この記事で分かること
- EEPROMとは:電気的に1バイト単位で書き換えられる不揮発性メモリです。基板から外さずにデータの変更が可能で、少量の重要なデータを安全に保持する用途で広く使われています。
- データを消去できる理由:高い電圧をかけて絶縁層を電子が通り抜ける「トンネル効果」を利用して行います。フローティングゲートに閉じ込められた電子を電気の力で引き抜くことで、データを「1(空の状態)」に戻します。
- トンネル効果がおきる理由:高電圧によって絶縁層のエネルギー障壁が歪んで薄くなることで、電子が本来通れないはずの壁を透過(=トンネル効果)できるようになります。
EEPROM
半導体チップは、「産業のコメ」と呼ばれるほど現代社会の基盤となっています。AIの普及やデジタル化の加速などのもあり、AIそのますます重要性が増しています。
ただ、一口に半導体チップといっても、その中には様々な種類が存在します。今回はEEPROMに関する記事となります。
EEPROMとは何か
EEPROM(イー・イー・ピーロム)とは、「電気的にデータの消去と書き換えができるROM」のことです。
「Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory」の略で、電源を切ってもデータが消えない不揮発性メモリの一種です。
EEPROMの主な特徴
- 電気で書き換え可能: 前身のEPROM(紫外線を当てて消去するタイプ)と違い、基板に実装したまま電気信号だけでデータを書き換えられます。
- バイト単位の操作: データを1バイト(8ビット)単位で細かく読み書き・消去できるのが最大の長所です。
- 高耐久・低速: フラッシュメモリに比べるとデータの保持能力が非常に高いですが、一度に大量のデータを書き換える速度は遅めです。
仕組み:フローティングゲート
EEPROMは、トランジスタ内部の「フローティングゲート」という絶縁された箱の中に電子を出し入れすることで、データを記録します。
フラッシュメモリとの違い
実は、フラッシュメモリはEEPROMの一種です。しかし、一般的な呼び分けとして以下の違いがあります。
| 特徴 | EEPROM(狭義) | フラッシュメモリ |
| 消去単位 | 1バイトごと(細かい) | ブロックごと(一括) |
| 容量 | 小さい(KB〜MB単位) | 大きい(GB〜TB単位) |
| 用途 | 設定値、ID保存 | 写真、動画、OS保存 |
主な用途
テレビのチャンネル設定、車の走行距離、スマートフォンの個体識別情報など、「頻繁ではないが、電源を切っても絶対に忘れてはいけない少量の設定データ」の保存に最適です。

EEPROMは、電気的に1バイト単位で書き換えられる不揮発性メモリです。基板から外さずにデータの変更が可能で、家電の設定情報や機器の識別番号など、少量の重要なデータを安全に保持する用途で広く使われています。
どのようにデータを消去するのか
EEPROMやフラッシュメモリなどの「電気的に消去可能なメモリ」は、「トンネル効果」という量子力学的な現象を利用してデータを消去します。
1. 電子の「閉じ込め」を解除する
これらのメモリは、トランジスタ内部のフローティングゲート(浮遊ゲート)という絶縁体に囲まった「箱」の中に電子を貯めることでデータを記録しています。
- データがある状態: 箱の中に電子が詰まっている。
- 消去(データがない状態): 箱の中を空にする。
2. トンネル注入(F-Nトンネリング)
消去する際は、制御ゲートに高い電圧(マイナス)をかけます。すると、通常なら電気を通さないはずの絶縁層を、電子が「トンネルを抜けるように」すり抜けて基板側へ吸い出されます。
3. 消去単位の違い
「 EEPROM」と「フラッシュメモリ」では、この消去の仕方に違いがあります。
- EEPROM: 1文字分(バイト単位)ずつ、狙った場所の電子だけを吸い出せます。
- フラッシュメモリ: 回路を簡略化して大容量にするため、数千〜数万個のセルに一気に高い電圧をかけ、「ブロック単位」で一括消去します。この「パッと一瞬(Flash)で消える」ことが名前の由来です。

