電子部品:水晶振動子 水晶振動子とは何か?クロック信号とは何か?

この記事で分かること

  • 水晶振動子とは:水晶の圧電効果を利用し、安定した周波数で振動する受動部品です。コンピュータや時計、通信機器などで、正確なタイミングを決定するクロック信号の生成に不可欠です。
  • 圧電効果とは:力が加わることで電圧が発生するの効果のことで、外部からの圧力で内部のイオン(電荷)の配置がずれるため、全体として電気的な偏りが生じ、その結果、結晶の両端に電圧が発生します。
  • クロック信号とは:デジタル回路やコンピューターの動作を同期させるための基準となる周期的な信号で、電子部品が処理を開始するタイミングを合わせる役割を担います。回路全体の動作を制御する働きをし、クロック周波数が高いほど、処理速度も速くなります。

水晶振動子

 日本の電子部品メーカーは、半導体製造分野では後れを取っているものの、コンデンサやセンサーなどの部品分野では、長年にわたり世界市場で強い競争力を保ち続けており、台湾企業による買収も報じられています。

 https://news.yahoo.co.jp/articles/7c65f370b3f25f662f603f1b6f59d590fba4cd46

 日本の電子部品メーカーは、長年にわたって培ってきた高い技術力、品質へのこだわり、そして特定のニッチ分野での圧倒的な強みにより、世界市場でその地位を確固たるものにしています。

 今回は受動部品である水晶振動子についての記事となります。

水晶振動子とは何か

 水晶振動子は、水晶の圧電効果を利用して、安定した特定の周波数で振動する受動部品です。電子回路に組み込むことで、正確な時間や周波数の基準信号を作り出す役割を担います。


仕組みと役割

水晶振動子のコアは、薄くカットされた水晶片です。このに水晶片は物理的な力が加わると電圧が発生する圧電効果があります。また電圧をかけると、物理的に変形(振動)する逆圧電効果という特性持っています。

 また、水晶振動子は、特定の周波数で最も効率よく振動する固有振動数を持っています。この特性を利用して、外部の発振回路と組み合わせることで、非常に精度の高いクロック信号を生成できます。 

 なぜ「受動部品」と呼ばれるかというと、水晶振動子単体では振動を継続できないためです。電気信号を増幅して振動を維持する発振回路が不可欠であり、抵抗やコンデンサと同様、他の部品と組み合わせて初めて機能するからです。


主な用途

 水晶振動子の高い周波数精度と安定性は、現代の多くの電子機器にとって不可欠です。

  • 時計:クォーツ時計は、水晶振動子の安定した振動を時間の基準としています。
  • コンピュータ:CPUやマイクロコントローラの動作を同期させるためのクロック信号源として使用されます。
  • 通信機器:スマートフォンや無線通信機器で、正確な周波数で信号を送受信するための基準として利用されます。
  • 家電製品:テレビ、オーディオ機器、デジタルカメラなど、正確なタイミング制御が必要なあらゆる機器に組み込まれています。

水晶振動子は、水晶の圧電効果を利用し、安定した周波数で振動する受動部品です。コンピュータや時計、通信機器などで、正確なタイミングを決定するクロック信号の生成に不可欠です。高精度な時間・周波数基準として広く使われています。

なぜ、力が加わることで電圧が発生するのか

 力が加わることで電圧が発生する現象は圧電効果と呼ばれ、水晶など特定の結晶の内部構造に起因します。

仕組み

  1. 電荷の配置: 圧電性を持つ物質は、結晶内部でプラスとマイナスのイオンが非対称に配置されています。これにより、各原子レベルで電気双極子(プラスとマイナスの電荷のペア)が形成されています。しかし、全体としては電荷の偏りがなく中和されています。
  2. 物理的変形: 外部から圧力を加えて結晶を物理的に変形させると、この非対称な原子の配置がさらにずれます。
  3. 電荷の偏り: この原子のずれにより、結晶全体でプラス電荷の重心とマイナス電荷の重心がずれて、電気的な偏り(電気分極)が生じます。
  4. 電圧の発生: この電気分極により、結晶の両端に正と負の電荷が分離し、その結果として電圧が発生します。

 この仕組みは、電気を力に変換する逆圧電効果とは対をなす現象です。圧電効果はガスライターの着火装置や、圧力センサーなどに応用されています。

力が加わることで電圧が発生するのは圧電効果といい、特定の結晶が持つ性質です。外部からの圧力で内部のイオン(電荷)の配置がずれるため、全体として電気的な偏りが生じ、その結果、結晶の両端に電圧が発生します。

クロック信号とは何か

 クロック信号は、デジタル回路やコンピューターにおいて、すべての動作を同期させるための基準となる周期的な信号です。オーケストラの指揮者のタクトのように、各電子部品が正しいタイミングで動作するための「時間」を提供します。


クロック信号の役割

 デジタル回路は、電圧のON(1)とOFF(0)を組み合わせて情報を処理します。複数の回路が同時に、または決められた順序で正確に動作しないと、データの送受信や計算が誤ってしまう可能性があります。クロック信号は、この問題を解決するために以下の役割を担います。

