デクセリアルズの光電融合材料開発 光電融合とは何か?どんな材料を開発するのか?

この記事で分かること

  • 光電融合とは:これまで電気信号で行っていたチップ間のデータ伝送を「光信号」に置き換える技術です。電子回路と光回路を同じ基板上に高密度に統合することで、通信の超高速化、低遅延、大幅な消費電力削減を実現します。
  • どんな材料を開発するのか:チップを高密度に繋ぐ「粒子整列型異方性導電膜(ACF)」や、光の軸を精密に固定する「低収縮・低アウトガス接着剤」、熱に強い「無機光学デバイス」など、光電融合の実装に不可欠な高機能材料を開発しています。
  • なぜ、ACFで電子が規則的に並ぶのか:フィルム上に微細なポケット(穴)を等間隔に配置した専用の型を用い、導電粒子を一つずつ物理的に流し込む独自のパターニング技術を採用しています。これにより、粒子同士の凝集や隙間を防ぎ、超高密度な接続でもショートさせず確実な導通を可能にしています。

デクセリアルズの光電融合材料開発

 デクセリアルズ(Dexerials)は、次世代の高速通信・AIサーバー技術として注目される光電融合(CPO: Co-Packaged Optics)分野において、同社の強みである「接着」と「光」の技術を融合させた高機能材料を展開しています。

 光電融合とは、従来は別々に配置されていた「電気チップ」と「光通信チップ」を一つの基板上に高密度に実装する技術です。デクセリアルズはこの実装プロセスの課題を解決する材料開発に注力しています。

光電融合とは何か

 光電融合(Optical-Electrical Convergence)コンピュータの内部まで光ファイバーのような『光通信』を持ち込む技術」のことです。 

 現在のコンピュータやサーバーは、機器同士の接続には光(光ファイバー)を使っていますが、機器の「中」にあるチップ(CPUやGPU)同士のやり取りは、すべて電気信号で行っています。これを光信号に置き換えるのが光電融合の狙いです。


1. なぜ光電融合が必要なのか

 現在、AI(人工知能)の進化に伴い、データ処理量が爆発的に増えています。しかし、従来の「電気」による通信には限界が近づいています。

  • 電気の限界(熱と抵抗): 電気信号を速く、遠くへ飛ばそうとすると、配線の抵抗で大量のが発生します。これを冷やすために莫大な電力が必要になり、省エネ化の壁となっています。
  • 光のメリット: 光は電気に比べて「速い」「熱が出にくい」「一度に大量のデータを送れる」という特性があります。

2. 進化のステップ

 光電融合は、一気にすべてが変わるわけではなく、段階的にチップへ近づいていきます。

段階状態特徴
ステップ 1光トランシーバー機器の外側に差し込む「プラグ」のような形状。現在主流。
ステップ 2CPO (Co-Packaged Optics)チップと同じ基板(パッケージ)の上に、光通信用の部品を載せる。
ステップ 3チップ間・チップ内光通信チップの内部まで光回路が入り込み、演算と通信を光で行う。最終形態。

3. 実現によるメリット

 光電融合が実現すると、私たちの社会に以下のような変化が期待されます。

  • 超低消費電力: データセンターの消費電力を劇的に下げ、環境負荷を減らせます(IOWN構想などでは、電力効率100倍を目指しています)。
  • 超低遅延: 信号の遅延がなくなるため、自動運転や遠隔手術などのリアルタイム性が求められる技術がより安全になります。
  • AIの限界突破: GPU同士の通信が高速化されるため、今の何倍もの規模のAIモデルを動かせるようになります。

 これまでは「光は遠くへ送るもの(通信)」、「電気は計算するもの(コンピュータ)」と役割が分かれていました。

 光電融合は、この2つの境界線をなくし、「光の速さで計算するコンピュータ」を実現するための鍵となる技術です。

光電融合とは、これまで電気信号で行っていたチップ間のデータ伝送を「光信号」に置き換える技術です。電子回路と光回路を同じ基板上に高密度に統合することで、通信の超高速化、低遅延、大幅な消費電力削減を実現します。

どんな材料を開発するのか

 デクセリアルズが光電融合(特にCPO:Co-Packaged Optics)向けに開発・提供している材料は、主に「つなぐ」「守る」「整える」という3つの役割に集約されます。

 電気信号と光信号を一つの基板に閉じ込めるため、従来の電子材料よりも一段上の精度が求められます。


1. 「つなぐ」材料(高密度実装)

 チップと基板を電気的に接続するための材料です。

  • 粒子整列型異方性導電膜(ACF): 導電粒子を1つずつ規則正しく並べることで、隣り合う端子が極めて近い(微細な)状態でも、ショートさせずに確実に接続します。AIサーバー等の超多ピン接続に不可欠です。

2. 「守る」材料(光学接着・封止)

 光ファイバーやレンズなどの光学部品を固定し、保護するための材料です。

  • 低収縮・低アウトガス接着剤: 接着剤が固まる時に縮むと、光の軸がズレて通信エラーになります。これを防ぐ「縮まない」技術と、レンズを曇らせる原因となる「ガスを出さない」技術が使われています。

3. 「整える」材料(光制御デバイス)

 光の性質をコントロールし、信号の品質を高める材料です。

  • 無機偏光板・波長板: 熱に強い無機材料(ガラス等)をベースにした光学素子です。光電融合モジュール内部は高温になるため、従来の樹脂製では耐えられない過酷な環境下で光の向きや色を整えます。

