この記事で分かること
- コンクリートの劣化とは:時間の経過とともにひび割れや剥離が生じ、強度や耐久性が低下する現象です。空気中の二酸化炭素による中性化や、塩分による塩害などが主な原因で、内部の鉄筋が腐食し、構造物の安全性を損ないます。
- 従来の劣化防止方法:塗料を塗ることで水や塩分の侵入を防いだり、含浸材を染み込ませて劣化原因物質を遮断したりする方法が一般的でした。しかし、これらの方法は乾燥に時間がかかるなどの課題がありました。
- 皮膜シートで劣化を防ぐことができる理由:水や塩分、二酸化炭素などの劣化原因物質がコンクリート内部に侵入するのを物理的に遮断することで、コンクリートの中性化や塩害を防ぎ、内部の鉄筋が腐食するのを効果的に抑制します。
コンクリートの劣化を防ぐ被覆シート
五洋建設と積水化学工業が共同開発した、コンクリートの劣化を防ぐ被覆シートは、貼り付けるだけで施工できるという画期的な製品です。
https://www.sekisui.co.jp/news/2025/1439104_41954.html
このシートは、従来の塗装工法が抱えていた課題を解決するために開発されました。
コンクリートの劣化とは何か
コンクリートの劣化とは、時間の経過とともにコンクリートの性能や耐久性が低下していく現象のことです。これは、単に見た目が悪くなるだけでなく、構造物の強度を損ない、最終的には安全性に重大な影響を及ぼす可能性があります。
主な劣化の種類と原因
コンクリートは非常に耐久性の高い材料ですが、さまざまな外的・内的要因によって劣化が進行します。主な劣化の種類は以下の通りです。
中性化
コンクリートは本来、強いアルカリ性(pH12〜13程度)を持っており、このアルカリ性が内部の鉄筋をサビから守っています。しかし、空気中の**二酸化炭素(CO2)**がコンクリート内部に侵入すると、化学反応によってアルカリ性が失われ、中性化が進みます。その結果、鉄筋の表面を覆う保護膜(不動態被膜)が破壊され、鉄筋が腐食し始めます。鉄筋がサビると体積が膨張するため、コンクリートを内側から押し広げ、ひび割れや剥離を引き起こします。
塩害
海水や海風に含まれる塩分、または凍結防止剤として散布される塩化物がコンクリート内部に浸透することで起こります。塩化物イオンが鉄筋に到達すると、中性化していなくても鉄筋の保護膜を破壊し、サビを進行させます。特に海岸付近の構造物や、寒冷地で融雪剤を使用する道路などで発生しやすい劣化です。
凍害
コンクリート内部の水分が凍結・融解を繰り返すことで、体積が膨張・収縮し、内部から破壊されていく現象です。水分が凍ると約9%体積が増加し、この膨張圧によってコンクリートにひび割れが生じます。特に気温が氷点下になることが多い寒冷地で顕著に見られます。
アルカリシリカ反応(ASR)
コンクリートに使用される骨材(砂や砂利)の中に、特定のシリカ鉱物が含まれている場合に起こります。このシリカ鉱物が、コンクリートのアルカリ性と水分の存在下で反応し、膨張性のゲルを生成します。このゲルが膨張することで、コンクリートに亀甲状(網の目状)のひび割れを引き起こします。
これらの劣化要因は単独で発生するだけでなく、複合的に作用することで劣化を加速させることが多いです。
例えば、ひび割れが生じると、そこからさらに水や塩分、二酸化炭素が侵入しやすくなり、劣化がさらに進行するという悪循環に陥ります。そのため、コンクリートの劣化対策には、早期発見と適切な処置が不可欠です。

