ドイツの中国への輸出減少 中国への依存度が高かった理由と減少理由は?

この記事で分かること

  • 中国への依存度が高かった理由:、ドイツの高品質な自動車や機械などの資本財が、急成長する中国の巨大な工場・消費市場に不可欠だったためです。特に、メルケル前政権の経済重視政策もこれを後押ししました。
  • 輸出減少の理由:中国経済の景気低迷に加え、ドイツの主要輸出品である自動車(特にEV)が中国メーカーとの競争に敗れ、市場シェアを失ったためです。

ドイツの中国への輸出減少

 ドイツの輸出先として、中国が7位に後退したと報道されています。

ドイツ輸出先、中国が7位に後退へ 15年ぶりトップ5圏外
ドイツ貿易投資振興機関(GTAI)は15日、今年の対中輸出額が前年比10%減の810億ユーロ(950億4000万ドル)となり、中国が2010年以来初めてドイツの輸出先上位5カ国から外れるとの見通しを示した。

 ドイツは他の欧州諸国と比べて対中貿易への依存度が高い傾向にあるため、中国への輸出が減少することは、国内経済にとって無視できない悪影響となります。

ドイツの対中依存度が高かった理由は何か

 ドイツの対中依存度が高かった背景には、ドイツ経済の構造的な特性と、中国の経済発展という二つの要素が深く関わっています。


ドイツの産業特性

 ドイツ経済は、製造業と輸出に極めて強く依存していることが、対中依存度を高めた最大の要因です。

  • 1. 資本財・ハイテク製品の輸出志向:
    • ドイツは、自動車、機械、化学製品といった、高品質な資本財(生産設備や部品)やハイテク製品を得意としています。
    • これらの製品は、新興国が経済成長の初期段階で大量に必要とするものであり、「世界の工場」として急成長した中国にとって、ドイツ製品はまさに必要不可欠でした。
  • 2. 労働コストが高い製造業:
    • ドイツは人件費や社会保障費が高いため、企業はコスト競争力を維持するために、グローバル市場、特に成長著しい市場に積極的に進出する必要がありました。
    • 巨大な市場規模と成長ポテンシャルを持つ中国は、高コストなドイツ製造業にとって、利益を確保するための「福音」だったと言えます。

中国の経済的魅力と成長戦略

 中国側は、ドイツ製品を積極的に受け入れることで経済成長を加速させました。

  • 3. 巨大な消費市場の魅力:
    • 人口が膨大であり、経済発展に伴い中間層が厚くなることで、自動車(特に高級車)や高品質な消費財の巨大な市場が形成されました。フォルクスワーゲン(VW)、BMW、メルセデス・ベンツといったドイツの自動車メーカーにとって、中国は「世界で最も重要な単一市場」となりました。
  • 4. 「世界の工場」としての設備投資需要:
    • 中国は自国の製造能力を高めるため、ドイツから高性能な工作機械や生産ラインを大量に輸入しました。これは、ドイツの機械メーカーにとって最大のビジネスチャンスとなりました。
  • 5. 中国での現地生産の拡大:
    • ドイツ企業は、中国市場へのアクセスを確保するため、またはコスト削減のために、中国国内に大規模な生産拠点(工場や研究開発センター)を設立しました。これにより、サプライチェーンも中国に深く組み込まれ、経済的な結びつきがより強固になりました。

政治的な後押し

 長年のドイツの政治戦略も、対中依存を高める一因となりました。

  • メルケル首相の「東方重視」政策:
    • アンゲラ・メルケル前首相(在任2005年~2021年)は、経済的な利益を重視し、対話を通じて中国との関係を深める「東方重視」の外交政策を推進しました。彼女の在任中、ドイツと中国の経済関係は飛躍的に拡大しました。

 このように、ドイツの高品質な資本財を必要とする中国の急成長と、グローバル市場を求めるドイツの製造業の戦略が完全に合致した結果、両国の経済的な結びつきは非常に強くなりました。

