この記事で分かること
・バイオマス材料とは:生物由来の資源(バイオマス) を原料として作られる材料のことで、環境負荷低減に貢献する特性から、幅広い分野での利用が研究・開発されています。
・バイオプラスチックの製造法:植物に含まれるデンプンや糖を発酵する発酵法や植物由来の原料から抽出したモノマーを重合させる化学合成法で合成されています。
・ポリ乳酸とは:再生可能な資源である植物由来のデンプンを発酵させて作られる、生分解性プラスチックの一種です。
バイオマス材料の拡大
ユウホウが、麻系の天然繊維とバイオマスを原料とするバイオベース樹脂繊維を不織布化した「GRECOM(グリコン)」の提案を始めたことがニュースになっています。
前回の記事では、バイオベース樹脂繊維を用いた不織布についての記事を書きました。今回は、バイオマス材料とは何か、どんな種類があるのかなどについての記事を書きました
バイオマス材料とは何か
バイオマス材料とは、生物由来の資源(バイオマス) を原料として作られる材料のことです。
生分解性を持つ、カーボンニュートラルな特性を持つなどの特長から、環境負荷低減に貢献する特性から化石資源への依存度を低減し、持続可能な社会の実現に貢献することが期待されています。
包装材、容器、自動車部品、建築材料、繊維製品など、幅広い分野での利用が研究・開発されています。

バイオマス材料とは、生物由来の資源(バイオマス) を原料として作られる材料のことで、環境負荷低減に貢献する特性から、幅広い分野での利用が研究・開発されています。
バイオマス材料にはどんな種類があるのか
バイオマス材料は、その原料となるバイオマスの種類や、加工方法によって多岐にわたる種類が存在します。大きく分類すると以下のようになります。
1. 原料による分類
- 廃棄物系バイオマス:
- 家畜排せつ物: 牛、豚、鶏などの糞尿。堆肥やバイオガスの原料となります。
- 食品廃棄物: 生ごみ、調理残渣、食品加工残渣など。飼料、堆肥、バイオガスの原料となります。
- 廃棄紙・パルプ工場廃液: 古紙、製紙工場から出る黒液など。製紙原料やエネルギー源となります。
- 下水汚泥・し尿汚泥: 下水処理や浄化槽から発生する汚泥。肥料やエネルギー源となります。
- 建設発生木材・製材工場等残材: 建築廃材、木材加工時に出る端材など。木質燃料や建材、紙の原料となります。
- その他: 農業残渣(稲わら、麦わら、もみがら、バガスなど)、水産加工残渣、廃食用油など。
- 未利用バイオマス:
- 林地残材: 間伐材、枝葉など、森林に放置されている木材資源。木質燃料や建材の原料となります。
- 農作物非食用部: 稲わら、麦わら、もみがらなど、食用部分以外の農作物の残渣。飼料や堆肥、バイオエタノールの原料となります。
- 草本類: ススキ、 switchgrass など、エネルギー生産に適した植物。燃料の原料となります。
- 海藻類: 昆布、わかめなど。バイオプラスチックやバイオエタノールの原料となる研究が進んでいます。
- 資源作物:
- 糖質資源: サトウキビ、テンサイなど。バイオエタノールやバイオプラスチックの原料となります。
- でんぷん資源: トウモロコシ、ジャガイモ、キャッサバなど。バイオエタノールやバイオプラスチックの原料となります。
- 油脂資源: ナタネ、ダイズ、パームなど。バイオディーゼル燃料やバイオプラスチックの原料となります。
- その他: エネルギー生産や材料生産を目的に栽培される柳、ポプラなど。
2. 製品・用途による分類
- バイオマスプラスチック:
- 生分解性バイオマスプラスチック: 微生物によって分解されるプラスチック。ポリ乳酸(PLA)、生分解性ポリエステルなど。
- 非生分解性バイオマスプラスチック: バイオマス由来の原料を使用しているが、生分解性を持たないプラスチック。バイオポリエチレン、バイオポリプロピレンなど。
- 部分バイオマスプラスチック: 一部の原料にバイオマス由来の成分を使用したプラスチック。
- バイオマスエネルギー:
- 木質燃料: 木質ペレット、薪など。発電や暖房に利用されます。
- バイオエタノール: サトウキビやトウモロコシなどを発酵させて製造されるアルコール。自動車燃料などに利用されます。
- バイオディーゼル燃料: 植物油や廃食用油などをエステル化して製造される燃料。ディーゼルエンジンの燃料として利用されます。
- バイオガス: 家畜糞尿や食品廃棄物などをメタン発酵させて得られるガス。発電や都市ガスとして利用されます。
- セルロース系材料:
- セルロースナノファイバー (CNF): 植物繊維をナノレベルまで微細化した素材。軽量高強度で、様々な用途への応用が期待されています。
- 再生セルロース繊維: 木材パルプなどを химически 処理して再生した繊維。レーヨン、キュプラなど。
- セルロース誘導体: セルロースを химически 修飾した高分子。医薬品、食品、化粧品など幅広い分野で利用されています(CMC、HPMCなど)。
- その他マテリアル:
- 堆肥・肥料: 家畜糞尿や食品廃棄物などを発酵させて作られる有機肥料。
- 飼料: 食品廃棄物や農業残渣などを加工した動物の餌。
- 炭: 木材などを炭化させたもの。土壌改良材や燃料として利用されます。
このように、バイオマス材料は非常に多様な種類があり、それぞれの特性を活かして様々な分野で利用されています。