開発の全体イメージ

 光電融合では、下図のようにシリコン基板(SiP)上に光エンジンを直接載せるため、これらの材料がパズルのピースのように組み合わさります。


 デクセリアルズは、これらの材料を組み合わせることで、「電気の通り道」と「光の通り道」を数ミリの隙間に共存させる技術を開発しています。

デクセリアルズは、チップを高密度に繋ぐ「粒子整列型異方性導電膜(ACF)」や、光の軸を精密に固定する「低収縮・低アウトガス接着剤」、熱に強い「無機光学デバイス」など、光電融合の実装に不可欠な高機能材料を開発しています。

なぜ、ACFで電子が規則的に並ぶのか

 デクセリアルズの「粒子整列型ACF(アレイフィックス)」で導電粒子が規則的に並ぶのは、独自の「ナノ・マイクロレベルのパターニング技術」を用いているからです。

 従来のACFは、接着剤(樹脂)の中に粒子をバラバラに混ぜていただけでしたが、整列型は以下のプロセスで作られます。


1. 粒子を配置する「型」を作る

 まず、フィルム上に導電粒子が1つずつ収まる「微細なポケット(穴)」を等間隔に配置した専用の版やシートを用意します。

2. 粒子を1つずつ埋め込む

 そのポケットに導電粒子を流し込み、物理的あるいは化学的な手法で「決まった位置」に固定します。これにより、粒子同士がくっついたり、逆に隙間が空きすぎたりするのを防ぎます。

3. 樹脂でコーティングする

 粒子が並んだ状態で上から接着樹脂を被せ、フィルム状に成形します。


なぜ「規則的」である必要があるのか

 光電融合のような超高密度な基板では、端子同士の距離が極めて近いため、従来のバラバラな配置だと以下の問題が起きます。

  • ショート(短絡): 粒子が固まっている場所で、隣の端子とつながってしまう。
  • 導通不良: 粒子がいない場所に端子が来てしまい、電気が流れない。

 規則的に並べることで、どの端子の下にも必ず一定数の粒子が存在する状態を作り出し、接続の信頼性を劇的に高めています。

デクセリアルズは、フィルム上に微細なポケット(穴)を等間隔に配置した専用の型を用い、導電粒子を一つずつ物理的に流し込む独自のパターニング技術を採用しています。これにより、粒子同士の凝集や隙間を防ぎ、超高密度な接続でもショートさせず確実な導通を可能にしています。

なぜ効率が良いのに光電融合モジュール内部は高温になるのか

 光電融合は「通信」の効率を劇的に高めますが、モジュール内部が高温になるのには主に2つの理由があります。

1. 演算チップ(GPU/CPU)の巨大化

 光電融合の主な目的は、AI学習などの膨大な計算を処理することです。光通信でデータの「通り道」が高速化されると、その先の演算チップが休みなくフル稼働できるようになります。

  • 結果: 演算チップ自体が発する熱量が凄まじく、同じ基板上に載っている光モジュールまで熱の影響を強く受けます。

2. 電気・光変換の「ロス」

 光信号と電気信号を変換する際、100%の効率で変換できるわけではありません。

  • 回路の抵抗: 変換回路(ドライバーICなど)を動かす際にも電気が流れ、そこから熱が発生します。
  • 高密度化: 「光電融合」は部品を極限まで近づけて小さくするため、熱がこもりやすい構造(熱密度が高い状態)になってしまいます。

光通信によりデータ転送の停滞がなくなることで、演算チップ(GPU等)がフル稼働し続け、膨大な熱を発するからです。また、部品を極限まで密集させるため、変換回路のわずかなロスによる熱もこもりやすくなります。

なぜ前倒しにするのか

 デクセリアルズが光電融合(CPO)向け材料の計画を前倒しにしている背景には、「AI市場の爆発的な加速」「技術的な優位性」の2点があります。

1. なぜ前倒しにするのか

 最大の理由は、NVIDIAなどのAIチップメーカーの進化スピードが想定を上回っているからです。

  • データセンターの限界: 従来の「電気」による通信では、消費電力と発熱が限界に達しており、次世代AIサーバーの実現にはCPOが「待ったなし」の状態です。
  • 先行者利益: CPO市場は2026年〜2028年に本格普及すると予測されています。デクセリアルズはこのタイミングに供給体制(新ライン)を合わせることで、デファクトスタンダード(事実上の標準)を狙っています。

2. 実現性はあるのか

 実現性については、以下の3つの根拠から「かなり高い」と評価されています。

  • 既存技術の転用: まったく新しい技術を開発するのではなく、すでにスマホや液晶向けで世界シェアを独占している「ACF」や「リソグラフィ技術」を応用しているため、技術的ハードルが明確です。
  • 買収による補完: 2023年に旧日立化成の光機能材料事業を買収したことで、自社に欠けていた「光を操る材料」を手に入れ、開発スピードを劇的に上げました。
  • 顧客との密接な連携: CPOはチップメーカーやOSAT(後工程受託メーカー)との共同開発が必須です。デクセリアルズはすでにこれら主要プレイヤーと試作・評価段階に入っているため、勝算を持って投資しています。

AIサーバーの急速な進化でCPOの実装が急務となったためです。同社は世界シェア首位のACF技術と、買収で得た光技術を融合させており、主要メーカーとの共同開発も進んでいることから、実現性は極めて高いと言えます。

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