半導体後工程:ダイシング どのような種類があるのか?

この記事で分かること

  • ダイシングとは:ウェハ上に形成された多数のICチップを、個々のチップに切り分ける工程です。ダイヤモンドブレードやレーザー、プラズマなどを用いて、ウェハ上の回路を傷つけずに正確に切断します。
  • ブレードダイシングとは:ダイヤモンド砥粒を埋め込んだ極薄いブレード(刃)を高速回転させ、水をかけながらウェハを切断する最も一般的なダイシング方法です。
  • レーザーダイシングは、レーザー光をウェハに照射して個々のチップに切り分ける非接触の技術です。物理的に切断するブレード方式よりもチッピング(欠け)やクラックの発生を抑えられることが可能です。

半導体後工程のダイシング工程

 チップの微細化による性能向上の限界が見え始めていることから、半導体製造において前工程から後工程へと性能向上開発の主戦場が移り始めています。

 複数のチップを効率的に組み合わせて性能を引き出す「後工程」の重要性が増しています。

 前回の記事では、後工程全体の概略でしたが今回はダイシングに関する記事となります。

ダイシングとは何か

 半導体製造におけるダイシングは、前工程で多数の集積回路(IC)が形成された円形のウェハを、個々のチップ(ダイ)に切り分ける工程です。これは半導体後工程の中心的なプロセスの一つです。

ダイシングの主な方式

 ダイシングには、主に以下の3つの方式があります。

  • ブレードダイシング ダイヤモンド製の極薄いブレード(刃)を高速回転させ、水をかけながらウェハを切断する最も一般的な方法です。物理的に切断するため、チップの欠け(チッピング)が発生しやすいという課題があります。
  • レーザーダイシング レーザーをウェハに照射して切断する方式です。ウェハを昇華・蒸発させて切断する「レーザーアブレーション」と、ウェハ内部にレーザーで改質層を形成し、外力で切り離す「レーザーステルスダイシング」があります。非接触で加工するため、チッピングの発生を抑えられます。
  • プラズマダイシング 真空中でプラズマ(ドライエッチング)を用いてウェハを削り、チップ化する方式です。切断幅が狭く、より多くのチップをウェハから取れる利点があります。

ダイシング工程の位置づけ

 ダイシングは、ウェハの裏面を薄く研削する「裏面グラインディング」の後に行われ、切り出されたチップは、基板への固定(ダイボンディング)や配線(ワイヤボンディング)などの次の工程に進みます。

半導体製造の後工程であるダイシングは、ウェハ上に形成された多数のICチップを、個々のチップに切り分ける工程です。ダイヤモンドブレードやレーザー、プラズマなどを用いて、ウェハ上の回路を傷つけずに正確に切断します。

ブレードダイシングとは何か

 ブレードダイシングは、ダイヤモンドの砥粒を埋め込んだ極薄い円形のブレード(刃)を高速回転させ、水をかけながらウェハを切断する、最も一般的なダイシング方法です。物理的な切断で個々のチップ(ダイ)に分離します。


仕組みと特徴

 ブレードダイシングは、ウェハを専用の粘着テープに固定し、ブレードがウェハの溝に沿って切断していく仕組みです。切断時には摩擦熱の発生や切削くずの飛散を防ぐため、常に冷却水(純水)を噴射します。

 この物理的な切削方式は、高い切断精度と速度が特徴であり、多くの半導体メーカーで長年にわたり採用されています。 [Image ofブレードダイシングの仕組み]


課題と対策

 ブレードダイシングにはいくつかの課題があります。

  • チッピング(欠け): 物理的に切断するため、チップの端に小さな欠けが発生しやすいです。これは、製品の歩留まり低下につながる可能性があります。
  • 摩耗と交換: ブレードは使用するにつれて摩耗し、切れ味が落ちるため、定期的な交換が必要です。
  • コンタミネーション(汚染): 切断時に発生する切削くずや、冷却水が乾燥してウェハ表面に付着するリスクがあります。このため、ダイシング後には丁寧な洗浄工程が必須となります。

 これらの課題に対し、ブレードの素材や形状の改良、超音波振動をブレードに加える技術(超音波ダイシング)、切削水の管理を最適化する技術などが開発され、品質向上と生産性維持が図られています。

ブレードダイシングは、ダイヤモンド砥粒を埋め込んだ極薄いブレード(刃)を高速回転させ、水をかけながらウェハを切断する最も一般的なダイシング方法です。物理的に切断するため、高精度で効率的ですが、チップの欠け(チッピング)が発生する課題があります。

レーザーダイシングとは何か

 レーザーダイシングは、レーザー光をウェハに照射して切断する非接触型のダイシング方式です。ブレードダイシングと異なり物理的な力が加わらないため、ウェハへのダメージを最小限に抑えられます。


