生きた昆虫の触角を匂いセンサーとして活用した小型ドローンの開発 どうやって触角をにおいセンサにしているのか?触角を利用する利点は何か?

この記事で分かること

・どうやって触覚で匂いの発生源を探索しているのか:昆虫の触角に存在する特定の化学物質(匂い分子)を感知するための嗅覚受容体をセンサとして使用することでにおいを特定

・触覚の感覚をどうやって電気信号に変換するのか:匂い情報をリアルタイムで電気信号に変換して処理することで、ドローンが匂いの発生源を追跡できる仕組みになっている

・触角を利用する利点は何か:人口のセンサと比較しても、高感度高速応答省エネルギーという特徴があります。

生きた昆虫の触角を匂いセンサーとして活用した小型ドローンの開発

 信州大学と千葉大学の共同研究グループは、生きた昆虫の触角を匂いセンサーとして活用した小型ドローン、通称「バイオハイブリッドドローン」を開発しました。

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 このドローンは、カイコガの触角をセンサーとして利用し、匂いの発生源を探索する機能を持っています。従来のモデルでは探索範囲が約2メートルに限られていましたが、今回の改良により最大5メートル先の匂い源を特定することに成功し、小型ドローンによる匂い源探索の世界記録を更新しました。

どうやって触覚で匂いの発生源を探索するのか

 昆虫の触角には、特定の化学物質(匂い分子)を感知するための嗅覚受容体が備わっています。カイコガなどの昆虫は、空気中のフェロモンや食物の匂いを頼りに、発生源に向かって飛ぶ行動をします。これを応用したのが、信州大学と千葉大学の研究チームが開発したバイオハイブリッドドローンです。

匂いの発生源探索の仕組み

  1. 昆虫の触角をセンサーとして使用
    • カイコガの触角を切り取って電極を接続し、微弱な電気信号(嗅覚応答)を測定できるようにする。
    • 触角が特定の匂い分子に反応すると、その信号がセンサーを通じてドローンの制御システムに送られる。
  2. 匂いの方向を判断
    • ドローンが飛行しながら空気中の匂いを感知し、信号が強くなった方向へ進む。
    • 匂いの濃度が低下すれば、方向を修正して再探索する。
    • 昆虫が自然界で行う「ジグザグ飛行(匂い源探索行動)」を模倣する。
  3. 匂いの発生源を特定
    • 一定の範囲を飛行しながら、最も強い匂いが検出された地点を発生源と判断する。
    • 記録したデータを基に、地上のオペレーターに位置情報を送信する。

従来の人工センサーとの違い

  • 高感度: 人工的なガスセンサーでは検出が難しい超微量の匂い分子も、昆虫の触角なら感知可能。
  • 高速応答: 触角は匂い分子に即座に反応し、ほぼリアルタイムで情報を取得できる。
  • 省エネルギー: 電気化学センサーなどと比較して、動作に大きなエネルギーを必要としない。

昆虫の触角に存在する特定の化学物質(匂い分子)を感知するための嗅覚受容体をセンサとして使用することでにおいを特定しています。

なぜカイコガを選んだのか

 カイコガ(Bombyx mori)が選ばれた理由は以下のようにいくつかあります。

1. 嗅覚が非常に鋭敏

 カイコガのオスは、メスが放出するフェロモン(ボンビコール)を超微量(数ナノグラムレベル)でも感知できるほど嗅覚が優れています。これにより、人工センサーでは検出が難しい微弱な匂いでも探知可能になります。

2. 触角の電気信号が測定しやすい

 昆虫の触角は匂い分子に反応すると微弱な電気信号を発生しますが、カイコガの触角は安定して強い信号を出すため、センサーとして利用しやすい特徴があります。

3. 飼育が容易で個体のばらつきが少ない

 カイコガは人間が長年にわたって家畜化(家蚕化)しており、飼育が簡単で、個体ごとの差が少ないため研究に適したモデル生物です。他の昆虫に比べて、触角の生理特性が安定しているのも利点です。

