この記事で分かること
- ファウンドリー市場の定義変更とは:「ファウンドリー 2.0」とは、従来のチップ製造(前工程)だけでなく、先端パッケージング、組み立て・検査(OSAT)、フォトマスク製造などを統合した新しい市場定義のことです。
- ファウンドリー市場の定義偏光に理由:AIチップに不可欠な「先端パッケージング」の価値が製造工程と同等に高まった技術的実態を反映するためです。また、市場の定義を広げることで、TSMCが独占禁止法の監視を逃れる戦略的狙いもあります。
- 市場拡大の理由:上記の定義の拡大に加え、AI特需による先端プロセス(3〜5nm)のフル稼働や中国の国産化需要も成長を後押ししました。
ファウンドリー市場の定義変更と市場拡大
市場調査会社カウンターポイント・リサーチによると2025年第3四半期(7〜9月期)のファウンドリー市場が848億ドルに達し、市場全体では前年比17%増という高い成長を遂げました。
https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2512/25/news055.html
この「848億ドル」という数字の背景にある、「単なるチップ製造から、パッケージングを含めたAIシステム統合へのシフト」という流れは、今後の半導体業界のスタンダードになりそうです。
市場拡大の理由は何か
2025年第3四半期の市場拡大(前年比17%増の848億ドル)には、主に3つの大きな要因があります。
最大の理由は、これまでの「チップを焼くだけ」のビジネスから、「高性能なシステムとしてパッケージする」領域まで市場の定義が広がったこと、そしてそこへのAI投資の集中です。
1. 「ファウンドリー 2.0」への定義拡大
これまでファウンドリー市場は「ウェハーの製造(前工程)」のみを指していましたが、今回の統計(カウンターポイント・リサーチ)からは、以下の領域を統合した「ファウンドリー 2.0」として算出されています。
- 先端パッケージング(CoWoSなど): チップとメモリを統合する技術。
- OSAT(組み立て・検査): 外部委託のパッケージング・テスト工程。
- フォトマスク供給: 回路パターンの原版製造。
これにより、AIチップに不可欠な「後工程」の付加価値が市場規模に上乗せされたことが、数字を押し上げた大きな要因です。
2. AI GPUと3nm/5nmプロセスのフル稼働
先端プロセスへの需要が極めて高く、特に以下の3社の動きが市場を牽引しました。
- NVIDIA・AMD・Broadcom: AIアクセラレータ(GPUやASIC)向けの4nmおよび5nmプロセスがフル稼働状態にあります。
- Apple: iPhone向けの3nm(N3)チップの量産が本格化したことで、最先端ノードの売上が急増しました。
- TSMCの独走: 先端技術を独占するTSMCは、売上高が前年比41%増という驚異的な伸びを記録し、市場全体の成長の大部分を1社で叩き出しています。
3. 中国市場の底堅さとIDMの回復
TSMC以外の領域でも、成長を下支えする動きがありました。
- 中国の国産化需要: 米中貿易摩擦を背景に、中国国内のAIインフラ向けの需要が急増。政府の補助金も追い風となり、SMICなどの中国勢は前年比12%増と、TSMC以外のメーカー平均(6%増)を上回る成長を見せました。
- アナログ・車載半導体の在庫調整終了: Texas InstrumentsなどのIDM(垂直統合型メーカー)の業績が回復に転じ、半導体市場全体の底上げに寄与しました。
成長の構図
| 成長ドライバー | 内容 |
| 技術の統合 | 製造だけでなく「先端パッケージング」の価値が市場に含まれた。 |
| AI特需 | NVIDIA等のAIチップ向け4/5nm、Apple向け3nmがフル稼働。 |
| 地域的要因 | 中国国内の政策支援による半導体自給率向上の動き。 |
今後の懸念点
現在、TSMCの4/5nmラインやCoWoSパッケージング能力は限界(フル稼働)に達しており、これが2025年第4四半期以降の成長スピードを鈍化させる「供給のボトルネック」になると予測されています。