バイオマス材料は原料やその用途によって様々な種類が存在しています。
バイオプラスチックはどのように作るのか
バイオプラスチックの製造方法は、原料や種類によって異なりますが、大きく分けて以下の2つの方法があります。
1. 発酵法
- 原料: サトウキビ、トウモロコシ、ジャガイモなどの植物に含まれるデンプンや糖
- 工程:
- 植物を粉砕し、デンプンや糖を取り出す。
- デンプンを酵素で分解し、糖にする。
- 糖を乳酸菌などの微生物で発酵させ、乳酸などの有機酸やエタノールを生成する。
- 生成された有機酸やエタノールを化学的に結合(重合)させ、ポリ乳酸(PLA)やバイオポリエチレンなどのバイオプラスチックを製造する。
- 必要に応じて、成形・加工を行い、最終製品にする。
作成例
- ポリ乳酸(PLA): トウモロコシなどのデンプンを発酵させて得られた乳酸を重合して作られます。
- バイオポリエチレン(バイオPE): サトウキビの廃糖蜜を発酵させてバイオエタノールを作り、それを脱水してエチレンを得て重合します。
2. 化学合成法
- 原料: 植物由来の油脂、セルロース、キチン・キトサンなど
- 工程:
- 植物由来の原料から、化学反応を起こしやすいモノマーと呼ばれる物質を抽出・精製する。
- 抽出したモノマーを化学的に結合(重合)させ、バイオプラスチックを製造する。
- 必要に応じて、添加剤を加えたり、成形・加工を行い、最終製品にする。
製造例
- セルロース系プラスチック: 木材パルプなどのセルロースを化学的に処理して、酢酸セルロースなどのプラスチックを製造します。
- バイオPET: サトウキビ由来のエタノールから一部原料を製造し、石油由来の原料と組み合わせて作られます。
バイオプラスチックの製造は、原料の栽培から最終製品の加工まで、様々な工程を経て行われます。環境負荷を低減するために、より効率的で持続可能な製造方法の研究開発が進められています。

バイオプラスチックは植物に含まれるデンプンや糖を発酵する発酵法や植物由来の原料から抽出したモノマーを重合させる化学合成法で合成されています。
ポリ乳酸とは何か
ポリ乳酸(Polylactic acid, PLA)は、再生可能な資源である植物由来のデンプン(主にトウモロコシやサトウキビ)を発酵させて作られる、生分解性プラスチックの一種です。
近年、環境意識の高まりとともに、従来の石油由来プラスチックの代替材料として注目されています。
ポリ乳酸の主な特徴
- 生分解性: 特定の条件下(高温多湿な環境下やコンポストなど)で微生物によって分解され、最終的に水と二酸化炭素になります。これにより、廃棄物問題の軽減に貢献する可能性があります。
- 植物由来: 再生可能な植物資源を原料とするため、化石資源の消費を抑え、カーボンニュートラルな社会の実現に貢献することが期待されています。植物は成長過程で二酸化炭素を吸収するため、PLAの焼却時に排出される二酸化炭素は、植物が吸収した分と相殺されると考えられています。
- 比較的容易な成形加工: 射出成形、押出成形、フィルム成形など、一般的な熱可塑性プラスチックと同様の成形加工が可能です。
- 適度な強度と剛性: ある程度の強度と剛性を持ち合わせており、様々な用途に利用できます。
- 光沢感: 比較的透明度が高く、光沢感のある外観を持つ製品を作ることができます。
ポリ乳酸の製造方法
- 原料の準備: トウモロコシなどのデンプンを抽出します。
- 糖化: デンプンを酵素で分解し、ブドウ糖などの糖に変換します。
- 発酵: 糖を乳酸菌などの微生物で発酵させ、乳酸を生成します。
- 重合: 生成された乳酸を化学的に結合(重合)させ、ポリ乳酸(PLA)を製造します。
- 成形・加工: PLA樹脂をペレット状にし、射出成形や押出成形などの方法で様々な形状の製品に加工します。
ポリ乳酸の用途例
- 包装材: 食品容器、トレー、フィルム、緩衝材など
- 使い捨て製品: カップ、カトラリー、ストロー、ゴミ袋など
- 繊維: 衣料品、不織布など
- 農業・園芸用品: マルチフィルム、育苗ポットなど
- 医療分野: 手術糸、骨接合材料、ドラッグデリバリーシステムなど(生体吸収性PLA)
- 3Dプリンター用フィラメント: 家庭用や産業用の3Dプリンターの材料として広く利用されています。
- その他: 文具、家電製品の一部など
ポリ乳酸の課題と今後の展望
- 生分解条件: 生分解には特定の温度や湿度などの条件が必要であり、自然環境下での分解には時間がかかる場合があります。
- 耐熱性: 一般的なPLAは耐熱性が低く、高温下での使用には制限があります。近年、耐熱性を向上させたPLAも開発されています。
- コスト: 石油由来の汎用プラスチックに比べると、生産コストが高い場合があります。
- リサイクル: PLAのリサイクル技術はまだ確立されておらず、コンポスト化が主な処理方法となっています。
しかし、これらの課題を克服するための研究開発が活発に進められており、ポリ乳酸の用途は今後ますます拡大していくと期待されています。より環境に優しく、高性能なPLAの開発や、効率的なリサイクルシステムの構築が重要となります。

ポリ乳酸は、再生可能な資源である植物由来のデンプンを発酵させて作られる、生分解性プラスチックの一種です。
生分解性を持ち、成形加工も比較的容易、適度な強度を持つなどの特徴から石油由来プラスチックの代替材料として注目されています。
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