 これが、近年の地政学リスクの高まりや中国経済の変調によって、「高すぎる依存度」として問題視されるに至った背景です。

ドイツの対中依存度が高かったのは、ドイツの高品質な自動車や機械などの資本財が、急成長する中国の巨大な工場・消費市場に不可欠だったためです。特に、メルケル前政権の経済重視政策もこれを後押ししました。

中国への輸出量が減少した理由は

 ドイツの対中輸出量が減少した理由は、主に以下の構造的な要因市場の競争激化に集約されます。

1. 中国市場における競争の激化

 ドイツの輸出品目の中心である自動車産業において、中国メーカーの台頭により競争力を失っています。

  • EV市場での劣勢: 中国の電気自動車(EV)メーカー(BYD、NIOなど)が、価格競争力と技術開発の速さで優位に立っています。ドイツのプレミアムブランド(VW、BMW、メルセデス・ベンツなど)のEVが中国市場で販売不振に陥り、シェアを大きく落としています。
  • 現地メーカーの技術力向上: 中国は、高性能な工作機械や部品をドイツから輸入していましたが、自国の産業育成が進み、資本財(生産設備など)を自国で大規模に生産するようになり、ドイツからの輸入需要が構造的に減少しています。

2. 中国経済の景気低迷と内需の鈍化

 中国国内の経済状況の悪化が、ドイツ製品の需要を冷え込ませています。

  • 不動産不況と内需の停滞: 不動産市場の長期的な不況や、それに伴う消費者心理の冷え込みが、高額なドイツ製乗用車や、製造業の設備投資に必要なドイツ製の機械・化学製品への需要を低迷させています。
  • ダンピング攻勢: 中国国内の過剰生産能力を背景としたダンピング価格での製品輸出(第三国市場を含む)が、ドイツ製品の国際的な競争力を脅かしています。

3. ドイツの「脱リスク」の動き

 地政学的リスクの高まりやサプライチェーンの強靭化のため、ドイツ企業が中国依存度を下げ、輸出先を分散する動きも、相対的な対中輸出量の減少につながっています。


 中国経済の減速」と「自動車・機械など主要品目における中国国内メーカーとの競争敗北」が主な要因です。

 この結果、2024年に入って中国はドイツにとって最大の貿易相手国ではなくなり、米国が首位に返り咲くという変化が見られています。

中国への輸出量が減少した主な理由は、中国経済の景気低迷に加え、ドイツの主要輸出品である自動車(特にEV)が中国メーカーとの競争に敗れ、市場シェアを失ったためです。

中国に変わって上昇した国はどこか

 中国がドイツの輸出先として順位を後退させたことで、相対的に順位が上昇したり、輸出額が増加したりしている主要な国は以下の通りです。

1. 米国(アメリカ)

 米国は伝統的にドイツにとって重要な輸出先でしたが、近年その重要度がさらに増しています。

  • 最大の輸出先として首位に: 報道によれば、最新のデータでは米国が輸出額で中国を上回り、ドイツの最大の輸出先の座を改めて確立しています。
  • 経済の好調さ: 米国経済が比較的堅調に推移しているため、ドイツ製品(特に自動車や機械)への需要が引き続き強いことが背景にあります。
  • 脱リスクの受け皿: ドイツ企業が中国への依存を減らす(脱リスク)戦略の一環として、地政学的リスクの低い米国市場への生産・投資シフトを進めていることも、輸出増に貢献しています。

2. フランス、🇪🇺 EU域内諸国

 EU域内の国々も、順位の上位を占めており、安定した輸出先となっています。

  • EU域内が基本: ドイツの輸出の約半分はEU域内向けであり、フランス、オランダ、ポーランドなどの近隣国は常に主要な輸出先です。
  • フランスの安定性: フランスは長年、米国と並んでドイツのトップ輸出先の一つであり、中国が後退したことで相対的な地位がより重要になっています。

 中国が「量」と「成長の勢い」を失う中、ドイツは「米国への依存度の強化」と「EU域内での安定した取引の維持」という形で、輸出先のポートフォリオを再構築している状況にあると言えます。

米国経済の好調さを背景に、ドイツの対米輸出が伸び、2024年の統計で米国は中国を抜きドイツ最大の輸出相手国となりました。

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