2025年Q3の市場拡大は、AI特需による先端プロセス(3〜5nm)のフル稼働と、先端パッケージング等の後工程を含めた「ファウンドリー2.0」への定義拡大が主因です。TSMCの一強状態に加え、中国の国産化需要も成長を後押ししました。
なぜ定義を変更したのか
定義が「ファウンドリー 1.0」から「2.0」へ変更された最大の理由は、「チップを製造する(焼く)だけでは、AI時代の性能要求に応えられなくなったから」です。
1. 「後工程(パッケージング)」の重要性が激増したため
これまでは、シリコンウェハーに回路を書き込む「前工程」が価値のすべてでした。しかし、現在のAIチップ(NVIDIAのH100など)は、複数のチップとメモリを複雑に組み合わせる「先端パッケージング(CoWoSなど)」なしでは成立しません。
製造プロセス全体におけるパッケージングの価値が無視できないほど大きくなったため、これらを市場規模に含める必要が出てきました。
2. 「統合プラットフォーム」へのビジネスモデル変化
顧客(NVIDIAやAppleなど)が求めるものが、「単なるチップの製造」から「システム全体としての最適化」に変わりました。
- 1.0(分業型): 設計、製造、検査がバラバラ。
- 2.0(統合型): 製造から先端パッケージング、検査までを一括で提供する「製造プラットフォーム」として機能。この実態を反映するため、OSAT(封止・検査企業)やフォトマスク製造なども含めた定義に拡張されました。
3. シェア独占による「独占禁止法」対策(TSMCの思惑)
実はこの定義変更、TSMC自身が提唱したものでもあります。
従来の定義(1.0)ではTSMCのシェアは6割を超え、独占禁止法に抵触しかねないレベルでした。
しかし、市場の定義をパッケージングやIDM(自社工場を持つメーカー)まで広げることで、自社のシェアを見かけ上「3割弱」程度にまで引き下げることができ、当局からの圧力をかわす狙いがあると言われています。
「AIチップは製造後の組み立て(パッケージング)こそが命」という技術的実態と、「独占批判を避けたい」という経営的戦略の2つが重なったことで、定義が変更されました。

定義変更の主な理由は、AIチップに不可欠な「先端パッケージング」の価値が製造工程と同等に高まった技術的実態を反映するためです。また、市場の定義を広げることで、TSMCが独占禁止法の監視を逃れる戦略的狙いもあります。
定義を変更しなくても市場規模は大きくなっているのか
定義を変更しなくても、市場規模は非常に大きく成長しています。むしろ、定義を広げた「ファウンドリー 2.0(848億ドル)」よりも、本来のチップ製造のみを指す「純粋なファウンドリー市場」の方が成長率が高いという興味深いデータが出ています。
1. 純粋な製造領域は「前年比26%増」の急成長
カウンターポイント・リサーチの分析によると、2025年通年の予測では以下のような差が出ています。
- ファウンドリー 2.0(新定義全体): 前年比 約15%増
- 純粋ファウンドリー(旧定義の製造部門): 前年比 約26%増
つまり、パッケージングや検査などを含めた全体(2.0)よりも、「最先端のチップを焼く」という本来の製造工程の方が、AI特需をダイレクトに受けて爆発的に成長していることがわかります。
2. TSMC単体で見ると「41%増」の衝撃
市場全体を牽引しているTSMCの決算データ(従来通りの基準)を見ると、成長の凄まじさがより鮮明になります。
- 2025年Q3売上高: 約331億ドル(前年同期比40.8%増)
- 利益率: 営業利益率が50%を超えるという、製造業としては異例の高収益を維持。
これらは定義変更とは関係なく、純粋に「3nmや5nmのウェハー製造」に対する需要が昨年より4割以上増えたことを意味しています。
3. なぜ「2.0」にすると成長率が下がって見えるのか
全体(2.0)の成長率(17%)が、製造単体の成長率(26%)より低くなっているのは、新しく定義に加わった「周辺領域」の動きが緩やかだからです。
- 製造(TSMCなど): AIブームで爆発的成長(+26%〜40%超)。
- IDM(Intel、TIなど): 車載やアナログ半導体の回復が遅れ、成長は2%程度と低迷。
- OSAT(検査・封止): AI向けは好調だが、スマホ・PC向けが並程度のため、成長は8〜10%。
定義を変更しなくても、AIチップの製造需要だけで市場は前年比20%〜40%という驚異的なペースで拡大しています。

定義を変更しなくても、市場規模は猛烈な勢いで拡大しています。むしろ「製造のみ」の成長率は、周辺領域(検査など)を含む全体成長率を大きく上回っています。

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