この記事で分かること
- エチレンの用途:プラスチック(合成樹脂)、合成繊維、様々な化学製品の原料となり、私たちの日常生活に欠かせない、非常に多岐にわたる製品の基盤となる重要な化学物質です。
- 製造減少の理由:少子化、人口減、代替原料の普及、製造業の海外移転など国内需要の減少、中国の自給化による輸出減少などもあり、日本国内のエチレン需要は長期的に減少傾向にあります。
エチレンの製造量減少
エチレンの製造量減少が続いています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC294CG0Z20C25A5000000/
2025年4月の国内エチレン稼働率は78.6%で、前月からは上昇しているものの、好不況の目安となる90%割れは33カ月連続となっています。
なぜ、稼働率が低くなっているのか
2025年4月の国内エチレン稼働率は78.6%でした。これは、3月の75.2%からは上昇しています。稼働率に影響を与える要因としては、以下のような点が挙げられます。
- 需要低迷: 国内のエチレン需要は、経済状況や最終製品の需要動向に左右されます。2025年度のナフサ需要(エチレン原料需要を含む)は、前年度比で減少が見込まれています。需要が低迷すると、生産量を絞るため稼働率が低下します。
- 国際的な市況: エチレンは国際的な取引が行われるため、海外の需給バランスや市況も国内の稼働率に影響を与えることがあります。
他にも設備の補修などの要因が複合的に影響して稼働率が変動します。
今後、ENEOSが川崎のエチレンプラント2基のうち1基を2027年度末までに停止し、1基化する方向で検討を進めているなど、国内のエチレン生産能力は長期的に縮小傾向にあります。

エチレンは国内の需要減少もあり、製造量減少が続いています。
エチレン需要減少の理由は
日本国内のエチレン需要減少の理由は、主に以下の要因が複合的に絡み合っています。
- 国内需要の構造的な減少
- 人口減少と高齢化: 日本の人口減少は、プラスチック製品を含む様々な最終製品の消費量の減少に直結します。特に、生活用品や家電製品などの需要に影響を与えます。
- 製造業の海外移転: かつてエチレンの大きな需要家であった製造業が、コスト削減や海外市場へのアクセスを求めて生産拠点を海外に移転しているため、国内での中間材料(エチレン誘導品)の需要が減少しています。
- 代替材料へのシフトと環境規制: プラスチックごみ問題への意識の高まりから、環境負荷の低い紙やバイオマス素材、リサイクル素材などへの代替が進んでいます。また、使い捨てプラスチック製品の削減に向けた法規制や企業の取り組みも、需要を減少させる要因となっています。
- 景気低迷と消費者の購買意欲低下: インフレの進行や経済の不透明感から、消費者の購買意欲が低下し、日用品や雑貨、住宅関連など、幅広い分野でのプラスチック製品の需要が伸び悩んでいます。
- 輸出環境の悪化とアジア市場の変化
- 中国の自給化進展: かつて日本のエチレン誘導品の大きな輸出先であった中国が、自国内で大規模な石油化学プラントを次々と建設し、エチレンおよびその誘導品の自給化を進めています。これにより、日本からの輸出が大幅に減少しています。
- アジア市場における供給過剰: 中国だけでなく、韓国、中東、東南アジアなどでも石油化学設備の増設が進んでおり、エチレンおよびその誘導品は世界的に供給過剰の状況にあります。これにより、日本の製品の競争力が低下し、輸出が困難になっています。
- 原油価格の変動と原材料コストの高騰
- エチレンの主原料であるナフサは原油から作られるため、原油価格の変動が製造コストに直接影響します。原油価格が高騰すると、製品価格も上昇し、最終製品の競争力低下や、代替材料へのシフトを加速させる可能性があります。
こ れらの要因が複合的に作用し、日本国内のエチレン需要は長期的に減少傾向にあります。これを受けて、日本の石油化学各社は、エチレンプラントの統廃合や高付加価値製品へのシフトなど、事業構造の変革を進めています。