コンクリートの劣化とは、時間の経過とともにひび割れや剥離が生じ、強度や耐久性が低下する現象です。空気中の二酸化炭素による中性化や、塩分による塩害などが主な原因で、内部の鉄筋が腐食し、構造物の安全性を損ないます。
これまではどのように劣化を防いでいたのか
劣化を防ぐには、主に塗膜保護工法や含浸工法が用いられてきました。
塗膜保護工法
これは、コンクリートの表面に塗料を塗って膜を作り、劣化原因となる水や塩化物イオン、二酸化炭素などが内部に浸透するのを防ぐ方法です。塗料は種類が豊富で、目的(防水性、美観など)に応じて選べますが、塗り直しに時間と手間がかかることや、コンクリート内部の劣化状況が確認しにくいという課題がありました。
含浸工法
コンクリートの表面に、シラン系やけい酸塩系などの含浸材を塗布し、それをコンクリート内部に深く染み込ませて劣化を防ぐ方法です。含浸材がコンクリートの空隙を塞ぐことで、水や劣化因子の侵入を防ぎます。塗膜工法のように表面に膜を作らないため、コンクリート本来の質感や通気性を保てるのが特徴です。しかし、塗布後に乾燥させる時間が必要で、施工に時間がかかる場合があります。
これらの方法以外にも、劣化の進行度合いに応じて、ひび割れを補修する注入工法や、劣化した部分を撤去して新しいコンクリートに置き換える断面修復工法などが用いられます。

コンクリートの劣化は、主に塗膜保護工法や含浸工法で防がれていました。塗料を塗ることで水や塩分の侵入を防いだり、含浸材を染み込ませて劣化原因物質を遮断したりする方法が一般的でした。しかし、これらの方法は乾燥に時間がかかるなどの課題がありました。
被覆シートと利点は何か
被覆シートは、コンクリートの劣化を防ぐために開発された、貼り付け型の新しい材料です。従来の工法と比較して、いくつかの利点があります。
被覆シートの主な利点
- 簡単な施工:塗装のように乾燥時間を必要とせず、貼り付けるだけで済むため、施工にかかる時間や労力を大幅に削減できます。これは、特に広い面積の構造物や、交通規制を伴う場所での作業において大きなメリットとなります。
- 優れた視認性:シートは透明であるため、施工後もコンクリート表面を目視で確認できます。これにより、内部のひび割れや劣化の兆候を早期に発見し、迅速な対応が可能になります。従来の塗装工法では、一度塗ると内部の状態が見えなくなり、劣化の発見が遅れるという問題がありました。
- CO2吸収性能の維持:シートの粘着層にCO2吸収材が配合されています。これにより、コンクリートが本来持っている二酸化炭素を吸収する能力を妨げず、環境負荷の低減にも貢献します。
- 高い耐久性:塩化物イオンの侵入を防ぐ遮塩性能に優れており、海岸付近など塩害が懸念される環境でも、コンクリートの劣化を長期間にわたって効果的に防ぎます。
これらの利点により、被覆シートはインフラの維持管理コストを削減し、構造物の長寿命化に貢献する画期的な技術として期待されています。

被覆シートは、貼り付けるだけで施工できるため、工期を大幅に短縮できます。また、透明なのでコンクリート内部の劣化を目視で確認でき、早期発見につながります。さらに、CO2吸収材を含むことで、環境にも配慮しています。
被覆シートはなぜ劣化を防ぐことができるのか
被覆シートがコンクリートの劣化を防ぐことができるのは、外部からの劣化原因物質の侵入を物理的に遮断するからです。シートは、以下の2つの主要な層によって構成されており、それぞれが異なる役割を果たします。
- 表面層: この層は、コンクリートの劣化の主犯である水、CO2、および塩化物イオンがコンクリート内部に侵入するのを防ぐバリアとして機能します。これにより、コンクリートの中性化や塩害といった劣化プロセスが抑制されます。
- 粘着層: この層はシートをコンクリート表面にしっかりと密着させるだけでなく、CO2吸収材が配合されています。これにより、シートで覆われたコンクリートが本来持っているCO2を吸収する能力を維持し、環境負荷を低減します。
これらの層が一体となって、コンクリートを外部の厳しい環境から守り、その寿命を延ばす役割を果たします。

被覆シートは、水や塩分、二酸化炭素などの劣化原因物質がコンクリート内部に侵入するのを物理的に遮断するからです。これにより、コンクリートの中性化や塩害を防ぎ、内部の鉄筋が腐食するのを効果的に抑制します。
コメント