この記事で分かること
・結晶スポンジ法とは何か:結晶スポンジ法は、X線結晶構造解析を利用して微量の有機化合物の構造を決定する手法。「非結晶性の化合物」や「微量の試料」の解析が可能になる。
・X線結晶構造解析:X線結晶構造解析は、結晶化した物質にX線を照射し、その回折パターンを解析することで、分子や原子の立体構造を明らかにできる
・第二世代の特徴:かご型分子であるMOFの構造を最適化することで、より多くの種類の分子(親水性分子や中分子)を解析できるようになった
第二世代結晶スポンジ法の開発
東京大学の研究チームが、従来の結晶スポンジ法(CS法)の欠点を克服し、より広範な分子の構造解析を可能にする「第二世代結晶スポンジ法」を開発したことがニュースになっています。

従来のCS法は、分子量約300以下の疎水性分子に限定され、熟練した技術が必要でした。 新たに開発された第二世代CS法では、かご型分子を結晶内に固定化することで、親水性分子や分子量1,000を超える中分子の構造解析が可能となりました。
これにより、創薬研究や医薬品開発への幅広い応用が期待されています。
結晶スポンジとは何か
結晶スポンジ法(Crystal Sponge Method, CS法)とは、X線結晶構造解析を利用して微量の有機化合物の構造を決定する手法です。2013年に東京大学の藤田誠教授らによって開発されました。
結晶スポンジ法の原理
- 「結晶スポンジ」と呼ばれる多孔性の金属有機構造体(MOF)を用意
- この結晶スポンジには、分子が入り込むナノレベルの細孔が無数に存在します。
- 調べたい有機分子を結晶スポンジに吸収
- 試料を溶液に溶かし、結晶スポンジに浸すことで、内部の空間に分子が取り込まれます。
- X線結晶構造解析を実施
- 通常、有機分子の結晶構造を調べるには、その分子単体での結晶化が必要ですが、結晶スポンジ法では分子がスポンジ内に整列することで、X線回折を用いた解析が可能になります。
- 結晶スポンジ法の登場により、X線結晶解析の適用範囲が広がり、従来困難だった「非結晶性の化合物」や「微量の試料」の解析も可能になりました。
応用分野
- 創薬(中分子医薬の構造解析)
- 香料・天然物化学(微量な成分の解析)
- 化学反応のメカニズム解明

結晶スポンジ法は、X線結晶構造解析を利用して微量の有機化合物の構造を決定する手法で、従来困難だった「非結晶性の化合物」や「微量の試料」の解析が可能になっています。
X線結晶構造解析ではどんなことがわかるのか
X線結晶構造解析(X-ray Crystallography)は、結晶化した物質にX線を照射し、その回折パターンを解析することで、分子や原子の立体構造を明らかにする手法です。
X線結晶解析でわかること
- 原子の3D配置
- 原子が空間的にどのように配置されているかをナノスケールで可視化できる。
- 例:タンパク質や有機化合物の立体構造。
- 結合の種類と長さ
- 分子内の共有結合、水素結合、イオン結合の有無と結合距離が測定可能。
- 例:医薬品の有効成分がどのように結合しているか。
- 電子密度分布
- 原子の周囲の電子の分布を推定し、分子の化学的性質を理解する手助けになる。
- 例:部分的に電荷を持つ分子領域の特定。
- 分子間相互作用
- 分子同士がどのように相互作用しているかがわかる。
- 例:タンパク質-リガンド結合の解析(創薬に重要)。
- 結晶の対称性(空間群)
- 結晶の幾何学的な対称性や配列パターンを特定できる。
- 例:結晶の安定性や物性の理解に役立つ。
X線結晶解析の応用
地球科学:鉱物や結晶質物質の構造解析。
創薬:医薬品のターゲットとなるタンパク質や受容体の構造を解析。
材料科学:新規ナノ材料や半導体の結晶構造を調査。
有機化学:合成した化合物の構造確認。

X線結晶構造解析は、結晶化した物質にX線を照射し、その回折パターンを解析することで、分子や原子の立体構造を明らかにするもので、様々な分野での応用が行われてます。
従来の方法との違いは何か
結晶スポンジ法では、MOFを「結晶スポンジ」として利用し、ゲスト分子を取り込みX線結晶構造解析を行います。
従来の方法では親水性分子や分子量1,000を超える中分子に対応することは難しかったが、第2世代結晶スポンジ法では、かご型分子であるMOFの構造を最適化することで、より多くの種類の分子(親水性分子や中分子)を解析できるようになりました。
MOFの柔軟な設計性と高い吸着能力を活かし、化学分析・創薬研究などに応用が広がっています。

