この記事で分かること
・炭素繊維強化プラスチックとチタン合金を接合するのはなぜか:炭素繊維強化プラスチックの軽量・高強度・耐食性と、チタン合金の耐熱性・靭性・強度を組み合わせるため
・熱融着とは何か:材料を加熱して軟化または溶融させ、圧力を加えて接合する技術。接着剤や追加の工程が不要となる利点がある
炭素繊維強化プラスチックとチタン合金を直接接合
東北大学の研究チームは、3Dプリンターを活用して、接着剤を使用せずに炭素繊維強化プラスチック(CFRP)とチタン合金を直接接合する技術を開発しました。
https://engineer.fabcross.jp/archeive/250225_tohokuuniv.html
この技術は、航空宇宙産業や自動車産業での応用が期待されています。
今回の開発の特徴は何か
東北大学の研究チームは、3Dプリンターを活用して、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)とチタン合金を接着剤を使用せずに直接接合する技術を開発しました。
この方法では、3Dプリンターの印刷ベッドにホットプレートを組み込み、チタン合金基板上に短繊維CFRPを積層造形しながら熱融着を行います。
これにより、CFRPとチタン合金の間に強固な接合が形成され、引張せん断試験では最大27.3MPaの接着強度が確認されました。
さらに、この技術では、短繊維CFRPを基盤とし、その上に連続繊維CFRPを積層することも可能であることが示されています。
これにより、金属基板上に短繊維CFRPを直接3D造形し、その表面を連続繊維CFRPで補強する構造が実現できます。
この手法は、航空機や自動車産業などでの軽量かつ高強度な部材の製造に寄与すると期待されています。

炭素繊維強化プラスチックとチタン合金を接着剤を使用せずに直接接合する技術によって、これまで以上に軽量かつ高強度な部材の製造が期待できます。
熱融着とは何か
熱融着とは、材料を加熱して軟化または溶融させ、圧力を加えて接合する技術のことです。接着剤や追加の材料を使わずに、熱エネルギーだけで部材同士を結合します。
この方法は熱可塑性樹脂(加熱すると軟化し、冷却すると固まるプラスチック)を含む材料に特に有効であり、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)などの軽量・高強度な素材の接合に応用されます。
熱融着の利点
1. 接着剤不要 → 材料の純度が保たれる
- 接着剤を使わないため、化学的な劣化や異種材料による問題(界面剥離、経年劣化)が少なくなる。
- 高温や薬品環境でも安定した接合が可能。
2. 強固な接合
- 加熱によって材料同士が直接結合するため、接着剤よりも高い接合強度を実現できる。
- 特にCFRPと金属のような異種材料の接合では、界面での応力集中を低減できる。
3. 環境負荷が少ない
- 接着剤に含まれる**揮発性有機化合物(VOC)**を使用しないため、環境への影響が少ない。
- プラスチックリサイクルの際に、余計な異物が含まれず処理がしやすい。
4. 製造コストの削減
- 接着剤の塗布・乾燥のプロセスが不要になり、生産ラインの短縮やコスト削減につながる。
- 3Dプリンターなどのデジタル製造技術と組み合わせやすい。

熱融着とは、材料を加熱して軟化または溶融させ、圧力を加えて接合する技術であり、接着剤や追加の材料を使わずに、熱エネルギーだけで部材同士を結合可能な技術です。
チタン合金上に直接3DプリントしながらCFRPを熱融着するメリットははどこにあるのか
今回の3Dプリンターを活用したCFRPとチタン合金の熱融着技術は、先にCFRPを成形してからチタン合金に熱融着する方法と比べて、いくつかの点で有利であると考えられます。
1. 接合強度の向上
✅ 今回の手法:
- CFRPをチタン合金基板上に直接3Dプリントしながら熱融着することで、CFRPとチタンの界面において分子レベルの結合や繊維の絡み合いが生じる。
- これにより、従来の接着剤を用いた方法よりも強度が向上し、最大27.3MPaの接着強度が得られた。
✅ 従来の「成形後に熱融着」する方法:
- 先にCFRPを成形すると、CFRPの表面がすでに固まっているため、チタンとの界面での密着が不十分になりやすい。
- 熱融着を試みても、CFRPとチタンの間に隙間や応力集中が生じやすく、強度が低下する可能性がある。
➡ CFRPをチタン合金上に直接積層しながら熱融着することで、より強固な界面を形成できる。
2. 熱膨張率の影響を低減
✅ 今回の手法:
- CFRPを成形しながら熱融着することで、チタンとCFRPの熱膨張率の違いを徐々になじませながら接合できる。
- 急激な温度変化による内部応力の発生を抑え、剥離やクラックが生じにくい構造を実現できる。
✅ 従来の方法:
- 先にCFRPを成形してからチタンに接合すると、CFRPがすでに固化しているため、熱膨張率の違いによる応力が界面に集中しやすい。
- その結果、接合部で剥離やひび割れが発生する可能性が高くなる。
➡ 熱膨張率の違いを吸収しながら接合できるため、耐久性が向上する。
3. 製造プロセスの簡略化とコスト削減
✅ 今回の手法:
- CFRPを一体成形しながら接合できるため、別工程での接合処理が不要。
- 接着剤や追加の接合プロセスを削減できるため、製造コストや生産時間の短縮が可能。
✅ 従来の方法:
- 先にCFRPを成形し、後から熱融着する場合、別工程として追加の熱処理や接着剤の適用が必要。
- 工程が増える分、コストや時間がかかる。
➡ 製造プロセスを統合できるため、生産性が向上し、コスト削減にも貢献する。

