徹底的に除去し、ウエハ表面に水酸基(OH基)を大量に生成して親水性を確実に付与します。これにより、安定した仮結合と高い信頼性を実現します。
湿式化学処理のデメリットは何か
湿式化学処理(RCA洗浄など)の主なデメリットは、プロセスの複雑性、コスト、および環境への影響です。
1. 汚染のリスクとプロセスの複雑性
- 再汚染のリスク: ウエハを薬液から引き上げる際や、リンス(純水洗浄)および乾燥工程で、液中の不純物や乾燥時の水痕(ウォーターマーク)による再汚染のリスクがあります。
- 複雑な工程: 複数の異なる薬液を順番に使用する必要があり、工程が長く複雑になります。特に、接合直前のウエハは極めてデリケートなため、薬液の濃度、温度、処理時間の厳密な管理が求められます。
2. 環境負荷とコスト
- 大量の薬液消費: 多種多様な高純度な化学薬品と、それに続く大量の超純水を消費します。
- 廃棄物処理: 使用済みの薬液や排水は、環境負荷が高いため、厳格な中和・廃液処理が必要となり、これが高いランニングコストの一因となります。
3. デバイスへの影響
- 表面粗さの増加: 強力なエッチング作用を持つ薬液を使用した場合、ウエハの表面にわずかな粗さ(ラフネス)が生じることがあります。
- 歩留まりへの影響: 直接接合は原子レベルの平坦性を要求するため、わずかな表面粗さや再汚染が、接合界面のボイド(空隙)につながり、製品の歩留まりを低下させる可能性があります。
これらのデメリットから、近年では、薬液の使用量を減らし、環境負荷の低いドライ処理(プラズマ、FABなど)と組み合わせる、またはドライ処理に完全に移行する研究も進められています。

湿式化学処理のデメリットは、大量の薬液と超純水を使うことによる高いランニングコストと環境負荷です。また、工程が複雑で、処理後の再汚染や水痕による歩留まり低下のリスクもあります。

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