結晶スポンジである金属有機構造体を最適化することで、より多くの種類の分子に適応することが可能になりました。
かご型分子とは何か
カゴ型分子(Cage Compound, Cage-like Molecule)とは、原子や分子が三次元的に結びついてかご(ケージ)状の構造を形成している分子のことです。
特徴
- 中が空洞になっているため、内部に他の分子やイオンを取り込める。
- 剛直な立体構造を持つことが多く、分子認識や触媒などの用途に適している。
- 共有結合型と非共有結合型の2種類がある。
代表的なカゴ型分子
- フラーレン(C₆₀, C₇₀ など)
- 炭素原子のみで構成される球状の分子。
- 高い安定性を持ち、電子材料や医療分野で注目されている。
- カバードカラン(Carcerand)
- 分子の内部に小さな分子を閉じ込めることができる分子カプセル。
- ゲスト分子を取り込み、特定の反応を促進する。
- ポルフィリン錯体
- 金属イオンを含む環状分子で、ヘム(血液中の鉄を含む部分)などの構造の基本単位。
- 触媒や光エネルギー変換に応用される。
- ゼオライト(天然・合成のケージ状無機化合物)
- SiO₄とAlO₄が結合して形成された細孔を持つ鉱物。
- 吸着材やイオン交換材、触媒として広く使われる。
- 金属有機構造体(MOF, Metal-Organic Framework)
- 金属イオンと有機配位子が結合した多孔性材料。
- 結晶スポンジ法に利用されるカゴ型分子の一種で、ゲスト分子を取り込みやすい。
カゴ型分子の応用
創薬(薬剤の安定化や徐放性の制御)
分子カプセル(特定の分子を選択的に取り込み、薬物送達に応用)
触媒(閉じ込めた分子の化学反応を制御)
ガス貯蔵・分離(水素貯蔵、CO₂吸収など)

カゴ型分子とは、原子や分子が三次元的に結びついてかご(ケージ)状の構造で、中が中空かつ剛直なため、内部に特定の分子やイオンを取り込むことが可能です。
金属有機構造体(MOF)とは何か
金属有機構造体(MOF)とは、金属イオンまたは金属クラスターと有機配位子が結合して形成される多孔性の結晶性材料です。ナノレベルの細孔を持ち、さまざまな分子を取り込める特性があります。
MOFの基本構造
M OFは、以下の2つの要素で構成されます。
- 金属ノード(金属イオンまたは金属クラスター)
- Zn²⁺(亜鉛)、Cu²⁺(銅)、Zr⁴⁺(ジルコニウム)、Fe³⁺(鉄)など
- 有機配位子(リンク剤)
- ベンゼンジカルボン酸(BDC)
- 2,6-ナフタレンジカルボン酸(NDC) など
金属ノードが有機配位子と結合し、三次元のネットワークを形成することで、MOFの多孔構造が生まれます。
MOFの特徴
- 超高比表面積(1gあたり数千m²の表面積)
- 多様な設計が可能(金属・有機配位子の選択により、性質を調整できる)
- 選択的な分子吸着・貯蔵(特定の分子のみを取り込む能力)
- 化学的・熱的安定性が高い
- ガス分離や触媒機能を持つ
MOFの主な応用分野
- ガス貯蔵・分離
- 水素貯蔵(燃料電池用)
- 二酸化炭素吸収・分離(環境対策)
- メタンガスの貯蔵(エネルギー用途)
- 触媒
- 有機反応の触媒(高効率な化学反応を実現)
- 光触媒(太陽光を利用した分解・合成)
- 医薬・バイオ
- ドラッグデリバリー(薬物をナノレベルで封じ込め、徐放制御)
- バイオセンシング(特定の分子を検出)
- 分子の分離・精製
- 水処理・汚染物質除去(重金属イオンや有機溶媒の吸着)
- 化学物質の選択的分離(医薬品の精製)
- 電子・エネルギー材料
- 電池電極材料(リチウムイオン電池の性能向上)
- 超キャパシタ(高性能蓄電デバイス)

金属有機構造体(MOF)とは、金属イオンまたは金属クラスターと有機配位子が結合した化合物で、ナノレベルの細孔を持ち、さまざまな分子を取り込むことが可能です。
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