少子化、人口減、代替原料の普及、製造業の海外移転など国内需要の減少、中国の自給化による輸出減少などもあり、日本国内のエチレン需要は長期的に減少傾向にあります。
エチレンは何に利用されるのか
エチレンは、「石油化学のコメ」とも呼ばれるほど、以下のように、現代社会において非常に幅広い製品の原料として利用されています。
プラスチック(合成樹脂)の原料
- ポリエチレン (PE): エチレンの最も大きな用途であり、エチレン需要の約50%を占めます。
- 低密度ポリエチレン (LDPE): 透明で柔軟性があり、主に食品包装フィルム、農業用マルチフィルム、レジ袋、シュリンクフィルム、気泡緩衝材(プチプチ)などに使われます。
- 高密度ポリエチレン (HDPE): 半透明で強度が高く、レジ袋、灯油缶、燃料タンク、シャンプー・洗剤容器、配水パイプ、ガス管などに使われます。
- 直鎖低密度ポリエチレン (L-LDPE): LDPEとHDPEの中間の性質を持ち、特に強度や加工性に優れ、包装材、農業用フィルムなどに使われます。
- ポリ塩化ビニル (PVC) の原料(塩化ビニルモノマー経由): 日用品、衣類、水道パイプ、断熱材、保護材、電線被覆などに利用されます。
- ポリスチレン (PS) の原料(スチレンモノマー経由): 家電の部品、建材ボード、食器、発泡スチロールなどに使われます。
- ABS樹脂の原料(スチレンモノマー経由): 家電製品の筐体、自動車部品、おもちゃなどに使われます。
- エチレン酢酸ビニル共重合体 (EVA): 接着剤、サンダル、スポーツシューズのソール、農業用フィルムなどに使われます。
合成繊維の原料
- ポリエステル繊維の原料(エチレングリコール経由): 衣料品、カーペット、ペットボトルなどに使われます。
化学製品の原料
- エチレングリコール (EG) の原料: ポリエステル繊維、PET樹脂、不凍液(自動車の冷却水)などに使われます。
- 界面活性剤の原料: 洗剤、シャンプーなどに使われます。
- 医療用器具の滅菌剤: プラスチック製の医療器具の滅菌に利用されます。
- 酢酸 (Acetic Acid) の原料(アセトアルデヒド経由): 酢酸ビニル(接着剤や塗料の原料)、合成繊維などに使われます。
- アルコール類(エタノール、高次アルコールなど): 溶剤、化粧品、洗剤、可塑剤などに使われます。
その他
- 植物ホルモン: 植物の成熟を促進する作用があり、バナナやキウイフルーツなどの果実の追熟に利用されます。
- 燃料ガス: 一部の溶接・切断作業や、石油化学工業での冷媒として利用されることもあります。

エチレンはプラスチック(合成樹脂)、合成繊維、様々な化学製品の原料となり、私たちの日常生活に欠かせない、非常に多岐にわたる製品の基盤となる重要な化学物質です。
エチレン製造で有力な企業はどこか
エチレンは石油化学産業の基礎となる重要な化学物質であり、世界中で多くの企業が製造しています。
日本国内の主なエチレン製造企業(エチレンセンター保有企業)
日本国内では、いくつかの主要な石油化学メーカーがエチレンプラントを保有し、生産を行っています。2023年末の生産能力(単位:千トン/年)に基づいて、主要な企業は以下の通りです。
- 出光興産
- ENEOS
- 京葉エチレン(丸善石油化学 55%、住友化学 45%の合弁会社)
- レゾナック(旧・昭和電工)
- 三井化学
- 三菱ケミカル旭化成エチレン:(旭化成 50%、三菱ケミカル 50%の合弁会社)
- 東ソー
- 三菱ケミカル
- 丸善石油化学
- 大阪石油化学 (三井化学 100%子会社)
これらの企業は、エチレンを自社の誘導品(ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニルモノマーなど)の原料として利用したり、他社に供給したりしています。
世界の有力企業
世界的に見ると、エチレンの生産能力は中国と北米(特に米国)で大幅に増加しています。
特にシェールガス由来のエチレン生産が増加している米国や、国内需要の拡大と自給化を進める中国の企業が世界的に有力な存在です。
具 体的な企業名としては、以下のようなグローバル企業が挙げられます。
- 中国の企業: Sinopec (中国石油化工), PetroChina (中国石油天然ガス集団) など、大規模な統合型石油化学コンビナートを運営しています。
- 米国の企業: ExxonMobil (エクソンモービル), Dow (ダウ), LyondellBasell (ライオンデルバセル), Chevron Phillips Chemical (シェブロン・フィリップス・ケミカル) など、特にシェールガス革命以降、大規模な投資を行っています。
- 中東の企業: SABIC (サウジ基礎産業公社) など、安価な原料ガスを背景に大規模な生産能力を有しています。
- 欧州の企業: BASF (BASF), INEOS (イネオス) など。

日本国内では、いくつかの主要な石油化学メーカーがエチレンプラントを保有し、生産を行っています。ただし、中国の自給化など近年、世界のエチレン市場は供給過剰気味であり、日本メーカーは高付加価値製品へのシフトやプラントの統廃合など、事業構造の変革を進めています。
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