主な方式とその特徴

 レーザーダイシングには、主に以下の2つの方式があります。

  1. レーザーアブレーションダイシング
    • 仕組み: 高密度のレーザーをウェハ表面に照射し、材料を瞬時に蒸発・昇華させて溝を掘り、切断する方法です。
    • 特徴: 照射時間が短く、熱によるダメージが少ないです。切断幅(カーフ幅)を非常に細くできるため、ウェハ1枚からより多くのチップを製造できます。硬質な材料の切断にも適しています。
  2. レーザーステルスダイシング
    • 仕組み: ウェハの内部にレーザー光を特定の焦点で集光させ、内部に改質層(弱化層)を形成します。その後、テープエキスパンドと呼ばれる工程でウェハを広げ、改質層に沿ってチップを分離させます。
    • 特徴: ウェハ表面にレーザーを照射しないため、切削くず(パーティクル)が発生せず、汚染リスクが大幅に低減されます。チッピングやクラック(ひび割れ)も発生しにくく、非常に高い品質が求められるMEMSデバイスなどの製造に適しています。

ブレードダイシングとの比較

 レーザーダイシングは、ブレードダイシングに比べてチッピングやクラックの発生を抑制でき、切断幅を狭くできるためウェハの利用効率を向上させます。また、非接触加工のためブレードの摩耗や交換が不要です。

 一方で、加工対象となる材料によってはレーザーの吸収率が異なり、条件設定が複雑になる場合があります。

レーザーダイシングは、レーザー光をウェハに照射して個々のチップに切り分ける非接触の技術です。物理的に切断するブレード方式と異なり、チッピング(欠け)やクラックの発生を抑えられ、ウェハの利用効率を向上させます。主にレーザーアブレーションとレーザーステルスダイシングの二方式があります。

改質層、弱化層ができる理由は

 レーザーステルスダイシングにおいて、改質層弱化層ができるのは、レーザーのエネルギーをウェハ内部の特定の位置に集光させるためです。この層は、ウェハを物理的に切断するのではなく、後から外部からの力で分離させるための「起点」となります。


原理

  • 光の透過と集光: ウェハの材料(例えばシリコン)は、特定の波長のレーザー光を透過する性質があります。レーザーダイシング装置は、この性質を利用して、レンズでレーザー光をウェハの内部の非常に狭い領域に集中的に集めます。
  • 材料の局所的な変化: 集光された領域では、レーザーのエネルギー密度が非常に高くなります。この高密度のエネルギーによって、材料はその場で融解、気化、または結晶構造が非晶質化(アモルファス化)するなど、内部構造が変化します。この変化が「改質層」や「弱化層」となります。
  • 応力による分離: この改質層は、周囲の正常なウェハ材料よりも強度が低くなっています。レーザー照射後、ウェハを広げる「テープエキスパンド」という工程で引っ張ると、この弱くなった部分に沿ってきれいにひび割れが進行し、個々のチップに分離します。

 この方法は、物理的な切断によるチッピング(欠け)や微細なひび割れを防ぎ、ウェハの表面を傷つけずに高品質なチップを製造できるという大きなメリットがあります。

レーザーのエネルギーをウェハ内部に集光させると、その部分の結晶構造が融解や非晶質化によって変化します。この物理的な変化によって、周囲の材料より強度が低下した層が形成され、これが改質層(弱化層)となります。

ダイシング装置の有力メーカーは

 イシング装置の有力メーカーは、日本の株式会社ディスコ株式会社東京精密です。

この2社が世界の半導体ダイシング装置市場のほとんどのシェアを占めており、特にディスコは圧倒的なシェアを誇ります。

株式会社ディスコ

  • 特徴: 「Kiru(切る)」「Kezuru(削る)」「Migaku(磨く)」をコア技術とし、ブレードダイシング装置やレーザーダイシング装置、グラインディング装置、ポリッシング装置などを幅広く手掛けています。
  • 強み: ダイシング装置だけでなく、使用する消耗品であるダイヤモンドブレードも自社で開発・製造しているため、装置とツールの両面から最適なソリューションを提供できることが強みです。高い技術力と市場での圧倒的な地位を確立しています。

株式会社東京精密

  • 特徴: 精密計測機器の技術を基盤に、半導体製造装置市場に参入しました。ブレードダイシング装置やレーザーダイシング装置のほか、ウェハの薄膜化や平坦化を行う装置も手掛けています。
  • 強み: 「精密」を強みとしており、高い精度が求められる分野で存在感を発揮しています。ディスコに次ぐシェアを維持しており、ブレードやレーザーダイシングの技術を組み合わせたソリューションも提供しています。

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