この記事で分かること
- レゾナックの半導体材料事業:主に半導体後工程(パッケージング)に強みを持ち、銅張積層板(CCL)、封止材、ダイボンディングフィルム、熱伝導シート(TIM材)などを提供しています。
- パッケージ基板向けCCLとは:絶縁層と銅電層から構成される基板材料です。高機能なパッケージ基板向けでは、高速通信・高発熱のAI/HPC半導体に対応するため、低誘電率・高耐熱性など、厳しい電気的・熱的特性を満たす必要があります。
レゾナックの半導体材料事業への経営資源の集中
レゾナックのCFO(最高財務責任者)である染宮秀樹氏が主導する、半導体材料事業への経営資源の集中は、同社の成長戦略の核となっています。

レゾナックを単なる「半導体材料メーカー」と位置づけるのではなく、市場の変化に応じて最適な素材を提供できる「機能性化学メーカー」として、当面の間は最もホットな半導体分野に注力している、というスタンスを示しています。
レゾナックはどんな半導体材料を取り扱っているのか
レゾナックは、半導体製造プロセスの前工程と後工程の両方で幅広い材料を取り扱っていますが、特に後工程(パッケージング)の材料に強みと経営資源を集中させています。
レゾナックが提供する主な半導体材料と、特に注力している分野は以下の通りです。
1. 半導体後工程(パッケージング)材料:最大の強み
後工程は、ウェーハ上に作られた半導体チップを外部と接続し、保護・実装する工程です。レゾナックは、この分野で世界トップクラスのシェアを持つ製品を複数擁しており、AI半導体や高性能コンピューティング(HPC)向けパッケージングの進化を支えるソリューションを提供しています。
| 製品カテゴリー | 具体的な製品(例) | 特徴・用途 |
| パッケージ基板材料 | 銅張積層板(CCL)、感光性絶縁材料(PID)、ソルダーレジスト(SR)、感光性ドライフィルム(DFR) | 高密度な回路を形成するための基板材料。特に、高機能パッケージ基板向けCCLや、多層化・薄型化を実現するPID、DFRなどで世界トップシェアを有しています。 |
| 封止材料 | 半導体封止材(EMC)、封止フィルム(EBシリーズ)、アンダーフィル | チップを外部環境から保護し、パッケージの信頼性を高める材料。業界で2番手のシェアを持ち、高信頼性、低反り性などが求められる用途に貢献します。 |
| ダイボンディング材料 | ダイボンディングフィルム | チップと基板を強力に接着させるフィルム状の材料。高い接着力と耐熱性で、多層実装における信頼性を確保します。 |
| 熱対策材料 | 熱伝導シート(TIM材) | ICチップから発生する熱を効率的に外部へ逃がすための材料。AI/HPC向け半導体など、発熱量の大きいチップの性能維持に不可欠です。 |
| 異方性導電膜(ACF) | ディスプレイパネルとドライバICなどの接続に使用され、導電性と絶縁性を両立するフィルム材料。 |
2. 半導体前工程材料
前工程は、ウェーハ上に回路を形成する工程です。レゾナックは、ここでも高度な化学技術を活かした製品を提供しています。
| 製品カテゴリー | 具体的な製品(例) | 特徴・用途 |
| 研磨材料 | CMPスラリー(コロイダルシリカスラリー、ナノセリアスラリーなど) | 化学的機械研磨(CMP)に使用される研磨液。ウェーハ表面をナノレベルで平坦化し、回路の微細化・多層化を実現します。(STI用CMPセリアスラリーは世界シェアトップクラス) |
| 高純度ガス | 高純度亜酸化窒素(N2O)など | エッチングや成膜プロセスに使用される特殊ガス。絶縁膜の形成などに使われます。 |
| 高純度溶剤 | スーパーソルファインシリーズなど | レジストなどの材料を溶解・洗浄するために使用される、高純度な溶剤。 |
3. 次世代デバイス向け材料
- SiC(炭化ケイ素)エピウェーハ:
- Si(シリコン)よりも優れた特性を持つパワー半導体の材料。
- 主に電気自動車(EV)などのモビリティ用途での電力損失低減や高効率化に貢献し、レゾナックの成長の柱の一つです。
レゾナックのCFOが強調する「半導体材料への集中」とは、特に後工程におけるソリューション提供力を最大限に高め、AI・HPCといった成長市場のニーズに応えることに焦点を当てたものです。

