この記事で分かること
- FPGAとは:出荷後でもユーザーが内部の回路構成を自由に書き換えられるロジック半導体です。専用回路を構成できるため並列処理に強く、CPUより高速で、ASIC(専用IC)より開発期間を短縮できるのが特徴です。
- 回路構成を変換方法:内部のメモリ(SRAM)に、どの配線をつなぎ、どの計算ルールを適用するかというデータを書き込みます。物理的な配線を変更せず、電子的な「スイッチ」のON/OFFを切り替えるだけで、一瞬で回路が完成します。
- データセンターでのASICとの使い分け:変化の激しいAI推論や通信プロトコルには、後から回路を最適化できるFPGAが適しています。一方、仕様が固定された大規模計算や動画変換には、開発費は高いが電力効率と処理能力で勝るASICが選ばれます。
FPGAとは何か
半導体チップは、「産業のコメ」と呼ばれるほど現代社会の基盤となっています。AIの普及やデジタル化の加速などのもあり、AIそのますます重要性が増しています。
ただ、一口に半導体チップといっても、その中には様々な種類が存在します。今回は半導体チップにはどのような種類があるのかの記事となります。
今回は、ロジック半導体のFPGAに関する記事となります。
FPGAとは何か
FPGA(Field Programmable Gate Array)は、日本語では「現場でプログラム可能なゲートアレイ」と訳され、「出荷された後でも、ユーザーが中身の回路構成を自由に取り書き換えられる半導体チップ」のことです。
一般的なプロセッサ(CPU)が「用意された命令セットに従ってソフトウェアを実行する」のに対し、FPGAは「ハードウェアそのものを変幻自在に作り変える」という特徴を持っています。
FPGAの主な特徴
- 書き換えが可能: 設計ミスがあった際や、新しい機能を追加したい時に、基板からチップを外すことなく回路をアップデートできます。
- 並列処理が得意: CPUのように順番に命令を処理するのではなく、複数の処理を同時に行う専用回路を構築できるため、特定の計算(画像処理や暗号化など)が非常に高速です。
- 開発期間の短縮: 独自のチップ(ASIC)を一から作ると数億円の費用と数ヶ月の時間がかかりますが、FPGAなら既製品にデータを書き込むだけですぐに動かせます。
他の半導体(CPU・ASIC)との違い
| 特徴 | CPU / GPU | FPGA | ASIC (専用IC) |
| 役割 | 汎用的な計算 | 特定の処理の高速化 | 特定用途に特化 |
| 柔軟性 | 非常に高い | 高い(回路を書き換え) | ない(固定) |
| 処理速度 | 普通 | 速い | 最速 |
| 消費電力 | 多い | 少ない | 最小 |
| 初期コスト | 低い(既製品) | 中程度 | 非常に高い |
主な用途
FPGAはその柔軟性とスピードを活かし、以下のような分野で活躍しています。
- 通信基地局: 次世代通信規格(5Gなど)のプロトコル変更に柔軟に対応するため。
- AI・データセンター: 大量のデータを低遅延・低消費電力で並列処理するため。
- 産業機器・医療: 検査装置や画像診断装置など、少量多品種で高性能が求められる分野。
- プロトタイプ開発: 最終的な専用チップ(ASIC)を作る前の試作段階。

FPGAとは、出荷後でもユーザーが内部の回路構成を自由に書き換えられるロジック半導体です。専用回路を構成できるため並列処理に強く、CPUより高速で、ASIC(専用IC)より開発期間を短縮できるのが特徴です。
どのように回路構成を変換するのか
FPGAが回路を書き換える仕組みは、物理的な配線をつなぎ変えるのではなく、「メモリに書き込まれたデータで、信号の通り道や計算ルールを切り替える」という方式をとっています。
これを専門用語でコンフィギュレーション(構成)と呼びます。
回路構成を変換する3つの要素
FPGAの内部には、あらかじめ無数の「部品」が敷き詰められており、その設定をデータ(ビットストリーム)で制御します。
1. ロジックの書き換え(LUT:ルックアップテーブル)
「AND」や「OR」といった論理回路そのものを作るのではなく、「この入力が来たらこの値を出す」という表(メモリ)を持っています。
- 仕組み: メモリの中身を書き換えるだけで、同じ部品を「足し算回路」にも「比較回路」にも瞬時に変えることができます。
2. 配線の書き換え(スイッチ・マトリクス)
縦横に走る配線の交差点に、電子的な「スイッチ」が無数に配置されています。
- 仕組み: どのスイッチを「ON」にするかの情報を送ることで、信号のルートを自由自在につなぎ変えます。
3. 設定情報の読み込み(SRAMベース)
多くのFPGAは、内部にSRAMというメモリを持っています。
- 仕組み: 電源を入れるたびに、外部の専用ROMから「回路図データ」をSRAMにロードします。このデータがスイッチやLUTの役割を決定し、チップ全体が特定の専用回路として動き出します。
回路ができるまでの流れ
- 設計: パソコン上で「HDL(ハードウェア記述言語)」を使い、回路の動きをプログラミングします。
- 変換: 専用ソフトが、その設計をFPGA内部の「どのLUTに何を書き込み、どのスイッチを繋ぐか」という0と1のデータ(ビットストリーム)に変換します。
- 転送: そのデータをFPGAに転送すると、一瞬で物理的な回路のように振る舞い始めます。

