アモルファス合金を利用したEVモーターの開発 アモルファス合金とは何か?EVモーターでの利用のメリットは?

この記事で分かること

  • アモルファス合金とは:原子が不規則に並んだ「非晶質」の金属で、急冷によって作られます。これにより、低鉄損、高強度、優れた耐食性といった特性を持っています。
  • EVのモーターとしてのメリット:従来の鋼板と比較し、エネルギー損失が小さいため、モーターの高効率化、発熱抑制、小型・軽量化を実現可能です。

アモルファス合金を利用したEVモーターの開発

 非晶質合金、アモルファス合金の特性を活かしたEVモーターの開発が進められています。

 アモルファス合金は、結晶構造を持たない金属材料であり、EVモーターの性能向上への貢献が期待されています。

アモルファス合金とは何か

 アモルファス合金(Amorphous Alloy)は、「非晶質合金」とも呼ばれ、原子が規則正しい配列(結晶構造)を持たず、ガラスのように不規則な配列をしている金属材料のことです。

 通常の金属は、溶けた状態からゆっくり冷やすと、原子が規則正しく並んだ結晶構造を形成します。しかし、アモルファス合金は、溶融状態から非常に速い速度で急冷することで、原子が規則的な配列になる時間を与えず、ランダムな配置のまま固化させます。

 この「超急冷」が、アモルファス合金を製造する上で最も重要なポイントです。

アモルファス合金の主な特徴

 アモルファス合金は、その独特な原子構造により、従来の結晶質合金にはない様々な優れた特性を持ちます。

優れた軟磁性・低鉄損(コアロス)

  • 結晶構造を持たないため、磁化の方向を妨げる結晶粒界が存在しません。これにより、磁気を加えたり取り除いたりする際に発生するエネルギー損失(鉄損)が極めて小さいです。
  • この特性は、モーターやトランスの効率を大幅に向上させ、省エネルギー化に貢献します。

高強度・高靭性(粘り強さ)

  • 原子が不規則に配列しているため、結晶構造に見られるような転位(原子配列のずれ)や欠陥がほとんどなく、均一な構造をしています。
  • これにより、非常に高い強度と、金属でありながらガラスのような弾性を併せ持ちます。

優れた耐食性

  • 結晶粒界がないため、腐食の起点となる部分が少なく、非常に優れた耐食性を示します。
  • 表面に緻密な酸化皮膜(不動態膜)を形成しやすく、自己修復する能力も持ちます。

高透磁率

  • 磁気を伝えやすい性質が高く、磁気回路の効率を向上させます。

高い硬度・耐摩耗性

  • 非常に硬く、摩耗しにくい性質を持っています。セラミックに近い硬度を持つものもあります。

低い熱伝導性

  • 熱を伝えにくい性質を持つものもあります。

アモルファス合金の製造方法

 主な製造方法は、溶融した合金を冷却ロールなどに接触させて急冷する「ロール法」や、溶融金属を液中に噴射して細線を作る「回転液中紡糸法」などがあります。

 非常に速い冷却速度が必要なため、薄いリボン状や細線状に成形されることが多いです。

アモルファス合金の用途

 その優れた特性から、様々な分野で活用されています。

  • 電力・電子機器
    • 高効率トランスの鉄心:低鉄損の特性を活かし、電力損失を削減します。
    • モーターコア:EV(電気自動車)用モーターなど、高効率化が求められる分野で注目されています。
    • ノイズフィルタ、磁気ヘッド、電源回路部品など。
  • 医療技術
    • 生体適合性が高く、人間の骨に近い弾性を持つため、インプラントや整形外科用部品に研究・応用が進んでいます。
  • 構造材料
    • 高強度・高靭性・耐食性を活かし、航空宇宙部品、スポーツ用品、精密機械部品、耐食性コーティングなどに利用されます。
  • センサー技術
    • 高い感度と安定性から、圧力センサー、ロードセルなどに使われます。
  • その他
    • 3Dプリンティングの素材、ジュエリー、楽器など。

 アモルファス合金は、「夢の合金」とも呼ばれるように、従来の金属では実現できなかった特性の組み合わせを持つ新素材として、今後のさらなる応用が期待されています。

アモルファス合金は、原子が不規則に並んだ「非晶質」の金属で、急冷によって作られます。これにより、低鉄損、高強度、優れた耐食性といった特性を持ち、EVモーターや高効率トランスなど、省エネルギーや高性能化が求められる分野で活用が期待されています。

EVモーターでの利用法は

 アモルファス合金は、その優れた軟磁性特性を活かして、EVモーターの主要部品であるモーターコア(鉄心)に利用されます。

 従来のEVモーターで使われている電磁鋼板の代替として、その性能を飛躍的に向上させることが期待されています。

 具体的には、以下のような形で利用され、EVの性能向上に貢献します。

  1. モーターコアとしての活用(最も主要な利用法)
    • 低鉄損(コアロス)の実現: アモルファス合金は、結晶構造を持たないため、磁気の変化によって発生するエネルギー損失(鉄損、またはコアロス)が極めて小さいです。従来の電磁鋼板に比べて、鉄損を1/5から1/10以下に削減できるとされています。EVモーターは、回転時に常に磁気が変化するため、この鉄損が大きければ大きいほど、熱としてエネルギーが無駄になります。アモルファス合金をモーターコアに適用することで、この無駄な熱発生を大幅に抑え、モーターの効率を劇的に向上させることができます。
    • 高効率化: 鉄損の低減により、モーターが同じ電力量でより多くの運動エネルギーを生み出せるようになります。これにより、EVの航続距離の延伸や、同じ航続距離であればバッテリーの小型化・軽量化が可能になります。
    • 発熱抑制: 損失が少ないため、モーター自体の発熱が抑えられます。これにより、モーターの冷却システムの簡素化や小型化が可能になり、EV全体の軽量化やコスト削減に繋がります。また、熱による部品の劣化も抑えられ、モーターの長寿命化も期待できます。
    • 小型・軽量化、高出力化: アモルファス合金は、高透磁率であるため、より少ない磁性材料で強力な磁場を生成できます。これにより、モーターの小型化・軽量化が可能になり、車体全体の軽量化やスペース効率の向上に貢献します。また、同じサイズであれば、より高出力のモーターを設計することも可能になります。特に、EVで求められる高速回転に対応したモーターの実現に寄与します。

