レゾナックのISSでの封止材の評価 封止材とは何か?なぜ、ISSで評価を行うのか?

この記事で分かること

  • 封止材とは:半導体チップや電子部品を外部の物理的損傷、湿気、化学物質、熱などから保護する材料です。電気的絶縁性や放熱性も付与し、製品の信頼性や寿命を向上させる重要な役割を担います。
  • なぜISSで評価するのか:封止材には、宇宙線やアルファ線などの放射線が原因で発生する、半導体の一時的な誤動作(ソフトエラー)を低減する目的で用いられることもあるため、その評価のためにISSでの評価を行います。
  • 宇宙線とは:宇宙線は、宇宙空間を高速で飛び交う高エネルギーの放射線で、主に陽子や原子核から成ります。地球にも常に降り注ぎ、大気と衝突して二次的な粒子を生成します。人体への影響や、電子機器の誤動作(ソフトエラー)の原因にもなります。

レゾナックのISSでの封止材の評価

 レゾナック・ホールディングスは、国際宇宙ステーション(ISS)で、宇宙線に起因する電子機器の誤動作(ソフトエラー)を低減する新たな半導体封止材の評価実験を開始します。

 この実験は、米国の民間宇宙企業Axiom Spaceに委託されており、レゾナックは2025年4月に評価用半導体チップを搭載した動作評価装置をISSの材料暴露実験装置(MISSE)に設置済みです。この装置は2025年秋に打ち上げられ、ISSでの評価が始まる予定です。

封止材とはなにか

 封止材は、主に電子部品、特に半導体デバイスを外部環境から保護するために使用される材料のことです。半導体チップや配線を物理的な損傷、湿気、化学物質、熱、光、電気的ノイズなどから守り、その性能と信頼性を維持する上で非常に重要な役割を果たします。

封止材の目的

  • 物理的保護: 衝撃、振動、スクラッチなどからデリケートな半導体チップやワイヤーボンドを保護します。
  • 環境保護: 湿気、酸素、汚染物質、化学薬品などによる腐食や劣化を防ぎます。
  • 電気的絶縁: 短絡を防ぎ、隣接する回路間の電気的絶縁を確保します。
  • 熱放散: 半導体チップから発生する熱を効率的に外部へ逃がす役割を持つものもあります(熱伝導性の高い封止材)。
  • 光遮断: 光に弱い半導体デバイス(例:CMOSイメージセンサーなど)の場合、不要な光の侵入を防ぎます。
  • ソフトエラー対策: 宇宙線やアルファ線などの放射線が原因で発生する、半導体の一時的な誤動作(ソフトエラー)を低減する目的で用いられることもあります(レゾナックの事例)。

封止材の主な種類

 封止材は、その用途や特性によって様々な種類があります。代表的なものとしては、以下のようなものがあります。

  • エポキシ樹脂: 最も一般的に使用される封止材で、優れた接着性、電気絶縁性、耐湿性、機械的強度を持ちます。半導体パッケージのモールド材として広く利用されています。
  • シリコーン樹脂: 柔軟性に優れ、応力緩和効果が高いのが特徴です。熱サイクル耐性や耐紫外線性も優れています。LEDやイメージセンサーなどの光学部品の封止によく使われます。
  • ポリイミド: 高い耐熱性、機械的強度、電気絶縁性を持つため、高温環境下で使用されるデバイスの封止や、薄膜化が必要な用途で用いられます。
  • ウレタン樹脂: 柔軟性があり、低温での硬化が可能です。主にコネクタやセンサーなどの封止に使われます。

半導体パッケージにおける封止材の役割

 半導体デバイスは、シリコンウェハー上に回路が形成された「ベアチップ」の状態でそのまま使用されることは少なく、通常は「パッケージ」と呼ばれる形態に加工されます。このパッケージング工程において、封止材がチップを覆い、外部環境から保護します。

 例えば、一般的なプラスチックモールドタイプのICチップでは、樹脂製のモールド材がチップ全体を包み込み、外部からの影響を防いでいます。

 このように、封止材は電子機器、特に半導体の性能、信頼性、寿命を大きく左右する、縁の下の力持ち的な存在と言えます。

封止材は、半導体チップや電子部品を外部の物理的損傷、湿気、化学物質、熱などから保護する材料です。電気的絶縁性や放熱性も付与し、製品の信頼性や寿命を向上させる重要な役割を担います。宇宙線による誤動作(ソフトエラー)低減にも寄与します。

宇宙線とは何か

 宇宙線とは、宇宙空間を非常に高いエネルギーで飛び交う放射線の総称です。私たちの地球にも常に降り注いでおり、自然放射線の一部として日常的に私たちの周りに存在しています。

