この記事で分かること
- PETフィルムとは:ポリエチレンテレフタレートから作られたフィルムで、高い強度や透明性、電気絶縁性といった優れた特徴を持ちます。食品の包装材から液晶ディスプレイ、電子部品、工業資材まで幅広い分野で使われています。
- 強度や耐熱性に優れる理由:PETフィルムは、分子鎖が規則正しく並んだ高い結晶性を持つため、強度と剛性が優れています。
- 再生の方法:物理的に再加工するマテリアルリサイクルと、化学的に分解し原料に戻すケミカルリサイクルの二つがあります。マテリアルリサイクルはコストが低い一方、ケミカルリサイクルは新品と同等の品質を保てるのが特徴です。
村田製作所のPETフィルムの再生拡大
村田製作所がPETフィルムの再生を拡大を検討しています。
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00758286
背景には、環境負荷低減と循環型社会への貢献があります。同社は、電子部品の製造工程で大量に使用されるPETフィルムを廃棄物として処理するのではなく、再生利用することで資源の有効活用を目指しています。
PETフィルムとは何か
PETフィルムとは、「ポリエチレンテレフタレート(Polyethylene terephthalate)」という樹脂を原料にしたフィルムのことで、その頭文字をとって「PET」と呼ばれています。皆さんがよく知っているペットボトルと同じ素材です。
PETフィルムの主な特徴
- 高い強度と耐久性: 引っ張りに強く、折り曲げや衝撃に耐性があります。薄くても丈夫なので、様々な用途に利用されます。
- 優れた耐熱性: 汎用プラスチックの中では比較的高い耐熱性を持ち、高温下でも変形しにくい性質があります。
- 透明性と光沢: 透明度が高く、光をよく通すため、光沢のある製品や光学フィルムに多く使われます。
- 寸法安定性: 熱による収縮が少なく、形状が安定しています。
- バリア性: ガスや水蒸気、臭気を通しにくい性質があるため、食品包装などにも適しています。
- 電気絶縁性: 電気を通しにくく、電子部品の絶縁材として重要な役割を果たします。
PETフィルムの主な用途
これらの優れた特性から、PETフィルムは非常に幅広い分野で利用されています。
- 電子部品: 液晶ディスプレイ、太陽電池の保護フィルム、モーターやトランスの絶縁材など。
- 包装材: 食品の包装、レトルト食品の袋、医薬品のパッケージ、ペットボトルのラベルなど。
- 工業資材: 粘着テープの基材、磁気テープ、建築用の窓フィルムなど。
- その他: 印刷用のフィルム、メンブレンスイッチ(薄型スイッチ)の基材など。
このように、PETフィルムは私たちの身の回りの多くの製品に使われており、産業に欠かせない素材の一つです。

PETフィルムは、ペットボトルと同じ原料(ポリエチレンテレフタレート)から作られたフィルムです。高い強度や透明性、電気絶縁性といった優れた特徴を持ち、食品の包装材から液晶ディスプレイ、電子部品、工業資材まで幅広い分野で使われています。
電子部品の製造ではどのように利用されるのか
電子部品の製造において、PETフィルムは主にその優れた電気的特性、機械的強度、そして加工性を活かして利用されています。具体的には、以下のような用途で重要な役割を担っています。
1. 絶縁材・保護フィルム
- 絶縁材: PETフィルムは電気を通しにくいため、電子機器の基板や部品間で電流の漏れや短絡を防ぐ絶縁材として使用されます。モーターやトランスの内部にも使われ、安全性を確保します。
- 保護フィルム: タッチパネルやディスプレイの表面を、傷や汚れから守る保護フィルムとしても広く利用されています。
2. 光学フィルム
- ディスプレイ部品: 液晶ディスプレイ(LCD)や薄型テレビの内部で、光の制御や透過を行う光学フィルムの基材として使われます。高透明性と平滑性が求められるため、厳密な品質管理のもとで製造されます。
3. 工程用フィルム
- 離型フィルム: 積層セラミックコンデンサー(MLCC)などの製造工程では、部品を成形する際に基材としてPETフィルムが使用されます。製造後に剥がすことを前提とした離型フィルムとして使われ、製造効率の向上に貢献します。
4. フレキシブル基板
- フレキシブルプリント基板(FPC): PETフィルムは柔軟性があり、折り曲げに強いことから、曲面や狭いスペースに配置する必要があるフレキシブル基板の材料としても利用されます。スマートフォンやウェアラブルデバイスなど、小型化が求められる製品に不可欠な部品です。

