この記事で分かること
- ウエハの直接接合とは:接着剤や中間層を使わず、2枚のウエハ表面同士を原子間力などで密着させ、熱処理により共有結合で強固に接合する技術です。
- 直接接合のメリット:接着剤を使わず原子レベルで強固に接合するため、極めて微細な接続ピッチを実現できます。また接続経路が短いため、電気抵抗が低く高速・低消費電力化を実現し、3D積層や異種材料の接合も可能にします。
- 直接接合の工程:清浄化とプラズマ活性化で表面を整え、室温で仮結合します。その後、高温で熱処理(アニール)し、水素結合から共有結合へと変化させることで、強固な接合を完成させます。
ウエハの直接接合
チップの微細化による性能向上の限界が見え始めていることから、半導体製造において前工程から後工程へと性能向上開発の主戦場が移り始めています。複数のチップを効率的に組み合わせて性能を引き出す「後工程」の重要性が増しています。
前回は低温硬化性に関する記事でしたが、今回はウエハの直接接合に関する記事となります。
ウエハの直接接合とはなにか
ウエハの直接接合(Direct Wafer Bonding)とは、接着剤や中間層を用いることなく、2枚のウエハの表面同士を密着させて原子間力などで永久的に接合する技術です。
これは「フュージョン接合(Fusion Bonding)」や「常温接合(Surface Activated Bonding: SAB)」とも呼ばれることがあり、半導体デバイスや複合基板の製造において重要な技術です。
主な特徴とメカニズム
ウエハの直接接合は、主に以下の特徴とメカニズムで実現されます。
- 表面処理と密着(プレボンディング):
- ウエハ表面を平坦かつ清浄にし、活性化処理(プラズマ処理など)を行うことで、接合面の原子を活性化させます。
- この処理後、ウエハ同士を室温(常温)またはわずかに加熱した状態で密着させると、表面の水素結合やファンデルワールス力といった弱い結合力でウエハが仮接合(プレボンディング)されます。
- 熱処理による強化(アニール):
- 仮接合されたウエハをその後、高温で熱処理(アニール)します。
- この熱処理により、初期の弱い結合が共有結合などの強固な結合へと変化し、母材(ウエハ本体)と同等かそれに近い接合強度を持つ永久的な接合が形成されます。
用途
直接接合技術は、様々な分野で利用されています。
- SOI (Silicon On Insulator) 基板の作製:
- シリコンウエハと酸化膜(絶縁膜)が形成されたウエハを接合し、一方を薄膜化することで、高性能な半導体デバイスの基板となるSOI構造を作製します。
- MEMS(微小電気機械システム)デバイス:
- センサやアクチュエータなどの微細構造を持つMEMSデバイスの製造において、気密性の高いキャビティ(空洞)を形成するために使用されます。
- 3D積層デバイス(ハイブリッド接合):
- 直接接合の進化形として、ウエハ表面の絶縁膜と、埋め込まれた金属パッド(銅など)を同時に接合するハイブリッド接合があり、3次元的にチップを積み重ねて電気的な接続を実現する先端技術として注目されています。
この技術は、熱歪みを抑えつつ、異種材料間の接合や、高密度・高信頼性の接続を実現できる点で、半導体産業において非常に重要です。