4. フェロモン探索行動の研究が進んでいる

 カイコガのフェロモン探索行動は長年の研究で詳細に解明されており、匂い源へ向かう行動パターンをドローン制御に応用しやすいというメリットがあります。

カイコガは嗅覚が敏感、触覚の電気信号が測定しやすく、飼育が簡単であるなどの特徴から選ばれています。

触覚の感覚をどうやって電気信号に変換するのか

 昆虫の触角は、匂い分子を検出すると微弱な電気信号を発生させます。この信号を取り出し、ドローンの制御に活用するためには。「電気生理学的計測技術」を使っています。

 1. 触角の準備

  • カイコガの触角を慎重に切り取り、片方の端を電極に固定する。
  • 触角には、嗅覚受容体ニューロン(OSN: Olfactory Sensory Neurons)があり、匂い分子が受容体に結合すると電気的な活動が発生する。

2. 電極で信号を記録(EAG: 電気嗅覚計測法)

  • 「電気嗅覚図(EAG: Electroantennography)」と呼ばれる手法を使い、触角から発生する電気信号を記録する。
  • 具体的には、触角の基部(根元)と先端に電極を取り付け、匂い刺激によって発生する電圧変化を測定する。
  • 匂い分子が触角の嗅覚受容体に結合すると、ナノボルト~マイクロボルトレベルの電位変化が発生する。

3. 信号を増幅・解析

  • 触角から得られる電位変化は非常に微弱なため、増幅器(アンプ)を使って増幅する。
  • その後、信号をデジタル化し、匂いの種類や濃度を解析するアルゴリズムに送る。

4. ドローンの制御に活用

例えば、匂いが強くなった方向に進むことで、最終的に匂いの発生源を特定する。

匂いの強弱や方向に応じて、ドローンの動きを調整する。

昆虫の触角を「生体センサー」として利用し、匂い情報をリアルタイムで電気信号に変換して処理することで、ドローンが匂いの発生源を追跡できる仕組みになっています。

嗅覚受容体とは何か

 嗅覚受容体は、匂い分子(揮発性化学物質)を感知するための特殊なタンパク質で、主に昆虫では触角の嗅覚感覚子(Sensilla)の内部に存在します。これらの受容体は、特定の匂い分子と結合することで電気信号を発生させ、脳(または神経節)に匂い情報を伝えます。

1. 受容体の構造と機能

  • 昆虫の嗅覚受容体は主に「嗅覚受容体(OR)」「共通共受容体(Orco)」の2種類で構成されています。
  • ORは特定の匂い分子を認識し、Orcoと組み合わさることで、電気信号を発生させるイオンチャネルとして機能します。
  • この仕組みは、哺乳類のGタンパク質共役受容体(GPCR)とは異なる独自のシステムです。

2. 匂い分子の認識プロセス

  1. 匂い分子が昆虫の触角にある感覚子に到達する。
  2. 嗅覚受容体(OR)が特定の匂い分子をキャッチする。
  3. ORと結合した匂い分子がイオンチャネルを開き、細胞内外のイオン濃度を変化させる。
  4. これにより、電気信号(活動電位)が発生し、嗅覚神経を通じて脳へ伝わる。

昆虫の嗅覚受容体の特徴

  • 高い選択性: それぞれのORは特定の化学物質に特化しているため、異なる匂い分子を識別できる。
  • 超高感度: カイコガのオスは、わずか数ナノグラムのフェロモンでも検出可能。
  • 速い応答: 匂い分子の結合と信号伝達が迅速に行われ、瞬時に環境の変化を察知できる。

応用例(嗅覚受容体を活用した技術)

昆虫の触角を利用したバイオセンサー(バイオハイブリッドドローン)

信州大学と千葉大学の研究では、カイコガの嗅覚受容体が特定のフェロモンに応答する性質を活用。

電気信号として検出し、ドローンの匂い源探索に利用。

人工嗅覚センサーの開発

昆虫のORを人工的に組み込んだバイオセンサーを作り、危険物質や食品の腐敗を検知する技術が研究されている。

害虫駆除や農業応用

フェロモンを使った害虫の誘引・捕獲装置の開発。

昆虫の嗅覚受容体は、特定の匂い分子を高感度かつ選択的に検出する能力を持ち、その特性を活かした応用研究が進められています。

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