 主な構成要素は、陽子(水素の原子核)やヘリウムの原子核(アルファ粒子)で、これらが約99%を占めると言われています。その他、炭素、鉄などの重い原子核や、電子、ニュートリノ、ガンマ線なども含まれます。

宇宙線の種類

  • 一次宇宙線: 宇宙空間から直接地球の大気圏に飛び込んでくる、非常に高エネルギーの粒子です。
  • 二次宇宙線: 一次宇宙線が大気中の原子核(酸素や窒素など)と衝突することで生成される、様々な種類の粒子(ミュオン、中性子、電子、ガンマ線など)です。これらの二次宇宙線の一部は地表にも到達します。

宇宙線の影響

  • 人体への影響: 地上では大気に守られているため影響は小さいですが、高度が上がるにつれて宇宙線の量が増加し、航空機の乗務員や宇宙飛行士はより多くの宇宙線を浴びることになります。高エネルギーの宇宙線は細胞に損傷を与える可能性があり、特に宇宙飛行士にとっては重要な健康リスクの一つです。
  • 電子機器への影響(ソフトエラー): 宇宙線が半導体デバイスに衝突すると、内部で電荷が発生し、それが原因でメモリのデータが反転したり、論理回路で一時的な誤動作(ソフトエラー)を引き起こすことがあります。LSIの微細化が進むにつれて、このソフトエラーのリスクは増大しており、特に人工衛星やサーバーなど、高い信頼性が求められる電子機器においては重要な課題となっています。レゾナック・ホールディングスがISSで評価している半導体封止材は、このソフトエラーを低減することを目的としています。

 宇宙線は、素粒子物理学や宇宙の起源を研究する上で重要な情報源であり、また、電子機器の信頼性向上や宇宙開発においても対策が求められる存在です。

宇宙線は、宇宙空間を高速で飛び交う高エネルギーの放射線で、主に陽子や原子核から成ります。地球にも常に降り注ぎ、大気と衝突して二次的な粒子を生成します。人体への影響や、電子機器の誤動作(ソフトエラー)の原因にもなります。

封止材はなぜ、宇宙線を低減出来るのか

 封止材が宇宙線を直接「低減」するというよりは、宇宙線によって引き起こされる電子機器の誤動作、特にソフトエラーを効果的に抑制するという方が正確です。そのメカニズムは、主に以下の点が考えられます。

放射線源の遮蔽・吸収(特に二次的な粒子)

  • 宇宙線そのものは非常に高エネルギーなため、一般的な封止材で完全に遮蔽することは困難です。しかし、一次宇宙線が大気中の原子などと衝突して生成される二次宇宙線(特に中性子)は、エネルギーが比較的低いものも存在します。
  • 特定の元素を含む封止材は、これらの二次宇宙線(特に中性子)を吸収したり、散乱させたりすることで、半導体チップへの到達数を減らす可能性があります。
  • 例えば、中性子を吸収しやすいホウ素(ボロン)などの元素を封止材に配合することで、中性子線によるソフトエラーのリスクを低減する研究が行われています。

半導体内部での電荷生成の抑制または緩和

  • 宇宙線が半導体チップに衝突すると、そのエネルギーによって半導体内部で電子と正孔のペア(電荷)が生成されます。この電荷が回路のノードに集まることで、データの反転などのソフトエラーを引き起こします。
  • 封止材の組成や構造を工夫することで、
  • 電荷の生成効率を低下させる: 宇宙線と封止材の相互作用によって、半導体チップに到達する宇宙線のエネルギーを低下させる、あるいは、半導体チップ内部での電荷生成を引き起こしにくい状態にすることで、エラー発生確率を減らす。
  • 生成された電荷の影響を緩和する: 封止材の特性(例えば、電気的特性や誘電率)を最適化することで、生成された電荷が半導体回路に影響を与える前に再結合させたり、拡散させたりして、誤動作につながることを防ぐ可能性が考えられます。

誘電特性の最適化

  • 半導体チップの微細化が進むと、隣接する配線間の間隔が狭くなり、わずかな電荷の変動でも誤動作につながりやすくなります。
  • 封止材の誘電率やその他の電気的特性を調整することで、半導体回路のノイズ耐性を向上させ、宇宙線によって生じた微小な電荷変動に対する誤動作のリスクを低減できる可能性があります。

 レゾナック・ホールディングスが開発している封止材も、上記のようなメカニズム、特に中性子などの二次宇宙線を吸収・遮蔽したり、半導体内部での電荷生成やその影響を抑制したりすることで、ソフトエラーを低減することを目指していると考えられます。材料の選定や配合、構造設計がその鍵となります。

中性子などの二次宇宙線を吸収・遮蔽したり、半導体内部での電荷生成やその影響を抑制したりすることで、ソフトエラーを低減することを目指していると考えられます。材料の選定や配合、構造設計がその鍵となります。

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