チタン合金上に直接3DプリントしながらCFRPを熱融着する方法は、界面の密着度が高まりによる強度の増加、航程の削減によるコスト削減などのメリットがあります。
なぜ、直接接合が難しかったのか
CFRPとチタン合金は性質が大きく異なる異種材料であり、以下の3つの主な要因により直接接合が難しいとされていました。
1. 接合メカニズムの違い(分子レベルの結合が起こりにくい)
✅ CFRP(樹脂+炭素繊維)は主に共有結合(コバレント結合)によって成形されている。
✅ チタン合金(金属)は、金属結合によって構造を維持している。
✅ CFRPとチタンの界面では、分子レベルで強固な結合が形成されにくいため、直接的な化学結合が難しい。
➡ 解決策:
- 表面処理(プラズマ処理・酸処理)で金属表面を活性化し、接着力を高める。
- 特殊な中間層(メッキやナノコーティング)を利用して、異材間の親和性を向上させる。
2. 熱膨張率の違い(熱変形による剥離)
✅ CFRPとチタン合金では熱膨張率(温度変化による膨張・収縮の度合い)が大きく異なる。
✅ 例えば、CFRPは熱膨張がほぼゼロ(炭素繊維の特性)なのに対し、チタン合金は熱膨張しやすい。
✅ 高温環境では膨張率の差による応力が界面に集中し、接合部が剥がれたり破壊したりする。
➡ 解決策:
- 熱膨張率の違いを吸収できる中間層(アルミやポリマー)を設ける。
- 柔軟性のある接着剤を使用して応力を分散させる。
- 熱可塑性樹脂を用いた熱融着技術を活用し、樹脂側をチタン表面になじませる。
3. 表面状態の違い(濡れ性・接着性の低さ)
✅ CFRPの表面は炭素繊維が露出している部分と樹脂が覆っている部分があり、均一ではない。
✅ チタン合金の表面には酸化膜(TiO₂)が形成され、接着剤や溶着しにくい。
✅ その結果、単純な接着では強度不足や剥離の問題が発生する。
➡ 解決策:
ナノ構造を持つ界面コーティング(カーボンナノチューブや酸化グラフェン)を利用して、結合力を強化。
チタン合金の表面処理(サンドブラスト、プラズマ処理、化学エッチング)で接着力を向上。
CFRP側の表面改質(レーザー処理やプライマー塗布)で密着性を向上。

CFRPとチタン合金の直接接合が難しかった主な理由は、
① 接合メカニズムの違い(化学結合が形成されにくい)
② 熱膨張率の違い(温度変化で応力が集中し、剥離する)
③ 表面状態の違い(接着剤や熱融着がうまく機能しない)
などがありました。
なぜ炭素繊維強化プラスチックとチタン合金を接合させるのか
CFRPとチタン合金の接合は、軽量化と強度の両立を目指すために行われます。それぞれのメリットを活かしながら、デメリットを補うことで、航空宇宙・自動車・産業機械などの分野で高性能な構造を実現できます。
CFRPとチタン合金、それぞれの特徴
材料 | メリット | デメリット |
---|---|---|
CFRP(炭素繊維強化プラスチック) | 軽量・高強度・耐食性・低熱膨張 | 剛性が高すぎて衝撃に弱い(破壊しやすい) |
チタン合金 | 高強度・耐熱性・耐食性・靭性が高い(割れにくい) | 重い(鉄より軽いがCFRPより重い) |
CFRPは軽くて強いですが、衝撃を受けると破壊しやすいという欠点があります。一方、チタン合金は重いですが、耐熱性・耐食性・衝撃耐性に優れています。
この2つを組み合わせることで、
✅ CFRPの軽さとチタンの強靭性を両立
✅ 金属部と樹脂部を適材適所で使い分ける
✅ 強度を確保しながら軽量化し、燃費やエネルギー効率を向上
といったメリットが得られます。
CFRPとチタン合金の接合が求められる理由
① 航空・宇宙産業
- 航空機やロケットは、軽量化が燃費や航続距離に直結するため、CFRPが多用される。
- しかし、エンジン周辺や高温環境ではCFRP単体では耐熱性が不足するため、チタン合金と組み合わせることで耐熱性を確保。
- 例: ボーイング787やエアバスA350の主翼・胴体部分でCFRPとチタンが併用されている。
② 自動車産業
- EV(電気自動車)では、バッテリー搭載による重量増加を軽減するため、CFRPが利用される。
- しかし、クラッシュ時の安全性確保のため、強度が必要な部分にはチタン合金が適している。
- 例: スポーツカーのシャーシで、CFRPを主体にしつつ、衝撃を受ける部分にチタンを使用。
③ 産業機械・ロボット
- ロボットアームや精密機器の部品では、軽量で剛性の高いCFRPと、耐久性・強度の高いチタン合金を組み合わせることで、高精度な動作を実現。
- 例: 半導体製造装置の高精度アームなど。
④ 医療・スポーツ分野
スポーツ用具(自転車フレーム、ゴルフクラブ)では、CFRPで軽量化しつつ、衝撃を受ける部分にチタンを使用。
義肢(義足・義手)では、CFRPの軽量性とチタンの耐久性を併用。

CFRPの軽量・高強度・耐食性と、チタン合金の耐熱性・靭性・強度を組み合わせることで、より高性能な材料システムを作れるため接合技術が求められています。
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