電子部品製造におけるPETフィルムは、主に絶縁材として使用され、部品間の電流漏れや短絡を防ぎます。また、ディスプレイの保護フィルムや離型フィルム、フレキシブル基板の材料としても広く利用されています。
どのように再生するのか
PETフィルムの再生には、主にマテリアルリサイクルとケミカルリサイクルの2つの方法があります。
1. マテリアルリサイクル (物理的再生)
これは、使用済みのPETフィルムを物理的に加工して、再び製品に作り替える方法です。
- 回収・分別: まず、使用済みのフィルムを回収し、汚れや異物を取り除き、種類ごとに分別します。
- 粉砕・洗浄: 次に、フィルムを細かく粉砕し、洗浄して不純物を取り除きます。
- ペレット化: 粉砕・洗浄されたPETは、熱を加えて溶融し、小さな粒(ペレット)にします。
- 再利用: このペレットを原料として、新しいシートや繊維、成形品などに加工して再利用します。
この方法はシンプルでコストも低いですが、元の製品よりも品質が低下したり、着色されたりすることがあります。
2. ケミカルリサイクル (化学的再生)
これは、化学的な手法を用いてPETを分子レベルにまで分解し、元の原料に戻して再生する方法です。
- 回収・分解: 使用済みのPETフィルムを回収し、熱や触媒、溶剤などを用いて化学的に分解します。
- モノマー化: この分解プロセスによって、PETを構成する基本的な分子であるモノマー(テレフタル酸やエチレングリコールなど)に戻します。
- 精製: 分解されたモノマーを精製し、不純物を徹底的に取り除きます。
- 再重合: 精製されたモノマーを再び重合させて、新しいPET樹脂を生成します。
この方法の最大の利点は、新品と同等の高い品質を保ったまま再生できることです。村田製作所が行っている「水平リサイクル」は、このケミカルリサイクルによって実現されています。

PETフィルムの再生方法は、物理的に再加工するマテリアルリサイクルと、化学的に分解し原料に戻すケミカルリサイクルの二つがあります。マテリアルリサイクルはコストが低い一方、ケミカルリサイクルは新品と同等の品質を保てるのが特徴です。
強度、耐久性、耐熱性に優れる理由は
PETフィルムが強度、耐久性、耐熱性に優れている理由は、その独特な分子構造と、製造過程で行われる特殊な加工(二軸延伸)にあります。
分子構造の特性
PETは、エチレングリコールとテレフタル酸が結合してできたポリマーです。この分子構造は、分子鎖が規則正しく並び、結晶化しやすいという特徴を持っています。
- 高い結晶性: PET分子は規則的な配列で強固に結びつき、結晶部分を形成します。この結晶構造が、フィルム全体の密度を高め、強度や剛性を向上させる主な要因です。
- 芳香環(ベンゼン環): 分子内に含まれる芳香環は、分子鎖の動きを制限し、フィルムに高い剛性と耐熱性を与えます。これにより、高温でも形状が安定し、変形しにくくなります。
製造プロセスによる強化
PETフィルムの製造過程で行われる二軸延伸という加工が、これらの特性をさらに高めます。
- 二軸延伸: 加熱されたPETフィルムを、縦方向と横方向の二方向から引っ張って薄く伸ばします。
- 分子配向: この延伸によって、不規則だった分子鎖が引き伸ばされた方向に整列(配向)します。この分子の「並び」が、フィルムの強度、耐久性、透明性といった機械的特性を飛躍的に向上させます。
これらの特性は、PETフィルムを電子部品の絶縁材や高機能な包装材として理想的な材料にしています。

PETフィルムは、分子鎖が規則正しく並んだ高い結晶性を持つため、強度と剛性が優れています。さらに、製造過程で縦横に引き伸ばす二軸延伸により、分子の並びが整うことで、これらの特性がさらに強化されます。
どのような異業種との連携するのか
村田製作所は、PETフィルムの再生を拡大するために、主に化学メーカーやフィルム製造メーカー、そしてリサイクル専門企業といった異業種と連携しています。
主な連携先と役割
- 再生PET樹脂メーカー: 使用済みPETフィルムを化学的に分解・精製し、高純度の再生PET樹脂を製造するメーカーと連携します。この再生樹脂が、再び高品質なPETフィルムの原料となります。
- フィルム製造メーカー: 再生PET樹脂を用いて、村田製作所の品質基準を満たす新しいPETフィルムを製造するメーカーと協力します。
- コンソーシアム: プラスチック資源の循環を推進する業界団体やコンソーシアムに参画し、他の企業や研究機関と連携して、PETフィルムを含む資源リサイクルの仕組み作りや技術開発に取り組んでいます。
これらの連携により、村田製作所は自社だけでは完結できない水平リサイクルの仕組みを構築し、高品質なPETフィルムの安定供給と環境負荷低減を両立させています。
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