ペアガラスとは何か?なぜ断熱性が高いのか?Low-E膜とは何か?

この記事で分かること

  • ペアガラスとは:2枚の板ガラスの間に乾燥した空気などの層(中空層)を設けた製品です。この構造により、高い断熱性能を発揮し、冷暖房効果を高め、結露を抑制する働きがあります。
  • 断熱性が高い理由:熱伝導率の低い乾燥空気やガスを2枚のガラスの間(中空層)に密閉しているからです。この空気層が熱の伝わり(伝導や対流)を大きく遮断し、単板ガラスより高い断熱性能を発揮します。
  • Low-E膜とは:銀などを使った特殊な金属膜です。ペアガラスにコーティングされ、熱の移動(放射熱)を反射する働きがあります。

ペアガラス

 ガラスの用途は多岐にわたります。主な用途は、建物の窓ガラスや自動車のフロントガラスなどの建築・輸送機器です。また、ビール瓶や食品容器などの包装材、テレビやスマホのディスプレイ基板光ファイバーなどのエレクトロニクス分野でも不可欠な素材です。

 そのためガラス製造市場の規模は非常に大きく、2024年時点で2,350億米ドル(約35兆円)を超えると推定されており、今後も年平均成長率(CAGR)5%以上で着実に拡大すると予測されています。

 この成長は主に、世界的な建設・建築分野での需要増加や、包装(リサイクル可能なガラス瓶の需要増)および自動車分野での用途拡大に牽引されています。

 前回は強化ガラスに関する記事でしたが、今回はペアガラスに関する記事となります。

ペアガラスとは何か

 ペアガラスとは、2枚の板ガラスの間に空気やガスを封入した層(中空層)を設けたガラス製品のことで、「複層ガラス」とも呼ばれます。


ペアガラスの主な特徴

  • 高い断熱性能
    • ガラスの間の空気層が熱の伝わりを抑えるため、1枚ガラス(単板ガラス)に比べて断熱性に優れています。
    • これにより、冬は暖房の熱が外に逃げにくく、夏は外からの熱が室内に伝わりにくくなり、省エネ効果があります。
  • 結露の抑制
    • ガラスの室内側の表面温度が外気の影響を受けにくくなるため、室内の温かい空気が冷やされて水滴になる現象(結露)を防ぐ効果が期待できます。
  • 遮熱・断熱性を高めた製品(Low-E複層ガラス)
    • ガラスの片面に特殊な金属膜(Low-E膜)をコーティングすることで、さらに遮熱性(夏の太陽熱をカット)や断熱性を高めた製品もあります。
  • 名称について
    • 「ペアガラス」は、もともと大手ガラスメーカーAGC株式会社の登録商標でしたが、広く普及したことから複層ガラスの一般名称としても使われています。

似ているが異なるもの:二重窓(内窓)

 ペアガラス(複層ガラス)と間違えられやすいものに二重窓(内窓)がありますが、これは既存の窓の内側にもう一つ窓を設置するもので、ガラス自体が二重構造になっているペアガラスとは異なります。


 ペアガラスは、現在の新築住宅で非常に普及している一般的な窓ガラスです。

ペアガラス(複層ガラス)とは、2枚の板ガラスの間に乾燥した空気などの層(中空層)を設けた製品です。この構造により、高い断熱性能を発揮し、冷暖房効果を高め、結露を抑制する働きがあります。

断熱性能が高い理由は何か

 ペアガラス(複層ガラス)の断熱性能が高い主な理由は、2枚のガラスの間に作られた「中空層(空気の層)」が熱の伝わりを大きく抑えるからです。

 熱の伝わり方には主に「伝導」「対流」「放射」の3種類があり、中空層はこのうちの「伝導」「対流」を効果的に防ぎます。


1. 熱の伝導を防ぐ

  • 空気はガラスより熱を伝えにくい:ガラスのような固体は熱を伝えやすい性質(熱伝導率が高い)がありますが、空気やガスといった気体は固体に比べて熱伝導率が非常に低いです。
  • 熱の橋渡しを断つ:ペアガラスは、熱が伝わりやすいガラスガラスの間に、熱を伝えにくい空気(またはアルゴンガスなど)の層を挟むことで、外側から内側へ、あるいは内側から外側へ熱が伝わる「橋渡し」を断ち切っています。
  • これにより、単板ガラス(1枚ガラス)に比べて、熱がガラスを通過する量が大幅に減少します。

2. 熱の対流を防ぐ

  • 中空層が対流を抑制:熱せられた空気は上昇し、冷やされた空気は下降する「対流」によっても熱は移動します。
  • ペアガラスの中空層は、この空気の動きが起こりにくい、比較的薄い厚さ(一般的に6mm~12mm程度)で密閉されています。
  • この密閉された層が、大きな空気の対流による熱の移動を抑制します。