データ消去は、高い電圧をかけて絶縁層を電子が通り抜ける「トンネル効果」を利用して行います。フローティングゲートに閉じ込められた電子を電気の力で引き抜くことで、データを「1(空の状態)」に戻します。
F-Nトンネリングはなぜ起きるのか
F-Nトンネリング(ファウラー・ノルドハイム・トンネリング)が起きる理由は、強力な電気の力によって、電子にとっての「壁(絶縁層)」が極限まで薄くなり、量子力学の力で突き抜けられるようになるからです。
本来、絶縁体(酸化膜)は電子を通さない高い壁のような役割をしていますが、以下のプロセスでトンネリングが発生します。
1. 強力な電界による「壁の変形」
通常、電子が絶縁層を越えるには、壁を乗り越えるための膨大なエネルギー(熱など)が必要です。
しかし、メモリの端子に高い電圧をかけると、絶縁層に非常に強い「電界(電気の歪み)」が生じます。この強大な力によって、三角形をしていたエネルギーの壁がグニャリと押しつぶされ、物理的な厚みは変わらなくても、電子から見た「実質的な壁の厚さ」が極端に薄くなります。
2. 量子力学的な「壁抜け」
壁が十分に薄くなると、量子力学における「トンネル効果」が顕著になります。
電子は「粒」であると同時に「波」の性質も持っているため、壁が薄くなると、壁の向こう側に電子が存在する確率が発生します。その結果、電子が壁を乗り越えるのではなく、文字通り壁の中をシュッと透過(トンネル)してしまうのです。
3. 書き込みと消去への応用
この現象をコントロールすることで、データの操作を行います。
- 書き込み: 基板側からフローティングゲート(箱)へ電子をトンネルさせて「押し込む」。
- 消去: フローティングゲートから基板側へ電子をトンネルさせて「引き抜く」。
4. なぜ「寿命」があるのか
このF-Nトンネリングが、SSDやUSBメモリの寿命の原因でもあります。電子が無理やり絶縁層を突き抜けるたびに、壁(酸化膜)には目に見えない微細なダメージが蓄積していきます。これを繰り返すと、やがて壁がボロボロになり、「電子を閉じ込めておく力」がなくなってデータが保持できなくなります。これがメモリの寿命の正体です。

F-Nトンネリングは、高電圧によって絶縁層のエネルギー障壁が歪んで薄くなることで発生します。量子力学の「トンネル効果」により、電子が本来通れないはずの壁を透過できるようになる性質を利用して、データの書き換えを行っています。
トンネル効果が起きる可能性をあげることで、なぜ確実にデータを消去できるのか
「1個の電子」で見れば確率的ですが、「数万個という電子の集団」で見れば統計的にほぼ100%確実な現象になるからです。
1. 「数」の暴力:大数の法則
フローティングゲートという「箱」の中には、1つのデータを保持するために数千から数万個の電子が閉じ込められています。
- 1個の電子: 壁を抜けるかどうかは確率次第。
- 数万個の電子: 強い電圧を一定時間かけ続けると、統計的に「ほぼすべての電子が壁を抜ける」という結果に収束します。
コイン投げに例えると、1回なら表か裏か分かりませんが、1万回投げれば「ほぼ5,000回ずつになる」と予測できるのと同じで、電子の集団として見れば、確実な「流れ(電流)」として制御できるのです。
2. 電圧と時間の制御
データの消去は一瞬で終わるように見えますが、実際にはメモリコントローラが「電子が十分に抜けきるだけの時間と電圧」を精密にコントロールしています。
- 抜けが悪い場合は、少しずつ電圧を上げて追加のパルスを送るなど、確実に空になるまで追い込みをかけます。
3. 「ベリファイ(確認)」工程の存在
消去命令が出された後、メモリは必ず「本当に空になったか?」をチェックします。
- もし電子が残っていて、しきい値(判定基準)を超えていなければ、再度消去動作を行います。この「消去→確認」のサイクルを繰り返すことで、最終的にデータが完全に消去された状態を保証しています。

量子力学的な「確率」であっても、数万個という膨大な電子をまとめて扱うため、集団としては確実な動作になります。 さらに、コントローラが「空になったか」を常に確認(ベリファイ)し、必要なら追加で処理を行うため、最終的に100%に近い確実さでデータを消去できるのです。

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