製造上の課題と取り組み

 アモルファス合金は非常に薄いリボン状(帯状)で製造されることが多く、これを何百枚、何千枚も積層してモーターコアを形成する必要があります。

 従来の電磁鋼板のようにプレス加工で打ち抜くのが難しいため、積層技術や接合技術、加工技術の確立が量産化の鍵となります。

 現在、多くの企業や研究機関が、アモルファス合金を用いたEVモーターの開発や量産化に向けて取り組んでいます。例えば、プロテリアルやビザイム、ネクストコアテクノロジーズといった企業が、アモルファス合金を用いたモーターコアの製品化や、その技術開発を進めています。

 このように、アモルファス合金はEVモーターの「心臓部」に組み込まれることで、EVのさらなる高性能化と省エネルギー化を推進する、重要なキーマテリアルとして期待されています。

アモルファス合金は、EVモーターの鉄心(コア)に利用され、従来の電磁鋼板に比べて鉄損を大幅に低減します。これによりモーターの高効率化、発熱抑制、小型・軽量化を実現し、EVの航続距離延伸やバッテリー小型化に貢献します。

結晶構造を持たないとエネルギー損失が少ないのはなぜか

 結晶構造を持たないアモルファス合金が、結晶質の金属材料に比べてエネルギー損失が少ない主な理由は、磁気特性と電気伝導性の両面にあります。モーターなどで発生するエネルギー損失(主に鉄損)は、大きく分けてヒステリシス損失渦電流損失の二つに分類されます。

1. ヒステリシス損失が少ない理由

 ヒステリシス損失は、磁性材料に外部から磁場をかけたときに磁化し、その磁場を取り除いたときに磁化が元の状態に戻りにくい現象(磁気ヒステリシス)によって生じるエネルギーの損失です。この損失は、磁化の方向を変える際に発生する内部的な「摩擦」のようなものと考えることができます。

  • 結晶粒界の欠如: 結晶質の金属材料は、多数の小さな結晶(結晶粒)が集まってできており、それぞれの結晶粒の境目には「結晶粒界」が存在します。この結晶粒界は、原子配列が不規則であったり、不純物が集まったりする領域であり、磁化の方向を変化させる「磁壁」の移動を妨げる障害物となります。磁壁がこれらの障害物を乗り越える際にエネルギーが必要となり、これがヒステリシス損失の原因の一つとなります。 しかし、アモルファス合金は、結晶構造を持たないため、結晶粒界が存在しません。そのため、磁壁の移動がスムーズに行われ、エネルギー損失が大幅に低減されます。
  • 結晶磁気異方性の低減: 結晶質の材料では、結晶の特定の方向に磁化しやすさ(結晶磁気異方性)があります。磁化の方向が結晶軸に対して傾くと、余分なエネルギーが必要になります。アモルファス合金は、原子配列がランダムであるため、この結晶磁気異方性が非常に小さく、どの方向にも磁化しやすい性質(磁気的に等方的)を持ちます。これにより、磁化の方向転換に必要なエネルギーが少なくなり、ヒステリシス損失が低減されます。
  • 内部応力の均一性: 結晶質の材料では、製造過程や熱処理によって不均一な内部応力が発生しやすく、これが磁壁の移動を妨げ、ヒステリシス損失を増加させることがあります。アモルファス合金は構造が均一であるため、内部応力に起因する損失が少ない傾向にあります。

2. 渦電流損失が少ない理由

 渦電流損失は、磁性材料中で磁場が時間的に変化することで、その材料内部に誘導される渦状の電流(渦電流)によって発生するジュール熱(抵抗による発熱)による損失です。

  • 高い電気抵抗率: アモルファス合金は、原子配列が不規則であるため、自由電子の移動が結晶質材料に比べて妨げられやすくなります。このため、電気抵抗率が非常に高くなります(通常の電磁鋼板の数倍〜数倍)。 渦電流損失は、材料の電気抵抗率に反比例します。電気抵抗率が高いということは、電流が流れにくいということなので、渦電流が発生してもその大きさが小さくなり、結果としてジュール熱の発生が抑えられ、渦電流損失が低減されます。
  • 薄い板厚(製造上の特性): アモルファス合金は、超急冷という製造方法の特性上、非常に薄いリボン状(帯状)で製造されます。渦電流損失は、材料の厚さの2乗に比例するため、この薄い板厚も渦電流損失を低減する大きな要因となります。従来の電磁鋼板でも積層して渦電流損失を減らす工夫がされていますが、アモルファス合金はもともと極めて薄いため、さらに効果的です。

 これらの理由から、結晶構造を持たないアモルファス合金は、従来の結晶質金属材料と比較して、ヒステリシス損失と渦電流損失の両方を大幅に削減できるため、モーターなどの磁性部品において極めて低いエネルギー損失を実現できるのです。

結晶構造を持たなアモルファス合金は、原子配列が不規則なため、磁気の方向転換を妨げる結晶粒界がなく、磁化の損失(ヒステリシス損失)が少ないです。また、電気抵抗率が高いため、渦電流の発生も抑えられ、エネルギー損失が大幅に低減されます。

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