さらに性能を高めた Low-E 複層ガラス

 特に高性能な「Low-E複層ガラス」では、ガラスの片面に特殊な金属膜(Low-E膜)がコーティングされています。

 これらの仕組みにより、ペアガラスは単板ガラスよりも格段に断熱性能が高くなっているのです。

熱伝導率の低い乾燥空気やガス2枚のガラスの間(中空層)に密閉しているからです。この空気層が熱の伝わり(伝導や対流)を大きく遮断し、単板ガラスより高い断熱性能を発揮します。

Low-E膜とは何か

 Low-E膜とは、ペアガラス(複層ガラス)の断熱性や遮熱性を高めるために、ガラスの表面にコーティングされた特殊な金属膜のことです。

 Low-Eは「Low Emissivity(低放射率)」の略で、日本語に訳すと「低放射」を意味します。

1. Low-E膜の正体と役割

  • 正体:酸化錫や銀などでできた、目には薄く色がつく程度の非常に薄い金属の膜です。
  • 役割:熱の伝わり方の一つである「放射(輻射熱)」を効率的に吸収・反射する性質を持っています。通常のガラスの放射率が0.85程度なのに対し、Low-E膜をコーティングすると放射率を0.1以下に抑えることができます。

2. Low-E膜がもたらす効果

 この膜があることで、季節に応じて以下のような効果を発揮し、省エネにつながります。

季節役割仕組み
断熱暖房などで温められた室内の熱(遠赤外線)を屋外に逃がさず、室内に反射して戻します。
遮熱太陽からの熱(日射熱)を室内に取り込むのを抑え、熱を屋外に反射します。

3. Low-E膜の種類(タイプ)

 Low-E膜は、ガラスのどの面にコーティングするかによって、その効果をより特化させることができます。

タイプLow-E膜の位置主な効果適した地域・窓
断熱タイプ複層ガラスの室内側のガラス面冬の断熱性を重視。適度に日射熱を取り込みたい。寒冷地、北側の窓など。
遮熱タイプ複層ガラスの室外側のガラス面夏の遮熱性を重視。日射熱を強くカットしたい。温暖地、西日や南日を強く受ける窓など。

 このようにLow-E膜は、窓の断熱・遮熱性能を飛躍的に向上させるための重要な技術です。

Low-E膜(低放射膜)は、銀などを使った特殊な金属膜です。ペアガラスにコーティングされ、熱の移動(放射熱)を反射する働きがあります。これにより、冬は室内の熱を逃がさず、夏は日射熱を遮り、断熱性と遮熱性を向上させます。

なぜ放射熱を効率的に吸収・反射するのか

 Low-E膜が放射(輻射熱)を効率的に吸収・反射する理由は、その膜の主成分に「銀」などの金属が使われているからです。

 これは、金属が持つ「高い熱線(赤外線)反射特性」を利用した仕組みです。

1. 放射熱の正体と金属の性質

  • 放射熱(輻射熱)の正体:熱は電磁波の一種である「赤外線」によって伝わります。太陽からの日射熱も、暖房器具から出る暖かい熱も、主にこの赤外線です。
  • 金属の性質
    • 金属は、電気をよく通す(導電性が高い)のと同様に、熱線の反射率も非常に高いという特性を持っています。
    • 特にLow-E膜に使われる銀(Ag)は、赤外線領域において鏡のように高い反射率を持ちます。

2. Low-E膜での反射の仕組み

 Low-E膜は、ガラスの表面にこの銀などの金属を極めて薄い層としてコーティングしたものです。

  1. 熱線の入射:ガラスに赤外線(放射熱)が入射します。
  2. 金属層での反射:この赤外線がLow-E膜の銀層に当たると、銀が持つ高い反射特性により、その熱線の大部分が元の方向へ跳ね返されます
  3. 「低放射率」の実現:これにより、ガラス表面が熱をほとんど吸収して再放射しない状態(低放射)になるため、熱がガラスを通り抜ける量が大幅に減少します。

3. 可視光線は通す工夫

 重要な点として、Low-E膜は熱を伝える赤外線は反射する一方で、目に見える可視光線は透過させるように、金属層の厚みや構造(保護膜と金属膜を重ねた多層膜構造)が精密に設計されています。

 このため、窓から十分な明るさを確保しながら、熱だけを効果的にカット(または室内に保持)できるのです。

Low-E膜の主成分である銀などの金属が、熱の媒体である赤外線(輻射熱)を鏡のように強く反射する性質を持つためです。この特性を利用し、熱がガラスを透過するのを防いでいます。

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