ウエハの直接接合とは、接着剤や中間層を使わず、2枚のウエハ表面同士を原子間力などで密着させ、熱処理により共有結合で強固に接合する技術です。SOI基板やMEMS製造などに使われます。
直接接合のメリットは何か
ウエハの直接接合の主なメリットは、デバイスの高性能化・高密度化と製造の多様性にあります。
主なメリット
ウエハの直接接合(フュージョン接合、常温接合を含む)は、従来の接着剤やはんだバンプを用いる方法と比較して、以下のような利点をもたらします。
1. 高密度化と微細化
- 超微細な接続が可能: 接着剤などの異物を介さないため、μm(マイクロメートル)以下の極めて微細な接続ピッチを実現できます。
- 高集積化・小型化: これにより、3D積層デバイス(複数のチップを縦に積み重ねる技術)における高密度な電気的接続が可能になり、デバイスの小型化と高機能化に大きく貢献します。
2. 高性能化と信頼性
- 優れた電気特性: 接続経路が短く、異物がないため、電気抵抗や寄生容量(ムダな容量)が低減します。これにより、信号遅延が少なくなり、デバイスの高速化や低消費電力化が実現します。
- 高い信頼性: 接合界面に異物がなく、原子レベルで強固に結合するため、気密性が高く、熱応力による剥離などのリスクが低減され、高い信頼性が確保されます。
3. 製造の多様性(異種材料接合)
- 異種材料の接合: 常温接合などの低温プロセスを利用できるため、熱膨張率が大きく異なる材料同士(例:シリコンと化合物半導体)や、熱に弱い材料同士でも、熱歪みの影響を抑えて接合することが可能です。
- 機能性デバイスの統合: SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)などのパワー半導体や、光デバイスなど、多様な機能を持つ材料を統合した複合基板の製造が促進されます。
これらのメリットから、直接接合は、SOI(Silicon On Insulator)基板、CIS(CMOSイメージセンサ)、MEMS(微小電気機械システム)、そして最先端の3D積層技術に不可欠な基盤技術となっています。

接着剤を使わず原子レベルで強固に接合するため、極めて微細な接続ピッチを実現できます。また接続経路が短いため、電気抵抗が低く高速・低消費電力化を実現し、3D積層や異種材料の接合も可能にします。
なぜ、わずかな熱で仮結合できるのか
わずかな熱や室温でウエハが仮結合(プレボンディング)できるのは、ウエハ表面に存在する水酸基(OH基)によって生じる水素結合と、表面原子間のファンデルワールス力が主な原因です。
仮結合(プレボンディング)のメカニズム
この段階の結合は、その後の高温熱処理(アニール)で共有結合に移行するための「足がかり」となります。
1. 水素結合による初期の引力
- 水酸基(OH基)の生成: ウエハは、プラズマ処理やRCA洗浄などの活性化処理により、表面に水酸基(OH基)が大量に生成され、親水性の高い状態になります。
- 水素結合の形成: この親水化された2枚のウエハを密着させると、一方のOH基の水素原子と、もう一方のOH基の酸素原子が、電気的な引力で引き合って水素結合を形成します。
- 水素結合は共有結合よりは弱いものの、広い接合界面全体で無数に発生するため、ウエハ同士をしっかりと引きつける初期の接合力(仮結合)を生み出します。
2. ファンデルワールス力による密着
- 原子間力: ウエハ表面が極めて平坦かつ清浄にされているため、原子同士が非常に接近した状態になります。
- ファンデルワールス力: 原子や分子が互いに引き合う、弱いながらも普遍的な電気的な力であるファンデルワールス力も作用し、密着を助けます。
3. 熱処理による強化
この仮結合状態のウエハは、その後高温(数百$\text{^\circ}\text{C}$)でアニール(熱処理)されます。
この熱処理の間に、初期の水素結合は脱水反応を起こし、水分子($\text{H}_2\text{O}$)を放出しながら、ウエハの主成分であるシリコン-酸素-シリコン($\text{Si-O-Si}$)の共有結合へと変化します。
Si-OH + HO-Si → Si-O-Si + H2O
この共有結合が、ウエハ母材と同等以上の永久的で強固な接合となります。つまり、わずかな熱や室温での仮結合は、共有結合を形成するための足場を提供する役割を果たしているのです。

わずかな熱や室温で仮結合できるのは、活性化処理で表面に生成された水酸基(OH基)間の水素結合と、原子間のファンデルワールス力による電気的な引力が、ウエハ全体で作用するからです。

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