  • 動作の同期: CPUやメモリなど、回路内のすべての部品は、クロック信号の「立ち上がり」や「立ち下がり」というタイミングに合わせて、次の処理を開始します。これにより、すべての部品が足並みを揃えて動くことが保証されます。
  • 処理速度の基準: クロック信号が1秒間に繰り返される回数をクロック周波数と呼び、ヘルツ(Hz)という単位で表します。この周波数が高ければ高いほど、より短い時間で多くの処理を実行できるため、コンピューターの性能を表す重要な指標となります。たとえば、3GHzのCPUは、1秒間に30億回のクロック信号を発生させ、それに合わせて処理を行います。

クロック信号の生成

 クロック信号は、発振回路によって生成されます。この発振回路には、前述の水晶振動子がよく用いられます。水晶振動子は非常に安定した周波数で振動する特性を持つため、正確でブレのないクロック信号を作り出すのに最適です。

クロック信号とは、デジタル回路やコンピューターの動作を同期させるための基準となる周期的な信号です。オーケストラの指揮者のタクトのように、電子部品が処理を開始するタイミングを合わせる役割を担い、回路全体の動作を制御します。クロック周波数が高いほど、処理速度も速くなります。

水晶振動子はなぜ安定した周波数で振動するのか

 水晶振動子が安定した周波数で振動する理由は、その結晶構造物理的特性にあります。特に、以下の3つの要素が大きく関係しています。

1. 固有振動数とQ値

 水晶は非常に硬く、内部の原子が規則正しく並んだ結晶です。この構造により、外部から力を加えると特定の周波数で最も効率よく振動する固有振動数を持ちます。

 この「振動の純度」を示す指標をQ値といい、水晶は他の物質に比べて非常に高いQ値を持っています。Q値が高いほど振動のエネルギー損失が少なく、一度振動すると減衰しにくいため、周波数がブレにくいのです。


2. 温度特性

 水晶の周波数はわずかに温度によって変動しますが、特定のカット方法(ATカットなど)を用いることで、温度変化に対する周波数変動を極めて小さくすることができます。この特性により、環境温度が変動しても安定した周波数を維持できます。


3. 圧電効果

 水晶に電圧をかけると変形し、変形させると電圧が発生する圧電効果を最大限に利用しています。発振回路は、水晶の振動で生じた電圧を増幅して再び水晶に戻すことで、わずかなエネルギーで振動を一定に保つことができます。これにより、安定した周波数の信号を継続的に生成することが可能になります。

水晶振動子が安定した周波数で振動するのは、原子が規則正しく並んだ硬い結晶構造に起因します。この構造が、特定の固有振動数で効率よく振動する特性(高いQ値)を持たせ、温度変化にも強く、振動のエネルギー損失が少ないためです。

水晶振動子はどのように製造されるのか

 水晶振動子は、天然水晶の成長環境を人工的に再現した人工水晶から作られます。製造プロセスは精密な加工技術を必要とし、主に以下の工程を経て完成します。

1. 原材料の育成

 天然水晶を種として、高温・高圧のアルカリ溶液を満たした「オートクレーブ」という容器の中で、数週間から数か月かけて高品質な人工水晶を成長させます。この水熱合成法により、不純物が少なく均一な結晶が得られます。


2. 精密加工

 育成した人工水晶を、X線回折装置などを用いて結晶軸を正確に測定します。次に、周波数温度特性が決まるように、目的の軸に対して精密な角度でウェハー状に薄く切断します。

 このウェハーをさらに小さなチップ状に加工し、研磨によって周波数が決まる厚みに調整します。最終的な周波数はこの厚みで決まるため、ミクロン単位の極めて高い精度が要求されます。


3. 電極形成と組み立て

 厚みを調整した水晶片の表面に、金や銀などの金属を蒸着して電極を形成します。その後、この水晶片をリード線やパッケージに接着剤で固定し、気密性の高い容器に封入します。


4. 最終調整と検査

 封入前に、水晶片を発振させながら電極の厚みを微調整し、最終的な周波数を厳密に合わせます。最後に、気密性、周波数特性、インピーダンスなどの各種特性を検査し、製品として完成します。

水晶振動子は、まず人工水晶を育成し、それを目的の周波数に合わせて薄く精密に切断・研磨します。その後、表面に電極を形成し、リード線やパッケージに封入。最後に、周波数を最終調整して完成させます。

水晶振動子の有力メーカーはどこか

 水晶振動子の主要なメーカーは、日本企業が強いシェアを持っています。中でも、人工水晶の育成から製品まで一貫生産する体制を持つメーカーが有力です。

主要メーカー

  • 日本電波工業(NDK): 特に車載用途の水晶デバイスで世界トップシェアを誇る、業界のリーディングカンパニーです。
  • 京セラ: 通信や車載市場向けに超小型・高精度な水晶振動子を幅広く提供しています。
  • セイコーエプソン: クォーツ時計で培った技術を活かし、小型で高精度な水晶振動子を得意としています。
  • 大真空(KDS): 高周波帯の水晶デバイスに強く、小型化技術に定評があります。
  • リバーエレテック: 超小型サイズの水晶振動子・発振器をパイオニアとして開発しています。

 これらのメーカーは、スマートフォンや自動車、医療機器など、精密な周波数制御が必要とされる様々な分野に製品を供給しています。

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