レゾナックは、主に半導体後工程(パッケージング)に強みを持ち、銅張積層板(CCL)、封止材、ダイボンディングフィルム、熱伝導シート(TIM材)などを提供しています。前工程では、CMPスラリー(研磨材)や高純度ガスも展開し、AI半導体や高性能パッケージングの進化を支えています。
高機能パッケージ基板向けCCLとは何か
「高機能パッケージ基板向けCCL」とは、高性能な半導体チップ(AI/HPCなど)を実装するために使われる特殊な基板材料のことです。
CCL(Copper Clad Laminate:銅張積層板)は、プリント基板(PCB)や半導体パッケージ基板の「土台」となる材料です。
CCLの基本的な構造
CCLは、主に以下の層で構成されています。
- 銅箔層:電気を通す配線パターンを形成する層。(上下の層)
- 絶縁層:樹脂(エポキシ、ポリイミドなど)をガラス繊維などの補強材に含浸させた層。(中央のコア層)
「高機能パッケージ向け」の特徴
一般的なCCLとの違いは、高性能な半導体が要求する厳しい電気的・熱的特性を満たすために、特殊な樹脂や技術が採用されている点です。
- 低誘電率・低誘電正接(低損失):
- 高速で大容量のデータ通信(5G/6GやAIチップ間通信)を行う際に、信号の減衰(損失)を最小限に抑える性能。
- 高耐熱性・低熱膨張率(低CTE):
- 半導体チップの発熱に耐え、熱による基板の反りや歪みを防ぎ、チップと基板の接続信頼性を高める性能。
- 薄型化・高密度配線対応:
- パッケージの小型化や、微細で複雑な回路形成に対応できる加工性。
レゾナックは、特にこの高機能パッケージ基板向けのCCLにおいて高い技術力を持ち、世界トップクラスのシェアを有しています。これは、AI半導体などの高性能化を支える上で極めて重要な材料です。

高機能パッケージ基板向けCCL(銅張積層板)は、高速通信・高発熱のAI/HPC半導体に対応するため、低誘電率・高耐熱性など、厳しい電気的・熱的特性を満たす特殊な基板材料です。レゾナックが強みを持っています。
レゾナックのCCLの優れた点はどこか
レゾナックのCCL(銅張積層板)は、特に高機能半導体パッケージや高速通信に対応する点において、以下に示すように、他社製品と比べて多くの優れた特徴を持っています。その優位性の源泉は、同社の独自の樹脂合成・設計技術にあります。
1. 圧倒的な低伝送損失(高速・高周波特性)
- 低誘電率(Dk)と低誘電正接(Df):
- AIやHPC(高性能コンピューティング)向けチップ、および5G/6Gといった高速通信規格では、信号周波数が高くなります。その際、基板材料の電気的損失が少ないほど、信号が減衰せず正確に伝わります。
- レゾナックのCCLは、独自の樹脂と低誘電率ガラスクロスを組み合わせることで、業界トップクラスの低Dk/低Dfを実現し、25Gbpsを超える高速伝送を可能にしています。
2. 高い信頼性(低熱膨張・反り抑制)
- 低熱膨張特性(低CTE):
- 半導体パッケージは、シリコンチップとCCLなど複数の材料で構成されており、動作時の発熱や温度変化で材料ごとに膨張率(CTE)が異なります。この差が大きいと、パッケージの反りや歪みが生じ、接続不良(クラック)の原因となります。
- レゾナックは、独自の多環芳香骨格を持つ樹脂合成・変性技術やマルチスケール解析を活用し、極めて低い熱膨張率を実現しています。これにより、特に大型化が進む次世代半導体パッケージの反りを抑制し、従来の製品比で4倍の温度サイクル寿命を達成するなど、高い接続信頼性を提供しています。
3. 高い加工性(製造プロセスへの適合)
- 高弾性率と良好なドリル加工性:
- 熱膨張を抑えるために硬くすると、通常は脆くなりクラックが発生しやすくなります。レゾナックは、高弾性ドメインと低弾性ドメインを両立させるミクロ層分離構造を制御する技術(海島構造制御)により、低熱膨張性を保ちながらも、機械加工時のクラックを抑制し、顧客の製造プロセスでの歩留まり向上に貢献しています。
これらの技術的な強みが、レゾナックが半導体後工程材料市場で圧倒的な地位を築いている大きな理由となっています。

レゾナックのCCLは低誘電率・低誘電正接により、高速伝送時の信号損失を最小限に抑えます。また、低熱膨張特性に優れ、大型化するパッケージの反りや歪みを抑制し、高い接続信頼性を実現します。

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