内部のメモリ(SRAM)に、どの配線をつなぎ、どの計算ルールを適用するかというデータを書き込みます。物理的な配線を変更せず、電子的な「スイッチ」のON/OFFを切り替えるだけで、一瞬で回路が完成します。
FPGAの有力メーカーはどこか
FPGA市場は、長い間「2強」による寡占状態が続いてきましたが、近年は大手による買収や、特定の強みを持つメーカーの躍進により、勢力図が変化しています。
1. AMD(旧 Xilinx / ザイリンクス)
世界シェア首位。2022年にAMDによって買収されましたが、ブランドは継続されています。
- 特徴: 業界のリーダーとして、最も高性能で大規模なFPGAを提供しています。
- 得意分野: 5G通信基地局、データセンターでのAI加速、自動車(自動運転)など。
- 製品名: Virtex, Kintex, Zynq, Versal(ACAP)
2. Intel(旧 Altera / アルテラ)
世界シェア2位。2015年にIntelが買収しました。2024年以降、FPGA部門を「Altera(独立会社)」として分社化する動きが進んでいます。
- 特徴: 自社のCPU(Xeonなど)と連携したデータセンター向けソリューションに強みがあります。
- 得意分野: サーバー、ネットワークインフラ、産業機器。
- 製品名: Agilex, Stratix, Arria, Cyclone
3. Lattice Semiconductor(ラティス)
上位2社が「高性能・巨大」を競うのに対し、独自のポジションを確立しているメーカーです。
- 特徴: 「低消費電力・小型・低コスト」に特化しています。
- 得意分野: スマートフォン、IoTデバイス、カメラの制御、機器の電源管理など。
- 製品名: iCE40, MachXO, CrossLink
その他の注目メーカー
- Microchip(旧 Microsemi): 耐放射線性や信頼性が非常に高く、宇宙防衛や航空機向けで圧倒的な信頼を得ています(製品:PolarFire)。
- ルネサス エレクトロニクス: 日本メーカー。2021年から超低容量・低コストのFPGA(ForgeFPGA)市場に参入し、注目されています。
大手2社は「AIや通信の爆速処理」を、ラティスやルネサスは「身近な家電やセンサーの制御」を担当しているイメージです。
データセンターでのAISCとの使い分けは
データセンターにおいて、FPGAとASICは「変化への対応力」と「究極の効率」という対照的な基準で使い分けられています。
「中身が頻繁に変わるならFPGA」、「やるべきことが固まって大量に回すならASIC」という棲み分けです。
FPGAとASICの使い分け比較
| 比較項目 | FPGA (柔軟性重視) | ASIC (効率・量産重視) |
| 主な役割 | 通信プロトコルの加速、検索、推論 | 大規模なAI学習、暗号資産マイニング |
| 柔軟性 | 極めて高い(回路を後から変更可) | 皆無(製造後は一切変更不可) |
| 電力効率 | 中程度 | 最高(無駄な回路を削ぎ落とせる) |
| 開発コスト | 低い(既製品を購入して書き込む) | 極めて高い(数億〜数十億円の設計費) |
| 開発期間 | 短い(数週間〜数ヶ月) | 長い(1年〜2年) |
具体的な使い分けシーン
1. FPGAが選ばれるケース:変化の激しい分野
- AI推論(インファレンス): AIモデルは進化が速く、数ヶ月でアルゴリズムが変わります。FPGAなら最新のモデルに合わせて回路をアップデートし、常に最適化された状態で動かせます。
- ネットワーク制御: 通信規格やセキュリティプロトコルの変更に即座に対応する必要がある場合、FPGAが「スマートNIC」などに搭載されます。
- 試作・スモールスタート: 新サービスを開始する際、将来の需要が読めない段階では初期投資の少ないFPGAでシステムを構築します。
2. ASICが選ばれるケース:絶対的な効率が必要な分野
- 大規模AI学習: GoogleのTPU(Tensor Processing Unit)のように、計算内容が決まっていて圧倒的な電力効率と速度が求められる巨大インフラにはASICが使われます。
- 定番プロトコルの処理: 動画のエンコード(H.264/H.265)や標準的なパケット処理など、将来も仕様が変わらないことが確実な処理はASICで固めてしまいます。
- コスト競争力が重要な量産品: サービスが数万〜数十万サーバー規模に拡大し、仕様が完全に固定された後は、チップ単価の安いASICを独自開発したほうがトータルコストが下がります。

変化の激しいAI推論や通信プロトコルには、後から回路を最適化できるFPGAが適しています。一方、仕様が固定された大規模計算や動画変換には、開発費は高いが電力効率と処理能力で勝るASICが選ばれます。

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